薬物過敏症

執筆者:Peter J. Delves, PhD, University College London, London, UK
レビュー/改訂 2020年 10月
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薬物過敏症は薬物に対する免疫介在性の反応である。症状は軽度から重度まで様々で,発疹,アナフィラキシー,および血清病などがある。診断は臨床的に行う;ときに皮膚テストが有用である。治療は,薬物投与の中止,支持療法(例,抗ヒスタミン薬による),およびときに脱感作である。

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。)

薬物過敏症は,当該薬物および薬物相互作用による問題から想定されうる毒性や有害作用とは異なる。

薬物過敏症の病態生理

一部のタンパク質および分子量の大きなポリペプチド薬(例,インスリン,治療用抗体)が抗体産生を直接刺激することがある。しかし,ほとんどの薬物はハプテンとして作用し,主要組織適合抗原複合体(MHC)分子内に組み込まれているペプチドを含め,血清タンパク質または細胞に結合したタンパク質と共有結合する。その結合がタンパク質に免疫原性を付与し,抗薬物抗体産生,薬物に対するT細胞応答,またはその両方を刺激する。さらにハプテンはMHCクラスII分子に直接結合することもあり,T細胞を直接活性化する。一部の薬物はプロハプテンとして作用する。プロハプテンは代謝されてハプテンになる;例えば,ペニシリンそのものには抗原性がないが,その主要分解産物であるベンジルペニシリン酸は組織タンパク質と結合して,主要な抗原決定基であるベンジルペニシロイル(BPO)を形成することがある。一部の薬物はT細胞受容体(TCR)に直接結合して刺激する;非ハプテン性TCR結合の臨床的意義が解明されつつある。

最初の感作がどのように起こるのか,また免疫系が最初にどう関与するのかについては不明であるが,薬物が免疫応答を一旦刺激すると,薬物クラス内および薬物クラス間で他の薬物との交差反応が起こることがある。例えば,ペニシリン過敏症の患者は半合成ペニシリン(例,アモキシシリン,カルベニシリン,チカルシリン)に対して反応する可能性が極めて高い。初期の計画が不十分であった研究では,ペニシリン過敏症の漠然とした病歴を有する患者の約10%が同様のβ-ラクタム構造を有するセファロスポリン系薬剤に反応した;この知見は,これらの薬物クラス間の交差反応を示すエビデンスとして引用されている。しかしながら,最近のよりよく計画された研究では,皮膚テストでペニシリンアレルギーが検出された患者のうちセファロスポリン系薬剤に反応したのはわずか約2%であった;構造的に無関係な抗菌薬(例,サルファ剤)に対して,ほぼ同じ割合の患者が反応する。ときに,この交差反応およびその他の見かけの交差反応(例,スルホンアミド系抗菌薬と非抗菌薬の間)は,特異的な免疫交差反応というよりむしろアレルギー反応の素因に起因している。

さらに,見かけの反応の全てがアレルギー性というではなく,例えば,アモキシシリンは免疫介在性ではない発疹を引き起こすことがあり,アモキシシリンの将来の使用を妨げるものではない。

パール&ピットフォール

  • ペニシリンアレルギーはセファロスポリン系薬剤の使用を必ずしも排除するとは限らない。

薬物過敏症の症状と徴候

薬物アレルギーの症状と徴候は患者および薬物によって様々であり,ある1つの薬物が異なる患者で別の反応を引き起こすことがある。最も重篤なものはアナフィラキシー(I型過敏反応)である;発疹(例,麻疹様発疹),蕁麻疹,および発熱がよくみられる。定型的薬物反応―ある患者が同じ薬物に曝露するたびに同じ部位に再発する反応―はまれである。

いくつかの独特な臨床症候群では,他の型の過敏反応が関与する場合がある:

