クリンダマイシンは,主に静菌的に作用する リンコサミド系抗菌薬 リンコサミド系,オキサゾリジノン系,およびストレプトグラミン系 リンコサミド系( クリンダマイシン),オキサゾリジノン系( リネゾリド,テジゾリド),およびストレプトグラミン系( ダルホプリスチン[ストレプトグラミンA]およびキヌプリスチン[ストレプトグラミンB])薬剤は,構造的には異なるものの,抗菌作用の機序および抗菌スペクトルが類似していることから,1つのグループに分類される。同様の理由から, マクロライド系薬剤および クロラムフェニコールをこのグループに含めることもある。いずれもリボソームの5... さらに読む である。リボソームの50Sサブユニットに結合することによって,細菌のタンパク質合成を阻害する。
薬物動態
クリンダマイシンは経口投与でよく吸収されるほか,注射剤での投与も可能である。クリンダマイシンは髄液を除く体液中によく拡散し,食細胞中で高濃度となる。大半が代謝され,代謝物は胆汁中および尿中に排泄される。
クリンダマイシンの適応
クリンダマイシンの抗菌スペクトルは,マクロライド系薬剤であるエリスロマイシンのそれと類似しているが(マクロライド系薬剤の臨床用途の例 マクロライド系薬剤の臨床用途の例 の表を参照),以下の点は例外である:
嫌気性菌 嫌気性細菌の概要 細菌は酸素に対する要求性と耐性によって以下のように分類することができる: 通性嫌気性:酸素の存在下と非存在下のどちらでも増殖する 微好気性:低濃度(典型的には2~10%)の酸素を必要とし,多くは高濃度(例,10%)の二酸化炭素を必要とするもので,嫌気的条件下での増殖は極めて不良... さらに読む (特にBacteroides fragilisを含む Bacteroides 嫌気性菌混合感染症 嫌気性菌は,宿主の免疫が正常か低下しているかを問わず,損傷組織に感染することができる。嫌気性菌混合感染症では,1種または複数種の嫌気性菌に加えて非嫌気性菌(数は問わない)が同時感染する。症状は感染部位に依存する。診断は臨床所見とグラム染色および嫌気培養を組み合わせて行う。治療は抗菌薬ならびに外科的排膿およびデブリドマンによる。 ( 嫌気性細菌の概要も参照のこと。) 皮膚,口腔,消化管,腟などの常在菌叢には,数百種もの嫌気性無芽胞菌が含ま... さらに読む 属),市中感染型メチシリン耐性 黄色ブドウ球菌 ブドウ球菌感染症 ブドウ球菌はグラム陽性好気性細菌である。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は最も病原性が強く,典型的には皮膚感染症を引き起こすほか,ときに肺炎,心内膜炎,骨髄炎を引き起こすこともある。一般的には膿瘍形成につながる。一部の菌株は,胃腸炎,熱傷様皮膚症候群,および毒素性ショック症候群を引き起こす毒素を産生する。診断はグラム染色と培養による。治療には通常,ペニシリナーゼ抵抗性β-ラクタム系薬剤を使用する... さらに読む (Staphylococcus aureus),およびマクロライド耐性クリンダマイシン感性 肺炎球菌 レンサ球菌感染症 レンサ球菌(streptococcus)は,咽頭炎,肺炎,創傷および皮膚感染症,敗血症,心内膜炎など,多くの疾患を引き起こすグラム陽性好気性細菌である。症状は感染臓器により異なる。A群β溶血性レンサ球菌による感染症の続発症としてリウマチ熱と糸球体腎炎がある。ほとんどの菌株はペニシリンに感受性を示すが,最近になってマクロライド耐性株が出現している。 ( 肺炎球菌感染症, リウマチ熱,および... さらに読む (Streptococcus pneumoniae)による感染症に効果的である
