(皮膚炎の定義 皮膚炎の定義 「皮膚炎」という言葉は,皮膚の炎症を意味する。しかしながら,臨床皮膚科学では,類似した臨床像を呈する同じ炎症反応パターンを共有する様々な皮膚症状を記載するのに皮膚炎という用語が用いられる。 組織学的には,リンパ球が血管外に遊出して真皮内に入り,次に表皮内に遊走して,表皮細胞間浮腫(海綿状態),過剰増殖,肥厚,および過角化を誘発する。この過... さらに読む も参照のこと。)
病態生理
皮膚炎の特徴的な組織学的特徴は,表皮角化細胞間の浮腫(海綿状態)である。十分な浮腫が蓄積すると,細胞間接着(デスモソーム)が破綻し,微小水疱が形成される。微小水疱は大きくなって初めて肉眼で見えるようになる。手足以外の部位では,これらの小水疱は典型的には急速に破裂し,気づかれない。しかしながら,手足では角層が厚いため,小水疱がより長く持続する傾向があり,視認できるようになる。これらの小水疱が視認できれば,異汗性皮膚炎が示唆される(発汗や異常な汗腺とは無関係であるためこの名称は不適切である)。最重症型の異汗性皮膚炎(汗疱)は,小水疱が融合してより大きな水疱を形成することを特徴とする(手に生じる場合は手掌汗疱[cheiropompholyx],足に生じる場合は足汗疱[podopompholyx],手足の両方に生じる場合は手足汗疱[cheiropodopompholyx]と呼ばれる)。
症状と徴候
紅斑,鱗屑,および皮膚の肥厚が進行して,手掌,手指側面,または足底にそう痒を伴う小水疱または水疱が生じることがあり(異汗性皮膚炎と呼ばれる),それらが破裂してびらんや痂皮が形成されることがある。小水疱が最初に気づく症状となることがある。病因と曝露によっては,症状が間欠的に生じることがある。頻繁なまたは長時間の水との接触(例,頻繁な手洗い,水または湿った物質を扱う仕事),特に洗剤の使用が一般的な誘因であり,アトピー患者でとりわけよくみられる。
診断
臨床的評価
手足皮膚炎の診断は,通常は皮膚病変の部位および外観から推察できる。
手足皮膚炎の鑑別診断には以下のものがある:
真菌感染症
掌蹠乾癬
真菌感染症 皮膚糸状菌症の概要 皮膚糸状菌症は,ケラチンを含む皮膚および爪の真菌感染症である(爪の感染は爪白癬または 爪真菌症と呼ばれる)。症状と徴候は感染部位により異なる。診断は臨床的な外観と皮膚擦過物のKOH直接鏡検による。治療は部位により異なるが,常に抗真菌薬の外用または内服を用いる。 病原性を示す可能性がある真菌としては,酵母(例,Candida albicans)や皮膚糸状菌などがある。皮膚糸状菌は,栄養としてケラチンを必要とするカビであり,角... さらに読む もまた,類似した皮膚の炎症反応がみられ,そう痒,紅斑,および鱗屑を引き起こす。小水疱や水疱が明らかになることがあり(水疱型白癬),典型的には手足皮膚炎と同様に手足のみで視認できる。最も鑑別に役立つ特徴は,皮膚糸状菌が皮膚で遠心性に増殖することにより生じる真菌感染症に特徴的な環状の形態である。
掌蹠乾癬 乾癬 乾癬は,銀白色の鱗屑で覆われた境界明瞭な紅色の丘疹および局面として生じることが最も多い炎症性疾患である。遺伝因子を含めて,複数の因子が寄与する。よくみられる誘因として,外傷,感染,特定の薬剤などがある。症状は通常軽微であるが,軽度から重度のそう痒が生じることがある。整容的な面で重大となることがある。疼痛を伴う関節炎を合併する重症例もある(... さらに読む (掌蹠乾癬)も手足皮膚炎との鑑別が困難なことがある。掌蹠乾癬の鑑別に役立つ特徴には,非常に境界明瞭で鱗屑を伴う紅色局面,無菌性膿疱,乾癬のその他の徴候(例,爪の乾癬性変化や他の部位の乾癬局面)などがある。また,小水疱は手足皮膚炎ではみられることがあるが,掌蹠乾癬の特徴ではない。しかしながら,例えば以下のように,小水疱と膿疱の両方が視認できる場合がある:
異汗性皮膚炎と掌蹠乾癬が併存する場合
異汗性皮膚炎の小水疱に重複感染が生じた場合
掌蹠乾癬の患者が感作され(例,コルチコステロイドの外用に対して),アレルギー性接触皮膚炎が発生した場合
