食物アレルギー

執筆者:Peter J. Delves, PhD, University College London, London, UK
レビュー/改訂 2020年 10月
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食物アレルギーは,食物成分,通常はタンパク質に対する過剰な免疫応答である。臨床像には大きな幅があり,アトピー性皮膚炎,消化管または呼吸器症状,アナフィラキシーなどがみられる。診断は病歴に加え,ときにアレルゲン特異的血清IgE検査,皮膚テスト,および/またはアレルゲン除去食による。治療は反応を誘発する食品の除去およびときに経口クロモグリク酸(cromolyn)による。

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。)

食物アレルギーは,食物に対する非免疫性の反応(例,乳糖不耐症過敏性腸症候群,感染性胃腸炎)および添加物(例,グルタミン酸モノナトリウム,メタビスルファイト,タートラジン)または食品の混入物(例,ラテックス製手袋を着用した従業員が扱った食品中のラテックス粉末)に対する反応と区別すべきである。真の食物アレルギーの有病率は1%未満から3%の範囲で,地理的要因および確認方法によって異なる;患者は不耐性をアレルギーと混同する傾向がある。

食物アレルギーの病因

ほとんど全ての食物または食品添加物はアレルギー反応を引き起こす可能性があるが,最も多い誘発物質には以下のものがある:

  • 乳幼児:牛乳,大豆,卵,ピーナッツ,および小麦

  • より年長の小児および成人:ナッツ類および海産物

食物のアレルゲンと食物以外のアレルゲンとの交差反応がみられ,感作が非経口的に起こることがある。例えば,口腔アレルギー(典型的には,果物および野菜を食べたときの口腔のそう痒,紅斑,および浮腫)の患者は,食物抗原と抗原的に似ている花粉に曝露することによって感作されている場合がある;ピーナッツアレルギーの小児は,発疹の治療に用いられるラッカセイ油を含む局所用クリームによって感作されている場合がある。ラテックスに対してアレルギー性の患者の多くは,バナナ,キウイ,アボカド,またはそれらの組合せに対してもアレルギー性である。

食物アレルギーは,親が食物アレルギー,アレルギー性鼻炎,またはアレルギー性喘息を有する小児でより多くみられる。

一般に,食物アレルギーは,IgE,T細胞,またはその両方が介在する:

  • IgE介在性アレルギー(例,蕁麻疹喘息アナフィラキシー)は急性発症型で,通常は乳児期に出現し,アトピーの濃厚な家族歴がある場合に最も多く発生する。

  • T細胞介在性アレルギー(例,食物性タンパク胃腸炎,セリアック病)は緩徐発症型で,慢性である;乳児および小児で最も多くみられる。

  • IgEおよびT細胞の両方が介在するアレルギー(例,アトピー性皮膚炎,好酸球性胃腸症)は発症が遅れたり,慢性となったりする傾向がある。

好酸球性胃腸症

このまれな疾患は,血中の好酸球増多症,消化管の好酸球浸潤,およびタンパク漏出性胃腸症を伴って,疼痛,痙攣,および下痢を引き起こす;患者にはアトピー性疾患の病歴がある。

好酸球性食道炎は好酸球性胃腸症に伴う場合もあれば,単独で生じる場合もある。好酸球性食道炎は,食道の慢性炎症を特徴とし,嚥下困難,非酸性の消化不良,および消化管運動障害を引き起こしたり,小児で食餌不耐症および腹痛を引き起こしたりすることがある。好酸球性食道炎によって狭窄が生じる場合がある;診断は内視鏡下生検による。

