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褥瘡

(とこずれ;圧迫損傷;褥瘡性潰瘍;圧迫性潰瘍)

執筆者:

Ayman Grada

, MD, MS, Department of Dermatology, Boston University School of Medicine;


Tania J. Phillips

, MD, Boston University School of Medicine

レビュー/改訂 2019年 9月
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本ページのリソース

褥瘡(pressure ulcer)とは,骨突出部と体外の硬い表面の間で軟部組織が圧迫された領域に生じる壊死および潰瘍である。持続的な機械的圧迫に摩擦,ずれ力,湿潤が組み合わさって生じる。危険因子としては,年齢65歳以上,循環および組織灌流の障害,体動不能,低栄養,感覚低下,失禁などがある。重症度としては,圧迫しても消退しない皮膚の紅斑から,広範な軟部組織壊死を伴う皮膚の全層欠損までの範囲がある。診断は臨床的に行う。予後は早期の潰瘍では極めて良好であるが,放置された潰瘍や進行した潰瘍では,重篤な感染のリスクが生じ,治癒困難となる。治療法としては,除圧,摩擦およびずれ力の回避,入念な創傷ケアなどがある。ときに,治癒を促進するために植皮または筋皮弁の作製が必要になる。

褥瘡を発症した入院患者の数は,1993年から2006年までの間に75%以上増加しており,この増加率は全入院件数の増加率の5倍を上回っている。増加率は入院中に褥瘡が発生した患者で最も高かった。米国において急性期ケアの状況で治療される褥瘡症例数は毎年約250万例と推定されており,患者および医療施設にとって大きな経済的負担となっている。

こうした慢性創傷を指す用語としては,圧迫による軽度の皮膚損傷は必ずしも皮膚潰瘍を伴わないことから,National Pressure Ulcer Advisory Panel(NPUAP)はpressure ulcerではなくpressure injuryを推奨している。

褥瘡の病因

褥瘡の危険因子としては以下のものがある:

リスクの予測を目的とした評価尺度(The Norton Scale for Predicting Pressure Ulcer Risk 褥瘡のリスク予測のためのNortonスケール(Norton Scale)* 褥瘡のリスク予測のためのNortonスケール(Norton Scale)* およびBraden Scaleを参照)がいくつか開発されている。こうした評価尺度の使用は標準診療の一部とみなされているが,熟練者による臨床的評価単独と比べて褥瘡の減少につながると示されているわけではない。それでもなお,熟練者による臨床的評価とともにリスク評価尺度を使用することが推奨される。

褥瘡の病態生理

褥瘡の発生に寄与する主な因子としては,以下のものがある:

  • 圧迫:骨突出部と体外の表面との間で軟部組織が長時間圧迫されると,微小血管の閉塞により,組織の虚血および低酸素症が生じる。圧力が毛細血管圧の正常値を超えると(12~32mmHg),患部組織に酸素飽和度の低下と微小循環障害が生じる。圧迫が解除されないと,3~4時間で褥瘡が発生する可能性がある。褥瘡は仙骨部,坐骨結節,大転子部,外果部,および踵部に好発するが,あらゆる部位に生じうる。

  • 摩擦:摩擦(衣服や寝具へのこすれ)は,表皮および真皮上層の局所にびらんや破綻を引き起こすことにより,皮膚潰瘍の誘因となる可能性がある。

  • ずれ力:ずれ力(例,傾斜した面の上に患者の体が置かれた場合)は,重力により下方に引かれる筋および皮下組織と外部の面との接触が維持される表層組織にそれぞれ逆向きの力を生じさせることにより,支持組織に応力を加えて損傷をもたらす。ずれ力は褥瘡の発生に寄与するが,直接的な原因ではない。