  • 血清病:この反応は典型的には曝露してから7~10日後に発生し,発熱,関節痛,および発疹を引き起こす。機序は薬物-抗体複合体および補体の活性化によるIII型過敏反応である。一部の患者には,明らかな関節炎,浮腫,または消化管症状がみられる。症状は自然治癒性で,1~2週間続く。β-ラクタム系およびスルホンアミド系抗菌薬,デキストラン鉄,ならびにカルバマゼピンが関与することが最も多い。

  • 薬剤性免疫性溶血性貧血この疾患は,抗体-薬物-赤血球の相互作用が発生した場合(例,セファロスポリン系,セフォテタン),または薬物(例,フルダラビン,メチルドパ)により赤血球の膜が自己抗体産生を誘導するように変性した場合に発生することがある。このような反応はII型過敏反応である。

  • DRESS(好酸球増多と全身症状を伴う薬疹):この病態は,薬剤性過敏症症候群(DHS)とも呼ばれ,薬物治療を開始してから最長12週間後までに出現し,用量を増量した後に発生することもあるIV型過敏反応である。症状は,薬物治療を中止した後の数週間にわたり継続したり,再発したりすることがある。患者には突出した好酸球増多症がみられ,肝炎,発疹,顔面腫脹,全身性浮腫,およびリンパ節腫脹を発症することが多い。カルバマゼピン,フェニトイン,アロプリノール,およびラモトリギンが高頻度で関与している。

  • 肺への影響:一部の薬物は,呼吸器症状(I型過敏症で起こることがある呼気性喘鳴と異なる),肺機能の低下,およびその他の肺の変化を引き起こす(薬剤性肺障害と呼ばれ,間質性肺疾患が最も一般的)。これらの反応は主にIII型およびIV型過敏反応と考えられている。そのような作用を有する可能性がある薬剤としては,ブレオマイシン,アミオダロン,ニトロフラントイン,アムホテリシンB,スルホンアミド系,サラゾスルファピリジンなどがある。

  • 腎臓への影響:尿細管間質性腎炎は最も多いアレルギー性腎反応で,メチシリン,抗菌薬,およびシメチジンが関与していることが多い。I型,III型,およびIV型過敏反応が関与する場合がある。

  • 他の自己免疫現象:ヒドララジン,プロピルチオウラシル,およびプロカインアミドは,III型過敏反応である全身性エリテマトーデス(SLE)様症候群を引き起こすことがある。この症候群は,軽度(関節痛,発熱,および発疹を伴う)のこともあれば,かなり重度(漿膜炎,高熱,および倦怠感を伴う)のこともあるが,腎臓および中枢神経系は侵されない傾向がある。抗核抗体検査は陽性となる。ペニシラミンはSLEおよび他の自己免疫疾患(例,II型過敏反応である重症筋無力症)を引き起こすことがある。一部の薬剤は,核周囲型抗好中球細胞質抗体(p-ANCA)関連血管炎を引き起こすことがある。この自己抗体はミエロペルオキシダーゼ(MPO)に対する抗体であり,II型過敏反応を引き起こす。

薬物過敏症の診断

  • 薬剤を服用した直後の反応に関する患者の報告

  • 皮膚テスト

  • ときに薬物誘発試験

  • ときに直接および間接抗グロブリン試験

薬物の毒性および有害作用,ならびに薬物相互作用に起因する症状から薬物過敏症を鑑別するには以下の情報が役立つであろう:

  • 発症時期

  • 薬剤の既知の作用

  • 薬剤の試験的反復投与の結果

例えば,用量に関連する反応は薬物毒性であることが多く,薬物過敏症ではない。

薬剤を投与して数分から数時間のうちに反応が起こる場合,薬物過敏症が示唆される。しかし,多くの患者が報告する過去の反応は,性質がはっきりしない。そのような場合,同等な代用薬(例,ペニシリンが梅毒治療に必要な場合)がなければ,検査を考慮すべきである。