食物アレルギーの症状と徴候

食物アレルギーの症状と徴候は,アレルゲン,機序,および患者の年齢によって様々である。

乳児で最も多くみられる症状は,アトピー性皮膚炎単独または消化管症状(例,悪心,嘔吐,下痢)の合併である。小児は通常,これらの症状から脱して,次第に吸入アレルゲンに反応するようになり,喘息および鼻炎の症状がみられる;この進行過程はアトピーマーチと呼ばれる。10歳までは,たとえ皮膚テストが依然として陽性であっても,アレルギーの原因となる食物を摂取後に呼吸器症状を呈することはまれである。アトピー性皮膚炎が持続したり,年長の小児または成人で発現したりした場合,たとえ皮膚炎が広範にみられるアトピー患者で血清中IgE濃度が皮膚炎のないアトピー患者よりもはるかに高かったとしても,アトピー性皮膚炎の活動性はIgE介在性アレルギーとほとんど無関係でありT細胞介在性の反応が主にみられると考えられる。

比較的年長の小児および成人で食物アレルギーが持続する場合,その反応はより重度な傾向がある(例,強烈な蕁麻疹,血管性浮腫,アナフィラキシーさえもみられる)。少数の患者で,食後すぐに運動した場合に限り,食物(特に小麦およびエビ)がアナフィラキシーを誘発する;機序は不明である。食物は非特異的症状(例,ふらつき,失神)を誘発することもある。ときに,食物アレルギーにより,口唇炎,アフタ性潰瘍,幽門痙攣,痙攣性便秘,肛門そう痒症,および肛門周囲の湿疹がみられる。

T細胞介在性反応は消化管を侵す傾向があり,亜急性または慢性の腹痛,悪心,痙攣,および下痢などの症状を引き起こす。

パール&ピットフォール

  • 患者に原因不明の亜急性または慢性の腹痛,悪心,嘔吐,痙攣,または下痢が認められた場合,食物アレルギーを考慮する。

食物アレルギーの診断

  • アレルゲン特異的血清IgE検査

  • 皮膚テスト

  • アレルゲン除去食を試みる(単独,または皮膚テストもしくはアレルゲン特異的血清IgE検査の後で)

重度の食物アレルギーは通常,成人で明瞭である。食物アレルギーが明瞭に認められない場合または小児(最もよくみられる年齢群)で発生した場合,診断が難しいことがあり,本疾患を他の消化管障害と鑑別しなければならない。セリアック病の診断については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

検査(例,アレルゲン特異的血清IgE検査,皮膚テスト)およびアレルゲン除去食は,IgE介在性反応の診断に最も有用である。疑わしい食物の除去に関する判断の指針として役立てるために,患者に食事日記をつけさせ,摂取したもの全てと,生じた全ての有害作用を詳細に記入させるべきである。

食物反応が疑われる場合,以下のいずれかによって食物と症状の関連性を評価する:

いずれの場合も,検査陽性により臨床的に重要なアレルギーが確定するわけではない。いずれの検査も偽陽性または偽陰性の結果となる可能性がある。皮膚テストは,概してアレルゲン特異的血清IgE検査より感度が高いが,偽陽性の判定が出る可能性が高い。皮膚テストでは15~20分以内に結果が得られ,アレルゲン特異的血清IgE検査よりはるかに早い。

いずれかの検査が陽性であれば,調べた食物を食事から取り除く。食物を取り除くことによって症状が軽減した場合は,その食物に再曝露させて(二重盲検試験が好ましい),症状が再発するか確認する(経口負荷試験)。(National Institute of Allergy and Infectious Diseases [NIAID] medicalposition statement: Guidelines for the diagnosis and management of food allergy in the United Statesも参照のこと。)

皮膚テストの代替として以下のうちいずれかまたは両方が行われる:

  • 患者の食事日記に基づき,症状の原因であると疑われる食物を除去する

  • 比較的アレルギーの原因となりにくい食材を使い,一般的な食物アレルゲンを除去した食事を摂る(代表的なアレルゲン除去食で許容できる食品の表を参照)

後者の食事については,指定したもの以外の食物または飲み物を摂取してはならない。無添加の食品を常に用いなければならない。市販されている加工品および食品の多くには,望ましくない食物が大量に含まれていたり(例,市販のライ麦パンは小麦粉を含む),香料または増粘剤としてわずかに含まれていたりする場合があり,望ましくない食物が含まれているか判断が難しいことがある。

