血液製剤

執筆者:Ravindra Sarode, MD, The University of Texas Southwestern Medical Center
レビュー/改訂 2020年 5月
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    全血により,酸素運搬能の改善,血液量の増加,および凝固因子の補充が可能となり,過去には急速な大量失血に対して全血輸血が推奨されていた。しかしながら,成分輸血療法も同等に効果的であり,献血血液をより効率的に使用できることから,米国では一般に全血は利用できなくなっている。

    赤血球

    通常は,濃厚赤血球が選択すべき成分で,これを用いてヘモグロビン(Hb)を増加させる。適応は,患者によって異なる。健康状態が良好な患者であれば,ヘモグロビン値が7 g/dL (70 g/L) と低くとも酸素運搬能が十分な場合があるが,心肺予備能が低い患者または出血が持続している患者では,ヘモグロビン値がこれより高くとも輸血が適応となる場合がある。赤血球1単位の輸血により,平均的成人のヘモグロビンが輸血前の値より約1g/dL増加する(ヘマトクリット値は約3%増加)。血液量の増加のみが必要な場合は,他の輸液を同時または個別に実施可能である。複数の血液型に対する抗体を有する患者,または高頻度赤血球抗原に対する抗体を有する患者では,まれに凍結赤血球が用いられる。

    洗浄赤血球は,微量の血漿のほぼ全て,白血球のほとんど,および血小板を取り除いたものである。一般に,血漿に対して重度の反応(例,重度のアレルギー,発作性夜間血色素尿症,またはIgA免疫化)を示す患者に投与される。IgAに対する抗体を有する患者における輸血では,IgA欠損症の供血者から採取した血液が望ましい場合がある。

    白血球除去赤血球は,特殊フィルターを用いて99.99%以上の白血球を取り除いたものである。非溶血性の発熱性輸血反応の既往がある患者に対して,交換輸血に対して,サイトメガロウイルス陰性血液が必要な患者で入手不能な場合に対して,および場合によって血小板輸血不応性(血小板輸血後に目標の血小板数に達しない)の予防に役立つヒト白血球抗原(HLA)同種免疫の阻止に対して適応となる。

    新鮮凍結血漿

    新鮮凍結血漿(FFP)は,血小板以外の全ての凝固因子の非濃縮供給源である。凝固因子欠乏により発生した出血で特定の凝固因子補充が利用できない場合,複数の凝固因子欠乏状態(例,大量輸血,播種性血管内凝固症候群[DIC],肝不全),およびワルファリン緊急反転でプロトロンビン複合体製剤(PCCが第一選択である)が入手できない場合に適応となる。FFPは,全血が交換輸血用に入手できないときに赤血球を補充できる。FFPは,単に血漿量の増量または手術前に軽度から中等度の凝固障害の是正を行うために用いるべきではない。現在では,ほとんど全ての病原体の伝播を回避するべく,溶媒を用いた洗浄法により得られた病原体不活化血漿が利用可能となっている。最近では,COVID-19(SARS-CoV-2)のパンデミック時に,この感染症から完全に回復した個人から提供された回復期血漿が治療の選択肢として用いられているが,その成果は一定ではない。過去には,エボラおよびH1N1インフルエンザの流行中に回復期血漿が使用されている。

    クリオプレシピテート

    クリオプレシピテートは,新鮮凍結血漿から調製された濃縮製剤である。各濃縮製剤には,一般に血液凝固第VIII因子およびフォン・ヴィレブランド因子がそれぞれ約80単位,フィブリノーゲンが約250mg含まれている。さらに,ADAMTS13(先天性の血栓性血小板減少性紫斑病で欠乏している酵素),フィブロネクチン,および血液凝固第XIII因子も含まれている。クリオプレシピテートは,最初に血友病およびフォン・ヴィレブランド病に用いられたが,現在では出血を伴う急性DICにおけるフィブリノーゲンの供給源として,また尿毒症性出血の治療,胸部手術(フィブリン糊),産科における常位胎盤早期剥離およびHELLP症候群(溶血,肝酵素値上昇,および血小板数低値)などの緊急時,ならびにまれな凝固因子の第XIII因子欠乏症でヒト凝固因子の第XIII因子濃縮製剤が利用できない場合に使用されている。一般に,他の適応で使用してはならない。

