耳痛

(耳の痛み)

執筆者:David M. Kaylie, MS, MD, Duke University Medical Center
レビュー/改訂 2021年 3月
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耳痛は単独で生じることもあれば,分泌物やまれに難聴を伴って生じることもある。

耳痛の病態生理

耳痛は,耳自体の病変に起因する場合もあれば,近接部位の非耳科的疾患から耳に放散したものである場合もある。

耳自体に起因する疼痛は,中耳と外気の圧較差,局所の炎症,またはその両方に起因する場合がある。中耳の圧較差には通常は耳管閉塞が関与し,耳管狭窄は中耳内圧と大気圧の平衡を阻害するほか,中耳内への滲出液の蓄積を来すことがある。中耳炎は,痛みを伴う鼓膜の炎症に加え,中耳内圧の上昇(鼓膜の膨隆を引き起こす)による痛みを引き起こす。

関連痛は,外耳および中耳の感覚をつかさどる脳神経(第5,第9,第10)に支配される部位の障害に起因する場合がある。具体的な部位としては,鼻,副鼻腔,上咽頭,歯,歯肉,顎関節,下顎,耳下腺,舌,口蓋扁桃,咽頭,喉頭,気管,食道などがある。これらの部位の障害は,ときに耳管閉塞にもつながり,それが中耳の圧較差による疼痛を引き起こす。

耳痛の病因

耳痛は耳科的原因(中耳または外耳を含む)から生じるか,または周辺部位の疾患の経過により耳に放散する非耳科的原因から生じる(耳痛の主な原因の表を参照)。

急性疼痛がみられる場合,最も一般的な原因は以下のものである:

慢性疼痛(2~3週間を超える)がみられる場合,最も一般的な原因は以下のものである:

また慢性疼痛がみられる場合,特に患者が高齢の場合と疼痛が耳からの排膿と関連する場合には,腫瘍を考慮しなければならない。糖尿病または慢性腎臓病の患者やその他の易感染状態にある患者は,悪性外耳道炎や壊死性外耳道炎と呼ばれる,特に重症度の高い病型の外耳炎を発症することがある。このような状況では,外耳道の診察で異常な軟部組織が見出された場合,その組織を生検してがんを除外しなければならない。

視診の結果が正常な患者では,顎関節機能障害が耳痛の一般的な原因である。

表&コラム

耳痛の評価

病歴

現病歴の聴取では,耳痛の部位,持続時間,重症度のほか,持続的か間欠的かを評価すべきである。間欠痛の場合は,その疼痛が不規則であるか,主に嚥下または顎運動に伴って生じるかを判断することが重要である。重要な随伴症状として,耳からの排膿,難聴,咽頭痛などがある。外耳道の掃除(例,綿棒による)の試みやその他の最近の器具使用,異物,最近の飛行機旅行またはスキューバダイビング,および水泳など,耳への水の曝露について患者に質問すべきである。

システムレビュー(review of systems)では,体重減少や発熱など,慢性疾患の症状について尋ねるべきである。

既往歴の聴取では,既知の糖尿病などの易感染状態,過去の耳疾患(特に感染症),喫煙および飲酒の量および期間について尋ねるべきである。

身体診察

患者に発熱がないか確認すべきである。

診察では耳,鼻,および咽頭に焦点を置く。

耳介および乳様突起上の部位を視診して,発赤や腫脹がないか確認すべきである。耳介を愛護的に牽引する;牽引による疼痛の顕著な増悪は,外耳炎を示唆する。外耳道を診察して,発赤,分泌物,腫脹,耳垢または異物,およびその他の病変がないか確認すべきである。鼓膜を診察して,発赤,穿孔,および中耳の液体貯留の徴候(例,膨隆,変形,正常な光錐の変化)がないか確認すべきである。簡易なベッドサイドでの聴覚検査を実施すべきである。

咽頭を診察して,発赤,扁桃滲出物,扁桃周囲の腫脹,およびがんを示唆する粘膜病変がないか確認すべきである。

口腔の開閉時の顎関節の触診により,顎関節機能を評価し,開口障害またはブラキシズムの所見を記録すべきである。

頸部を触診して,リンパ節腫脹がないか確認すべきである。ファイバースコープによる咽頭および喉頭の検査を考慮すべきであり,とりわけ,ルーチンの診察で疼痛の原因が同定されない場合と,患者が嗄声,嚥下困難,鼻閉などの非耳科的症状を訴えている場合は,特にその必要性が高い。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 糖尿病,易感染状態,または慢性腎臓病

  • 乳突部上の発赤および波動と耳介の聳立

  • 外耳道の重度の腫脹

  • 慢性疼痛(特に他の頭頸部症状を伴う場合)

所見の解釈

重要な鑑別因子は視診で異常を認めるか否かであり,中耳および外耳疾患は異常な身体所見を引き起こし,通常はそれらと病歴の組合せから病因が示唆される(耳痛の主な原因の表を参照)。例えば,耳管の慢性機能障害がみられる患者には,鼓膜の異常,典型的には鼓膜弛緩部に陥凹(retraction pocket)が存在する。

視診で異常を認めない患者でも,扁桃炎や扁桃周囲膿瘍など,中咽頭に視認可能な原因が存在することがある。神経痛による耳痛は,極めて重度の鋭い痛みの短時間(通常は数秒で,常に2分未満)のエピソードという典型的な症状を呈する。視診で異常を認めない慢性耳痛は,顎関節障害に起因している可能性があるが,がんを除外するため,徹底的な頭頸部の診察(ファイバースコープによる検査を含む)を行うべきである。

検査

大半の症例では,病歴聴取と身体診察を終えた段階で,状況が明らかとなる。臨床所見に応じて,非耳科的原因の検査が必要になることがある(耳痛の主な原因の表を参照)。視診で異常を認めない患者は,特に慢性または再発性の疼痛を呈する場合,がんを除外するために,MRIによる評価が必要になることがある。

耳痛の治療

耳痛を訴える患者の基礎疾患を治療する。

疼痛は経口鎮痛薬により治療する;通常は非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)またはアセトアミノフェンで十分であるが,ときに短期間の経口オピオイドが必要になる(特に外耳炎の重症例)。外耳炎の重症例では,効果的な治療として,外耳道からの落屑の吸引と,点耳抗菌薬を感染組織へ送達可能にするためのガーゼタンポンの挿入が必要であり,経口抗菌薬は,耳介の一部または全体に発赤がみられ,感染の拡大が示唆されない限り使用しない。外用鎮痛薬(例,アンチピリンとベンゾカインの合剤)は,通常,それほど効果的ではないが,制限付きで使用できる。

患者には,何らかの物体で耳の中を掻くことは(どれたけ軟らかい物であっても,また,どれだけ慎重に行っていると患者が主張しても)控えるよう指示すべきである。また,患者は耳洗浄を行うべきでないが,医師からの指示を受けた場合に限り,愛護的に行う。口腔洗浄器を耳洗浄に使用してはならない。

耳痛の要点

  • 大半の症例は中耳または外耳の感染に起因する。

  • 通常,診断には病歴聴取と身体診察で十分である。

  • 視診で異常を認めない場合は,耳科以外の原因を考慮すべきである。

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