  • 湿潤:湿潤(例,発汗,失禁)は組織の損傷および浸軟につながり,それにより褥瘡が発生または悪化する可能性がある。

筋組織は皮膚よりも圧迫による虚血に脆弱であるため,長時間の圧迫により生じた褥瘡の基礎には筋組織の虚血および壊死が存在する可能性がある。

褥瘡の症状と徴候

褥瘡はどの段階でも疼痛またはそう痒を伴うことがあるが,意識または感覚が鈍化した患者は褥瘡に気づいていない場合もある。

病期分類

いくつかの病期分類が存在する。最も広く用いられている分類は,National Pressure Ulcer Advisory Panel(NPUAP)によるもので,褥瘡を軟部組織損傷の程度により4つのステージ(1~4)に分類している。しかしながら,その数値による進行度分類も褥瘡の直線的な進行を意味するわけではない。すなわち,褥瘡は常にステージ1から始まって以降の段階に進行していくわけではない。ときには,壊死を起こしたステージ3または4の深い潰瘍が最初の徴候となる場合もある。急速に発生する褥瘡では,表皮にびらんが生じる前に皮下組織の壊死が起きることがある。そのため,小さな潰瘍でも,実際には皮下に広い壊死および損傷が生じている場合がある。同様に,この分類は治癒がステージ4からステージ1へと進んでいくということも意味しない。更新版のNPUAP病期分類には,病期判定不能の褥瘡(unstageable pressure injury),深部組織圧迫損傷(deep-tissue pressure injury),医療関連機器圧迫創傷(medical device-related pressure injury),および粘膜圧迫損傷(mucosal membrane pressure injury)の定義も含まれている(1 病期分類の定義に関する参考文献 褥瘡(pressure ulcer)とは,骨突出部と体外の硬い表面の間で軟部組織が圧迫された領域に生じる壊死および潰瘍である。持続的な機械的圧迫に摩擦,ずれ力,湿潤が組み合わさって生じる。危険因子としては,年齢65歳以上,循環および組織灌流の障害,体動不能,低栄養,感覚低下,失禁などがある。重症度としては,圧迫しても消退しない皮膚の紅斑か... さらに読む 病期分類の定義に関する参考文献 )。

ステージ1の褥瘡は,損傷を伴わず,圧迫しても消退しない皮膚の紅斑として,通常は骨突出部に生じる。皮膚の色が濃い患者では,色調の変化が視認できないこともある。病変部には,隣接組織や対側の組織と比べて熱い,冷たい,硬い,軟らかい,圧痛が強いなどの変化がみられる。実際の潰瘍(真皮に達する皮膚欠損)はまだ生じていない。しかしながら,進行を止めて回復に向かわせなければ,潰瘍が発生することになる。

ステージ2の褥瘡は,部分層しかない皮膚を特徴とし,表皮の欠損(びらんまたは水疱)がみられ,真の潰瘍(表皮を越える深さの欠損)を伴う場合と伴わない場合がある;皮下組織は露出していない。潰瘍は浅く,底部はピンク色から赤色である。底部に黄色壊死組織(slough)はみられない。ステージ2には,圧迫に続発した無傷または部分的に破れた水疱も含まれる。(注:スキンテア[皮膚裂傷],テープかぶれ,浸軟,表皮剥離など,びらん,潰瘍,または水疱形成の原因のうち圧迫に関連しないものは,ステージ2から除外される。)

ステージ3の褥瘡は,下床の筋膜まで広がる(筋膜は含まない)皮下組織の損傷を伴う,皮膚の全層欠損として明らかになる。潰瘍はクレーター状で,下床の筋肉や骨は露出しない。

ステージ4の褥瘡は,広範囲の破壊,組織壊死,および下床の筋肉,腱,骨,または他の露出している支持構造の損傷を伴う皮膚の全層欠損として明らかになる。

病期診断を目的とする褥瘡の深度評価時には,解剖学的部位を考慮に入れることが重要で,特にステージ3潰瘍の症例ではとりわけ重要である。例えば,鼻梁,耳介,後頭部,および踝部には皮下組織がないため,それらの部位の褥瘡は非常に浅くなる。しかしながら,これらは顕著な皮下組織がある部位(例,仙骨部)におけるより深いステージ3の潰瘍と同程度に重大であるため,ステージ3に分類される。

