内分泌系の概要

執筆者:John E. Morley, MB, BCh, Saint Louis University School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 3月
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内分泌系は,内分泌腺内の特定の種類の細胞から血流中に放出される化学物質であるホルモンによって,様々な臓器の機能を調整する。一度循環血中に入ると,ホルモンは標的組織(他の内分泌腺であることもあれば,臓器であることもある)の機能に影響を及ぼす。分泌元の臓器の細胞に影響するホルモンもあれば(パラクリン作用),同じ種類の細胞に作用するホルモンもある(オートクリン作用)。

ホルモンには以下のようなものがある:

  • ペプチド(大きさは様々)

  • ステロイド(コレステロール由来)

  • アミノ酸誘導体

ホルモンは標的細胞内または細胞表面に位置する受容体に選択的に結合する。細胞内受容体は遺伝子機能を調節するホルモンと相互作用を起こす(例,コルチコステロイド,ビタミンD,甲状腺ホルモン)。細胞表面受容体は,酵素活性を調節するホルモンまたはイオンチャネルに作用するホルモンと結合する(例,成長ホルモン,甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)。

内分泌疾患は内分泌腺および/またはその標的組織の機能不全に起因する。

下垂体とその標的臓器

視床下部と下垂体の関係

末梢内分泌器官の機能は,程度は様々であるが下垂体ホルモンによって調節される。最小限の調節しか受けない機能(例,主に血糖値によって調節される膵臓からのインスリン分泌)がある一方で,大きな調節を受ける機能(例,甲状腺ホルモンや性腺ホルモンの分泌)も多数存在する。下垂体ホルモンの分泌は視床下部によって調節される。

視床下部と下垂体との相互関係(視床下部-下垂体系と呼ばれる)はフィードバック調節システムである。視床下部は中枢神経系の他のほぼ全領域から情報を受け取り,その受け取った情報を使って下垂体へと情報を送る。それに反応して,下垂体は体内の特定の内分泌腺を刺激する種々のホルモンを分泌する。これらの内分泌腺が産生したホルモンの血中濃度が変化すると,視床下部がその変化を検出して下垂体への刺激を増減し,恒常性を維持する。

視床下部は下垂体前葉と後葉の活動を異なる方法で調節する。視床下部で合成された神経ホルモンは,専用の門脈系を経て下垂体前葉(腺下垂体)に到達し,下垂体前葉の主要なペプチドホルモン6種の合成および分泌を調節する(下垂体とその標的臓器の図を参照)。これらの下垂体前葉ホルモンは,末梢内分泌腺(甲状腺,副腎,性腺)や,成長,乳汁分泌を調節する。視床下部と下垂体前葉とを直接結ぶ神経経路は存在しない。

一方,下垂体後葉(神経下垂体)は,視床下部にある神経細胞の細胞体から伸びる軸索で構成されている。軸索は視床下部で合成される2種のペプチドホルモン(バソプレシン[抗利尿ホルモン]およびオキシトシン)の貯蔵部位として機能し,これらのホルモンは末梢で体液バランス,射乳,子宮収縮を調節する。

視床下部および下垂体で産生されるホルモンはほぼ全て脈動的に分泌され,分泌期と休止期が繰り返される。一定の概日リズムを示すホルモンもあれば(例,副腎皮質刺激ホルモン[ACTH],成長ホルモン,プロラクチン),概日リズムに重なりのある月単位のリズムを示すホルモンもある(例,月経周期における黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモン)。

表&コラム

視床下部による制御

これまでに7種の生理学的に重要な視床下部神経ホルモンが同定されている(視床下部神経ホルモンの表を参照)。生体アミンであるドパミン以外は全て小ペプチドである。この中には視床下部のみならず末梢でも産生されるものがあり,局所,特に消化管のパラクリン系で機能する。血管作動性腸管ペプチド(プロラクチン放出も刺激する)はその1つである。

