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巨赤芽球性貧血

執筆者:

Evan M. Braunstein

, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 3月
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巨赤芽球性貧血は,そのほとんどがビタミンB12および葉酸の欠乏により生じる。無効造血は全ての血球系統に影響を及ぼすが,特に赤血球に強く影響する。診断は通常,血算および末梢血塗抹標本に基づき,通常はこれにより赤血球大小不同および変形赤血球増多を伴う大球性貧血,卵円形の大きな赤血球(大楕円赤血球),ハウエル-ジョリー小体(核の残留断片),過分葉好中球,ならびに網状赤血球減少が明らかになる。治療は基礎疾患に対して行う。

巨赤芽球は,DNA合成障害のためにクロマチンが濃縮されていない,大型かつ有核の赤血球前駆細胞である。大赤血球は大型化した赤血球(すなわち,平均赤血球容積[MCV]が100fL/細胞を超える)である。大球性赤血球は様々な臨床状況で生じ,その多くは巨赤芽球の成熟とは無関係である。

非巨赤芽球性大赤血球症

ビタミンB12欠乏症 ビタミンB12欠乏症 食事によるビタミンB12欠乏症は通常,不十分な吸収に起因するが,ビタミンサプリメントを摂らない完全菜食主義者に欠乏症が生じることがある。欠乏症により,巨赤芽球性貧血,脊髄および脳の白質への障害,ならびに末梢神経障害が起こる。診断は通常,血清ビタミンB12値の測定によって行う。シリング試験が病因の特定に役立つ。治療はビタミンB12の経口または静脈内投与による。葉酸塩(葉酸)は,貧血を軽減することがあるが,神経脱落症状を進行させることがある... さらに読む または 葉酸欠乏症 葉酸欠乏症 葉酸欠乏症はよくみられる。不十分な摂取,吸収不良,または様々な薬物の使用の結果生じることがある。欠乏症は巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏症によるものと鑑別できない)を引き起こす。母体に葉酸欠乏症があると,神経管の先天異常のリスクが高まる。確定診断には臨床検査が必要である。好中球の過分葉の測定は,高感度であり容易に利用できる。通常は葉酸の経口投与による治療が奏効する。 米国およびカナダでは現在,栄養強化穀類食品に葉酸が添加されている。葉... さらに読む による大球性(すなわち,MCVが100fL/細胞を超える)貧血は,巨赤芽球性である。非巨赤芽球性大赤血球症(nonmegaloblastic macrocytosis)は,様々な臨床状態で発生するが,その全てが解明されているわけではない。大赤血球症の患者では,大赤血球症とは無関係の機序によって貧血が発生することがある。

赤血球膜の過剰に起因する大赤血球症は,慢性肝疾患でコレステロールのエステル化に障害がある患者に生じる。MCVが約100~105fL/細胞の大赤血球症は,葉酸の欠乏がない状況での慢性的な飲酒により発生することがある。 再生不良性貧血 再生不良性貧血 再生不良性貧血は,血球前駆細胞の減少,骨髄の低形成または無形成,および2系統以上(赤血球,白血球,血小板)の血球減少が生じる造血幹細胞の疾患である。症状は貧血,血小板減少症(点状出血,出血),または白血球減少症(感染症)によって引き起こされる。診断には,末梢血塗抹での汎血球減少と骨髄生検での骨髄低形成の証明が必要である。治療としては通常,ウマ抗胸腺細胞グロブリン【訳注:現在,日本で使用できるのはウサギ抗胸腺細胞グロブリンのみである。】お... さらに読む 再生不良性貧血 では,特に回復時に,軽度の大赤血球症がみられることがある。 骨髄異形成 骨髄異形成症候群(MDS) 骨髄異形成症候群(MDS)は,末梢の血球減少症,異形成の造血前駆細胞,過形成または低形成の骨髄,および 急性骨髄性白血病への移行リスクが高いことを特徴とする疾患群である。症状は最も強く障害された特定の細胞系列に由来するものであり,具体的には易疲労感,筋力低下,蒼白(貧血に起因),感染および発熱の増加(好中球減少症に起因),出血および皮下出血の増加(血小板減少症に起因)などがみられる。診断は血算,末梢血塗抹検査,骨髄穿刺および骨髄生検によ... さらに読む でも大赤血球症がしばしばみられる。赤血球は骨髄から放出後に脾臓で膜の変形が起こるため,脾臓摘出後の赤血球はわずかに大球性となることがあるが,これらの変化は貧血と無関係である。網状赤血球増多(例,溶血性貧血における)によって大赤血球症が引き起こされることがある。

