本態性血小板血症

(本態性血小板増多症;原発性血小板血症)

執筆者:Jane Liesveld, MD, James P. Wilmot Cancer Institute, University of Rochester Medical Center
レビュー/改訂 2020年 9月
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本態性血小板血症(ET)は,血小板数の増加,巨核球の過形成,および出血傾向または微小血管の血栓傾向を特徴とする骨髄増殖性腫瘍である。症状および徴候として,筋力低下,頭痛,錯感覚,出血,および指の虚血を伴う肢端紅痛症がみられることがある。診断は,450,000/μL(450 10/L)を超える血小板数,十分な鉄貯蔵の存在下での正常赤血球量または正常ヘマトクリットに加え,骨髄線維症,フィラデルフィア染色体(または再構成),または血小板増多を引き起こす可能性のある反応性疾患がないことに基づく。治療には議論があるが,アスピリンが使用可能である。60歳以上の患者に加え,血栓症および一過性脳虚血発作の既往がある患者では,血栓塞栓症が続発するリスクが高い。大血管の血栓症のリスクと血小板数の間に相関は認められない。

骨髄増殖性腫瘍の概要も参照のこと。)

本態性血小板血症の病因

本態性血小板血症はクローン性の造血幹細胞疾患であり,血小板産生の亢進を引き起こす。本態性血小板血症は,発生に二峰性のピークがあり,若年女性にみられる早期のピークと,50歳以降の男女ともにみられる晩期のピークとがある。

ヤヌスキナーゼ2(JAK2)酵素の変異であるJAK2V617Fが患者の約50%で認められる;JAK2はチロシンキナーゼファミリーに属する酵素であり,他の因子の中でも,エリスロポエチン,トロンボポエチン,および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)のシグナル伝達に関与する。その他の患者ではカルレティキュリン遺伝子(CALR)のエクソン9における変異がみられ,少数の患者ではトロンボポエチン受容体遺伝子(MPL)の後天的な体細胞変異がみられる。

骨髄異形成症候群の一部(例,環状鉄芽球および血小板増多を伴う不応性貧血[RARS-T],5q欠失症候群)では,血小板数の上昇を呈することがある。

本態性血小板血症の病態生理

血小板血症によって以下が生じることがある:

  • 微小血管閉塞(通常は回復可能)

  • 大径血管の血栓症

  • 出血

微小血管閉塞は,四肢遠位部(肢端紅痛症を引き起こす),眼(眼性片頭痛を引き起こす),または中枢神経系(一過性脳虚血発作を引き起こす)の小型血管に生じる。血小板数が高くても,全ての患者が微小血管の症状を経験するわけではない。

本態性血小板血症において,深部静脈血栓症または肺塞栓症を引き起こす大径血管の血栓症のリスクが増大するか否かは不明であるが,これは特に,血小板は主に動脈血栓症に関与し,血小板数と大径血管の血栓症の間に相関が認められないためである。

極度の(すなわち血小板数が約150万/μL[1500 × 109/L])血小板増多では出血の可能性が高くなる;これは,高分子のフォン・ヴィレブランド因子マルチマーを血小板が吸着してタンパク質分解することにより,後天性フォン・ヴィレブランド因子欠乏症が生じるためであり,後天性フォン・ヴィレブランド症候群を引き起こす。

本態性血小板血症の症状と徴候

多くみられる症状は,以下のものである:

  • 筋力低下

  • 皮下出血および出血

  • 痛風

  • 眼性片頭痛

  • 手足の錯感覚

  • 血栓イベント

血栓症では,患部に症状が現れることがある(例,脳卒中または一過性脳虚血発作による神経脱落症状)。

通常,出血は軽度で,まれに自然発生し,鼻出血,紫斑ができやすい状態,または消化管出血として認められる。しかし,過度の血小板増多を認める症例では,割合は低いものの重篤な出血が生じることがある。

肢端紅痛症(熱感,紅斑,およびときに指の虚血を伴う手足の灼熱痛)がみられることもある。脾臓が触知可能になる場合があるが,有意な脾腫はまれであり,別の骨髄増殖性腫瘍を考慮すべきである。