神経ホルモンは多数の下垂体ホルモンの分泌を調節する。大半の下垂体前葉ホルモンの調節は視床下部からの分泌刺激信号に依存するが,プロラクチンは例外であり,これは抑制刺激によって調節されている。下垂体茎(下垂体と視床下部を連絡する)を切断すると,プロラクチンの分泌は亢進するが,他の下垂体前葉ホルモンの分泌は全て低下する。

多くの視床下部異常(腫瘍,脳炎,その他の炎症性病変など)が視床下部からの神経ホルモンの分泌を変化させうる。神経ホルモンは視床下部の様々な部位で合成されるため,1種の神経ペプチドだけに影響を及ぼす疾患がある一方で,数種の神経ペプチドに影響する疾患もある。結果として,神経ホルモンの分泌不足または分泌過剰が生じうる。下垂体ホルモン機能障害に起因する臨床症候群(例,尿崩症先端巨大症,および下垂体機能低下症)については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

下垂体前葉機能

前葉細胞(全下垂体重量の80%を占める)は正常な成長および発育に必要な数種のホルモンを合成,分泌し,またいくつかの標的内分泌腺活性を刺激する。

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)

ACTHはコルチコトロピンとしても知られる。副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)は主要なACTH分泌刺激物質であるが,ストレス下ではバソプレシンもその役割を果たす。ACTHは,コルチゾール,およびデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)などいくつかの弱いアンドロゲンを副腎皮質から分泌させる。循環血中のコルチゾールおよび他のコルチコステロイド(外因性のコルチコステロイドを含む)はCRHやACTHの放出を抑制する。CRH-ACTH-コルチゾール系は,ストレスに対する反応の中心的要素である。ACTHがなければ副腎皮質は萎縮し,コルチゾールの放出は実質的に停止する。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)

TSHは甲状腺の構造や機能を調節し,甲状腺ホルモンの合成および分泌を刺激する。TSHの合成および分泌は,視床下部ホルモンである甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)によって刺激され,循環血中の甲状腺ホルモンによって(ネガティブフィードバックで)抑制される。

黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)

LHおよびFSHは性ホルモンの産生を調節する。LHやFSHの合成および分泌は,主にゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)に刺激され,エストロゲンテストステロンによって抑制される。GnRHの分泌を制御する1つの要素に,思春期のレプチン濃度上昇によって視床下部に発現するペプチドであるキスペプチンがある。アクチビンおよびインイビンという2つの性腺ホルモンはFSHのみに作用する;アクチビンは刺激,インヒビンは抑制の役割を果たす。

女性ではLHおよびFSHは卵胞の発育や排卵を刺激する。

男性では,FSHはセルトリ細胞に作用し精子形成に不可欠である;LHは精巣のライディッヒ細胞に作用しテストステロン生合成を刺激する。

成長ホルモン(GH)

GHは身体の成長を刺激し,代謝を調節する。GHの合成および分泌においては,成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)が主要刺激物質であり,ソマトスタチンが主要抑制物質である。GHはインスリン様成長因子1(IGF-1,ソマトメジン-Cとも呼ばれる)の合成を調節し,IGF-1は主として成長を調節する。IGF-1は多数の組織で産生されるが,肝臓が主な供給源である。IGF-1の一種は筋肉に存在し,筋力を強化する役割を果たす。このIGF-1は,肝臓型と比べてGHによる支配が弱い。

GHの代謝作用は2相性である。GHはまずインスリン様作用を発揮して,筋肉や脂肪でのブドウ糖取込みを増加させ,肝臓や筋肉でのアミノ酸取込みとタンパク質合成を促進し,脂肪組織での脂肪分解を抑制する。数時間後には,より顕著な抗インスリン様代謝作用が生じる。この作用にはブドウ糖の取込みおよび利用の抑制があり,その結果血糖値が上昇して脂肪分解が亢進し,血漿中の遊離脂肪酸が増加する。絶食中はGH濃度が上昇して血糖値を維持し,代替代謝燃料として脂肪を動員する。GHの産生は加齢とともに低下する。胃底部で産生されるホルモンであるグレリンは,下垂体からのGH放出を促進し,食物摂取を増加させ,記憶を改善する。