病期判定不能(unstageable)の褥瘡は,皮膚および組織の全層欠損を特徴とし,壊死組織片,黄色壊死組織,または黒色壊死組織のために深さが判定できないものである。黄色壊死組織(slough)または黒色壊死組織を除去すれば,ステージ3またはステージ4の褥瘡が明らかになる。ただし,乾燥した黒色壊死組織を伴い波動を認めない安定した病変には,決して病期診断のためにデブリドマンを行ってはならない。

深部組織圧迫損傷(deep-tissue pressure injury)は,圧迫および/またはずれ力に起因する限局した領域の下部組織の損傷を特徴とし,皮膚には欠損がある場合もあれば,欠損がない場合もある。具体的な所見としては,欠損のない皮膚の持続性かつ圧迫しても消退しない紫色から栗色の変色や,血液で充満した小水疱または水疱などがある。この領域には,周辺組織と比較して硬い,強い波動を伴う,熱い,冷たいなどの変化がみられることがある。この状況では,基礎にある血管疾患,外傷性疾患,神経障害性疾患,または皮膚疾患を説明するために深部組織圧迫損傷という用語を用いるべきではない。

医療関連機器圧迫創傷(medical device-related pressure injury)は,治療目的で設計され装着された機器(例,ギプス,副子)の使用により生じる。典型的には損傷が機器の模様や形状と一致する。病期分類システムを用いて損傷の病期を診断すべきである。

粘膜圧迫損傷(mucosal membrane pressure injury)は,医療機器が使用された部位の粘膜に生じる(例,不適合の義歯,気管内チューブ)。組織の解剖のために,この種の損傷は病期診断ができない。

ステージ1~4の褥瘡の臨床像

パール&ピットフォール

  • 褥瘡がみられる患者では,臨床的に明らかな損傷よりも深い組織損傷を疑うこと。

病期分類の定義に関する参考文献

  • 1.Editors of Nursing2017: Pressure ulcers get new terminology and staging definitions.Nursing 47(3):68–69, 2017. doi: 10.1097/01.NURSE.0000512498.50808.2b.

褥瘡の合併症

その他に褥瘡が治癒しない場合にみられる局所合併症として瘻孔, 蜂窩織炎 蜂窩織炎 蜂窩織炎は皮膚および皮下組織の急性細菌感染で,最も頻度の高い原因菌はレンサ球菌とブドウ球菌である。症状と徴候は疼痛,熱感,急速に拡大する紅斑,および浮腫である。発熱がみられる場合もあるほか,より重篤な感染例では所属リンパ節腫脹を認めることもある。診断は病変の外観によるほか,培養も参考になるが,その結果を待つために治療(抗菌薬投与)を遅らせ... さらに読む 蜂窩織炎 ,石灰化などがあるが,瘻孔は浅在性のこともあれば,潰瘍から深部の隣接構造に連絡していることもある(例,仙骨部潰瘍から腸管に至る瘻孔)。全身性または転移性の感染合併症として, 菌血症 菌血症 菌血症とは,血流中に細菌が存在する状態のことである。特定の組織感染を契機として,泌尿生殖器または静脈内にカテーテルを留置しているとき,あるいは歯科,消化管,泌尿生殖器,創傷などに対する処置を施行した後に,自然に発生する可能性がある。菌血症は心内膜炎などの転移性感染症を引き起こすことがある(特に心臓弁膜異常の患者で)。一過性の菌血症は無症状... さらに読む 髄膜炎 髄膜炎の概要 髄膜炎は髄膜および,くも膜下腔の炎症である。感染症,その他の疾患,または薬剤への反応によって起こりうる。重症度および急性度は様々である。典型的な所見には,頭痛,発熱,項部硬直などがある。診断は髄液検査による。治療は適応に応じて抗菌薬を投与する他に,補助的手段などがある。 ( 脳感染症に関する序論および... さらに読む 心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 感染性心内膜炎 などがある。

