過度の流涙では,眼が濡れた感覚を引き起こす場合や涙液が頬に流れ落ちるに至る場合がある(流涙症)。
流涙の病態生理
流涙の病因
全体で,流涙で最も頻度が高い原因は以下のものである:
上気道感染症
アレルギー性鼻炎
流涙は,涙液の産生増加または鼻涙管からの排出低下によって引き起こされうる。多くの患者で,涙流には複数の原因がある可能性がある。
涙液産生増加
鼻涙管排泄の減少
最も一般的な原因は以下のものである:
鼻涙管涙液排出路の閉塞は,狭窄,腫瘍,または異物(例,石,しばしば不顕性の放線菌(Actinomyces)感染症に関連する)による可能性がある。閉塞が先天奇形であることもある。多くの疾患および薬物が涙液排出路の狭窄および閉塞を引き起こしうる。
鼻涙管涙液排出路の狭窄または閉塞を引き起こすその他の原因としては以下のものがある:
熱傷
化学療法薬
点眼薬(特にヨウ化エコチオフェート,アドレナリン,およびピロカルピン)
涙小管炎を含む感染症(例,黄色ブドウ球菌[Staphylococcus aureus],Actinomyces属,レンサ球菌[Streptococcus]属,Pseudomonas属,帯状疱疹ウイルス,単純ヘルペス結膜炎,伝染性単核球症,ヒトパピローマウイルス,回虫属[Ascaris],ハンセン病,結核による)
炎症性疾患(サルコイドーシス,多発血管炎性肉芽腫症[以前のウェゲナー肉芽腫症])
物理的損傷(例,鼻篩骨骨折;鼻手術,眼窩手術,または内視鏡的副鼻腔手術)
涙液排出路の異常を伴わない鼻排出の閉塞(例,上気道感染症,アレルギー性鼻炎,副鼻腔炎)
放射線療法
腫瘍(例,原発性涙嚢腫瘍,良性パピローマ,扁平上皮癌および基底細胞癌,移行上皮癌,線維性組織球腫,正中肉芽腫,リンパ腫)
流涙の評価
病歴
現病歴の聴取では,涙液が頬に流れ落ちる(真の流涙症)かどうかを含め,症状の持続,発症,および重症度を尋ねる。天候,周囲の湿度,およびタバコの煙の影響について確認する。
症状把握(review of symptoms)では,可能性のある原因の症状を探すべきであり,例としてそう痒,鼻漏,またはくしゃみが,特に通年性か,または特定の潜在的なアレルゲンへの曝露後に生じる(アレルギー反応)かどうか;眼刺激感または眼痛(眼瞼炎,角膜上皮剥離,刺激化学物質);ならびに内眼角付近の痛み(涙嚢炎)などがある。その他に診断率は劣るが検索するべき症状としては,頭位により変化する頭痛,膿性鼻漏,夜間咳嗽,および発熱(副鼻腔炎,多発血管炎性肉芽腫症);発疹(スティーブンス-ジョンソン症候群);咳嗽,呼吸困難,および胸痛(サルコイドーシス);ならびに鼻出血,喀血,多発性関節痛,および筋肉痛(多発血管炎性肉芽腫症)などがある。
既往歴の聴取では,流涙を引き起こしうる疾患の既往を尋ねるが,例として多発血管炎性肉芽腫症,サルコイドーシス,および化学療法薬により治療したがん;ドライアイを引き起こす疾患(例,関節リウマチ,サルコイドーシス,シェーグレン症候群);ならびにエコチオフェート,アドレナリン,およびピロカルピンなどの薬歴がある。感染症,外傷,手術手技,および放射線曝露を含め,眼および鼻の既往歴を確認する。
身体診察
診察では眼および周辺構造に焦点を置く。
顔面を視診する;非対称性は先天性または後天性涙液排出路の閉塞を示唆する。可能であれば,細隙灯顕微鏡を用いて眼を診察する。結膜および角膜を視診して,斑点,および充血などの病変がないか確認する。角膜をフルオレセインで染色して観察する。眼瞼を反転させ,異物が隠れていないか確認する。涙点を含む眼瞼を念入りに視診して,異物,眼瞼炎,麦粒腫,眼瞼外反,眼瞼内反,および睫毛乱生がないか確認する。涙嚢(内眼角付近)を触診して,熱感,圧痛,および腫脹がないか確認する。腫脹があれば触診して硬さを確かめ,膿が産生されていないか確認する。
鼻を診察して,鼻閉,膿,および出血がないか確認する。
警戒すべき事項(Red Flag)
以下の所見は特に注意が必要である:
繰り返す,原因不明の流涙エピソード
鼻涙管涙液排出構造内またはその付近の硬い腫瘤
所見の解釈
検査
通常原因は診察から明らかになるため,検査はしばしば不要である。
シルマー試験で大量の涙液が測定された場合(例,> 25mm),流涙の病因として蒸発亢進型ドライアイが示唆される。シルマー試験で涙液の量が少ない場合(< 5.5mm),涙液減少型ドライアイが示唆される。通常,シルマー試験は適切な実施および解釈ができるよう,眼科医が行う。
涙液排出路にプローブを挿入し,生理食塩水を通水することで,鼻涙管涙液排出路の完全な閉塞による狭窄だけでなく,排出路の解剖学的閉塞が同定しやすくなる。通水は,フルオレセイン染色併用および非併用で行う。反対側の涙点または涙小管(例,下涙点から通水している場合は上涙点)からの逆流は固定閉塞を示唆し,逆流および鼻への排出は狭窄を示す。この試験は付加的なものとみなされており,眼科医によって行われる。
画像検査および処置(涙嚢造影,CT,経鼻内視鏡検査)は,手術が考慮されている患者での解剖学的異常の描出や膿瘍の検出にときに有用となる。感染性涙嚢炎を繰り返す症例では,眼窩蜂窩織炎のようなより重篤な疾患に進行することがある。
流涙の治療
基礎疾患(例,アレルギー,異物,結膜炎)を治療する。
ドライアイまたは角膜上皮欠損が原因であれば,人工涙液の使用により流涙が低減する。
先天性鼻涙管閉塞はしばしば自然治癒する。生後1年までは,1日4回または5回指で涙嚢を圧迫することにより,遠位の閉塞を緩和できることがある。1歳以降は,全身麻酔と鼻涙管へのプローブの挿入が必要になる場合がある。閉塞が繰り返されるようであれば,一時的ドレナージチューブを挿入することもある。
後天性鼻涙管閉塞では,基礎疾患が治療に反応しない場合,鼻涙管の通水が治療となりうる。最終的手段としては,外科的に涙嚢と鼻腔との間に通路を形成する方法がある(涙嚢鼻腔吻合術)。
涙点または涙小管の狭窄例は,通常拡張により治癒する。涙小管狭窄が重度で不快感が強い場合は,涙小管から鼻腔へ繋がるガラス管を留置する外科的処置を考慮することがある。
老年医学的重要事項
加齢に伴う特発性の鼻涙管狭窄は,高齢患者における原因不明の流涙症で最も頻度の高い原因である;ただし,腫瘍も考慮すべきである。
流涙の要点
涙液が頬に流れ落ちない場合,しばしばドライアイが原因である。
涙液が頬に流れ落ちる場合,鼻涙管涙液排出路の閉塞の可能性が高い。
多くの場合,検査(涙嚢造影,CT,経鼻内視鏡検査)は不要であるが,手術が考慮されている場合や,ときに膿瘍の検出のために必要になることがある。