原発性骨髄線維症

執筆者:Jane Liesveld, MD, James P. Wilmot Cancer Institute, University of Rochester Medical Center
レビュー/改訂 2020年 9月
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原発性骨髄線維症(PMF)は,骨髄線維化,脾腫,ならびに有核および涙滴赤血球を伴う貧血を特徴とする,慢性の骨髄増殖性腫瘍である。診断には骨髄検査が必要で,骨髄線維化(二次性骨髄線維症)の原因となりうる他の疾患を除外する。治療は支持療法となることが多いが,ルキソリチニブやフェドラチニブなどのJAK2阻害薬により症状を軽減できる場合があり,造血幹細胞移植により治癒が得られる可能性もある。

骨髄増殖性腫瘍の概要も参照のこと。)

原発性骨髄線維症の病態生理

骨髄線維症は反応性の可逆的な骨髄コラーゲンの増加であり,しばしば髄外造血(主に脾臓)を伴う。骨髄線維症には以下の場合がある:

原発性骨髄線維症は,多能性骨髄幹細胞が腫瘍化することで生じる。そうして生じた原発性骨髄線維症の子孫細胞は,骨髄線維芽細胞を刺激して(これは腫瘍化の1つではない)過剰なコラーゲン分泌をもたらす。原発性骨髄線維症の発生率のピークは50~70歳にあり,主に男性に発生する。

原発性骨髄線維症の症例ではヤヌスキナーゼ2(JAK2)遺伝子の変異が高い割合でみられる。JAK2はチロシンキナーゼファミリーに属する酵素であり,エリスロポエチン,トロンボポエチン,および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)のシグナル伝達に関与する物質の1つである。トロンボポエチン受容体遺伝子(MPL),またはカルレティキュリン(CALR)遺伝子の変異も,原発性骨髄線維症の原因となることがある。しかしながら,原発性骨髄線維症では,これら3つの変異がいずれも認められない,まれな症例もある(トリプルネガティブ原発性骨髄線維症)。そのような患者の一部では,次世代シークエンシングによってのみ検出できるその他のまれなMPL変異がみられる。

原発性骨髄線維症では,髄外造血(すなわち,骨髄が線維化するために骨髄以外の臓器が造血を代償する)が行われると,有核赤血球(正赤芽球)および骨髄細胞が循環血中に放出される(白赤芽球症)。血清乳酸脱水素酵素値が上昇することが多い。最終的には骨髄不全に至り,結果として貧血および血小板減少を生じる。急速進行性であり,化学療法では治癒不能な急性白血病が約30%の患者にみられる。

悪性骨髄線維症(ときに急性骨髄線維症とも呼ばれる)は,汎血球減少,骨髄芽球症,および骨髄線維化を特徴とする骨髄線維症のまれな亜型で,より急速に進行して悪化する経過をたどり,急性巨核芽球性白血病と呼ばれる急性白血病の一種に起因する場合が多い。

表&コラム

原発性骨髄線維症の症状と徴候

骨髄線維症では,無症状の患者が多い。貧血,脾腫の症状のほか,後期において全身倦怠感,体重減少,発熱,または脾梗塞の症状がみられる患者もいる。一部の患者に肝腫大が生じる。リンパ節腫脹はまれである。重度の髄外造血によって,脳を含め髄外造血が生じている臓器の機能が障害されることがある。

原発性骨髄線維症の診断

  • 血算および末梢血塗抹検査

  • 骨髄検査

  • JAK2CALR,およびMPL変異の検査

脾腫,脾梗塞,および貧血を認める患者では,原発性骨髄線維症を疑うべきである。本疾患が疑われる場合は,血算を行い,末梢血の形態検査および骨髄生検を行うべきである。骨髄検査で骨髄線維症が存在する場合(過剰なコラーゲンおよび骨硬化を示す鍍銀染色またはトリクローム染色により検出される),適切な臨床的評価および臨床検査により骨髄線維症を合併する他の疾患(骨髄線維症を合併する疾患の表を参照)を除外すべきである。原発性骨髄線維症の診断は,JAK2CALR,またはMPLの変異を検出することで確定する。より広範な次世代シークエンシングを用いたパネル検査は,白血病への転化のリスク増加に関連する遺伝子変異を検出できる可能性があり,したがって予後に有用となりうる。

典型的には貧血がみられ,通常は経時的に悪化する。血球の形態は様々である。赤血球は異型である。網状赤血球増多および多染性がみられる場合がある;形態学的には,涙のしずくの形の赤血球(涙滴赤血球)を特徴とする。典型的に末梢血中に有核赤血球および好中球前駆細胞がみられる。白血球数は,通常増加するが,その程度は様々である。進行期では,急性白血病が認められない場合でも,骨髄芽球がみられることがある。初期の血小板数は高値,正常値,低値のいずれの可能性もあるが,進行に伴い血小板減少を併発するようになる傾向がある。

