感染に対する宿主の防御機構としては以下のものがある:
バリア機構(例,皮膚,粘膜)
非特異的な免疫応答(例,食細胞[好中球,マクロファージ]とその産生物)
特異的な免疫応答(例,抗体,リンパ球)
(免疫系の概要 免疫系の概要 免疫系は,自己と非自己を見分けて,有害な可能性がある非自己の分子や細胞を身体から排除する。免疫系には,宿主の組織に由来する異常な細胞を認識して破壊する能力もある。免疫系によって認識される可能性がある全ての分子が抗原とみなされる。 皮膚,角膜,ならびに呼吸器,消化管,および泌尿生殖器の粘膜は,生体防御の最前線である物理的バリアを形成する。こ... さらに読む も参照のこと。)
バリア機構
皮膚
皮膚は通常,物理的な破綻(例,媒介節足動物,損傷,静脈カテーテル,外科的切開による)が生じない限り微生物の侵入を阻止する。例外として以下のものがある:
一部の寄生虫(例, マンソン住血吸虫 住血吸虫症 住血吸虫症は,血管寄生吸虫である住血吸虫属(Schistosoma属)による感染症であり,汚染された淡水中での遊泳または歩行により経皮的に感染する。住血吸虫は消化管または泌尿生殖器系の脈管に寄生する。急性症状は皮膚炎で,その数週間後に発熱,悪寒,悪心,腹痛,下痢,倦怠感,および筋肉痛が起こる。慢性症状は種により異なるが,血性下痢(例,マンソン住血吸虫[S.... さらに読む [Schistosoma mansoni], 糞線虫 糞線虫症 糞線虫症は,糞線虫(Strongyloides stercoralis)による感染症である。所見としては,腹痛および下痢,発疹,肺症状(咳嗽や喘鳴など),好酸球増多などがある。診断は,便もしくは小腸内容物中またはときに喀痰中の幼虫の発見,あるいは血中抗体の検出による。治療はイベルメクチンまたはアルベンダゾールによる。 ( 寄生虫感染症へのアプローチも参照のこと。)... さらに読む [Strongyloides stercoralis], 鉤虫感染症 鉤虫感染症 鉤虫症は,ズビニ鉤虫(Ancylostoma duodenale)またはアメリカ鉤虫(Necator americanus)による感染症である。感染初期の症状としては,幼虫侵入部位の発疹のほか,ときに腹痛やその他の消化管症状などがある。その後,慢性失血により鉄欠乏症が発生することがある。鉤虫は流行地域における鉄欠乏性貧血の主要原因である。診断は便中の虫卵を検出することによる。治療はアルベンダゾールまたはメベン... さらに読む を引き起こす寄生虫)
粘膜
多くの粘膜は抗菌性を有する分泌物で覆われている(例,頸管粘液,前立腺液,涙液などは細菌[特にグラム陽性菌]細胞壁中のムラミン酸の結合を切断するリゾチームを含む)。
局所の分泌物には免疫グロブリン(主としてIgGおよび分泌型IgA,微生物の宿主細胞への付着を阻止する)および鉄と結合するタンパク質(多くの微生物にとって不可欠)も含まれている。
気道
気道では上気道がフィルター機能を果たしている。侵入微生物が気管気管支まで侵入すると,粘膜線毛上皮が微生物を肺から排除しようとする。咳嗽も微生物の除去を補助する。微生物が肺胞まで侵入した際には,肺胞マクロファージと組織球が微生物を貪食する。しかしながら,侵入する微生物の数が多かったり,空気汚染物質(例,タバコ煙)によって有効性が低下したり,防御機構への妨害(例,気管挿管,気管切開)があったり,先天異常(例, 嚢胞性線維症 嚢胞性線維症 嚢胞性線維症は,主に消化器系と呼吸器系を侵す外分泌腺の遺伝性疾患である。慢性肺疾患,膵外分泌機能不全,肝胆道疾患,および汗の電解質濃度の異常高値を引き起こす。診断は,新生児スクリーニング検査で陽性と判定された患者または特徴的な臨床的特徴を認める患者において,汗試験を行うか,嚢胞性線維症の原因遺伝子変異を2つ同定することによる。治療は,積極... さらに読む )があったりすると,これらの防御機構は破られることがある。
消化管
消化管のバリア機構としては,胃の酸性pHと膵酵素,胆汁,および腸管分泌物の抗菌作用などがある。
