遺伝性および後天性の血管性浮腫

(後天性C1インヒビター欠損症)

執筆者:Peter J. Delves, PhD, University College London, London, UK
レビュー/改訂 2020年 10月
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遺伝性および後天性の血管性浮腫(後天性C1インヒビター欠損症)は,補体活性化の古典経路およびレクチン経路の制御,またキニン系および凝固線溶系の経路の制御にも関与するタンパク質である補体1(C1)インヒビターの欠損または機能不全によって引き起こされる。診断は補体濃度の測定による。C1インヒビターは急性発作の治療に用いる。予防は,C1インヒビターの濃度を増加させる弱化アンドロゲンによる。

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。)

C1インヒビターは,キニン系の経路において活性化したカリクレイン(ブラジキニンの産生に必要)を阻害するため,C1インヒビターの欠損または機能不全は補体の活性化に影響を及ぼすだけでなく,ブラジキニン濃度の上昇も招く。

補体活性化経路

古典経路,レクチン経路,および副経路は,C3転換酵素(C3 con)がC3をC3aとC3bに切断すると,最終の共通経路に収束する。Ab = 抗体;Ag = 抗原;C1-INH = C1インヒビター;MAC = 膜侵襲複合体;MASP = MBL関連セリンプロテアーゼ;MBL = マンノース結合レクチン。上線は活性化を示す。

遺伝性血管性浮腫

遺伝性血管性浮腫には以下2つの主な型がある:

  • 1型(80~85%):C1インヒビターの欠損を特徴とする

  • 2型(15~20%):C1インヒビターの機能不全を特徴とする

遺伝形式は常染色体優性である。臨床像は通常,小児期または青年期にみられる。

まれな型の遺伝性血管性浮腫(遺伝性血管性浮腫3型)は,C1インヒビターの値が正常であることを特徴とする。この型の遺伝性浮腫の有病率は不明であり,主に女性に発生する。

後天性C1インヒビター欠損症

C1インヒビター欠損症は以下の場合に後天性となることがある:

  • 腫瘍性疾患(例,B細胞リンパ腫)または免疫複合体疾患で補体が消費される。

  • 単クローン性免疫グロブリン血症でC1インヒビターに対する自己抗体が産生される。

  • まれに,自己免疫疾患(例,全身性エリテマトーデス[SLE]皮膚筋炎)でC1インヒビターに対する自己抗体が産生される。

患者に関連疾患がある場合は通常,臨床像がより高い年齢で現れる。

誘因

遺伝性および後天性の血管性浮腫の全ての型で,以下のものによって発作が引き起こされることがある:

  • 軽度の外傷(例,歯科処置,舌ピアス)

  • ウイルス性疾患

  • 寒冷曝露

  • 妊娠

  • 特定の食物摂取

また,血管性浮腫は精神的ストレスによって悪化することがある。

症状と徴候

遺伝性および後天性の血管性浮腫の症状と徴候は,他の型のブラジキニン介在性の血管性浮腫と類似しており,非対称性で軽度の有痛性の腫脹がみられ,顔面,口唇,および/または舌に及ぶことが多い。さらに手もしくは足の甲または生殖器に腫脹が生じることもある。

消化管が侵されることが多く,悪心,嘔吐,仙痛性の不快感など,腸閉塞を示唆する多様な症状がみられる。

そう痒,蕁麻疹,および気管支攣縮は起こらないが,喉頭浮腫がみられることがあり,吸気性喘鳴を引き起こす(ときに死に至ることもある)。

腫脹は,発症してから約1~3日以内に消退する。遺伝性血管性浮腫では,補体成分が消費されるにつれて,症状が消失する。

診断

  • 補体濃度の測定

血管性浮腫に蕁麻疹が伴わず,明確な原因なしに再発する場合は,遺伝性血管性浮腫または後天性C1インヒビター欠損症を疑うべきである。家族に認められる場合は,遺伝性血管性浮腫を疑うべきである。