褥瘡の診断

  • 臨床的評価

  • 栄養評価

褥瘡の診断は臨床的評価に基づく。典型的には,褥瘡は特徴的な外観と骨突出部という発生部位により同定される。最も一般的な発生部位は仙骨部で,次いでかかと(踵部)が多い。動脈および静脈不全または糖尿病性神経障害を原因とする潰瘍は,褥瘡(特に下肢に生じたもの)に類似することがあり,また褥瘡の発生または悪化の原因となる力によって悪化する可能性もある。

褥瘡の深さと範囲は判断が難しい場合がある。潰瘍の進行または治癒をモニタリングするためには,創傷の病期診断と写真撮影を繰り返し行うことが不可欠である。治癒評価用の多くの尺度が利用可能である。Pressure Ulcer Scale for Healing(PUSH)は,NPUAP病期分類と併せて使用するように設計されたもので,多くの施設で採用されている。

褥瘡にはいずれも細菌が多数定着しているため,ルーチンの創面培養は推奨されない。

治癒しない潰瘍については,治療が不十分である可能性があるが,合併症の可能性も疑うべきである。圧痛,周囲皮膚の紅斑,滲出液,および悪臭は,下床の感染を示唆する。発熱と白血球増多がみられる場合は,蜂窩織炎,菌血症,または下床にある骨髄炎を疑うべきである。骨髄炎が疑われる場合は,血算,血液培養,および赤沈またはC反応性タンパク(CRP)の測定が推奨される。骨髄炎の確定診断は理想的には骨生検および培養によるが,これは必ずしも可能ではない。画像検査は高い感度および特異度を併せもっていない。MRIは感度は高いが特異度が低く,褥瘡の進展範囲の判定に役立つ可能性がある。ガドリニウム造影MRIは排膿または連絡する瘻孔の同定に役立つ可能性がある。

褥瘡の予後

早期の褥瘡であれば,時機を逸することなく適切な治療を行えば非常に予後良好であるが,典型的には治癒までに数週間を要する。6カ月の治療後には,ステージ2の褥瘡は70%超,ステージ3の褥瘡は50%,ステージ4の褥瘡は30%が消失する。褥瘡は,至適なケアを受けていない患者や創傷治癒を妨げる重大な疾患(例,糖尿病,低栄養,末梢動脈疾患)を有する患者でしばしば発生する。潰瘍のケアと併存症の管理を改善できなければ,たとえ短期的に創傷治癒が得られたとしても,長期予後は不良である。

褥瘡の治療

  • 除圧

  • 直接的な創傷ケア

  • 疼痛管理

  • 感染制御

  • 栄養必要量の評価

  • 補助療法または手術

(American College of Physiciansの褥瘡の予防および治療に関する最新のガイドラインも参照のこと。)

除圧

組織にかかる圧迫の軽減は,注意深い体位変換,保護具,および体圧分散用具の使用により達成される。

頻回の体位変換(および至適な体位の選択)が最も重要である。体位変換を指示および記録するため,書面のスケジュール表を使用すべきである。寝たきりの患者は少なくとも2時間毎に体の向きを変え,側面を下にする場合(側臥位)は,大転子部が直接圧迫されないように,マットレスに対して30°の角度をつけて臥床させるべきである。また,ずれ力が生じないように,ベッドの頭側の挙上は最小限に制限すべきである。体位変換を行う際には,不要な摩擦を避けるため,患者の体を引きずるのではなく,つり上げ装置(例,Stryker frame)または寝具を使用すべきである。車椅子に座っている患者には,1時間毎に体位変換を行うとともに,15分毎に自分で体位を変えるよう促すべきである。

仰臥位または側臥位では保護用パッド(枕,フォーム素材のベッドウェッジ,踵の保護具など)を膝,足首,および踵の間に配置することができる。骨折のため動けない患者では,ギプスの圧迫部位に窓状に孔を開けておくべきである。椅子に座れる患者には軟らかいシートクッションを提供すべきである。

寝たきりの患者では,体の下に敷く体圧分散用具(support surface)を変えることで圧迫を軽減できる。褥瘡の治療では,これらを他の手段と併用することが多い。