蠕動運動と腸上皮細胞の生理的脱落は微生物の除去に働く。蠕動が緩慢になると(例,ベラドンナやアヘンアルカロイドなどの薬物による),この除去作用が遅れ,症候性 細菌性赤痢 細菌性赤痢 細菌性赤痢は,グラム陰性菌である赤痢菌(Shigella)属細菌による腸管の急性感染症である。症状は発熱,悪心,嘔吐,しぶり腹,下痢などであり,下痢は通常血性である。診断は臨床的に行い,便培養で確定する。軽症例の治療は支持療法(主に水分補給)による;中等症から重症の患者と血性下痢または易感染状態がみられる高リスク患者には抗菌薬(例,シプロフロキサシン,アジスロマイシン,セフトリアキソン)を投与するが,これにより罹病期間が短... さらに読む および Clostridioides difficile関連下痢症 クロストリディオイデス(かつてのクロストリジウム)ディフィシレ関連下痢症 消化管内のClostridioides difficileが産生する毒素により,偽膜性大腸炎が引き起こされるが,典型的には抗菌薬の使用後に発生する。症状は下痢(ときに血性)であり,まれに進行して敗血症および急性腹症を来す。診断は便中のC. difficile毒素の同定による。第1選択の治療は,バンコマイシンまたはフィダキソマイシンの経口投与である。... さらに読む などの一部の感染症が遷延する。
消化管の防御機構が損なわれた患者は,特定の感染症にかかりやすくなる(例,無酸症は Salmonella サルモネラ( Salmonella)感染症の概要 Salmonella属はS. entericaとS. bongoriの2菌種に分類され,2400を超える血清型が知られている。これらの血清型の一部には名前が付けられている。そのような場合によく用いられる慣用法は,属名と血清型だけが含まれるように学名を短縮するというもので,例えばS. enterica,亜種enterica,血清型Typhiは,Salmonella... さらに読む , Campylobacter カンピロバクター(Campylobacter)および関連感染症 カンピロバクター(Campylobacter)感染症は,典型的には自然に治癒する下痢を引き起こすが,ときに菌血症を引き起こし,結果として心内膜炎,骨髄炎,または化膿性関節炎を呈することもある。診断は培養(通常は便培養)による。必要な場合の治療にはアジスロマイシンなどがある。 Campylobacter属細菌は,弯曲した運動性の微好気性グラム陰性桿菌で,正常では多くの家畜や家禽の消化管に生息する。... さらに読む , C. difficile クロストリディオイデス(かつてのクロストリジウム)ディフィシレ関連下痢症 消化管内のClostridioides difficileが産生する毒素により,偽膜性大腸炎が引き起こされるが,典型的には抗菌薬の使用後に発生する。症状は下痢(ときに血性)であり,まれに進行して敗血症および急性腹症を来す。診断は便中のC. difficile毒素の同定による。第1選択の治療は,バンコマイシンまたはフィダキソマイシンの経口投与である。... さらに読む 感染症の素因となる)。
腸内常在菌叢には病原体を阻害する働きがあり,抗菌薬によって腸内常在菌叢に変化が生じると,元来病原性を有する微生物(例, Salmonella Typhimurium)の異常増殖,C. difficileの異常増殖および毒素産生,または通常は共生関係にある微生物(例,Candida albicans)との重複感染が起きることがある。
泌尿生殖器
泌尿生殖器のバリア機構としては,男性の尿道の長さ(20cm),女性の腟の酸性pH,腎髄質の高浸透圧状態,尿中尿素濃度などがある。
また腎臓では,Tamm-Horsfallムコタンパク質が大量に産生および分泌されており,このタンパク質が特定の細菌に結合することにより,無害な除去が促進される。
非特異的免疫応答(自然免疫応答)
サイトカイン サイトカイン 免疫系は,共同で抗原を破壊する 細胞成分および分子成分から成る。( 免疫系の概要も参照のこと。) 急性期反応物質は血漿タンパク質で,感染または組織損傷の発生時に生じるインターロイキン1(IL-1)およびIL-6の血中濃度上昇に呼応して,濃度が劇的に増加したり(正の急性期反応物質と呼ばれる),一部の例では,減少したりする(負の急性期反応物質と呼ばれる)。最も劇的に増加するのは以下のものである:... さらに読む (インターロイキン1および6,腫瘍壊死因子α,インターフェロンγなど)は主としてマクロファージと活性化リンパ球によって産生され,原因微生物にかかわらず発現する急性期反応を媒介する。この反応には発熱と骨髄による好中球産生の増大が伴う。内皮細胞も大量のインターロイキン8を産生して好中球を引き寄せる。