C4,C1インヒビター,およびC1q(C1の一成分)の濃度を測定する。遺伝性血管性浮腫(1型および2型)または後天性C1インヒビター欠損症の診断は,以下によって確定される:

  • C4(および,測定した場合はC2)低値

  • C1インヒビターの機能の低下

他の所見としては以下のものがある:

  • 1型の遺伝性血管性浮腫:C1インヒビターが低値およびC1qが正常値

  • 2型の遺伝性血管性浮腫:C1インヒビターが正常値または高値およびC1qが正常値

  • 後天性C1インヒビター欠損症:C1qの低値

  • 3型の遺伝性血管性浮腫:C1インヒビターおよびC4が正常値

治療

  • 急性発作に対しては,C1インヒビター,エカランチド,イカチバント,またはラナデルマブ

  • 予防には,弱化アンドロゲン

急性発作は,以下のいずれかにより治療する:

  • 精製ヒト血漿由来C1インヒビター

  • エカランチド(カリクレインの可逆的阻害薬として作用する組換えタンパク質)

  • イカチバント(ブラジキニンB2受容体の可逆的かつ競合的な拮抗薬として作用する合成デカペプチド)

  • ラナデルマブ(血漿カリクレインに結合してその活性を阻害する遺伝子組換えヒト化モノクローナル抗体)

これらの薬剤がいずれも入手不能であれば,新鮮凍結血漿または欧州連合でトラネキサム酸が用いられている。遺伝子組換えC1インヒビターのコネスタットアルファ(conestat alfa)も利用できる。

気道が侵されている場合,気道の確保を最優先する。急性発作で気道が侵されている場合,アドレナリンにより一時的に有益となることがある。しかしながら,その有益性は十分でないことや,一過性に終わることもあり,その後に気管挿管が必要になる場合もある。コルチコステロイドおよび抗ヒスタミン薬は効果がない。

鎮痛薬,制吐薬,および補液を用いて症状を緩和することができる。

パール&ピットフォール

  • 抗ヒスタミン薬およびコルチコステロイドは,遺伝性または後天性血管性浮腫に対して効果がない。

長期予防のために,弱化アンドロゲン(例,スタノゾロール2mgを1日3回経口投与,またはダナゾール200mgを1日3回経口投与)を用いて肝臓でのC1インヒビター合成を促進する。この治療法は,後天性型に対してそれほど効果的でないことがある。C1インヒビターは効果的であるが,高価である。

短期予防は,急性発作の治療にC1インヒビターが利用できない場合,高リスクの手技(例,歯科治療または気道手術)を行う前に適応となる。通常は手技の5日前から2日後まで弱化アンドロゲン(例,ダナゾール,スタノゾロール)を投与する。C1インヒビターが利用できる場合は,短期予防に弱化アンドロゲンを用いるよりむしろハイリスクの手技を行う1時間前にC1インヒビターを投与するよう提唱している専門家もいる。

要点

  • 発症は通常,遺伝性血管性浮腫では小児期もしくは青年期,後天性血管性浮腫では成人期後期であり,後者は腫瘍性または自己免疫疾患の患者に多くみられる。

  • 軽度の外傷,ウイルス性疾患,寒冷曝露,妊娠,または特定の食物の摂取により発作が誘発されることがある;精神的ストレスにより悪化することもある。

  • 補体濃度を測定する;C4が低値でC1インヒビターの機能低下が認められた場合,遺伝性血管性浮腫または後天性C1インヒビター欠損症が示唆される。

  • 急性発作に対しては,精製ヒトC1インヒビター,エカランチド,イカチバント,またはラナデルマブを用い,症状の緩和には,鎮痛薬,制吐薬,および補液を用いる;抗ヒスタミン薬およびコルチコステロイドは効果がない。

  • 予防(長期および短期―例,歯科治療または気道手術の前)には,弱化アンドロゲン(例,スタノゾロール,ダナゾール)を検討する;短期予防ではC1インヒビターを検討してもよい。

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