非巨赤芽球性大赤血球症は,大球性貧血の患者で,検査によりビタミンB12欠乏症または葉酸欠乏症が除外された場合に疑われる。古典的な巨赤芽球性貧血に典型的な末梢血塗抹標本上の卵円形の大きな赤血球(大楕円赤血球)および赤血球分布幅増加は認められないことがある。非巨赤芽球性大赤血球症が臨床的に(例, 再生不良性貧血 再生不良性貧血 再生不良性貧血は,血球前駆細胞の減少,骨髄の低形成または無形成,および2系統以上(赤血球,白血球,血小板)の血球減少が生じる造血幹細胞の疾患である。症状は貧血,血小板減少症(点状出血,出血),または白血球減少症(感染症)によって引き起こされる。診断には,末梢血塗抹での汎血球減少と骨髄生検での骨髄低形成の証明が必要である。治療としては通常,ウマ抗胸腺細胞グロブリン【訳注:現在,日本で使用できるのはウサギ抗胸腺細胞グロブリンのみである。】お... さらに読む 再生不良性貧血 ,慢性肝疾患,または飲酒の存在により)説明できない場合や, 骨髄異形成 骨髄異形成および鉄輸送障害による貧血 骨髄異形成症候群では,貧血が顕著であることが多い。この種の貧血は,通常は正球性または大球性であり,二相性(大型と小型)の循環赤血球がみられることがある。( 赤血球産生低下の概要も参照のこと。) 骨髄検査により,赤血球造血の活動性低下,巨赤芽球様,および異形成性変化に加え,ときに環状鉄芽球数の増加が認められる。 治療は悪性腫瘍を標的として行い,増殖因子製剤を使用することが多い。... さらに読む が疑われる場合は,骨髄検査と細胞遺伝学的検査を行ってもよい。非巨赤芽球性大赤血球症では,骨髄が巨赤芽球性ではなく,一方,骨髄異形成および進行した肝疾患では,巨赤芽球性貧血に通常みられる微細な小線維性パターンとは異なる高密度の核染色質を伴う巨赤芽球性赤血球前駆細胞がみられる。

病因

巨赤芽球性状態の最も一般的な原因は以下のものである:

ビタミンB12欠乏症の最も一般的な原因は,内因子分泌障害による悪性貧血である(通常は自己抗体の発現に続発する― 自己免疫性萎縮性胃炎 自己免疫性萎縮性胃炎 自己免疫性萎縮性胃炎(autoimmune metaplastic atrophic gastritis)は,壁細胞が障害される遺伝性の自己免疫疾患であり,低酸症と内因子の産生低下が生じる。その結果,萎縮性胃炎,ビタミンB12吸収不良,しばしば悪性貧血などが発生する。胃腺癌のリスクが3倍増加する。診断は内視鏡検査による。治療はビタミンB12の注射を行う。 ( 胃酸分泌の概要および... さらに読む 自己免疫性萎縮性胃炎 を参照)。悪性貧血は高齢でなくとも発生する可能性がある。その他の一般的な原因は,胃炎,胃バイパス術,および条虫感染による吸収不良である。食事による欠乏症はまれであるが,完全菜食主義者で起こる可能性がある。

巨赤芽球症のその他の原因としては,DNA合成を阻害する薬剤(一般にヒドロキシカルバミドなどの抗腫瘍薬,または免疫抑制薬)や,まれな代謝性疾患(例,遺伝性オロト酸尿症)などがある。

病態生理

巨赤芽球性状態は,DNA合成障害によりもたらされる。RNA合成が継続することにより,核が大きな大型の細胞が生じる。全ての血球系統が成熟障害を起こし,細胞質の成熟が核の成熟を上回る;この成熟障害により骨髄で巨赤芽球が産生され,その後末梢血中に現れる。成熟障害のために骨髄内で細胞死が起こり,それにより無効造血となる。成熟障害は全ての血球系統に影響を及ぼすため,まず網状赤血球減少症が生じ,その後の段階で 白血球減少症 白血球減少症の概要 白血球減少症は,循環血中の白血球数が4000/μL(4 × 109/L)未満に減少することである。通常は循環血中の好中球数の減少を特徴とするが,リンパ球,単球,好酸球,または好塩基球の数の減少も一因となる場合がある。その結果,一般に免疫機能が低下することがある。... さらに読む 血小板減少症 血小板疾患の概要 血小板は,凝固系で機能する細胞片である。トロンボポエチンは,その細胞質から血小板を産生・分離する巨核球を産生するよう骨髄を刺激することによって,循環血小板の数をコントロールすることに役立っている。トロンボポエチンは,肝臓において一定のペースで産生され,その循環血中濃度は,循環血小板が除去される程度のほか,おそらく骨髄の巨核球によって規定さ... さらに読む 血小板疾患の概要 が発生する。大楕円赤血球が循環血中に移行する。好中球の過分葉化が一般的にみられる。通常はハウエル-ジョリー小体(核の断片が残留したもの)がみられる。鉄欠乏症または鉄利用障害を併発している場合には,大赤血球症にならないことがある。

症状と徴候

巨赤芽球性貧血は潜行性に発生し,貧血が重度になるまで症状が出現しないことがある。下痢,舌炎,食欲不振など,消化管症状が一般的である。末梢神経障害や歩行不安定などの神経症状は,ビタミンB12欠乏症に固有のものであり,長期化すれば永続的なものになることがある。錯感覚がビタミンB12欠乏症の初発症状となることがあり,貧血に先立って(または貧血がない場合に)みられることがある。

