溶血性貧血の概要

執筆者:Evan M. Braunstein, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 9月
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赤血球は正常な寿命(約120日)が尽きると,循環血液から取り除かれる。溶血は,赤血球が未熟な段階で破壊され,それにより赤血球寿命が短くなる(120日未満)ことと定義される。骨髄での赤血球産生が赤血球寿命の短縮を代償できなくなると貧血が生じるが,この状態を非代償性溶血性貧血と呼ぶ。骨髄により代償できている場合,その状態を代償性溶血性貧血と呼ぶ。

溶血性貧血の病因

溶血は以下のいずれかに分類される:

  • 外因性:赤血球外の原因による;赤血球に対する外因性障害は通常後天性である。

  • 内因性:赤血球内の異常による;赤血球の内因性異常(溶血性貧血の表を参照)は通常遺伝性である。

赤血球に対する外因性障害

赤血球に対する外因性障害の原因としては以下のものがある:

感染性微生物は,毒素(例,ウェルシュ菌[Clostridium perfringens],αもしくはβ溶血性レンサ球菌,または髄膜炎菌)の直接作用,微生物(例,Plasmodium属,Bartonella属,Babesia属)による赤血球への侵入と破壊,または抗体産生(例,エプスタイン-バーウイルス,マイコプラズマ)により,溶血性貧血を引き起こす。

赤血球の内因性異常

溶血を引き起こす可能性のある赤血球の内因性異常には,赤血球膜,細胞代謝,またはヘモグロビン構造の異常が関与している。赤血球異常には,先天性の細胞膜障害(例,遺伝性球状赤血球症),後天性の細胞膜障害(例,発作性夜間血色素尿症),赤血球代謝障害(例,グルコース-6-リン酸脱水素酵素[G6PD]欠損症),および異常ヘモグロビン症(例,鎌状赤血球症サラセミア)がある。特定の赤血球膜タンパク質(αおよびβスペクトリン,タンパク質4.1,Fアクチン,アンキリン)の量的および機能的異常は,溶血性貧血の原因となる。

表&コラム

溶血性貧血の病態生理

溶血は以下のように分類できる:

  • 急性

  • 慢性

  • 発作性

溶血は以下のようにも分類できる:

  • 血管外

  • 血管内

  • その両方

正常な赤血球の処理

老化した赤血球は細胞膜を失い,その大半は脾臓,肝臓,骨髄,および網内系の食細胞によって循環血から除去される。これらの細胞内では,主にヘムオキシナーゼ系によってヘモグロビンが分解される。鉄は保存および再利用され,ヘムはビリルビンに分解されてから,肝臓で抱合されてビリルビンのグルクロン酸抱合体となり,胆汁中に排泄される。

血管外溶血

病的な溶血のほとんどは血管外溶血であり,損傷した赤血球または異常な赤血球が脾臓および肝臓によって循環血から除去されて生じる。通常,脾臓は異常赤血球または温式抗体に覆われた赤血球を穏やかに破壊することで溶血に寄与している。腫大した脾臓は正常な赤血球でさえ捕捉する場合がある。異常の程度が大きい赤血球または冷式抗体もしくは補体(C3)に覆われた赤血球は,循環血中および肝臓で破壊され,肝臓は(大量の血流があるため)損傷赤血球を効率的に除去できる。血管外溶血では,末梢血塗抹検査にて微小球状赤血球を認めるが,寒冷凝集素を伴う場合には,採血直後に血液を温めないと赤血球凝集が生じる。

血管内溶血

血管内溶血は,未成熟な赤血球が破壊される重要な原因の1つであり,通常は以下を含むいくつかの機序のいずれかによって細胞膜がひどく損傷することで生じる:

  • 自己免疫現象

  • 直接的な損傷(例,行軍血色素尿症)

  • ずり応力(例,機械弁の不具合)

  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)

  • 毒素(例,クロストリジウム毒素,毒蛇による咬傷)

血管内溶血により,血漿中に放出されたヘモグロビンの量が血漿結合タンパク質のハプトグロビン(正常では血漿中に約100mg/dL[1.0g/L]の濃度で存在するタンパク質)のヘモグロビン結合能を上回る場合に,ヘモグロビン血症が生じ,結果として,未結合血漿ハプトグロビンが減少する。ヘモグロビン血症では,未結合のヘモグロビン2量体が尿中に濾過され,尿細管細胞によって再吸収されるが,その量が再吸収能を超えると,ヘモグロビン尿が生じる。異化されたヘモグロビンから鉄が放出され,尿細管細胞内でヘモジデリンに埋め込まれる;その鉄の一部は再利用のため同化されるが,尿細管細胞が脱落した際に尿に達するものもある。

溶血の影響

ヘモグロビンをビリルビンへ変換する量がビリルビンを抱合および排泄する肝臓の能力を超えた場合に,非抱合型高ビリルビン血症(高間接ビリルビン血症)および黄疸が生じる。ビリルビンの異化により,便中のステルコビリンおよび尿中のウロビリノーゲンが増加し,ときに胆石症を引き起こす。

赤血球の過剰な喪失に反応して骨髄が赤血球の産生および放出を促進することで,続発する貧血に対応して腎臓で産生されるエリスロポエチンの増加のために網状赤血球増多が発生する。