    白血球

    深刻な好中球減少症(好中球が500/μL[0.5 × 109/L]未満)が持続する患者において敗血症が発生し,抗菌薬を投与しても効果がみられない場合に顆粒球輸血が行われることがある。顆粒球は,採取後24時間以内に投与しなければならないが,顆粒球輸血前にHIV,肝炎,ヒトT細胞白血病ウイルス,梅毒の検査が完了しない可能性がある。抗菌薬療法の進歩および化学療法中に顆粒球の産生を刺激する薬剤の改良により,顆粒球が使用されることはほとんどない。

    免疫グロブリン

    Rh免疫グロブリン(RhIg)を筋注または静注により投与することで,胎児母体間輸血により発生する可能性がある母親のRh抗体産生が防止される。乳児がRho(D)およびDu 陰性であるか,すでに母体の血清中に抗Rho(D)が含まれていない限り,Rh陰性の母親に対しては,中絶または分娩(生児出産または死産)直後に筋注RhIgの標準用量(300μg)を投与しなければならない。胎児母体間輸血が30mLを超える場合は,さらに高用量の投与が必要である。この量の出血が疑われる場合は,胎児母体間輸血量の検査をロゼットスクリーニング試験から開始し,陽性であれば,次に定量検査(例,Kleihauer-Betke試験)を実施する。

    RhIgは,免疫性血小板減少症(ITP)の治療にも使用され,その場合は静注で投与される。

    サイトメガロウイルスA型肝炎B型肝炎麻疹狂犬病RSウイルス風疹破傷風天然痘水痘など,いくつかの感染症に曝露した患者では,曝露後予防に他の免疫グロブリンが利用可能である(用法については,各疾患を参照)。

    血小板

    以下を適応として濃厚血小板が使用される:

    • 無症状の重度血小板減少症(血小板数が10,000/μL[10 × 109/L]未満)における出血予防

    • 重症度の低い血小板減少症(血小板数が50,000/μL[50 × 109/L]未満)の出血患者

    • 抗血小板薬により血小板機能異常であるが,血小板数は正常な出血患者

    • 大量輸血を受けて,希釈性血小板減少症となった患者

    濃厚血小板は,侵襲的手術で特に2時間を超える体外循環(これにより血小板が機能不全に陥ることが多い)を実施する場合に術前投与されることもときにある。1単位の濃厚血小板輸血により,血小板数が約10,000/μL増加し,合併症のない患者で約10,000/μL(10 × 109/L),手術を受ける患者で約50,000/μL(50 × 109/L)の血小板数であれば,十分な止血が達成される。そのため,成人では全血4~5単位のプールに由来する濃厚血小板が一般的に用いられる。

    濃厚血小板は,血小板(または他の細胞)を採取して不要な成分(例,赤血球,血漿)を供血者に戻す自動化された装置によって調製されることが多くなってきている。この処置は血小板アフェレーシスと呼ばれるもので,1回の供血(全血血小板4~5単位に相当)から1人の成人への輸血に十分な血小板が得られ,感染性および免疫原性リスクが最小限に抑えられるため,特定の疾患では複数供血者由来の輸血よりも望ましい。

    特定の患者は血小板輸血に反応しない場合があり(不応性と呼ばれる),これは血小板のsplenic sequestration,播種性血管内凝固症候群による血小板消費,HLAまたは血小板特異抗原の同種免疫応答による血小板破壊(および免疫介在性破壊)のいずれかが原因である可能性がある。患者が輸血に不応性の場合,可能であれば同種免疫について検査する。免疫介在性破壊がみられる患者では,プールされた全血血小板(いくつかはHLA適合する可能性がより高くなるため),家族からの血小板,ABO型またはHLA適合血小板のいずれかに反応する可能性がある。HLA同種免疫応答は,白血球除去赤血球および白血球除去濃厚血小板の輸血により軽減される場合がある。

    化学物質(アモトサレン)を用いて不活化した病原体不活化血小板も臨床用途で利用可能である。

    他の血液製剤

    照射済血液製剤は,移植片対宿主病のリスクのある患者における予防に用いられる。

    酸素を運搬し組織に届ける不活性化学物質(例,パーフルオロカーボン)またはヘモグロビン溶液を用いた代用血液を開発するために,様々な試みが行われている。これらの代用ヘモグロビンは,救急時に組織へ酸素を届ける能力があると期待されたが,いくつかの臨床試験では,死亡率が高く,有害な心血管系毒性(例,低血圧)が重度であったために,失敗に終わっている。現在では,様々な幹細胞供給源から血小板および赤血球を再生する試みが進められている。

    骨髄破壊的治療または骨髄毒性治療を受けた患者では,造血機能(特に免疫機能)を再構築する方法として,自己または同種供血者由来の造血幹細胞が輸血可能である。

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