原発性骨髄線維症の予後

原発性骨髄線維症における生存期間の中央値は,発症から5年であるが,患者により大幅に異なる;急速に進行する疾患で生存期間が短い場合(急性骨髄性白血病を発症する場合など)もあるが,大半はより緩徐な経過をたどる。同種造血幹細胞移植でのみ治癒が得られる。

予後不良を示すマーカーとして,ヘモグロビンが10g/dL(100g/L)未満,輸血の既往,白血球増多,および血小板数100,000/μL(100 × 109/L)未満がある。最も予後不良なリスク群の患者では,生存期間が通常1年未満であるが,低リスク患者では生存期間の中央値が10年である。いくつかの予後スコアリングシステムが生存期間の予測に利用できる。

予後判定を支援し,内科的治療または幹細胞移植の開始判断の指針となる有用なリスク層別化システムがいくつか利用できる。骨髄異形成症候群に対する国際予後スコアリングシステム(International Prognostic Scoring System:IPSS)は,新たに診断された原発性骨髄線維症に使用されており,骨髄異形成症候群に対する動的国際予後スコアリングシステム(Dynamic International Prognostic Scoring System;DIPSS)は,進行または疾患進行に伴う生存期間を予測するために使用できる(1)。一部のスコアリングシステムには細胞遺伝学的所見および分子マーカーも組み込まれている(例,DIPSS-Plus)。

予後に関する参考文献

  1. 1.Passamonti F, Cervantes F, Vannuchi AM, et al: Dynamic International Prognostic Scoring System (DIPSS) predicts progression to acute myeloid leukemia in primary myelofibrosis.Blood 115:1703-1709, 2010.

原発性骨髄線維症の治療

  • 対症療法

  • ときに同種造血幹細胞移植

  • ときにルキソリチニブまたはフェドラチニブ

治療は症状および合併症に対して行う。一部の患者は無治療で経過観察できる。

初期の原発性骨髄線維症では,ペグインターフェロンにより骨髄線維化を軽減し,脾臓サイズを縮小できることが示されており,低リスクの患者に使用できる。

現在,進行した原発性骨髄線維症に対し,非特異的にJAK経路を阻害するルキソリチニブが第1選択の治療法である。ルキソリチニブは,JAK2変異または脾腫の有無にかかわらず効果的である。ルキソリチニブの主な有害作用は貧血と血小板減少である。離脱症候群が生じる可能性があり,脾腫および炎症性サイトカインのリバウンドを一因として症状の有意な悪化を来すことがあるため,ルキソリチニブを中止する際は注意しなければならない。症状のコントロールのために低用量コルチコステロイドを短期間用いることがある。

同じくJAK阻害薬であるフェドラチニブは,ルキソリチニブに対する抵抗性または不耐容がある場合に使用できる。ルキソリチニブに対する不耐容が生じた患者でも,休薬期間を置けば再び耐えられるようになる場合がある。

進行例には,同種造血幹細胞移植が有益となる場合がある。比較的高齢の患者で骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植が用いられ,成功を収めている。

症状緩和を目的として,アンドロゲン,エリスロポエチン,脾臓摘出,化学療法,サリドマイド,レナリドミド,脾臓塞栓術,および放射線療法が試みられている。これらのうち脾腫,貧血,血小板減少,および循環血中芽球のコントロールには,低用量のサリドマイドおよびプレドニゾンが有効な可能性がある。しかし,その他の方法は有効性が限定的であるか,重大な有害作用がある。可能であれば脾臓摘出は避けるべきである;脾臓への放射線照射は一時的な効果しかなく,重度の好中球減少および感染症を引き起こす可能性がある。

原発性骨髄線維症の要点

  • 骨髄線維症は,過度の骨髄線維化であり,しばしば造血細胞の喪失およびそれによる髄外造血を伴う。

  • 骨髄線維症は,原発性である場合が多いが,いくつかの悪性および良性の血液疾患(真性多血症や本態性血小板増多症など)に続発する場合もある。

  • 原発性骨髄線維症はクローン性の造血幹細胞疾患であり,しばしばJAK2CALR,またはMPLの変異を伴う。

  • 診断は,血算,末梢血塗抹標本および骨髄の検査,ならびにJAK2MPL,および/またはCALR変異の分子生物学的検査による。

  • 一部の患者では進行が緩徐であり迅速な治療を必要としないが,患者によっては急速に悪化の経過をたどり生存期間が短い場合もある。

  • ルキソリチニブが症状をコントロールするための第1選択の治療法である;選択された症例では同種造血幹細胞移植が有益なことがある。

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