体圧分散用具は操作に電気を必要とするかどうかに基づいて分類されている。静止型の体圧分散用具は電気を必要としないが,電動型の用具は電気を必要とする。比較的重度の褥瘡には電動型の体圧分散用具が通常推奨されるが,静止型より電動型の方が優れていることを示した決定的なエビデンスは得られてない。

静止型の体圧分散用具としては,エア,フォーム,ゲル,ウォーターの上敷マットレスおよびマットレスなどがある。凹凸状のマットレスには利点がない。一般に,静止型の体圧分散用具は支持面積を増加させ,圧迫とずれ力を軽減する。静止型の体圧分散用具は従来,褥瘡の予防とステージ1の褥瘡に対して使用されてきた。

電動型の体圧分散用具としては,圧切替型エアマットレス,ローエアロス型マットレス,空気流動型マットレスなどがある。圧切替型エアマットレスは,複数のエアセルがポンプによって交互に膨張・収縮することにより,支持圧のかかる部位を次々に移動させる。ローエアロス型マットレスは,空気を通す巨大な枕であり,常時空気で膨張している;気流により組織を乾燥させる効果がある。この種の特殊なマットレスは,静止型の体圧分散用具では充血を来すステージ1の褥瘡がある患者と,ステージ3または4の褥瘡患者が適応となる。空気流動型(ハイエアロス型)マットレスは,内部にシリコンコーティングされたビーズが入っており,それらのビーズは,ポンプによって空気がベッド内を通過する際に液状となる。利点として,湿潤の軽減と冷却がある。この種のマットレスは,治癒しないステージ3および4の褥瘡を有する患者と体幹に多数の潰瘍が生じた患者で適応となる( Professional.see table 体圧分散用具の選択肢 体圧分散用具の選択肢 体圧分散用具の選択肢 )。

直接的な創傷ケア

適切な創傷ケアとしては,洗浄,デブリドマン,およびドレッシングを行う。

洗浄は最初の処置時と毎回のドレッシング交換時に行うべきである。通常は生理食塩水が最善の選択肢である。洗浄では,組織を損傷することなく細菌を除去できるだけの圧力で加圧洗浄することが多く,市販の注射器,スクイーズボトル,または電動式の加圧機器を使用することができる。加圧洗浄は壊死組織の除去(デブリドマン)にも有用となりうる。あるいは,35mLの注射器と18Gの静脈カテーテルも使用できる。加圧洗浄は,新たな組織片が剥がれなくなるまで続けるべきである。消毒剤(ヨード,過酸化水素)および消毒洗浄剤は,健康な肉芽組織を破壊する可能性があるため,使用は避けるべきである。

壊死組織を除去するにはデブリドマンが必要である。壊死組織は細菌にとって増殖用の培地となり,正常な創傷治癒を妨げる。方法としては以下のものがある:

  • 機械的デブリドマン:この種の方法としては,水治療法(ワールプール[渦流浴])と最も一般的な wet-to-dryドレッシング 非閉鎖性ドレッシング 皮膚に対する外用治療は,その治療上の機能に従って分類され,以下のような種類がある: 洗浄剤 抗感染症薬 抗炎症薬 収斂剤(皮膚を乾燥させる薬剤で,タンパク質を変性させて,皮膚を収縮させる) さらに読む がある。十分な水圧での加圧洗浄による創傷洗浄でも,機械的デブリドマンを達成することができる。機械的デブリドマンは,創傷面の壊死組織片を除去する処置であり,滲出液の粘稠度が非常に低い創傷に限定して行うべきである。Wet-to-dryドレッシングでは,滲出液および壊死組織が乾燥する過程でガーゼドレッシングに癒着し,そのガーゼを除去することで創傷のデブリドマンが可能となるが,この方法はドレッシング交換時に痛みを伴い,下にある健康な肉芽組織を除去してしまうことがあるため,慎重に採用する必要がある。

