そう痒

(そう痒症)

執筆者:Julia Benedetti, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2019年 2月
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そう痒は,有意な不快感の原因となりうる症状であり,皮膚科の受診理由として最も頻度が高いものの1つである。そう痒が掻破につながり,それが炎症,皮膚の劣化,および二次感染の原因となることがある。皮膚に苔癬化,鱗屑,および表皮剥離が生じることがある。

皮膚科患者の評価も参照のこと。)

そう痒の病態生理

そう痒は,軽い触覚,振動,羊毛繊維などの多様な刺激により生じる。関与する化学伝達物質はいくつかあり,そう痒の感覚が生じる機序は複数存在する。特定の末梢感覚ニューロンがそう痒の感覚を伝達する。それらのニューロンは触覚や痛覚を担う感覚ニューロンとは大きく異なり,MrgA3という受容体を発現していて,この受容体が刺激されることでそう痒の感覚が惹起される。

伝達物質

ヒスタミンはよく知られた伝達物質である。これは皮膚の肥満細胞で合成,貯蔵され,様々な刺激に反応して放出される。その他の伝達物質(例,神経ペプチド)は,ヒスタミンの放出を惹起する場合や,それ自体が起痒物質として作用する場合があり,このことが抗ヒスタミン薬でそう痒を緩和できる症例とできない症例があることの理由である。オピオイドには中枢性のそう痒作用があるほか,末梢でのヒスタミンによるそう痒を刺激する。

機序

そう痒には4つの機序がある:

  • 皮膚性:この機序は,典型的には炎症性または病理学的変化(例,蕁麻疹湿疹)により引き起こされる。

  • 全身性:この機序は,皮膚以外の臓器の疾患に関連する(例,胆汁うっ滞)。

  • 神経障害性:この機序は,中枢または末梢神経系の疾患に関連する(例,多発性硬化症)。

  • 心因性:この機序は,精神障害に関連する。

強いそう痒は強い掻破につながり,これが二次的な皮膚障害(例,炎症,表皮剥離,感染)の原因となることがあり,それにより皮膚バリアが破綻することで,そう痒が増強する可能性がある。掻破は抑制性のニューロン回路を活性化することでそう痒の感覚を一時的に軽減できるが,同時に脳のレベルでかゆみの増幅をもたらすことで,そう痒と掻爬のサイクルを悪化させることになる。

そう痒の病因

そう痒は,原発性皮膚疾患の症状であることもあれば,比較的まれであるが,全身性疾患の症状であることもある。また,薬剤がそう痒を引き起こすこともある( table numonly そう痒の主な原因を参照)。

皮膚疾患

多くの皮膚疾患がそう痒を引き起こす。特に頻度が高い病態としては以下のものがある:

全身性疾患

全身性疾患では,そう痒に皮膚病変が伴うこともあれば,そうでないこともある。しかしながら,同定可能な皮膚病変がないにもかかわらず,そう痒が顕著な場合には,原因として全身性疾患と薬物をより強く考慮すべきである。全身性疾患のそう痒の原因としての頻度は皮膚疾患より低いが,比較的頻度の高い原因としては以下のものがある:

そう痒の全身的原因で比較的頻度の低いものとしては,甲状腺機能亢進症甲状腺機能低下症糖尿病,鉄欠乏症,疱疹状皮膚炎真性多血症などがある。

薬物

薬物はアレルギー反応として,あるいはヒスタミン放出を直接誘発することによって,そう痒を引き起こすことがある(最も多いのはモルヒネと一部の静注造影剤)。

表&コラム

そう痒の評価

病歴

現病歴の聴取では,そう痒の発症,当初の部位,経過,持続期間,そう痒のパターン(例,夜間か日中か,間欠性か持続性か,季節的変動),および発疹の有無を明らかにすべきである。薬歴を入念に聴取すべきであり,その対象には処方薬とOTC医薬品の両方を含め,最近開始した薬剤には特に注意を払う。保湿剤とその他の外用薬(例,ヒドロコルチゾン,ジフェンヒドラミン)の使用状況を確認すべきである。病歴聴取の対象には,そう痒の軽快因子および増悪因子を含めるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,以下のような原因となる疾患の症状がないか検討すべきである:

  • 易刺激性,発汗,体重減少,および動悸(甲状腺機能亢進症

  • 抑うつ,乾燥皮膚,および体重増加(甲状腺機能低下症

  • 頭痛,異食症,毛髪の減少,および運動耐容能低下(鉄欠乏性貧血

  • 体重減少,疲労,および盗汗の全身症状(悪性腫瘍)

  • 間欠性の筋力低下,しびれ,ピリピリ感,および視覚障害または視力障害(多発性硬化症

  • 脂肪便,黄疸,右上腹部痛(胆汁うっ滞)

  • 頻尿,過度の口渇,および体重減少(糖尿病

既往歴の聴取では,既知の原因疾患(例,腎疾患,胆汁うっ滞性疾患,化学療法により治療中の悪性腫瘍)を同定し,患者の精神状態を確認すべきである。社会歴の聴取では,同様のそう痒および皮膚症状(例,疥癬,シラミ症)がある家族の有無,そう痒と職業または植物,動物,もしくは化学物質に対する曝露との関係,ならびに最近の旅行歴に焦点を置くべきである。

身体診察

身体診察はまず,黄疸,体重減少または増加,および疲労を示唆する臨床所見の検討から始める。詳細な皮膚の診察を行い,病変の有無,形態,範囲,および分布に注目すべきである。皮膚の診察では,二次感染の徴候(例,発赤,腫脹,熱感,黄色または蜂蜜色の痂皮形成)にも注目すべきである。

