ジフテリアトキソイド,破傷風トキソイド,および無細胞百日咳を含むワクチンは, ジフテリア ジフテリア ジフテリアは,主にグラム陽性桿菌であるジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の毒素産生株,まれに比較的頻度の低い他のCorynebacterium属細菌によって引き起こされる,咽頭または皮膚の急性感染症である。症状は非特異的な皮膚感染症または偽膜性咽頭炎で始まり,それに続いて外毒素による心筋および神経組織の障害がみられる。無症候性保菌者も存在する。診断は臨床的に行い,培養により... さらに読む , 破傷風 破傷風 破傷風は,破傷風菌(Clostridium tetani)が産生する神経毒による急性中毒である。症状は間欠性に生じる随意筋の強直性痙攣である。Lockjawという別名は咬筋の攣縮に由来する。診断は臨床的に行う。治療はヒト破傷風免疫グロブリンと集中的な支持療法による。 ( 嫌気性細菌の概要および クロストリジウム感染症の概要も参照のこと。) 破傷風菌は耐久性の高い芽胞を形成するが,それらは土壌や動物の糞中に存在し,何年にもわ... さらに読む ,および 百日咳 百日咳 百日咳は,グラム陰性細菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)を原因菌として主に小児および青年に発生する,感染性の強い疾患である。 まず非特異的な上気道感染症状が出現した後,通常は長い吸気性笛声(whoop)で終わる発作性ないし痙攣性の咳嗽(痙咳)がみられるようになる。診断は上咽頭培養,ポリメラーゼ連鎖反応検査,および血清学的検査による。治療はマクロライド系抗菌薬による。... さらに読む の予防に役立つが,全ての症例を予防できるわけではない。
詳細については,DTaP/Tdap/Td Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine RecommendationsおよびCenters for Disease Control and Prevention (CDC): Diphtheria, Tetanus, and Pertussis Vaccinationを参照のこと。2022年版の成人向け予防接種スケジュールに加えられた変更の要約が,ここから入手可能である。
(予防接種の概要 予防接種の概要 免疫は以下の形で付与することができる: 抗原を用いる能動免疫(例,ワクチン,トキソイド) 抗体を用いる受動免疫(例,免疫グロブリン,抗毒素) トキソイドは,無害でありながらも抗体産生を刺激できるように修飾が加えられた細菌毒素である。 ワクチンは,病原性を示さないように作製された完全な細菌またはウイルス(生または不活化ワクチン)あるいは細菌... さらに読む も参照のこと。)
製剤
ジフテリア(D)ワクチンは,ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)から調製されたトキソイドを含有する。破傷風(T)ワクチンは,破傷風菌(Clostridium tetani)から調製されたトキソイドを含有する。無細胞(a)百日咳(P)ワクチンは,百日咳菌(Bordetella pertussis)の半精製または精製成分を含有する。全菌体百日咳ワクチンは,有害作用に関する懸念のために米国ではもはや入手できなくなっているが,世界の他の地域ではまだ入手可能である。無細胞ワクチンには次の2種類の製剤がある:
ジフテリア・破傷風・無細胞百日咳(DTaP),7歳未満の小児用
破傷風・ジフテリア・百日咳(Tdap),青年および成人用
Tdapでは,ジフテリアおよび百日咳成分の含量が低減されている(このことを小文字のdとpで示している)。
適応
DTaPは,ルーチンの小児予防接種の1つである( Professional.see table 0~6歳を対象とする推奨予防接種スケジュール 0~6歳を対象とする推奨予防接種スケジュール )。
Tdapは,ルーチンで生涯に1回,11歳または12歳の小児に接種するほか,13歳以上でTdapが未接種(最後に受けた 破傷風・ジフテリア[Td]ワクチン 破傷風・ジフテリア混合ワクチン 破傷風ワクチンは単独でも使用できるが,通常は 破傷風ワクチンとジフテリアおよび/または 百日咳ワクチンとの混合で使用される。 ジフテリアワクチンは,他のワクチンとの混合でのみ使用可能である。 詳細については,DTaP/Tdap/Td Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine RecommendationsおよびCenters... さらに読む 接種からの経過期間は問わない)またはワクチン接種歴が不明の個人に接種する。この後,10年毎に Tdの追加接種 破傷風・ジフテリア混合ワクチン 破傷風ワクチンは単独でも使用できるが,通常は 破傷風ワクチンとジフテリアおよび/または 百日咳ワクチンとの混合で使用される。 ジフテリアワクチンは,他のワクチンとの混合でのみ使用可能である。 詳細については,DTaP/Tdap/Td Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine RecommendationsおよびCenters... さらに読む を行う。