マイコプラズマ マイコプラズマ マイコプラズマは遍在性の細菌で,細胞壁を欠いているという点で他の原核生物と異なっている。 肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は肺炎,特に 市中肺炎の一般的な原因菌である。 非淋菌性尿道炎症例の一部は性器マイコプラズマ(Mycoplasma genitalium)またはUreaplasma urealyticumが原因菌であることを示唆したエビデンスが蓄積されている。... さらに読む , クラミジア クラミジア Chlamydia属細菌のうち3つの菌種が,ヒトにおいて性感染症や呼吸器感染症などの疾患を引き起こす。いずれもマクロライド系(例,アジスロマイシン),テトラサイクリン系(例,ドキシサイクリン),およびフルオロキノロン系薬剤に感受性を示す。 クラミジアは非運動性の偏性細胞内寄生細菌である。DNA,RNA,およびリボソームをもち... さらに読む ,Chlamydophila属細菌,および レジオネラ レジオネラ(Legionella)感染症 Legionella pneumophilaは,しばしば肺以外の症候を伴う肺炎を引き起こすグラム陰性桿菌である。診断には特別な培地による培養,血清学的検査もしくは尿中抗原検査,またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析が必要である。治療はマクロライド系薬剤,フルオロキノロン系薬剤,またはドキシサイクリンによる。 Legionella pneumophilaが最初に認識されたのは,1976年にフィラデルフィア(ペ... さらに読む に対する有効性が確実ではない
好気性グラム陰性桿菌および腸球菌は耐性である。
クリンダマイシンは通常,嫌気性菌感染症に使用されるが,一部の地域ではこの種の菌に耐性が出現している。これらの感染症では,しばしば好気性グラム陰性桿菌も関与するため,他の抗菌薬も追加して使用する。クリンダマイシンは以下の感染症では多剤併用療法に使用される:
毒素を産生するレンサ球菌による感染症に対して,ペニシリンと併用(クリンダマイシンが細菌の毒素産生を減少させるため)
バベシア症 バベシア症 バベシア症は,バベシア(Babesia属の原虫)による感染症である。バベシア症は無症状の場合もあれば,発熱および溶血性貧血を伴うマラリア様症状を引き起こす場合もある。無脾患者,高齢患者,およびAIDS患者において最も重症化する。診断は血液塗抹検査,血清学的検査,またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査でのバベシア(Babesia)の同定による。治療(必要な場合)は,アジスロマイシンとアトバコンの併用,またはキ... さらに読む または 熱帯熱マラリア 熱帯熱マラリア マラリアはマラリア原虫(Plasmodium属原虫)による感染症である。症状および徴候としては,発熱(周期熱のことがある),悪寒,振戦,発汗,下痢,腹痛,呼吸窮迫,錯乱,痙攣発作,溶血性貧血,脾腫,腎臓の異常などがある。診断は血液塗抹標本におけるマラリア原虫(Plasmodium属)の観察と迅速診断検査による。治療および予防法は,マラリア原虫(Plasmodium属)の種,薬剤感受性,および患者... さらに読む に対して,キニーネと併用
市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(CA-MRSA)がよくみられる地域では,市中感染症(例,皮膚・軟部組織感染症)にクリンダマイシンを使用することができるが,クリンダマイシンが有用となるか否かは,地域の耐性パターンに依存する。
クリンダマイシンは,クリンダマイシンおよびエリスロマイシン感性株による感染症に使用できる。ただし,クリンダマイシン感性かつエリスロマイシン耐性の市中感染型MRSA株も存在し,それらの菌株のエリスロマイシン耐性は,能動排出機構による場合と,リボソーム標的部位の修飾による場合がある。クリンダマイシン感性の市中感染型MRSA株がもつエリスロマイシン耐性が排出機構によるものであれば,クリンダマイシンによる効果が期待できる。一方,感染株のエリスロマイシン耐性がリボソーム標的部位の修飾による場合には,クリンダマイシンによる治療中に特定の突然変異株(リボソーム標的部位の構成的な修飾によるクリンダマイシンおよびエリスロマイシン耐性を獲得した菌株)が出現する可能性があるため,臨床的にクリンダマイシンによる反応が得られない可能性がある。(ここで構成的とは,エリスロマイシンのような誘導物質の有無にかかわらず,常に耐性が発現していることを意味する。)