患者との話合いおよび患者の食事日記の内容が最初のアレルゲン除去食の選択に役立ちうる。最初の食事を1週間行っても何ら改善がみられなければ,他の食事を試すべきである;ただし,T細胞介在性反応は消失するのに数週間かかることがある。症状が軽減した場合および症状が比較的軽度である場合は,新しい食品を1種類加え,24時間以上または症状が再発するまで大量に食べる。しかし,症状が特に重度である場合は,医師の監督下で被検食品を少量食べさせて,患者の反応を観察する。食品を新たに追加した後の症状悪化または再燃は,最も有力なアレルギーのエビデンスとなる。

表&コラム

食物アレルギーの治療

  • 除去食

  • ときに経口クロモグリク酸(cromolyn)

  • 好酸球性腸炎に対して,ときにコルチコステロイド

食物アレルギーの治療は,アレルギー反応を引き起こす食品を除去することによる。それゆえ,診断と治療は重複する。アレルゲン除去食の効果を評価する際,医師は,食物過敏症が自然に消失する可能性があることを考慮しなければならない。

ピーナッツ(Arachis hypogaea)アレルゲン粉末(脱脂済み)を用いた,ピーナッツに対する経口脱感作療法がピーナッツにアレルギーのある4~17歳の患者の治療に利用できる。経口脱感作療法は,医療施設で1日に0.5mgから6mgまで用量を増加する5回の投与から開始する。この最初のレジメンに続いて,1日量3mgの投与から開始し,維持量の300mg,1日1回に達するまで22週間かけて2週間毎に増量する。増量期間中,増量を行う日の投与は医療施設で実施する。患者は脱感作を維持するためにピーナッツアレルゲン粉末を毎日摂取し続け,依然としてピーナッツを含まない厳格な食事を維持する必要があるが,意図せず摂取したピーナッツに対する重度のアレルギー反応(アナフィラキシーを含む)のリスクが低下するという利点がある。

経口クロモグリク酸(cromolyn)は,アレルギー反応を低下させるために用いられ,明らかな効果が得られている。抗ヒスタミン薬は,蕁麻疹および血管性浮腫を伴う急性の全身反応を除き,ほとんど役立たない。長期間のコルチコステロイド療法は,症候性の好酸球性腸炎に対して役立つ。

重度の食物アレルギーの患者には,抗ヒスタミン薬およびアドレナリン充填済みの自己注射器を携行し,反応が開始したら抗ヒスタミン薬を服用し,重度の反応に必要であればアドレナリンを注射するよう忠告しておくべきである。

食物アレルギーの予防

長年にわたり,食物アレルギーの回避の手段として,アレルギーを引き起こす食物(例,ピーナッツ)を乳児期早期に食べさせないことが推奨されてきた。しかしながら,最近の研究(1)によると,ピーナッツを含む食物を早くから定期的に食べさせることで,ピーナッツアレルギーを発症するリスクが高い乳児(例,卵アレルギーまたは湿疹のある乳児)において,このアレルギーを予防できることが証明されている。

予防に関する参考文献

  1. 1.Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, et al: Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy.N Engl J Med 372 (9):803-813, 2015.doi: 10.1056/NEJMoa1414850

食物アレルギーの要点

  • 食物アレルギーは,IgE(典型的には急性の全身性アレルギー反応を来す)またはT細胞(典型的には慢性の消化管症状を来す)が介在していることが多い。

  • 食物アレルギーは,食品に対する非免疫性の反応(例,乳糖不耐症,過敏性腸症候群,感染性胃腸炎)および添加物(例,グルタミン酸モノナトリウム,メタビスルファイト,タートラジン)または食品の混入物に対する反応と区別する。

  • 成人で診断が臨床的に明確でない場合,また小児を評価する場合は,皮膚テスト,アレルゲン特異的血清IgE検査,またはアレルゲン除去食を行う。

  • アレルゲン除去食では,リストに載っている食品しか食べられず,純粋な食品しか食べられない(市販されている加工食品の多くが除外される)ことについて,患者が理解していることを確認する。

食物アレルギーについてのより詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID): Guidelines for the diagnosis and management of food allergy in the United States

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