プロラクチン

プロラクチンは,下垂体前葉細胞の約30%を占めるラクトトロフという細胞で産生される。下垂体の大きさは妊娠中に2倍になるが,それは主にラクトトロフの過形成および肥大による。ヒトにおけるプロラクチンの主な機能は乳汁産生刺激である。プロラクチンの分泌は性行為やストレスでも生じる。プロラクチンは下垂体機能不全の感度の高い指標であると考えられる;下垂体腫瘍によって過剰産生される頻度が最も高いホルモンであり,下垂体の浸潤性疾患や腫瘍による下垂体圧迫によって欠損するホルモンの1つでもありうる。

その他のホルモン

その他数種のホルモンが下垂体前葉で産生される。これには,プロオピオメラノコルチン(POMC,ACTHの前駆体),αおよびβメラノサイト刺激ホルモン(MSH),βリポトロピン(βLPH),エンケファリン類,およびエンドルフィン類がある。POMCおよびMSHは皮膚の色素沈着を引き起こしうるが,ACTHが著明な高値を示す疾患(例,アジソン病,ネルソン症候群)でのみ臨床的に意味をもつ。βLPHの機能は不明である。エンケファリン類およびエンドルフィン類は,中枢神経系全体のオピオイド受容体に結合して受容体を活性化する内因性オピオイド物質である。

下垂体後葉機能

下垂体後葉はバソプレシン アルギニンバソプレシンまたは抗利尿ホルモン[ADH]とも呼ばれる)およびオキシトシンを分泌する。いずれのホルモンも神経インパルスを受けて分泌され,半減期は約10分である。

バソプレシン(抗利尿ホルモン:ADH)

バソプレシンは遠位尿細管上皮の水に対する透過性を亢進させることより,主に腎臓での水分保持を促進する。高濃度では,バソプレシンは血管収縮も引き起こす。アルドステロンと同様に,バソプレシンは体液の恒常性,ならびに血管および細胞の水分保持に重要な役割を果たしている。バソプレシンの主な分泌刺激は体液浸透圧の上昇であり,これは視床下部浸透圧受容器で感知される。

もう1つの重要な刺激は体液量の減少であり,これは左房,肺静脈,頸動脈洞,および大動脈弓の圧受容器によって感知され,迷走神経と舌咽神経を介して中枢神経系に伝達される。バソプレシン分泌はこのほかにも,疼痛,ストレス,嘔吐,低酸素症,運動,低血糖,コリン作動薬,β遮断薬,アンジオテンシン,およびプロスタグランジン等によって刺激を受ける。バソプレシン分泌抑制物質には,アルコール,α遮断薬,およびグルココルチコイドがある。

バソプレシンの欠乏は中枢性尿崩症を引き起こす。腎臓がバソプレシンに正常に反応できない場合は腎性尿崩症を来す。下垂体を切除しても恒久的な尿崩症は通常生じないが,これは残存する視床下部ニューロンの一部が少量のバソプレシンを産生するからである。

コペプチンは,下垂体後葉でバソプレシンと一緒に産生される。コペプチンの測定は,低ナトリウム血症の原因鑑別に有用な場合がある。

オキシトシン

オキシトシンには2つの主な標的がある:

  • 乳腺胞周囲の筋上皮細胞

  • 子宮平滑筋細胞

吸啜はオキシトシン産生を刺激し,オキシトシンが筋上皮細胞を収縮させる。この収縮によって乳汁が乳腺胞から大きな乳管洞へと運ばれ放出される(すなわち,授乳婦の催乳反射)。オキシトシンは子宮平滑筋細胞の収縮を刺激し,オキシトシンに対する子宮の感受性は妊娠期間中を通して亢進する。しかし,分娩中に血漿オキシトシン濃度が急増することはなく,分娩開始時のオキシトシンの役割は不明である。

男性ではオキシトシン放出の刺激は認められていないが,男性にも微量に存在する。

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