溶血性貧血の症状と徴候

溶血性貧血の全身症状は他の貧血に類似し,蒼白,疲労,めまい,場合によっては低血圧を生じる。強膜黄疸および/または黄疸が生じることがあり,脾臓が腫大することもある。

溶血クリーゼ(急性かつ重度の溶血)はまれである;悪寒,発熱,背部痛,腹痛,極度の疲労,およびショックを伴う場合がある。ヘモグロビン尿では尿が赤色または赤褐色となる。

溶血性貧血の診断

  • 末梢血塗抹標本,網状赤血球数

  • 血清ビリルビン,乳酸脱水素酵素(LDH),ハプトグロビン,およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)

  • 抗グロブリン(クームス)試験および/または異常ヘモグロビン症のスクリーニング

溶血は,貧血および網状赤血球増多を認める患者で疑われる。溶血が疑われる場合,末梢血塗抹標本を検査し,血清ビリルビン,LDH,ハプトグロビン,およびALTを測定する。末梢血塗抹検査および網状赤血球数測定が,溶血の診断のために最も重要な検査である。抗グロブリン試験または異常ヘモグロビン症のスクリーニング(例,高速液体クロマトグラフィー[HPLC])は,溶血の原因同定に役立つ。

赤血球の形態異常により溶血の存在および原因が示唆されることが多い(溶血性貧血における赤血球の形態学的変化の表を参照)。末梢血塗抹標本では,破砕赤血球のほか,機械的溶血により断片化された赤血球を認める。その他の示唆的な所見として,ALTが正常な状態でのLDHおよび間接ビリルビンの血清値上昇,ならびに尿中ウロビリノーゲンの存在がある。

末梢血塗抹標本での赤血球断片(破砕赤血球)および血清ハプトグロビン値の低下により,血管内溶血が示唆される;ただし,ハプトグロビン値は肝細胞機能障害のために低下することがあり,全身性炎症のために上昇することもある。また,尿中ヘモジデリンによっても血管内溶血が示唆される。尿中ヘモグロビンは,血尿およびミオグロビン尿と同様に,試験紙法でベンジジン反応陽性となる;尿の顕微鏡検査で赤血球が認められないことで血尿と鑑別可能である。遊離ヘモグロビンにより血漿が赤褐色になることがあり,血液を遠心分離した際に気づかれることが多い;ミオグロビンではみられない。

溶血が同定された場合は,病因を検索する。溶血性貧血の鑑別診断を絞り込むために以下のことを行う:

  • 危険因子(例,地域,遺伝的特徴,基礎疾患)を検討する

  • 脾腫について診察する

  • 直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)を実施する

溶血性貧血のほとんどが,これらの方法のいずれかで異常を示すことから,検査結果が追加検査の指針となる可能性がある。

溶血の原因の識別に役立つ可能性がある他の臨床検査としては以下のものがある:

  • 定量的ヘモグロビン電気泳動

  • 赤血球内酵素測定

  • フローサイトメトリー

  • 寒冷凝集素

  • 浸透圧脆弱性

直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)

直接クームス試験は,赤血球に結合した抗体(IgG)または補体(C3)が赤血球膜上に存在するかどうかを判定するために用いられる。患者の赤血球にヒトIgGおよびC3に対する抗体を加えてインキュベートする。IgGまたはC3が赤血球膜に結合していれば,凝集が起き,陽性と判定する。陽性判定により,赤血球に対する自己抗体(患者が過去3カ月以内に輸血を受けていない場合),輸血された赤血球に対する同種抗体(通常は急性型または遅延型の溶血反応でみられる),または薬剤依存性もしくは薬剤誘発性の抗赤血球抗体の存在が示唆される。

間接抗グロブリン試験(間接クームス試験)

間接クームス試験は,患者血清中の赤血球に対するIgG抗体を検出するために用いる。患者血清を赤血球試薬とともにインキュベートした後,クームス血清(ヒトIgGに対する抗体,すなわちヒト抗IgG抗体)を添加する。凝集が生じる場合は,赤血球に対するIgG抗体(自己抗体または同種抗体)が存在する。この試験は同種抗体に対する特異性を判定するためにも用いられる。

いくつかの試験が血管内溶血を血管外溶血と鑑別するのに役立つ可能性があるが,ときに鑑別を困難にすることがある。赤血球の破壊亢進時には,両形態の溶血が関与していることが多いが,関与の程度は異なる。

表&コラム

溶血性貧血の治療

治療法は溶血の具体的な機序により異なる。

温式抗体による自己免疫性溶血の初期治療では,コルチコステロイドが役立つ。症候性貧血がみられる患者には輸血が用いられるが,長期の輸血療法では,過度の鉄蓄積を生じ,キレート療法を要することがある。

特にsplenic sequestration(脾臓での血球の滞溜)が赤血球破壊の主な原因である場合など,一部の状況では脾臓摘出が有益となる。可能であれば,以下のワクチン接種後2週間が経過するまで脾臓摘出を延期する:

寒冷凝集素症では,寒冷の回避が推奨され,輸血前に血液を温める必要がある。長期にわたり溶血が持続している患者に対しては,葉酸の補充が必要である。

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