掌蹠乾癬がアレルギー性接触反応により誘発された場合(ケブネル現象)
手足には,皮膚炎以外にも多くの疾患が生じうる。具体的には以下のものがある:
真菌感染症(例,手白癬, 足白癬 足白癬(みずむし) 足白癬は足の皮膚糸状菌感染症である。診断は臨床的な外観のほか,ときにKOH直接鏡検による(特に感染が角質増殖性,潰瘍性,もしくは小水疱性を呈する場合,または趾間型ではない場合)。治療は抗真菌薬の外用のほか,ときに抗真菌薬の内服,湿気の低減,および乾燥剤による。 足の発汗による湿潤が真菌の増殖を促すため,足白癬は最も頻度の高い 皮膚糸状菌症となっている。足白癬には4つの臨床型があり,それらが混在することもある:... さらに読む , 皮膚酵母感染症 カンジダ症(粘膜皮膚) カンジダ症は,Candida属真菌による皮膚および粘膜感染症であり,その大半がCandida albicansによるものである。感染はあらゆる部位に生じうるが,好発部位は間擦部,指趾間,性器部,爪上皮,および口腔粘膜である。症状と徴候は部位により異なる。診断は臨床的な外観や皮膚擦過物のKOH直接鏡検による。治療... さらに読む )
ウイルス感染症(例, ヘルペス性ひょう疽 ヘルペス性ひょう疽 ヘルペス性ひょう疽は,単純ヘルペスウイルスにより引き起こされる手指遠位面の皮膚感染症である。 ( 手疾患の概要および評価も参照のこと。) ヘルペス性ひょう疽は,強い痛みを引き起こすことがある。指腹部はあまり緊張していない。末節骨の掌側または背側に小水疱が発生するが,痛みが始まってから2~3日経過するまで現れないことが多い。強い痛みは ひょう疽に類似することがあるが,ヘルペス性ひょう疽は通常,指腹部の緊張の欠如または小水疱の存在によって鑑... さらに読む , 疣贅 疣贅 疣贅はよくみられる表皮の良性病変であり,ヒトパピローマウイルスの感染によって生じる。疣贅は全身のあらゆる部位に生じ,形態も多彩である。診断は診察による。疣贅は通常は自然消退するが,破壊的方法(例,切除,焼灼,凍結療法,液体窒素)や外用薬または注射薬で治療することもある。 疣贅はほぼ全ての人々に生じる;あらゆる年齢でみられるが,小児で最も頻度が高く,高齢者では比較的少ない。 疣贅は... さらに読む )
細菌感染症(例, 膿痂疹 膿痂疹および膿瘡 膿痂疹は,レンサ球菌,ブドウ球菌,またはその両方によって引き起こされる,痂皮または水疱を伴う表在性の皮膚感染症である。膿瘡は潰瘍の形態をとる膿痂疹である。診断は臨床的に行う。治療は抗菌薬の外用のほか,ときに内服による。 ( 皮膚細菌感染症の概要も参照のこと。) 膿痂疹を来しやすい先行病変は大半の患者で見当たらないが,膿痂疹はあらゆる種類の皮膚の破綻に続発する可能性がある。湿度の高い環境,不良な衛生状態,およびブドウ球菌またはレンサ球菌の... さらに読む ,非定型 抗酸菌感染症 非結核性抗酸菌感染症 ときに結核菌以外の抗酸菌がヒトに感染することがある。それらの菌(非結核性抗酸菌と呼ばれる)は一般的に土壌中や水中に存在し,ヒトにおいては結核菌(Mycobacterium tuberculosis)よりもはるかに病原性が低い。これらの菌による感染症は,非定型環境性非結核性抗酸菌感染症と呼ばれてきた。 これらの菌に曝露して感染しても疾患の発症につがなることはほとんどなく,疾患の発生には通常局所または全身性の宿主防御機構の障害... さらに読む )
寄生虫感染症(例, 疥癬 疥癬 疥癬は,ダニの一種である疥癬虫(ヒゼンダニ[Sarcoptes scabiei])による皮膚感染症である。疥癬では,激しいそう痒を伴う病変が生じ,指趾間,手関節,腰部,および性器部に紅色丘疹と疥癬トンネルが形成される。診断は診察と皮膚擦過物の検査に基づく。治療は抗疥癬薬の外用によるが,ときにイベルメクチンの経口剤も使用される。 疥癬は,ダニの一種である疥癬虫(ヒゼンダニ[Sarcoptes... さらに読む , 皮膚幼虫移行症 皮膚幼虫移行症 皮膚幼虫移行症は,鉤虫の寄生により生じる皮膚の病態である。 皮膚幼虫移行症は鉤虫(Ancylostoma)属の蠕虫によって引き起こされ,最も頻度が高いのはイヌまたはネコを宿主とするブラジル鉤虫(Ancylostoma braziliense)である。イヌまたはネコの糞便中に排出された鉤虫卵は,温かく湿った土または砂の中で感染性をもつ幼虫に成長する;ヒトへの感染は,皮膚が汚染された土壌や砂に直接接触し,幼虫が無... さらに読む )