  • 外科的(sharp)デブリドマン:無菌のメスまたは剪刀を用いて黒色壊死組織と厚い壊死組織を除去する方法である。黒色壊死組織または組織が中等量であればベッドサイドでデブリドマンを行ってもよいが,対象領域が広範または深い場合(例,下床の骨,腱,または関節が露出している場合)は,手術室でデブリドマンを行うべきである。進行を続ける蜂窩織炎と敗血症の原因になっていることが疑われる病変については,緊急に外科的デブリドマンを施行すべきである。

  • 自己融解によるデブリドマン:合成の閉鎖性(ハイドロコロイド/ハイドロゲル)ドレッシング材または半閉鎖性(透明フィルム) ドレッシング材 閉鎖性ドレッシング 皮膚に対する外用治療は,その治療上の機能に従って分類され,以下のような種類がある: 洗浄剤 抗感染症薬 抗炎症薬 収斂剤(皮膚を乾燥させる薬剤で,タンパク質を変性させて,皮膚を収縮させる) さらに読む を使用することにより,通常はすでに創内に存在する酵素による壊死組織の消化を促進させる。自己融解によるデブリドマンは,滲出液がほとんどない比較的小さな創傷に用いることができる。創傷感染が疑われる場合は,この方法を用いてはならない。

  • タンパク質分解酵素によるデブリドマン:この手法(コラゲナーゼ,パパイン,フィブリノリジン,デオキシリボヌクレアーゼ,ストレプトキナーゼ/ストレプトドルナーゼを使用)は,潰瘍内に軽度の線維化または壊死組織がある患者に用いることができる。また,処置を行う者が機械的デブリドマンの訓練を受けていない場合と患者が手術に耐えられない場合にも用いることができる。酵素の浸透を高めるため,メスで創面に注意深く適切に網目状の切れ目を入れてから行うと,最も効果的となる。

  • Biosurgery:壊死組織を選択的に除去する方法として,医療用ウジを用いるマゴット療法が有用であり,ウジ(ハエの幼虫)は壊死組織のみを接触する。この方法は,創傷内で骨,腱,および関節が露出しており,外科的デブリドマンの禁忌がある患者で最も役立つ。

摩擦または失禁に曝されるステージ1の褥瘡とその他の全ての褥瘡には,ドレッシング材を使用すべきである( Professional.see table 褥瘡のドレッシングの選択肢 褥瘡のドレッシングの選択肢 褥瘡のドレッシングの選択肢 )。

摩擦の増加が予想されるステージ1の褥瘡では,透明フィルムで十分である。滲出液がごく少量のみの損傷には,透明フィルムまたはハイドロゲル(架橋ポリマーのドレッシング材であり,シートまたはゲルの形態で市販されている)を使用して,創傷を感染から保護し,湿潤環境を作る。透明フィルムまたはハイドロゲルは3~7日毎に交換すべきである。

ハイドロコロイド(ゼラチン,ペクチン,カルボキシメチルセルロースを組み合わせたもので,ウエハーおよびパウダーの形態がある)は,少量から中等量の滲出液を伴う褥瘡が適応であり,3日毎に交換する必要がある。

アルギン酸塩(アルギン酸を含有する多糖類の海藻由来物質)は,パッド,ロープ,リボンの形態で市販されており,滲出が著しい場合の吸収や外科的デブリドマン後の出血管理に適応がある。アルギン酸塩は最長7日間適用できるが,飽和した場合はより早く交換しなければならない。

フォームドレッシング材は,様々な量の滲出液を伴う創傷に使用でき,創傷治癒に適した湿潤環境を作り出す。フォームドレッシング材は3~4日毎に交換する必要がある。防水タイプの製品では,皮膚を失禁から保護できる。

