角膜潰瘍

執筆者:Melvin I. Roat, MD, FACS, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2020年 5月
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角膜潰瘍は,炎症を基礎にもつ角膜上皮欠損であり,炎症は通常,細菌,真菌,ウイルス,またはアカントアメーバ(Acanthamoeba)の侵入によるものである。機械的外傷または栄養欠乏により起こることもあり,炎症が制御されないと角膜壊死に至ることがある。症状は進行性の結膜充血,異物感,疼痛,羞明,および流涙である。診断は細隙灯顕微鏡検査,フルオレセイン染色,および微生物学的検査による。治療は抗菌薬の局所投与,およびしばしば散瞳薬の点眼を用いて緊急に行い,眼科医に紹介すべきである。

角膜疾患に関する序論も参照のこと。)

角膜潰瘍の病因

角膜潰瘍には多くの原因がある(角膜潰瘍の原因の表を参照)。単純ヘルペス角膜炎については,別の箇所で考察されている。

細菌性潰瘍は,コンタクトレンズの装用に起因する頻度が最も高いが,まれに外傷性角膜剥離による二次感染または単純ヘルペス角膜炎に起因することもある。治療に対する反応は主に細菌の種類に応じて異なり,著しく難治性の場合がある。角膜潰瘍の経過は様々である。Acanthamoeba(コンタクトレンズ装用中の汚染水への曝露が原因で感染することが最も多い)および真菌(植物を扱う際に生じた外傷によることが最も多い)による潰瘍は緩徐に進行し,一方緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(コンタクトレンズ装用者に最も頻繁にみられる)による潰瘍は急速に進行し,深く広い角膜壊死を生じる。睡眠中のコンタクトレンズ装用または除菌が不十分なコンタクトレンズの装用は,角膜潰瘍を生じうる(コンタクトレンズのケアおよび合併症を参照)。

表&コラム

角膜潰瘍の病態生理

潰瘍は,基礎に炎症を伴う角膜上皮欠損および角膜実質の壊死を特徴とする。角膜潰瘍は瘢痕組織を残して治癒する傾向があり,これが角膜混濁および視力低下の原因になる。無治療の場合,およびときに最善の治療を尽くした場合でも,特に治療が遅れた場合は,ぶどう膜炎,虹彩脱を伴う角膜穿孔,前房中の膿(前房蓄膿),全眼球炎,および眼球破壊が起こることがある。より深い潰瘍では,より重度の症状および合併症が起こる傾向にある。

角膜潰瘍の症状と徴候

結膜充血,眼痛,異物感,羞明,および流涙は初期には極めて軽微なことがある。

角膜潰瘍は,フルオレセインで染色される角膜上皮欠損,および背景が暗く,灰色がかった限局性の表層混濁(浸潤を示す)として始まる。続いて,潰瘍は化膿および壊死し,陥凹した潰瘍を形成する。通常,角膜周囲の著明な結膜充血を認める。より重度の潰瘍では,病変は角膜上に拡大したり,角膜深部に進展する,また,その両方向に進展することがある。また,このような症例では,前房蓄膿(前房内の白血球の堆積)を生じることがある。長期例では,角膜輪部から血管が侵入することがある(角膜血管新生)。

Acanthamoebaによる角膜潰瘍はしばしば激痛を伴い,一過性の角膜上皮欠損,角膜実質への多発浸潤巣,および後に大きな輪状浸潤巣が現れることがある。真菌性潰瘍は細菌性潰瘍よりも慢性的で,浸潤が濃く,ときに周辺に多発性の不連続な島状の浸潤(衛星病巣)を認める。樹枝状潰瘍は単純ヘルペス角膜炎の特徴である。

角膜潰瘍の診断

  • 細隙灯顕微鏡検査

診断は,細隙灯顕微鏡検査によって行う;角膜浸潤とその上の上皮欠損(フルオレセインで染色される)は診断に有用である。小さい潰瘍以外は全て,使い捨て用#15ブレード,滅菌済み白金耳,または宝石細工用ピンセットを用いて擦過し,培養すべきである(通常は眼科医が行う)。擦過検体を鏡検することでAcanthamoebaが同定される。