皮膚テスト

I型(IgE介在性)過敏性の検査は,β-ラクタム系抗菌薬,ヒト以外(異種)の血清,ならびに一部のワクチンおよびポリペプチドホルモンに対する反応を特定するのに役立つ。しかしながら,典型的には,ペニシリンアレルギーを訴える患者で皮膚テストが陽性反応となるのはわずか10~20%である。さらに,ほとんどの薬剤(セファロスポリン系を含む)で,皮膚テストは信頼性が低く,IgE介在性反応のみが検出できるにすぎないため,麻疹様発疹,溶血性貧血,または腎炎の発現は予測できない。

ペニシリン皮膚テストは,即時型過敏反応の既往がある患者にペニシリンを投与しなければならない場合に必要である。BPO-ポリリジン結合物およびベンジルペニシリンは,ヒスタミンおよび生理食塩水を対照として使用される。プリックテストを最初に行う。患者に重度で強烈な反応の既往がある場合,初回のテストで試薬を100倍に希釈すべきである。プリックテストが陰性であれば,続いて皮内テストを行う。皮膚テストが陽性であれば,ペニシリンによる治療はアナフィラキシー反応を誘発する可能性がある。テストが陰性であれば,重篤な反応が起こる可能性は低いが,発生しないわけではない。ペニシリン皮膚テストにより患者に新たな感受性が誘導されたことはないが,通常は,不可欠なペニシリン療法を開始する直前にのみ,テストを実施すべきである。

異種血清による皮膚テストでは,アトピー性でもなく,異種(例,ウマ)血清を以前投与されたこともない患者の場合,まず1:10希釈液でプリックテストを行うべきである;このテストで陰性であれば,1:1000希釈液0.02mLを皮内注射する。感受性のある患者では,直径0.5cmを超える膨疹が15分以内に出現する。最初に,以前に血清投与を受けた可能性がある(反応の有無は問わない)全ての患者に対して,またアレルギーの既往が疑われる患者に対して,1:1000希釈液を用いてプリックテストを行うべきである;結果が陰性であれば,1:100希釈液を用い,結果が再び陰性であれば,上述のように1:10希釈液を用いる。結果が陰性であれば,アナフィラキシーの可能性が除外されるが,その後の血清病の発生は予測できない。

その他の検査

薬物誘発試験では,過敏反応を引き起こしていることが疑われる薬物の用量を漸増しながら投与して反応を誘発する。この試験は,管理された状況で行うのであれば,通常は安全かつ効果的である。

薬物過敏症は特定のヒト白血球抗原(HLA)クラスIハプロタイプと関連しているため,特定民族出身の患者を対象とした遺伝子型解析で,過敏反応のリスクがより高い患者を特定できる。

表&コラム

血液学的薬物反応に関する検査には,直接および間接抗グロブリン試験がある。その他の特異的な薬物過敏症に関する検査(例,アレルゲン特異的血清IgE検査,ヒスタミン放出,好塩基球または肥満細胞の脱顆粒,リンパ球幼若化)は信頼性が低いか,実験段階にある。

薬物過敏症の予後

過敏症は時間とともに減弱する。アレルギー反応の1年後には患者の90%にIgE抗体がみられるが,10年後では約20~30%にすぎない。アナフィラキシー反応を呈する患者は,原因薬物に対する抗体をより長く保持している可能性が高い。

薬物アレルギーのある人々には薬剤を回避することを指導すべきであり,身分を証明するものまたはアラートブレスレットを携行させるべきである。カルテには常に該当する印をつけておくべきである。

薬物過敏症の治療

  • 薬物投与の中止

  • 支持療法(例,抗ヒスタミン薬,コルチコステロイド,アドレナリン)

  • ときに脱感作

薬物アレルギーの治療は関与する薬物の投与を中止することである;ほとんどの症状と徴候は,当該薬物の投与を中止してから数日以内に消失する。

急性反応に対する対症療法および支持療法として,以下を行う:

  • そう痒に対して抗ヒスタミン薬

  • 関節痛に対して非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)

  • 重度の反応(例,剥脱性皮膚炎,気管支攣縮)に対してコルチコステロイド

  • アナフィラキシーに対してアドレナリン

薬剤熱,そう痒のない発疹,または器官系の軽度の反応などの症状には,薬剤の中止以外治療の必要がない(特定の臨床反応の治療については,本マニュアルの別の箇所を参照)。