以下に該当する場合は,さらにTdapの追加接種も推奨される:
妊婦:毎回の妊娠中(妊娠27~36週が望ましい),過去のTdap接種からの経過期間は問わない
過去にTdapの接種を受けていない分娩後の女性
創傷管理の一環として破傷風トキソイドを含有するワクチンの接種を必要とし,かつ過去にTdapの接種を受けていない成人には,破傷風・ジフテリア混合ワクチン(Td)の代わりにTdapを接種する。過去にTdapの接種を受けたことがある成人には,TdapまたはTdを接種する。
百日咳菌の感染歴がある個人にも,ルーチンの推奨に従って,百日咳を対象に含むワクチンを接種すべきである。
禁忌および注意事項
DTaPおよびTdapの禁忌は以下の通りである:
百日咳成分について:過去のDTaPまたはTdapの接種から7日以内に他に明らかな原因が認められない脳症(例,昏睡,意識レベルの低下,長時間の痙攣)を発症したことがある
破傷風の予防接種は重要であるため,DTaPまたはTdapの成分に対するアナフィラキシー反応の既往がある個人については,破傷風トキソイドに対するアレルギーの有無を明らかにするために,アレルギー専門医に紹介するべきである。アレルギーがなければ,破傷風トキソイド(TT)ワクチンによる予防接種が可能である。脳症の既往がある成人には破傷風・ジフテリ混合アワクチン(Td)の接種が可能であり,小児にはTdapの代わりにジフテリア・破傷風ワクチン(DT)を接種できる。
注意事項は製剤によって大きく異なる。
DTaPおよびTdapに関する注意事項としては以下のものがある:
発熱の有無にかかわらず,中等度または重度の急性疾患が認められる(可能であれば消失するまで接種を延期する)
百日咳成分のみ:進行性もしくは不安定な神経疾患,コントロール不良の痙攣発作,または進行性脳症(治療レジメンが確立されて病状が安定するまで接種を延期する)
DTaPのみに関する注意事項としては以下のものがある:
過去のDTaP接種後3日以内に,痙攣発作(発熱の有無は問わない)を起こしたことがある
過去のDTaP接種後48時間以内に,3時間以上持続し,あやしても治まらない激しい絶叫または啼泣を起こしたことがある
過去のDTaP接種後48時間以内に,卒倒またはショック様の状態(筋緊張および意識レベルの低下[hypotonic hyporesponsive episode])に陥ったことがある
過去のDTaP接種後48時間以内に,他の原因では説明できない40.5℃以上の発熱を起こしたことがある
Tdapのみに関する注意事項としては以下のものがある:
過去に破傷風またはジフテリアトキソイドを含有するワクチンの接種後に III型過敏反応 III型 アレルギー性(アトピー性を含む)およびその他の過敏性疾患は,外来抗原に対する不適切または過剰な免疫応答である。不適切な免疫応答には,内在性の身体成分に対する誤った反応も含まれ,これが 自己免疫疾患を招く。 過敏反応は,ゲル-クームス分類によって4種類の型に分けられる。過敏性疾患には複数の型が含まれることが多い。... さらに読む を起こしたことがある(破傷風トキソイドを含有するワクチンの最後の接種から10年以上にわたり接種を延期する)
用量および用法
有害作用
有害作用の発生はまれであり,ほとんどが百日咳成分に起因する。具体的には以下のものがある:
脳症(7日以内)
発熱を伴うまたは伴わない痙攣発作(3日以内)
48時間以内に,3時間以上持続し,あやしても治まらない激しい絶叫または啼泣を起こしたことがある
卒倒またはショック(48時間以内)
48時間以内に,他の原因では説明できない40.5℃以上の発熱を起こしたことがある
即座に起こるワクチンへの重度の反応またはアナフィラキシー反応
百日咳ワクチンの禁忌がある場合は,百日咳成分を含有しない ジフテリア破傷風混合ワクチン 破傷風・ジフテリア混合ワクチン 破傷風ワクチンは単独でも使用できるが,通常は 破傷風ワクチンとジフテリアおよび/または 百日咳ワクチンとの混合で使用される。 ジフテリアワクチンは,他のワクチンとの混合でのみ使用可能である。 詳細については,DTaP/Tdap/Td Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine RecommendationsおよびCenters... さらに読む が使用可能である。
軽度の有害作用としては,注射部位の発赤,腫脹,疼痛などがある。
より詳細な情報
以下の英語の資料が有用かもしれない。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP): DTaP/Tdap/Td ACIP Vaccine Recommendations
Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Diphtheria, Tetanus, and Pertussis Vaccination: Information for Healthcare Professionals