アルコール性ケトアシドーシスは,アルコールと 飢餓 低栄養の概要 低栄養は栄養障害の一種である。(栄養障害には栄養過多も含まれる。)低栄養は,栄養素の不十分な摂取,吸収不良,代謝障害,下痢による栄養素の喪失,または栄養必要量の増大(がんや感染症などで起こる)に起因する。低栄養は段階的に進行する;食欲不振による場合にゆっくりと発生することもあれば,ときにがん関連の急速に進行する悪液質による場合のように非常... さらに読む がブドウ糖代謝に及ぼす複合作用に起因する。
アルコール性ケトアシドーシスの病態生理
アルコールは肝臓での糖新生を減少させ,インスリン分泌の低下,脂肪分解の亢進,脂肪酸酸化障害,およびそれに続くケトン体産生を招き,これらにより アニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシス 高アニオンギャップ性アシドーシス 代謝性アシドーシスは重炭酸イオン(HCO3−)の一次性の減少で,通常は二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の低下を伴う;pHは著明に低下するか,またはわずかに正常範囲を下回る。代謝性アシドーシスは,血清中の未測定陰イオンの有無に基づいて高アニオンギャップまたはアニオンギャップ正常に分類される。原因には,ケトン体および乳酸の蓄積,腎不全,薬物または毒素の摂取(高アニオンギャップ),消化管または腎からのHCO3... さらに読む が生じる。成長ホルモン,アドレナリン,コルチゾール,およびグルカゴンが全て増加する。血漿血糖値は通常低値または正常範囲内であるが,ときに軽度の高血糖が生じる。
アルコール性ケトアシドーシスの症状と徴候
典型的には,アルコール多飲は嘔吐につながり,24時間以上アルコールまたは食事が摂れない状態を来す。この絶食期間中にも嘔吐が続いて腹痛が生じ,患者は治療を求めるようになる。 膵炎 膵炎の概要 膵炎は急性または慢性のいずれかに分類される。 急性膵炎では,炎症が臨床的および組織学的のいずれにおいても消失する。 慢性膵炎は,不可逆的かつ進行性の組織学的変化を特徴とし,膵内外分泌機能に大幅な低下を来す。慢性膵炎患者は,急性疾患の急性増悪(flare-up)を起こすことがある。... さらに読む が生じることもある。
アルコール性ケトアシドーシスの診断
臨床的評価
アニオンギャップの算出
他の疾患の除外
診断には強く疑うことが必要である; アルコール使用障害 アルコール使用障害とリハビリテーション アルコール使用障害では,飲酒のパターンが生じ,典型的には渇望と耐性(tolerance)の症状および/または心理社会的な悪影響のある離脱症状が伴う。アルコール依存症およびアルコール乱用は一般的であるが,あまり厳密に定義されていない用語であり,アルコール関連の問題を有する人に適用される。 アルコール使用障害は非常に一般的である。米国では,12カ月間で13.9%の成人にみられると推定される。有病率は若年成人で最も高く,加齢とともに減少する。... さらに読む の患者では, 急性膵炎 急性膵炎 急性膵炎は,膵臓(および,ときに隣接組織)の急性炎症である。最も頻度が高い誘因は胆石および飲酒である。急性膵炎の重症度は,局所合併症および一過性または持続性の臓器不全の有無に基づいて,軽症,中等症,重症に区分される。診断は臨床像,血清アミラーゼおよびリパーゼ値,ならびに画像検査に基づく。治療は支持療法であり,輸液,鎮痛薬,栄養サポートを行う。急性膵炎の全死亡率は低いが,重症例における合併症発生率および死亡率はかなり高い。... さらに読む ,メタノール中毒,エチレングリコール中毒(特定の毒物の症状と治療法 の表を参照),または 糖尿病性ケトアシドーシス 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は糖尿病の急性代謝性合併症で,高血糖,高ケトン血症,および代謝性アシドーシスを特徴とする。高血糖は浸透圧利尿を引き起こし,体液と電解質の有意な減少をもたらす。DKAは主に1型糖尿病で生じる。悪心,嘔吐,および腹痛を引き起こし,脳浮腫,昏睡,および死亡に進展する恐れがある。DKAの診断は,高血糖の存在下で高ケトン血症およびアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスを検出することによる。治療は循環血液量の... さらに読む (DKA)によっても同様の症状が生じることがある。患者がアルコール性ケトアシドーシスを呈すると,しばしば血中アルコール濃度はもはや上昇しない。アルコール性ケトアシドーシスが疑われる患者では,血清電解質(マグネシウムを含む),血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン,グルコース,ケトン体,アミラーゼ,リパーゼ,ならびに血漿浸透圧を測定すべきである。尿中のケトン体を検査すべきである。重篤な容態の患者およびケトン体が陽性の患者では,動脈血ガスおよび血清乳酸濃度の測定を行うべきである。
高血糖がなければ糖尿病性ケトアシドーシスは考えにくい。軽度の高血糖がみられる患者には,基礎に 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む が存在する可能性があり,これは糖化ヘモグロビン(HbA1C)の高値によってわかることがある。
