吸虫は種によって様々な部位(例,血管,消化管,肺,肝臓)に寄生する扁形動物である。
肝蛭(F. hepatica)はヒツジおよびウシの肝臓に寄生する吸虫である。ヒツジまたはウシの糞で汚染されたクレソンの摂食による偶発的なヒト肝蛭症は,欧州,アフリカ,中国,および南米で発生するが,米国ではまれである。
急性感染症では,未成熟な吸虫が腸壁,腹腔,肝被膜,および肝臓の実質組織を移行し,やがて胆管に侵襲し,そこで成熟して約3~4カ月で成虫となる。
肝蛭症の症状と徴候
急性感染症は,肝傷害に起因する腹痛,肝腫大,悪心,嘔吐,間欠熱,蕁麻疹,好酸球増多,倦怠感および体重減少を引き起こすことがある。
慢性感染症は無症状のこともあれば,間欠性の腹痛, 胆石症 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む ,胆管炎,閉塞性 黄疸 黄疸 黄疸とは,高ビリルビン血症によって皮膚および粘膜が黄色化した状態である。ビリルビン値が約2~3mg/dL(34~51μmol/L)になると,肉眼的に黄疸が明らかとなる。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) ビリルビンの大半は,ヘモグロビンが非抱合型ビリルビン(と他の物質)に分解される際に生成される。非抱合型ビリルビンは,血中でアルブミンと結合して肝臓に輸送され,肝細胞に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受け... さらに読む ,または 膵炎 膵炎の概要 膵炎は急性または慢性のいずれかに分類される。 急性膵炎では,炎症が臨床的および組織学的のいずれにおいても消失する。 慢性膵炎は,不可逆的かつ進行性の組織学的変化を特徴とし,膵内外分泌機能に大幅な低下を来す。慢性膵炎患者は,急性疾患の急性増悪(flare-up)を起こすことがある。... さらに読む に発展することもある。
多数寄生では, 硬化性胆管炎 原発性硬化性胆管炎(PSC) 原発性硬化性胆管炎(PSC)は,胆管に生じる斑状の炎症,線維化,および狭窄を特徴とする原因不明の疾患である。80%の患者には炎症性腸疾患もみられ,最も多いのは潰瘍性大腸炎である。その他の併存疾患として,結合組織疾患,自己免疫疾患,免疫不全症候群などがあり,ときに日和見感染症を合併することもある。疲労とそう痒が潜行性かつ進行性に発生する。診断は胆道造影(磁気共鳴胆道膵管造影[MRCP]または内視鏡的逆行性胆道膵管造影[ERCP])による。... さらに読む および胆汁性肝硬変が生じることがある。腸壁,肺,またはその他の臓器に異所性病変が生じることもある。
中東では,感染した生の肝臓を摂食した後に発生した,嚥下困難をもたらす咽頭の肝蛭症が報告されている;この感染症は咽頭吸虫症(halzoun)と呼ばれている。
肝蛭症の診断
抗体分析
便検体または十二指腸もしくは胆道内容の鏡検による虫卵の検出
肝蛭症の急性期には,CTで肝臓に低吸収病変をしばしば認める。慢性例では,超音波検査,CT,MRI,内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP),または胆道造影で胆道の異常を検出できる。
以下の状況では抗体検出法が有用である:
産卵前の感染早期
産卵が散発的ないし少量しかみられない慢性感染例
治癒の6~12カ月後には抗体が検出できなくなる。
慢性感染症では,便または十二指腸もしくは胆道検体から虫卵が回収されることがある。虫卵は肥大吸虫(Fasciolopsis buski)のものと鑑別できない。
流行地域では,感染動物の肝臓を摂取した後の便中でも虫卵が検出され,肝蛭症の誤診につながる。そのため,便検査を行う前の数日間はレバーを含まない食事を遵守するよう患者に指示すべきである。
肝蛭症の治療
トリクラベンダゾールまたは,ときにニタゾキサニド
6歳以上の患者に対する肝蛭症の治療は,トリクラベンダゾール10mg/kg,経口,食事とともに1回である。ニタゾキサニド500mg,1日2回,経口,7日間による治療が効果的な場合があるが,データは限られている。
プラジカンテルによる治療は失敗例が多く,推奨されない。
一部の患者では,ERCPによる胆道からの成虫の抽出が有用となりうる。
予防のためには,肝蛭(F. hepatica)の流行地域ではクレソンなどの淡水植物を食べないようにする。