代謝性アルカローシスは重炭酸イオン(HCO)の一次性の増加で,二酸化炭素分圧(P)の代償性の上昇を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは高値またはほぼ正常範囲内である。一般的な原因としては,遷延性の嘔吐,循環血液量減少,利尿薬の使用,低カリウム血症などがある。アルカローシスが持続するためには,腎臓からのHCOの排泄障害が存在しなければならない。重症例の症状および徴候には,頭痛,嗜眠,テタニーなどがある。診断は臨床的に行い,動脈血ガスおよび血清電解質の測定も用いる。基礎疾患を治療する;アセタゾラミドまたは塩酸(HCl)の経口投与または静脈内投与がときに適応となる。
代謝性アルカローシスの病因
代謝性アルカローシスは,以下による重炭酸イオン(HCO3−)の蓄積である:
酸の喪失
アルカリの投与
水素イオン(H+)の細胞内シフト(低カリウム血症などで起こる)
腎臓へのHCO3−の貯留
HCO3−は正常では腎臓によって自由に濾過され,したがって自由に排泄されるため,最初の原因にかかわらず,代謝性アルカローシスの持続は腎臓でのHCO3−再吸収の増加を示す。HCO3−再吸収を増大させる刺激として最も多いものは体液量減少および低カリウム血症であるが,アルドステロンまたはミネラルコルチコイド(ナトリウム[Na]の再吸収ならびにカリウム[K]および水素イオン[H+]の排泄を促進する)が増加するあらゆる病態でHCO3−は増加しうる。したがって,低カリウム血症は代謝性アルカローシスの原因であると同時にしばしば結果でもある。
代謝性アルカローシスの最も一般的な原因は以下のものである:
体液量減少(特に反復性嘔吐または経鼻胃管吸引による胃酸および塩化物イオン[Cl]の喪失があるとき)
利尿薬の使用
その他の代謝性アルカローシスの原因には,以下を引き起こす疾患がある:
腎臓からの酸の喪失
重炭酸イオンの過剰
代謝性アルカローシスには以下の2種類がある:
Cl反応性:Clの喪失または過剰分泌を伴う;通常は,NaClを含む輸液の静注によって是正される。
Cl不応性:NaClを含む輸液の静注では是正されず,通常は重度のマグネシウム(Mg)および/またはカリウム欠乏,あるいはミネラルコルチコイド過剰を伴う。
これら2つの病型は併存することがあり,例えば体液量過剰の患者に投与した高用量の利尿薬が低カリウム血症を引き起こした場合などにみられる。
代謝性アルカローシスの症状と徴候
代謝性アルカローシスの診断
動脈血ガスおよび血清電解質の測定
原因の診断(通常臨床的に行う)
ときに,尿中のCl−およびK+の測定
代謝性アルカローシスおよび適正な呼吸性代償の確認は,酸塩基平衡障害の診断で考察されており,動脈血ガスおよび血清電解質(CaおよびMgを含む)の測定を必要とする。
一般的な原因は病歴および身体診察から明らかになることが多い。病歴から明らかにならず腎機能が正常であれば,尿中のCl−濃度およびK+濃度を測定する(腎機能不全の患者ではこれらの測定値は診断に役立たない)。
尿中のClが20mEq/L(20mmol/L)未満であれば,腎臓で著明なCl−の再吸収があり,したがって原因はCl反応性であることが示唆される(代謝性アルカローシスの原因の表を参照)。
尿中のClが20mEq/L(20mmol/L)を上回っていれば,クロール不応性の病型が示唆される。
尿中Kおよび高血圧の有無はクロール不応性アルカローシスの鑑別に役立つ。
尿中K30mEq/日(30mmol/day)未満は低カリウム血症または緩下薬の誤用を意味する。
高血圧のない患者で尿中Kが30mEq/日(30mmol/日)を上回れば,利尿薬の乱用,バーター症候群,またはギッテルマン症候群が示唆される。
高血圧のある患者で尿中Kが30mEq/日(30mmol/日)を上回れば,アルドステロン症,ミネラルコルチコイド過剰,および腎血管疾患の評価が必要である。
高血圧患者で通常行われる検査には,血漿レニン活性ならびにアルドステロン濃度およびコルチゾール濃度の測定などがある(クッシング症候群の診断および原発性アルドステロン症の診断を参照)。
代謝性アルカローシスの治療
原因の治療
クロール反応性の代謝性アルカローシスに対しては,生理食塩水静注
基礎疾患を治療し,循環血液量減少および低カリウム血症の是正に特に注意を払う。
クロール反応性の代謝性アルカローシスがある患者には生理食塩水を静注する;初期の重炭酸尿からの回復後,尿中の塩素値が25mEq/L(25mmol/L)を上回り,尿pHが正常化するまで,点滴速度を一般に尿およびその他の有感・不感蒸泄による水分喪失速度よりも50~100mL/時だけ速くする。
クロール不応性の代謝性アルカローシス患者に補液が単独で有益となることはまれである。
ときに重度の代謝性アルカローシス患者(例,pH > 7.6)では,緊急での血中pH補正が必要になることがある。特に体液量過剰および腎機能障害が存在する場合は,血液濾過または血液透析が選択肢となる。アセタゾラミド250~375mg,1日1回または2回を経口投与または静注するとHCO3−排泄が増加するが,尿中へのK+およびリン酸(PO4−)の喪失が促進される恐れもある;体液量の過剰な患者のうち,利尿薬誘発性の代謝性アルカローシスのある者,および高炭酸ガス血症後の代謝性アルカローシスのある者では特に有益となりうる。
重度の代謝性アルカローシス(pH > 7.6)および腎不全があり,そのままでは透析を受けることができないまたは受けるべきでない患者は,0.1~0.2規定の塩酸の静注が安全かつ効果的であるが,浸透圧が高く末梢静脈を硬化させるため中心カテーテルを介して投与しなければならない。投与量は0.1~0.2mmol/kg/時である。動脈血ガスおよび電解質の頻回なモニタリングが必要である。
代謝性アルカローシスの要点
代謝性アルカローシスは,酸の喪失,アルカリ投与,水素イオンの細胞内への移動,または腎臓へのHCO3−の貯留による重炭酸イオン(HCO3−)の蓄積である。
最も一般的な原因は体液量減少(特に反復性嘔吐または経鼻胃管吸引による胃酸および塩素[Cl]の喪失があるとき)および利尿薬の使用である。
塩素の喪失または過剰分泌を伴う代謝性アルカローシスは,クロール反応性と呼ばれる。
原因を治療し,Cl反応性の代謝性アルカローシス患者に対しては生理食塩水を静注する。
クロール抵抗性の代謝性アルカローシスは,アルドステロンの作用増強に起因する。
クロール抵抗性の代謝性アルカローシスの治療には,高アルドステロン症の是正が必要である。