剥脱性角質融解症(lamellar dyshidrosis)
手足症候群
剥脱性角質融解症(lamellar dyshidrosisまたはdyshidrosis lamellosa siccaとしても知られる)は,皮膚炎ではなく,むしろ皮膚疾患である。手足を侵し,手足の手掌面および足底面に生じる環状の紅斑と空気で満たされた水疱を特徴とし,続いて表皮剥離を起こす場合もある。小さな環状,襟飾り状の白色の鱗屑が手掌に生じることがあるが(足底ではより頻度が低い),手背および足背には生じない。液体で満たされた水疱はみられない。剥脱性角質融解症は,暖かい気候,多汗症,摩擦,および水との接触により悪化することがある。
手足症候群は様々な用語で知られており,具体的には肢端紅斑,手掌・足底発赤知覚不全症[palmar-plantar erythrodysesthesia],toxic erythema of the palms and soles,Burgdorf reaction,化学療法の中毒性紅斑[toxic erythema of chemotherapy]などがある。これは,特定の全身化学療法(例,カペシタビン,シタラビン,フルオロウラシル,イダルビシン,ドキソルビシン,タキサン系,メトトレキサート,シスプラチン,テガフール)によって引き起こされる皮膚毒性の一病型である。症状は手掌および/または足底のピリピリ感から始まり,続いて浮腫および圧痛を伴う対称性の紅斑が,特に末節骨の脂肪組織上にみられる。手掌および足底に疼痛,しびれ,落屑,水疱形成が生じることがある。
治療
可能であれば原因の治療
支持療法
外用薬および光線療法
重症例には,ときにコルチコステロイドまたは免疫抑制薬の全身投与
可能な場合は原因に対する治療を行うべきである。
患者は 接触アレルゲン アレルギー性接触皮膚炎(ACD) 接触皮膚炎は,刺激物(刺激性接触皮膚炎)またはアレルゲン(アレルギー性接触皮膚炎)との直接接触によって皮膚の炎症が生じる疾患である。症状としては,そう痒のほか,ときに灼熱痛などがみられる。皮膚の変化としては,紅斑,鱗屑,皮膚の腫脹のほか,ときに水疱形成や潰瘍形成などがみられる。局在は接触部位に依存する。診断には曝露歴と診察所見のほか,ときにパッチテストの結果も用いられる。治療法としては,コルチコステロイドの外用,止痒薬,刺激物およびアレ... さらに読む と 皮膚刺激物 刺激性接触皮膚炎(ICD) 接触皮膚炎は,刺激物(刺激性接触皮膚炎)またはアレルゲン(アレルギー性接触皮膚炎)との直接接触によって皮膚の炎症が生じる疾患である。症状としては,そう痒のほか,ときに灼熱痛などがみられる。皮膚の変化としては,紅斑,鱗屑,皮膚の腫脹のほか,ときに水疱形成や潰瘍形成などがみられる。局在は接触部位に依存する。診断には曝露歴と診察所見のほか,ときにパッチテストの結果も用いられる。治療法としては,コルチコステロイドの外用,止痒薬,刺激物およびアレ... さらに読む を回避すべきであり,特に水や洗剤と頻繁にまたは長時間接触することは避けるべきである。
皮膚炎の重症度に基づく力価で外用コルチコステロイドを用いることができる。抗ヒスタミン薬がそう痒のコントロールに役立つことがある。
ナローバンドUVBまたはsoak PUVA(手足をソラレン溶液に浸してからUVAに曝露する)による光線療法が役立つ可能性がある。
重複感染は抗菌薬の外用または全身投与により治療する。重症例に対しては,コルチコステロイドの全身投与を用いることができるが,短期間のみとするのが望ましい。ときに,長期の全身投与による免疫抑制療法が必要な場合,シクロスポリン,ミコフェノール酸,またはメトトレキサートを投与することができる。