エリスロマイシン耐性が排出機構による排出型とリボソーム標的部位の修飾による誘導型のどちらであるかについては,一般的に用いられるダブルディスク法(Dゾーンテスト)によって鑑別することができる。問題のCA-MRSA株の標準接種液を塗布した寒天平板上に,それぞれクリンダマイシンとエリスロマイシンを含ませたディスクを所定の間隔を空けて配置する。クリンダマイシンのディスク周囲にできる発育阻止帯のうちエリスロマイシンのディスクに近い部分が平らになっている(「D」字状になる)場合は,リボソームの修飾による誘導型耐性であることを示す。リボソームの修飾による誘導型耐性CA-MRSA株による中等度から重度の感染症でDゾーンテスト陽性と判定された患者には,クリンダマイシンによる治療を行ってはならない。
クリンダマイシンは,脳および髄液への移行が不良であるため,中枢神経系感染症(脳トキソプラズマ症を除く)には使用できない。
クリンダマイシンの禁忌
クリンダマイシンは,同薬剤に対するアレルギー反応の既往がある患者では禁忌であり,限局性腸炎,潰瘍性大腸炎,または抗菌薬関連大腸炎の既往がある患者には注意して使用すべきである。
妊娠中および授乳中の使用
クリンダマイシンの動物生殖試験では,胎児に対するリスクは示されていない。妊娠中の女性を対象とした臨床試験では,第2および第3トリメスターにクリンダマイシンを投与しても,先天異常の頻度は上昇しなかった。医学的に適応があれば,クリンダマイシンは妊娠中も使用できる。
クリンダマイシンは母乳中に移行する。授乳期間中の使用は推奨されない。
クリンダマイシンの有害作用
クリンダマイシンの主な有害作用は以下のものである:
クリンダマイシンのほか, ペニシリン系 ペニシリン系 ペニシリン系薬剤( ペニシリン系薬剤の表を参照)は,殺菌的に作用する β-ラクタム系 抗菌薬であり,その殺菌作用の機序は不明であるが,おそらくは細胞壁を破壊する一部の細菌がもつ自己溶解酵素を活性化することによるものと考えられる。 一部の細菌が産生するβ-ラクタマーゼはβ-ラクタム系抗菌薬を不活化するが,この作用はβ-ラクタマーゼ阻害薬を追加することで回避できる。 ただし,従来のβ-ラクタマーゼ阻害薬(例,クラブラン酸,スルバクタム,タゾ... さらに読む , セファロスポリン系 セファロスポリン系 セファロスポリン系薬剤は,殺菌的に作用する β-ラクタム系 抗菌薬である。感受性細菌の細胞壁合成酵素を阻害して,細胞の合成を妨害する。セファロスポリン系薬剤は5つの世代に分けられる( セファロスポリン系薬剤の表を参照)。 セファロスポリン系薬剤は,ほとんどの体液とほとんどの組織の細胞外液へ良好に移行し,炎症(拡散を促進する)があると特に移行性が高くなる。しかしながら,髄膜炎の治療に十分な髄液中濃度が得られるセファロスポリン系薬剤は以下の... さらに読む ,および(最も最近のものでは) フルオロキノロン系 フルオロキノロン系 フルオロキノロン系薬剤( フルオロキノロン系薬剤の表を参照)は,細菌のDNA複製に不可欠な酵素であるDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼの活性を阻害することにより, 濃度依存的な殺菌作用を示す。 フルオロキノロン系薬剤は抗菌スペクトルと薬理学的性質に基づき2つのグループに分けられる: 旧世代:シプロフロキサシン,ノルフロキサシン,およびオフロキサシン 新世代:デラフロキサシン(delafloxacin),ゲミフロキサシン(gemif... さらに読む 薬剤について,C. difficile関連下痢症との関連が報告されている。クリンダマイシンでは,外用も含めた投与経路にかかわらず,最大10%の患者でC. difficile関連下痢症との関連が報告されている。
過敏反応が発生することがある。水とともに服用しないと,クリンダマイシンは食道炎を引き起こすことがある。
クリンダマイシンの投与に関する留意事項
腎不全に対する用量調節は不要である。クリンダマイシンは6~8時間毎に投与する。