(リケッチアとその近縁微生物による感染症の概要 リケッチアとその近縁微生物による感染症の概要 リケッチア感染症(リケッチア症)とその関連疾患(アナプラズマ症,エーリキア症,Q熱,ツツガムシ病)は,偏性細胞内寄生性のグラム陰性球桿菌の一群によって引き起こされる。Coxiella burnetiiを除く全てが節足動物によって媒介される。症状は通常,重度の頭痛を伴う突然の発熱,倦怠感,極度の疲労と,大半の症例でみられる特徴... さらに読む も参照のこと。)
発疹チフス(epidemic typhus)はリケッチア感染症である。
ヒトは発疹チフスリケッチア(R. prowazekii)の病原体保有生物であるが,この微生物は世界中にみられ,コロモジラミによって伝播され,刺咬部や他の創傷部(またはときに眼や口腔の粘膜)にシラミの糞が擦り込まれることで感染が成立する。米国では,ときにムササビとの接触後にヒトへの発疹チフスの感染が生じている。
10歳未満の小児では死亡はまれであるが,死亡率は年齢とともに上昇し,50歳以上の無治療患者では60%に達することがある。
発疹チフスの症状と徴候
7~14日間の潜伏期の後,発熱,頭痛,および極度の疲労で突然発症する。体温は数日で40℃に達し,朝にやや軽快するものの,2週間ほど高熱が持続する。頭痛は一般的にみられ激しい。ピンク色の小さな斑が4~6日目に出現し,急速に全身(通常は腋窩および体幹上部)に進展するが,手掌,足底,および顔面には広がらない。その後,発疹は暗色の斑状丘疹状に変化する。重症例では,発疹は点状出血および出血性となる。
ときに脾腫がみられる。最も重篤な患者では低血圧を来す。血管虚脱,腎機能不全,脳炎徴候,壊疽を伴う斑状出血,および肺炎は予後不良の徴候である。
Brill-Zinsser病は発疹チフスの軽い再燃であり,最初の発症から数年後に宿主の防御機構が弱まると発生する。
発疹チフスの診断
臨床的特徴
発疹部生検検体の蛍光抗体染色法による起因菌の検出
急性期および回復期血清での血清学的検査(急性期には血清学的検査は有用でない)
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法
シラミの寄生は通常明白であり,病歴(例,流行地域での居住または訪問)から曝露が推定される場合は,発疹チフスが強く示唆される。
発疹チフスの治療
ドキシサイクリン
発疹チフスの初期治療としては,成人ではドキシサイクリン200mgを経口で単回投与した後,状態が改善して解熱した状態が24~48時間持続し,かつ投与期間が7日以上になるまで,100mgの1日2回投与を継続する。
クロラムフェニコール500mg,経口または静注,1日4回,7日間が第2選択の治療である。経口クロラムフェニコールは米国では利用できず,その使用には血液指標のモニタリングが必要となる血液有害事象との関連が認められている。
発疹チフスの重症患者では,疾患後期に毛細血管の透過性が著しく亢進することがあり,そのため輸液は,肺水腫および脳浮腫の悪化を回避しつつ血圧を維持できるように,慎重に行うべきである。
発疹チフスの予防
予防にはワクチン接種とシラミの防除が非常に効果的である。しかしながら,ワクチンはもはや入手できない。シラミに寄生された人々では,マラチオンまたはリンデンを散布することで駆除が可能である。
発疹チフスの要点
発疹チフスは世界中で発生しており,ヒトが病原体保有生物である。
感染はコロモジラミを介してヒトの間で伝播され,シラミの糞の上から皮膚を掻爬したときや,シラミの刺咬部位,創傷部位,または粘膜にシラミの糞が擦りつけられたときに感染する。
小さなピンク色の斑状病変が急速に体を覆い,その後暗く斑状丘疹状になる。
死亡率は年齢とともに上昇し,50歳以上の無治療の患者では60%にも達することがある;血管虚脱,腎機能不全,脳炎徴候,壊疽を伴う斑状出血,および肺炎は予後不良の徴候である。
臨床像およびシラミの寄生の徴候に基づいて発疹チフスを疑う;皮膚生検検体の蛍光抗体染色法により確定する。
ドキシサイクリンまたはクロラムフェニコールにより治療する。
Brill-Zinsser病は発疹チフスの軽い再燃であり,最初の発症から数年後に宿主の防御機構が弱まると発生する。
Brill-Zinsser病
Brill-Zinsser病の患者には,発疹チフスの既往か流行地域での居住歴がある。明らかに,宿主の免疫が低下した際に体内に保持されていた生菌が活性化し,発疹チフスを再発させる;したがって,これは散発的に発生する疾患であり,季節や地理に関係なく,また感染シラミの寄生がなくても発生しうる。患者から吸血したシラミは,病原菌を獲得して感染を媒介するようになる。
Brill-Zinsser病の症状および徴候はほぼ常に軽度で,発疹チフスのそれに類似し,同様の循環障害と肝臓,腎臓,および中枢神経系の変化を伴う。弛張熱の経過が約7~10日間持続する。発疹はしばしば一過性であるか,認められない。死亡率は0%である。
診断 診断 リケッチア感染症(リケッチア症)とその関連疾患(アナプラズマ症,エーリキア症,Q熱,ツツガムシ病)は,偏性細胞内寄生性のグラム陰性球桿菌の一群によって引き起こされる。Coxiella burnetiiを除く全てが節足動物によって媒介される。症状は通常,重度の頭痛を伴う突然の発熱,倦怠感,極度の疲労と,大半の症例でみられる特徴... さらに読む および 治療 治療 リケッチア感染症(リケッチア症)とその関連疾患(アナプラズマ症,エーリキア症,Q熱,ツツガムシ病)は,偏性細胞内寄生性のグラム陰性球桿菌の一群によって引き起こされる。Coxiella burnetiiを除く全てが節足動物によって媒介される。症状は通常,重度の頭痛を伴う突然の発熱,倦怠感,極度の疲労と,大半の症例でみられる特徴... さらに読む の詳細については,リケッチアとその近縁微生物による感染症の概要を参照のこと。