疼痛管理

褥瘡は有意な疼痛を引き起こすことがある。疼痛スケールを用いて定期的に疼痛をモニタリングすべきである。疼痛に対する一次的な治療は損傷そのものに対する治療であるが,軽度から中等度の疼痛には非ステロイド系抗炎症薬またはアセトアミノフェンが有用である。オピオイドは,鎮静により体動を減少させるため,可能であれば避けるべきである。しかしながら,ドレッシングの交換時やデブリドマンの施行時には,オピオイドあるいは非オピオイドの外用剤(局所麻酔薬の混合剤など)が必要になる場合がある。認知障害のある患者では,バイタルサインの変化を疼痛の指標として用いることができる。

感染制御

褥瘡には,紅斑の増大,悪臭,熱感,排膿,発熱,白血球数増加など,細菌感染の徴候を検出するための評価を継続的に行うべきである。創傷治癒に障害がみられる場合にも,感染を考慮すべきである。これらの異常所見があるときは創面培養を行うべきである。ただし,褥瘡には常に微生物が定着しているため,結果の解釈には注意が必要であり,細菌の有無ではなく,細菌の数を参考にして治療方針を決定すべきである。

局所的な創傷感染症は,スルファジアジン銀,ムピロシン,ポリミキシンB,メトロニダゾールなどの外用で治療できる。スルファジアジン銀やこれと同様の不透明な外用薬は,下床創面の観察を困難にする可能性があり,また除去が困難となることもあるため,慎重に使用すべきである。適切な褥瘡治療を2~4週間行っても治癒しない,清潔なあらゆる褥瘡には,2週間にわたる外用抗菌薬の試験的投与が推奨される。蜂窩織炎,菌血症,または骨髄炎がある場合は,抗菌薬を全身投与すべきであり,その用法については,組織培養,血液培養,もしくは両方の結果,または疑わしい臨床症状を参考に決定すべきであり,創面の培養結果を参考にしてはならない。

栄養必要量の評価

褥瘡患者では低栄養状態がよくみられるが,これは治癒遷延の危険因子である。低栄養状態の目安としては,アルブミン値 < 3.5g/dL(< 35g/L)や体重 < 理想体重の80%などがある。至適な治癒を得るには1.25~1.5g/kg/日のタンパク質摂取が望ましいが,ときに経口,経鼻,または静脈栄養が必要になる。最新のエビデンスは,栄養欠乏の徴候のない患者へのビタミン類またはカロリーの補給を支持していない。

補助療法

治癒を促進する目的で多くの補助療法が試みられている:

  • 陰圧閉鎖療法:陰圧閉鎖療法(vacuum-assisted closure[VAC])では,創傷に吸引をかける。創傷の洗浄に利用することができる。陰圧閉鎖療法については,効力を示した質の高いエビデンスはまだ得られていないが,複数の小規模研究である程度有望な結果が示されている。

  • 遺伝子組換え成長因子の外用:遺伝子組換え成長因子製剤(例,神経成長因子,血小板由来増殖因子)の外用と人工皮膚の使用が創傷治癒を促進することを示唆したエビデンスがある。

  • 電気刺激療法:電気刺激療法を標準の創傷治療と併用することで,創傷治癒を促進することができる。

  • 超音波療法:ときに超音波が用いられるが,有益性や有害性を示した良好なエビデンスは存在しない。

  • 電磁波療法,光線(レーザー)療法,温熱療法,マッサージ療法,高圧酸素治療:これらの治療法の効力を裏付けたエビデンスは存在しない。

手術

大きな組織欠損,特に筋骨格構造が露出しているものには,外科的な閉鎖が必要である。大きく浅い欠損には植皮が有用である。ただし,移植片は血液の供給を増やすわけではないため,虚血やさらなる組織破綻を来す程度まで圧迫が強くならないように対策を講じる必要がある。筋皮弁は,圧迫を分散できる大きな体積をもち,血管構造が豊富であることから,大きな骨突出部(通常は仙骨部,坐骨部,大転子部)の閉鎖では第1選択の方法となる。手術により褥瘡患者の生活の質が急速に改善することがある。手術成績は,事前に低栄養状態と併存症に対して至適な治療を行った場合に最良となる。

褥瘡の予防

予防には以下が必要である:

