前期破水

(前期破水)

執筆者:Julie S. Moldenhauer, MD, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2020年 1月
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前期破水とは,陣痛発来前の羊水の漏出である。診断は臨床的に行う。分娩は妊娠34週以降の場合に推奨され,感染または胎児機能不全があれば妊娠期間にかかわらず一般に必須となる。

前期破水は,満期(37週以降)またはそれ以前に(37週未満であれば早期前期破水[preterm PROM]と呼ばれる)起こる場合がある。

早期前期破水は早産の原因となる。

いかなる時期の前期破水も以下のリスクを上昇させる:

B群レンサ球菌および大腸菌(Escherichia coli)が感染症の一般的な原因である。その他の腟内細菌もまた感染症の原因となる場合がある。

前期破水は新生児の脳室内出血のリスクを上昇させうる;脳室内出血は神経発達障害(例,脳性麻痺)を引き起こす可能性がある。

生存可能な時期以前(24週未満)の早期前期破水の遷延は,四肢変形(例,関節位置の異常)および羊水の漏出による肺形成不全(Potter sequenceまたはPotter症候群と呼ばれる)のリスクを上昇させる。

前期破水から自然な陣痛開始および分娩までの間隔(潜伏期)は,妊娠期間に逆比例して変化する。満期においては,前期破水の妊婦の90%超で24時間以内に陣痛が開始する;32~34週では,平均潜伏期間は約4日である。

症状と徴候

典型的には合併症が起こらない限り,前期破水の唯一の症状は腟からの液体の漏出や突然の流出である。

発熱,多量または悪臭のある帯下,腹痛および胎児の頻脈は,特に母体の体温に相応でない場合,羊膜内感染を強く示唆する。

診断

  • 腟内の羊水貯留または視認可能な胎脂や胎便

  • 腟分泌物の検査でシダ状結晶形成またはニトラジン紙でアルカリ性(青色)を示す

  • ときに確定のために超音波ガイド下の色素を用いた羊水穿刺

無菌的に腟鏡診を行い,前期破水の確認,頸管開大の評価,胎児肺成熟度検査用の羊水採取,さらに頸管培養のために検体採取を行う。指による内診,特に複数回の診察は感染症のリスクを上昇させるため,分娩が差し迫っている場合を除いて避けた方がよい。

胎位を評価すべきである。不顕性の羊膜内感染が懸念される場合には,羊水穿刺(無菌操作を用いた羊水採取)により感染が確認できる。

パール&ピットフォール

  • 前期破水が疑われる場合は,分娩が差し迫っていると考えられる場合を除き指による内診を避ける。

以下の1つがある場合は前期破水と推定される:

  • 羊水が頸管から漏出している。

  • 胎脂または胎便が視認可能である。

その他にあまり正確でない指標として,スライドガラス上で乾燥させた場合の腟分泌物のシダ状結晶形成,またはニトラジン紙の青変(アルカリ性,つまり羊水であることを示唆する)がある;正常な腟分泌物は酸性である。ニトラジン紙の結果は,血液,精液,アルカリ性抗菌薬,または尿が検体に混在する場合,または女性が細菌性腟症を有する場合には偽陽性となることがある。超音波検査で検出される羊水過少は診断を示唆する。

診断が不確かな場合は,超音波ガイド下の羊水穿刺を用いてインジゴカルミン色素を注入してもよい。腟内タンポンまたはナプキンに青い色素を認めれば診断が確定する。

胎児が生存可能であれば,一般的には一連の胎児評価のために入院させる。

治療

  • 胎児機能不全,感染,または妊娠34週以降の場合は分娩

  • そうでなければ,安静,綿密なモニタリング,抗菌薬,およびときにコルチコステロイド

前期破水の管理に際しては,分娩を延期する場合の感染リスクと,分娩を直ちに行う場合の胎児の未熟性によるリスクとを比較して検討する必要がある。正しい戦略というものはないが,一般的には,胎児機能不全または感染の徴候(例,持続するnonreassuringな胎児検査結果,子宮の圧痛に加え発熱)がみられる場合は分娩を急ぐべきである。あるいは,胎児の肺がまだ未熟な場合や分娩が自然に開始しうる場合(すなわち,妊娠後期)には,分娩までの期間を様々に延ばすことができる。

妊娠期間が34週以降の場合は陣痛誘発が推奨される。

適切な管理が明らかでない場合は,胎児の肺成熟を評価するために羊水検査を行い,管理の指針とすることができる;経腟的または羊水穿刺により検体を得る。

待機的管理

待機的管理を行う場合,女性の活動は床上安静および完全な安静に制限する。血圧,心拍数,および体温を1日3回以上測定しなければならない。

抗菌薬(通常アンピシリンおよびエリスロマイシンを48時間静注,その後経口アモキシシリンおよびエリスロマイシンを5日間)を投与する;潜伏期を延長し新生児罹病のリスクを低下させる。

24週以上34週未満の妊娠では,医師は胎児の肺成熟を促進するために妊婦にコルチコステロイドを投与すべきである。以下の全てを満たす場合には,コルチコステロイドの再投与を考慮できる:

  • 妊娠34週未満である。

  • 7日以内に分娩となるリスクがある。

  • 最後の投与が14日以上前である。

コルチコステロイドは以下の状況においても考慮すべきである:

  • 妊娠34週0日~36週6日で,7日以内に分娩となるリスクがあり,それまでにコルチコステロイドを投与されていない場合(1)

  • 7日以内の早産のリスクがある場合は,妊娠23週0日から開始(1)

妊娠32週未満では硫酸マグネシウムの静注を考慮すべきであり,この薬物の子宮内曝露により,新生児における脳性麻痺を含む重度の神経機能障害(例,脳室内出血による)のリスクが低下するとみられている。

早期前期破水を管理するための子宮収縮抑制薬(子宮の収縮を止める薬物)の使用には議論がある;使用は症例毎に判断しなければならない。

治療に関する参考文献

  1. 1.American College of Obstetricians and Gynecologists: Committee Opinion No. 713 Summary: Antenatal corticosteroid therapy for fetal maturation.Obstet Gynecol 130 (2):493–494, 2017.doi: 10.1097/AOG.0000000000002231.

要点

  • 腟内に羊水が貯留している場合または胎脂や胎便が視認可能な場合は破水が起こったと想定する。

  • 前期破水の非特異的な指標には腟分泌物のシダ状結晶形成,アルカリ性の腟分泌物(ニトラジン紙で検出),および羊水過少がある。

  • 胎児機能不全,感染,または胎児肺成熟の所見が認められる場合,または妊娠期間が34週以降の場合には陣痛誘発を考慮する。

  • 分娩が適応とならない場合は,床上安静および抗菌薬で治療する。

  • 妊娠24週以上34週未満(場合によっては37週未満)では,胎児の肺成熟を促進するためにコルチコステロイドを投与する。

  • 7日以内の早産のリスクがある場合は,妊娠23週からコルチコステロイドの投与開始を考慮する。

  • 妊娠32週未満であれば重度の神経機能障害のリスク低減のために硫酸マグネシウムを考慮する。

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