この炎症反応は免疫系の構成要素を損傷または感染部位に動員し,血液供給の増加と血管透過性の亢進をもたらすことにより,走化性ペプチド,好中球,および単核球が血管内から漏出できるようにする。
微生物の拡大は食細胞(例, 好中球 多形核白血球 免疫系は,共同で抗原を破壊する細胞成分および 分子成分から成る。( 免疫系の概要も参照のこと。) 一部の抗原(Ag)は免疫応答を直接活性化することがあるが,T細胞依存性の獲得免疫応答では,典型的には主要組織適合抗原複合体(MHC)分子内で抗原由来ペプチドを提示する抗原提示細胞(APC)を必要とする。 あらゆる有核細胞はMHCクラスI分子を発現するため,細胞内抗原(例,ウイルス)は有核細胞によって処理されてCD8陽性の細胞傷害性T細胞に提... さらに読む およびマクロファージ)による取り込みによって制限される。食細胞は走化性により微生物に引き寄せられ,それらを取り込むと,その内部で微生物の分解を補助するライソゾーム酵素が放出される。過酸化水素などの酸化物が食細胞によって産生され,それにより貪食された微生物は死滅する。好中球の量的欠乏や質的欠陥により感染が生じた場合(例, 慢性肉芽腫症 慢性肉芽腫症(CGD) 慢性肉芽腫症は,活性酸素を産生できない白血球および食細胞の殺菌機能障害を特徴とする。症状としては,繰り返す感染症;肺,肝臓,リンパ節,消化管,および泌尿生殖器の複数の肉芽腫性病変;膿瘍;リンパ節炎;高ガンマグロブリン血症;赤血球沈降速度亢進;貧血などがある。診断は,フローサイトメトリーによる活性酸素産生能測定での白血球の酸素ラジカル産生の評価による。治療は,抗菌薬,抗真菌薬,およびインターフェロンγによる;顆粒球輸血が必要になることがあ... さらに読む ),その感染は通常遷延性かつ反復性となり,抗菌薬に対する反応は遅延する。原因となる病原体は通常,ブドウ球菌,グラム陰性菌,および真菌である。
特異的免疫応答(適応免疫応答)
感染が起きると,宿主の体内では感染微生物の特異的な標的抗原と結合する様々な 抗体 抗体 免疫系は,共同で抗原を破壊する 細胞成分および分子成分から成る。( 免疫系の概要も参照のこと。) 急性期反応物質は血漿タンパク質で,感染または組織損傷の発生時に生じるインターロイキン1(IL-1)およびIL-6の血中濃度上昇に呼応して,濃度が劇的に増加したり(正の急性期反応物質と呼ばれる),一部の例では,減少したりする(負の急性期反応物質と呼ばれる)。最も劇的に増加するのは以下のものである:... さらに読む (免疫グロブリンとして知られる複合糖タンパク質)が産生される。抗体は宿主の白血球を引き寄せたり補体系を活性化したりすることにより,感染微生物の根絶を補助する。
補体系 補体系 補体系は,感染に対する防御に役立つ酵素カスケードである。多くの補体タンパク質が不活性の酵素前駆体(酵素原)として血清中に存在する;細胞表面に存在する補体タンパク質もある。( 免疫系の概要も参照のこと。) 補体系は以下によって 自然免疫と獲得免疫の橋渡しをする: 抗体応答および免疫記憶の増強 異種細胞の溶解 免疫複合体およびアポトーシス細胞の除去 さらに読む は(通常は古典経路を介して)感染微生物の細胞壁を破壊する。補体は一部の微生物の表面上で副経路を介しても活性化されることがある。
抗体はオプソニンとして知られる物質(例,補体タンパク質C3b)の微生物表面への付着を促進することにより,食作用の促進にも働く。オプソニン化は肺炎球菌や髄膜炎菌など莢膜を有する微生物の根絶に重要である。
宿主の遺伝因子
多くの病原体にとって,宿主の遺伝子構成は宿主の易感染性や,その結果としての発症や死亡の頻度に影響を及ぼす因子となる。例えば,終末補体(C5~C8,おそらくC9)の欠損がある患者では,ナイセリア属細菌に対する易感染性が高くなる。