  • 高リスク患者の同定

  • 体位変換

  • 入念なスキンケアと衛生管理

  • 不動状態の回避

患者のリスクは,熟練した臨床医による評価とリスク評価尺度( Professional.see table 褥瘡のリスク予測のためのNortonスケール(Norton Scale)* 褥瘡のリスク予測のためのNortonスケール(Norton Scale)* 褥瘡のリスク予測のためのNortonスケール(Norton Scale)* およびBraden Scaleを参照)の使用によって推定すべきである。

治療と予防はかなりの部分で重複する。予防の中心は頻回の体位変換である。骨突出部では,圧迫がかかる状況を2時間以上持続させてはならない。自力で動けない患者には,体位変換を行い,枕をクッションとして使用する必要がある。圧迫を低減するマットレスを使用する場合でも,体位変換は必要である。圧迫のかかる部位については,少なくとも1日1回,十分な照明下で紅斑や外傷の有無を確認するべきである。患者とその家族には,潰瘍形成の可能性がある部位について視診と触診を毎日行う習慣をつけるよう指導する必要がある。

浸軟および二次感染を予防するため,衛生状態と乾燥に日々注意することが必要である。保護用パッド,枕,および羊皮は皮膚と皮膚が接触しないようにするために使用できる。寝具と衣服は頻回に交換すべきである。失禁のみられる患者では,潰瘍を汚染から保護すべきであり,合成のドレッシング材が役立つ可能性がある。皮膚の破綻は,皮膚を注意深く洗浄して乾燥させ(皮膚を擦らず,軽く叩くように拭き取る),抗カンジダ薬のクリーム剤とモイスチャーバリアクリームまたは皮膚保護剤を含有する拭布を使用することで予防できる。接着テープの使用は,刺激をもたらし,脆弱な皮膚に裂傷を生じることもあるため,最小限に抑えるべきである。摩擦の生じやすい部位には単タルクパウダーを適用してもよい。コーンスターチの使用は,微生物を増殖させることがあるため,推奨されない。

最も重要なこととして,不動状態を回避すべきである。鎮静薬の使用は最小限に抑えるべきであり,患者にはできるだけ迅速かつ安全に動くように勧めるべきである。

褥瘡の要点

  • 褥瘡は不動状態や入院に続発することがあり,特に高齢患者,失禁のある患者,および低栄養患者ではその傾向が強い。

  • 褥瘡のリスクは,熟練した臨床医の評価と標準化された評価尺度に基づいて判断する。

  • 褥瘡の病期は潰瘍の深さに従って分類されるが,実際の組織損傷は,身体診察で判断できる水準よりも深く,より重度である場合がある。

  • 褥瘡患者に対しては,局所的な創傷感染(ときに治癒が得られないことで明らかとなる),瘻孔,蜂窩織炎,菌血症の拡大(例,心内膜炎または髄膜炎の発症),骨髄炎,および低栄養の有無について評価を行う。

  • 褥瘡は皮膚の除圧,頻回の体位変換,ならびに保護用パッドおよび体圧分散用具(電動型と非電動式の静止型がある)の使用により治療するとともに,これらを予防にも役立てる。

  • 細菌数を減らし,治癒を促進するため,創傷の洗浄とドレッシングを頻回に行う。

  • 透明フィルムもしくはハイドロゲル(滲出液がごく少量の場合),ハイドロコロイド(滲出液が少量から中等量の場合),アルギン酸塩(滲出液が大量の場合),またはフォームドレッシング材(様々な量で滲出液がみられる場合)を適用する。

  • 疼痛は鎮痛薬により,局所的な創傷感染症は抗菌薬の外用により,蜂窩織炎または全身性感染症は抗菌薬の全身投与により治療する。

  • 大きな組織欠損,特に筋骨格構造が露出しているものは,外科的に閉鎖する。

  • 手術の前に栄養状態と併存症の治療を最適化しておく。

  • リスクのある患者における褥瘡の予防には,綿密な創傷ケア,除圧,そして不必要な体動制限の回避が助けとなる。

褥瘡についてのより詳細な情報

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