診察では,悪性腫瘍を示唆する有意なリンパ節腫脹に注目すべきである。腹部の診察では,臓器腫大,腫瘤,および圧痛に焦点を置くべきである(胆汁うっ滞性疾患または悪性腫瘍)。神経学的診察では,筋力低下,痙縮,およびしびれに焦点を置くべきである(多発性硬化症)。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 体重減少,疲労,および盗汗の全身症状

  • 四肢の筋力低下,しびれ,またはピリピリ感

  • 腹痛および黄疸

  • 頻尿,過度の口渇,および体重減少

所見の解釈

薬物の使用直後に始まった全身性のそう痒は,その薬物によって生じたものである可能性が高い。また,問題の物質と接触した部位に生じた限局性のそう痒(しばしば発疹を伴う)は,その物質によって生じたものである可能性が高い。しかしながら,患者は典型的にそう痒が発生する前に複数の食物を摂取し,また多数の物質と接触していることから,多くの全身性アレルギーは同定が困難となる可能性がある。同様に,複数の薬剤を服用している患者で原因薬剤を同定することも困難となる場合がある。ときに反応が発生する前に数カ月,さらには数年にわたって原因薬剤を摂取していることもある。

病因がすぐに明らかとならない場合は,皮膚病変の外観と部位から診断が示唆されることがある( see table そう痒の主な原因)。

皮膚病変が明らかではない少数の患者では,全身性疾患を考慮すべきである。そう痒を引き起こす疾患の中には,評価で容易に明らかとなるものもある(例,慢性腎不全,胆汁うっ滞性黄疸)。そう痒を引き起こすその他の全身性疾患は,所見により示唆される( see table そう痒の主な原因)。まれに,そう痒が重大な全身性疾患の最初の症状となることもある(例,真性多血症,特定の悪性腫瘍,甲状腺機能亢進症)。

検査

多くの皮膚疾患は臨床的に診断される。ただし,そう痒とともに病因不明のはっきりした皮膚病変が認められる場合は,生検が適切となることがある。アレルギー反応が疑われるが,原因物質が不明の場合には,しばしば皮膚テスト(疑われる病因に応じてプリックテストまたはパッチテスト)が行われる。全身性疾患が疑われる場合,検査は疑われる原因に応じて異なり,通常は血算,肝機能,腎機能,および甲状腺機能の測定,ならびに基礎疾患としての悪性腫瘍に対する適切な評価を行う。

そう痒の治療

基礎疾患があれば治療する。支持療法として以下を行う(そう痒に対する治療アプローチの表も参照):

  • 局所のスキンケア

  • 外用治療

  • 全身治療

スキンケア

そう痒には,その原因を問わず,入浴時の冷たい水またはぬるま湯(熱い湯は不可)の使用,低刺激性の石鹸または保湿用石鹸,入浴時間および頻度の制限,頻回の潤滑剤の使用,乾燥した空気の加湿,ならびに刺激のある衣服の回避が有効である。刺激物(例,ウールの衣服)の接触を回避することも助けになる場合がある

外用薬

限局性のそう痒には外用薬が有用となりうる。選択肢としては,カンフルおよび/またはメントール,プラモキシン(pramoxine),カプサイシン,もしくはコルチコステロイドを含有するローションまたはクリームなどがある。コルチコステロイドは炎症によるそう痒の緩和には効果的であるが,炎症所見のない状態では使用を控えるべきである。ベンゾカイン,ジフェンヒドラミン,およびドキセピンの外用薬は,皮膚を感作することがあるため,避けるべきである。

全身薬

全身薬は,全身性そう痒または外用薬に抵抗性の局所性そう痒に使用する。抗ヒスタミン薬は効果的で(特に夜間のそう痒),最も頻用されているが,なかでも最も有名なものがヒドロキシジンである。鎮静性抗ヒスタミン薬は,転倒につながる可能性があるため,高齢患者では注意して使用しなければならず,日中のそう痒にはロラタジン,フェキソフェナジン,セチリジンなど新しい非鎮静性抗ヒスタミン薬が有用となりうる。その他の薬剤としては,ドキセピン(高度の鎮静作用があるため,通常は夜間に服用する),コレスチラミン(腎不全,胆汁うっ滞,および真性多血症に使用する),ナルトレキソンなどのオピオイド拮抗薬(胆汁性そう痒に用いる)などがあり,ガバペンチン(尿毒症性そう痒に用いる)も有用となる可能性がある。

そう痒に効果的となりうる物理的治療法として,紫外線療法などがある。

表&コラム

老年医学的重要事項

高齢者ではそう痒の有病率が高いが,この傾向には免疫系と神経線維に生じる加齢変化が関与している可能性がある。

高齢患者では乾燥性湿疹の頻度が非常に高い。そう痒が主に下肢に生じている場合は,特にその可能性が高くなる。

高齢者の重度かつびまん性のそう痒は,悪性腫瘍の可能性を考えるべきである(特に他の病因がすぐに明らかにならない場合)。

高齢者の治療では,抗ヒスタミン薬による鎮静が大きな問題となることがある。鎮静の合併症を回避する上では,日中は非鎮静性抗ヒスタミン薬を使用し,夜間は鎮静性抗ヒスタミン薬を使用すること,軟膏の外用薬と外用コルチコステロイド(適切な場合)を十分に活用すること,ならびに紫外線療法を考慮することが役立つ場合がある。

そう痒の要点

  • そう痒は通常,皮膚疾患または全身性アレルギー反応の症状であるが,全身性疾患によって生じることもある。

  • 皮膚病変が明らかではない場合は,全身的原因を検索すべきである。

  • スキンケア(例,入浴の制限,刺激物の回避,定期的な保湿,環境の加湿)を遵守すべきである。

  • 症状は外用薬または全身薬で軽減することができる。

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