診断

  • 血算,赤血球指数,網状赤血球数,および末梢血塗抹検査

  • ビタミンB12および葉酸値

巨赤芽球性貧血は,大球性の赤血球指数を示す貧血患者で疑われる。危険因子があり,原因不明の錯感覚および/または赤血球分布幅(RDW)高値がみられる患者でも考慮すべきである。診断は通常, 末梢血塗抹検査 血液塗抹検査 貧血では,赤血球の数が減少する(赤血球数,ヘマトクリット,または赤血球ヘモグロビン量で測定する)。男性では,貧血はヘモグロビン < 14g/dL(140g/L),ヘマトクリット < 42%(< 450万/μL(12/L)と定義されている。女性では,ヘモグロビン < 12g/dL(120g/L),ヘマトクリット < 37%(<... さらに読む 血液塗抹検査 に基づく。貧血が完全に進行した場合は,鉄欠乏症,サラセミア形質,腎疾患がなければ,MCVが100fL/細胞を超える大球性となる。塗抹標本では,大楕円赤血球症,赤血球大小不同(赤血球の大きさのばらつき),および変形赤血球増多(赤血球の形状のばらつき)がみられる。

RDWが高値となる。ハウエル-ジョリー小体がよくみられる。網状赤血球減少症が現れる。顆粒球の過分葉化が早期に出現する;その後に好中球減少症が発生する。重症例では血小板減少症が多くみられ,血小板の大きさおよび形状が異常な場合がある。鉄欠乏症によって大赤血球症が覆い隠されることがあるが,それでもハウエル-ジョリー小体と顆粒球の過分葉は認められるはずである。

ビタミンB12および葉酸の血清中濃度を測定すべきである。ビタミンB12濃度が200pg/mL(147.6pmol/L)未満となるか,葉酸濃度が2ng/mL(4.53nmol/L)未満となれば,一般に欠乏症と診断できる。ビタミンB12値が200~300pg/mL(147.6~221.3pmol/L)の場合は診断には至らない。

ビタミンB12値で診断に至らない場合は,メチルマロン酸(MMA)とホモシステイン(HCY)の両方の測定値を確認すべきである。ビタミンB12欠乏症ではMMAとHCYの両方の血清中濃度が上昇するが,葉酸欠乏症ではHCYのみが上昇する。腎機能不全があるとMMA値が上昇する。

ビタミンB12欠乏症と確認された場合は,内因子に対する自己抗体の存在を調べる検査を行うべきである。

検査を行い,ビタミン欠乏症の原因を特定する。

治療

  • 適切なビタミンの補充

適切なビタミンの補充が必要である。葉酸の補充の前には,必ずビタミンB12欠乏症を除外する。そうしないと,合併しているビタミンB12欠乏症がマスクされ,神経学的合併症の進行につながる可能性がある。

葉酸欠乏症 ビタミンB12欠乏症 食事によるビタミンB12欠乏症は通常,不十分な吸収に起因するが,ビタミンサプリメントを摂らない完全菜食主義者に欠乏症が生じることがある。欠乏症により,巨赤芽球性貧血,脊髄および脳の白質への障害,ならびに末梢神経障害が起こる。診断は通常,血清ビタミンB12値の測定によって行う。シリング試験が病因の特定に役立つ。治療はビタミンB12の経口または静脈内投与による。葉酸塩(葉酸)は,貧血を軽減することがあるが,神経脱落症状を進行させることがある... さらに読む および ビタミンB12欠乏症 治療 食事によるビタミンB12欠乏症は通常,不十分な吸収に起因するが,ビタミンサプリメントを摂らない完全菜食主義者に欠乏症が生じることがある。欠乏症により,巨赤芽球性貧血,脊髄および脳の白質への障害,ならびに末梢神経障害が起こる。診断は通常,血清ビタミンB12値の測定によって行う。シリング試験が病因の特定に役立つ。治療はビタミンB12の経口または静脈内投与による。葉酸塩(葉酸)は,貧血を軽減することがあるが,神経脱落症状を進行させることがある... さらに読む の治療については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。巨赤芽球性状態を引き起こす薬剤は中止するか,減量して投与する必要がある。

ビタミン欠乏症の病因も治療すべきである。

要点

  • 巨赤芽球は,クロマチンの濃縮がみられない大型で有核の赤血球前駆細胞である。

  • 巨赤芽球性の大球性貧血の最も一般的な原因は,ビタミンB12または葉酸の欠乏または利用障害である。

  • 血算,赤血球指数,網状赤血球数,および末梢血塗抹検査を行う。

  • ビタミンB12および葉酸の濃度を測定し,メチルマロン酸およびホモシステインの検査を考慮する。

  • ビタミンB12または葉酸欠乏症の原因を治療する。

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