角膜潰瘍の治療

  • 最初に経験的に広域抗菌薬を局所投与

  • 原因に応じてより特異的な抗菌薬療法

原因にかかわらず,角膜潰瘍の治療は,小さい潰瘍に対しては,0.5%モキシフロキサシンまたは0.3~0.5%ガチフロキサシンで開始し,より重症の潰瘍,特に角膜中央に近いものに対しては,トブラマイシン15mg/mLおよびセファゾリン50mg/mLなど(ストック濃度よりも高濃度の)抗菌薬点眼薬で補強する。最初に頻回の投与(例,15分毎に4回投与,その後終日にわたり1時間毎)が必要である。眼帯は細菌発育に有利な暗く暖かい環境を作り,外用薬の投与を妨げることから禁忌である。

単純ヘルペスの治療は,患者が起きている間は1%トリフルリジン点眼を2時間毎に9回/日まで,0.15%ガンシクロビルゲルを5回/日で治療し,バラシクロビル1000mgを1日2回経口で,またはアシクロビル400mgを1日3~5回経口で(もしくは単純ヘルペス角膜炎の再発に対して1日3回),14日間続ける。

真菌感染症の治療は,抗真菌点眼薬(例,5%ナタマイシン,0.15%アムホテリシンB,およびときに1%ボリコナゾール[より効果が低い])を用いて行い,最初は日中1時間毎,夜間2時間毎に投与する。深部感染がある場合は,経口にてボリコナゾールを400mg,1日2回で2回服用後に200mgを1日2回,ケトコナゾール400mgを1日1回,フルコナゾール400mgを1回投与後200mgを1日1回,またはイトラコナゾール400mgを1回投与後200mg1日1回投与を追加することが必要になる場合がある。

Acanthamoebaが同定された場合は,治療に局所点眼薬として0.1%プロパミジン,0.175%フラジオマイシン,および0.02%ポリヘキサメチレンビグアナイドまたは0.02%クロルヘキシジンを含め,1%ミコナゾール,1%クロトリマゾール,または経口ケトコナゾール400mgの1日1回もしくはイトラコナゾール400mgを1回投与後200mgの1日1回投与によって補強してもよい。点眼薬は,臨床上の改善が明らかになるまで1~2時間毎に投与し,次いで1日4回まで徐々に漸減し,炎症が完全に消散するまで数カ月間継続する。ポリヘキサメチレンビグアナイドおよびクロルヘキシジンは眼科薬剤として市販されていないが,調剤薬局で調製可能である。難治例にはミルテホシン(miltefosine)の内服を用いてもよい。

全ての潰瘍に対し,角膜潰瘍の疼痛を軽減し,虹彩後癒着の形成を減少させる治療として,1%アトロピンまたは0.25%スコポラミンなどの調節麻痺薬を1滴ずつ1日3回投与することもある。重症例では,感染した上皮の除去,または全層角膜移植術さえも必要となることがある。コンプライアンス不良の患者,または潰瘍が大きい,中央部にある,もしくは難治性である患者は入院を必要とすることがある。選択されたごく一部の患者については,コルチコステロイドの点眼(例,酢酸プレドニゾロン1%を1日4回,1週間,その後2~3週間かけて漸減する)で補助的に治療できる。最終的な瘢痕の外観および最終的な視力は外用コルチコステロイドでは改善しない。外用コルチコステロイドで疼痛および羞明は低減し,視力回復は大幅に加速する。潰瘍が悪化するリスクがごくわずかながらもあるため,外用コルチコステロイドの追加は患者ができるだけ早く正常な機能(例,仕事,運転など)を回復する必要がある場合に限り適応となる。このような治療は眼科医のみが処方するべきで,臨床的および微生物学的に抗菌薬療法への反応が良好であることを示す所見がある上で,綿密なフォローアップができる患者に限定するべきである。

角膜潰瘍の要点

  • 角膜潰瘍の原因には,角膜感染症(コンタクトレンズの長時間装用を含む),眼外傷,眼瞼異常,および栄養欠乏などがある。

  • 潰瘍は,角膜周囲に充血および前房に白血球の蓄積(前房蓄膿)を伴うことがある。

  • 潰瘍は,極めて小さなもの以外全て培養し,培養は通常眼科医が行う。

  • 治療では通常,抗菌薬の頻回の点眼(例,終日にわたり1~2時間毎)が必要である。

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