脱感作

IgE介在性の過敏症が確定しており,治療が不可欠で他に選択肢がない場合は,急速脱感作が必要になることがある。急速脱感作は感受性を一過性に低下させるに過ぎない。できれば,アレルギー専門医と連携して脱感作を行うべきである。この処置は,スティーブンス-ジョンソン症候群の患者では試みるべきでない。脱感作はT細胞介在性の反応には通常無効であり,そのような症例では行うべきではない。脱感作を行う場合は必ず,アナフィラキシーに対する迅速な治療のために,酸素,アドレナリン,および蘇生器具を使用できる状態にしておかなければならない。

脱感作は,治療量での投与に先立って,まず無症候性のアナフィラキシーを誘導するわずかな用量から始めて,15~20分毎に抗原の用量を増やしていくことにより行う。この処置は,血清中の薬剤の持続的な存在に依存し,それゆえ中断してはならない;脱感作の直後に最大の治療量を投与する。過敏症は典型的には治療を中断してから24~48時間で再び発生する。軽度の反応(例,そう痒,発疹)が脱感作中によくみられる。

ペニシリンでは,経口または静脈内投与のレジメンを用いることができる;皮下または筋肉内投与のレジメンは推奨されない。皮内テストのみが陽性であれば,100単位(μg)/mLの濃度の50mLバッグ(計5000単位)を点滴静注で最初は非常にゆっくり(例,1mL/min未満)投与すべきである。20~30分後に症状が現れなければ,バッグが空になるまで投与速度を徐々に上げてもよい。その後,この処置を1000単位/mLおよび10,000単位/mLの濃度で繰り返し,続いて最大の治療量を投与する。何らかのアレルギー症状が出現した場合は,投与速度を遅くすべきであり,適切な薬物治療を行う(上述参照)。ペニシリンに対するプリックテストが陽性の場合,または患者に重度のアナフィラキシー反応がみられた場合は,開始量を下げるべきである。

経口ペニシリンの脱感作は100単位(μg)から始める;15分毎に用量を倍増して,最大で400,000単位(13回)まで増量する。その後,薬剤の治療量を非経口的に投与して感染症を治療し,薬物過敏症の症状が発生すれば,適切な抗アナフィラキシー薬を用いる。

トリメトプリム-スルファメトキサゾールおよびバンコマイシンに対するアレルギーに対しては,ペニシリンに対するものと同様なレジメンを用いることができる。

異種血清に対する皮膚テストが陽性であれば,アナフィラキシーのリスクが高い。血清療法が必須であれば,事前に脱感作を行わなければならない。

薬物過敏症の要点

  • 薬物に対する過敏反応の多くはI型(即時型,IgE介在性)であるが,II型,III型,またはIV型の場合もある。

  • 薬物過敏症は病歴(主に薬物の服用を開始した後の反応に関する患者の報告)に基づいて診断できる場合が多いが,薬物による既知の有害作用および毒性作用ならびに薬物間相互作用を除外しなければならない。

  • 診断がはっきりしない場合,通常は皮膚テストであるが,ときに薬物誘発試験または他の特異的検査によって,いくつかの薬物を原因として同定できる(特にI型過敏反応が主に関与している場合)。

  • 皮膚テストの結果が陰性であれば,アナフィラキシーの可能性は除外されるが,その後の血清病の発生は予測できない。

  • 過敏症は徐々に減弱する傾向がある。

  • そう痒に対しては抗ヒスタミン薬,関節痛に対してはNSAID,重度の反応(例,剥脱性皮膚炎,気管支攣縮)に対してはコルチコステロイド,およびアナフィラキシーに対してはアドレナリンなど,急性のI型過敏反応を支持療法で治療する。

  • 原因となる薬物を使用しなければならない場合,薬物に対するI型過敏反応のリスクを一時的に低下させるために,できればアレルギー専門医の協力のもとで,急速脱感作を試みる。

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