本態性血小板血症の診断

  • 血算および末梢血塗抹検査

  • 二次性血小板増多症の原因を除外

  • 細胞遺伝学的検査

  • ポリメラーゼ連鎖反応法によるJAK2変異,および陰性であればCALRまたはMPLの変異解析

  • 場合により骨髄検査

血小板数は450,000/μL(450 × 109/L)を超えるが,1,000,000/μL(1000 × 109/L)を超えることもある。妊娠中には血小板数が減少することがある。末梢血塗抹標本で,巨大血小板,および巨核球の断片がみられることがある。

本態性血小板血症は除外診断であり,血小板増多および他の骨髄増殖性腫瘍の一般的な反応性の原因が除外された患者で考慮すべきである。血球減少が同定された場合は,骨髄異形成症候群を考慮すべきである。

本態性血小板血症が疑われる場合は,慢性骨髄性白血病(CML,血小板増多のみが現れる可能性がある)を除外するためのBCR-ABLアッセイとともに,血算,末梢血塗抹標本,鉄検査,および定量的JAK2 V617Fアッセイを含む遺伝子検査を実施すべきである。JAK2およびBCR-ABLアッセイが陰性の場合は,CALRおよびMPL変異アッセイの検査を行うべきである。本態性血小板血症の診断は,ヘマトクリット,白血球数,平均赤血球容積(MCV),および鉄の検査が正常で,かつBCR-ABL転座を認めないことから示唆される。

JAK2 V617F陽性の本態性血小板血症ではドライバー遺伝子のアレル量が50%を超えないため,遺伝子変異解析は常に定量的に行うべきである。定量的なアレル量が50%を超える場合は,真性多血症または原発性骨髄線維症が示唆される。しかし,定量的なアレル量が50%未満であっても,真性多血症または原発性骨髄線維症が確実に除外されるわけではなく,これは,これら2つの疾患が血小板増多のみを呈することがあり,真性多血症では,血漿量の増加が赤血球量の増加をマスクすることがあるためである。また,最初に本態性血小板血症とみられる患者(主に女性)の約25%は,時間の経過とともに顕性の真性多血症に移行し,ヘマトクリットの上昇とJAK2V617Fアレル量の増加がみられる。

世界保健機関(World Health Organization:WHO)のガイドラインでは,骨髄生検で大型成熟巨核球数の増加を認めることが本態性血小板血症の診断に必要であると示唆しているが,この基準は前向きに妥当性が検証されたことがなく,また骨髄検査では本態性血小板血症を真性多血症と鑑別できない。しかしながら,骨髄生検を用いて有意な線維化の有無を判定できる。

本態性血小板血症の予後

期待余命は正常に近い。症状がよくみられるが,疾患の経過は良性の場合が多い。動脈の重篤な血栓性合併症はまれであるが,生命を脅かす可能性がある。白血病への転化を起こす患者は2%未満であるが,ヒドロキシカルバミドなどの細胞傷害性治療薬に曝露すると可能性が高くなる。一部の患者,特にJAK2V617FまたはCALRのtype 1の変異を有する男性は,二次性骨髄線維症を発症する。

本態性血小板血症の治療

  • アスピリン

  • 抗血小板薬(例,ヒドロキシカルバミド,アナグレリド)

  • まれに血小板アフェレーシス

  • まれに細胞傷害性薬剤

  • まれにインターフェロン

  • まれに造血幹細胞移植

軽度の血管運動症状(例,頭痛,軽度の指の虚血,肢端紅痛症)の場合および低リスク患者で血栓症リスクを低下させる場合は,アスピリン81mgの1日1回経口投与で通常は十分であるが,必要であればより高用量を用いることがある。重度の片頭痛をコントロールするために血小板数の減少が必要になることがある。妊娠中のアスピリンの有用性は証明されておらず,本態性血小板血症でCALR変異を有する患者では出血を引き起こすことがある。