典型的な臨床検査所見としては以下のものがある:
ケトン血症
低カリウム血症 低カリウム血症 低カリウム血症とは,体内の総カリウム貯蔵量の不足またはカリウムの細胞内への異常な移動によって血清カリウム濃度が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満となった状態である。最も頻度の高い原因は腎臓または消化管からの過剰喪失である。臨床的特徴としては筋力低下や多尿などがあり,重度の低カリウム血症では心臓の興奮性亢進が生じることがある。診断は血清学的検査による。治療はカリウム投与および原因の管理である。... さらに読む , 低マグネシウム血症 低マグネシウム血症 低マグネシウム血症とは,血清マグネシウム濃度が1.8mg/dL(0.70mmol/L)未満となった状態である。原因には,マグネシウムの摂取不足および吸収不足や,高カルシウム血症またはフロセミドなどの薬物による排泄増加がある。臨床的特徴はしばしば随伴する低カリウム血症や低カルシウム血症によるものであり,嗜眠,振戦,テタニー,痙攣,不整脈がある。治療はマグネシウムの補充による。 (... さらに読む ,および 低リン血症 低リン血症 低リン血症とは,血清リン濃度が2.5mg/dL(0.81mmol/L)未満となった状態である。原因にはアルコール使用障害,熱傷,飢餓,および利尿薬の使用がある。臨床的特徴としては,筋力低下,呼吸不全,心不全などがあり,痙攣や昏睡が起こる可能性もある。診断は血清リン濃度による。治療はリンの補給である。 ( リン濃度の異常の概要も参照のこと。) 低リン血症は入院患者の2%に生じるが,特定の集団では有病率が高くなる(例,入院中のアルコール使用... さらに読む
嘔吐による 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシスは重炭酸イオン(HCO3−)の一次性の増加で,二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の上昇を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは高値またはほぼ正常範囲内である。一般的な原因としては,遷延性の嘔吐,循環血液量減少,利尿薬の使用,低カリウム血症などがある。アルカローシスが持続するためには,腎臓からのHCO3−の排泄障害が存在しなければならない。重症例の症状および徴候には,頭痛,嗜... さらに読む が同時に存在し,それによりpHが比較的正常化することでアシドーシスの検出が難しくなることがある;主な手がかりはアニオンギャップの上昇である。アニオンギャップ上昇の原因としてアルコールの乱用が病歴から除外されなければ,メタノールおよびエチレングリコールの血清中濃度を測定すべきである。尿中のシュウ酸カルシウム結晶からもエチレングリコール中毒が示唆される。肝臓での血流低下および酸化還元反応の平衡異常が原因で,乳酸濃度はしばしば上昇する。
アルコール性ケトアシドーシスの治療
チアミンおよび他のビタミンとマグネシウムの静注
5%ブドウ糖含有生理食塩水の静注
ウェルニッケ脳症 ウェルニッケ脳症 ウェルニッケ脳症は, チアミン欠乏による錯乱,眼振,部分的眼筋麻痺,および運動失調の急性発症を特徴とする。診断は主として臨床的に行う。本障害は治療により寛解することもあれば,持続することもあり,また悪化して コルサコフ精神病を呈することもある。治療はチアミン療法と支持療法から成る。 ウェルニッケ脳症は,チアミンの不十分な摂取や吸収に加え,炭水化物の継続的な摂取により生じる。一般的な基礎疾患の1つが重度の... さらに読む または コルサコフ精神病 コルサコフ精神病 コルサコフ精神病は,持続的なウェルニッケ脳症の晩期合併症であり,記憶障害,錯乱,および行動変化を引き起こす。 コルサコフ精神病は, ウェルニッケ脳症の未治療患者の80%に発生し,重度の アルコール依存症が基礎にあるのが一般的である。コルサコフ精神病が一部のウェルニッケ脳症患者にのみ発現する理由は不明である。最初に典型的なウェルニッケ脳症の発作が生じるか否かにかかわらず,アルコール離脱に関連する... さらに読む の発生を予防するため,まずチアミン100mgを静注する。次に生理食塩水に5%ブドウ糖を混ぜたものを点滴する。初期の輸液には水溶性ビタミンおよびマグネシウムを追加すべきであり,必要に応じてカリウムを補充する。
ケトアシドーシスおよび消化管症状は通常迅速に反応する。インスリンの使用は,非典型的な糖尿病性ケトアシドーシスが疑われる場合,または300mg/dL(16.7mmol/L)を上回る高血糖の場合のみ妥当である。
アルコール性ケトアシドーシスの要点
アルコール性ケトアシドーシスはアルコールおよび飢餓がグルコース代謝に与える相加作用に起因し,高ケトン体血症およびアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスを特徴とし,有意な高血糖は伴わない。
血清中および尿中のケトンおよび電解質を測定し,血清アニオンギャップを計算する。
まず,ウェルニッケ脳症またはコルサコフ精神病を予防するためにチアミンの静注で治療し,その後生理食塩水にブドウ糖を混ぜたものの静注で継続する。