アミノカプロン酸またはトラネキサム酸は,歯科処置などの小さな処置の際に後天性フォン・ヴィレブランド病による出血をコントロールするのに効果的である。血小板数を最適化するためには大規模な手技が必要になることがある。

本態性血小板血症に同種幹細胞移植が用いられるのはまれであるが,急性白血病への転化が認められた場合には効果的となる可能性がある。

血小板数の低下

予後は通常良好であり,血小板増多の程度と血栓症との間に相関は認められないため,血小板数を低下させる薬剤で毒性を有する可能性がある場合,無症状の患者の血小板数を正常化するためだけに用いるべきではない。血小板数を低下させる治療に対して一般に同意が得られている適応は,以下のものである:

  • 心血管系危険因子

  • 一過性脳虚血発作

  • 高齢

  • 有意な出血

  • 極度の血小板増多がありリストセチン補因子活性が低い患者において手術の必要性がある

  • 場合によって重度の片頭痛

しかし,血小板数を低下させるための細胞傷害性薬剤による治療によって血栓リスクが低下すること,または生存期間が延長することを証明するデータはない。JAK2陽性かつ/または65歳以上の患者は,血栓塞栓性の合併症のリスクが最も高い。

血小板数を低下させるために用いられる薬剤には,アナグレリド,インターフェロンα-2b,およびヒドロキシカルバミドがある。一般にはヒドロキシカルバミドが短期治療で選択すべき薬剤であると考えられている。アナグレリドおよびヒドロキシカルバミドは胎盤を通過するため,妊娠中には用いられない;妊婦には,必要であればインターフェロンα-2aを使用できる。片頭痛に対しては,専用の片頭痛薬が効果的でない場合,インターフェロンが最も安全な治療法である。アナグレリドは心血管系(例,動悸,不整脈)および腎臓(例,体液貯留)に影響を及ぼすため,高齢患者では慎重に使用すべきである。

ヒドロキシカルバミドの処方はその使用とモニタリングに精通する専門医のみが行うべきである。ヒドロキシカルバミドは,500~1000mgの1日1回経口投与で開始する。週1回の血算により患者のモニタリングを行う。白血球数が4000/μL(4 × 109/L)未満に低下した場合,ヒドロキシカルバミドを中止し,値が正常に回復した後に50%用量で再開する。定常状態に達した場合は,血算の間隔を2週間毎に,次いで4週間毎に延長する。その目的は症状の緩和であり,血小板数の正常化ではない。ヒドロキシカルバミドの中止が早すぎると,急速なリバウンドと血小板の周期変動(platelet cycling)に至る可能性がある。

ルキソリチニブは,真性多血症および原発性骨髄線維症に使用される薬剤であり,他の治療に抵抗性を示す本態性血小板血症患者を対象として研究が行われている。

重篤な出血または反復性血栓症を認めるまれな症例に対して,また緊急手術前に血小板数を迅速に低下させる目的で,血小板を除去する血小板アフェレーシスが用いられている。ただし,血小板アフェレーシスが必要になるのはまれである。その効果は一時的であり,血小板数はすぐに元に戻る。ヒドロキシカルバミドまたはアナグレリドでは迅速な効果が得られないが,血小板アフェレーシスと同時に開始すべきである。

本態性血小板血症の要点

  • 本態性血小板血症は,多能性造血幹細胞のクローン性の異常であり,血小板増多をもたらす。

  • 患者は,微小血管血栓症,出血,およびまれに大血管の血栓症のリスクが高い。

  • 本態性血小板血症では除外診断が用いられる;特に他の骨髄増殖性腫瘍および反応性(二次性)血小板増多症を除外しなければならない。

  • 無症状の患者には治療の必要はない。微小血管イベント(眼性片頭痛,肢端紅痛症,および一過性脳虚血発作)に対しては,通常はアスピリンが効果的である。

  • 極度の血小板増多がみられる患者では,血小板数をコントロールするためのより積極的な治療が必要でありそのような方法としては,ヒドロキシカルバミド,アナグレリド,インターフェロンα-2b,血小板アフェレーシスなどがある。

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