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赤芽球増殖性(骨髄性)プロトポルフィリン症およびX連鎖優性プロトポルフィリン症

執筆者:

Herbert L. Bonkovsky

, MD, Wake Forest University School of Medicine;


Sean R. Rudnick

, MD, Wake Forest University School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 12月
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赤芽球増殖性(骨髄性)プロトポルフィリン症(EPP)は,フェロキラターゼ(FECH)の活性の遺伝的な欠乏による。X連鎖優性プロトポルフィリン症(XLPP)は,δ-アミノレブリン酸合成酵素2の活性が遺伝的に亢進していることに起因する。EPPおよびXLPPの原因となる酵素はいずれもヘム生合成経路の酵素である(ヘム生合成経路の基質および酵素 ヘム生合成経路の基質および酵素,ならびにそれらの欠損に関連する疾患 ヘム生合成経路の基質および酵素,ならびにそれらの欠損に関連する疾患 の表を参照)。EPPとXLPPの臨床像はほぼ同じである。典型的にはいずれも乳児期に発症し,たとえ短時間でも日光に曝露するとそう痒感または灼熱感を伴う皮膚疼痛を呈する。晩年には胆石がよくみられ,慢性肝疾患が約10%に発生する。診断は症状ならびに赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン濃度の上昇に基づく。予防は,誘因(例,日光,アルコール,空腹)の回避およびおそらくはβ-カロテンの経口投与による。急性の皮膚症状は,冷水浴または濡れタオル,鎮痛薬,ならびにコルチコステロイドの局所投与および/または経口投与により軽減できる。肝不全患者では肝移植が必要になる場合があるが,過剰なプロトポルフィリンの主な産生源は骨髄であるため,肝移植では治癒は得られない。

XLPPはEPPに非常に似ているため,EPPの亜型とみなされることもある。

病因

骨髄性プロトポルフィリン症は,EPPの表現型の約90%を占める。フェロキラターゼ(FECH)の活性の遺伝的な欠乏による。遺伝形式は常染色体劣性である;そのため,FECHアレル2つに異常があるか,またはより一般的には,アレルの1つに異常があり,野生型アレルの発現が弱い個人でのみ臨床症状が生じる。

X連鎖優性プロトポルフィリン症は残りの10%を占め,骨髄で赤血球特異的なδ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS 2)の活性を亢進させる機能獲得変異に起因する;遺伝形式はX連鎖性である。ヘテロ接合体の女性の表現型は,無症状から男性と同じ表現型を呈すものまで様々である。

EPPの表現型の有病率は約1/75,000人である。プロトポルフィリンが骨髄および赤血球に蓄積して血漿中に侵入し,皮膚に沈着するかまたは肝臓から胆汁中に排泄される。約10%の患者が慢性肝疾患を発症するが,それらの患者のうち少数は 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む を発症し,そこから肝不全に進行する場合がある。より一般的な合併症は,プロトポルフィリンの大量排泄による色素 胆石 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む 胆石症 である。

症状と徴候

骨髄性プロトポルフィリン症およびX連鎖優性プロトポルフィリン症の症状の重症度は,同一家系の患者の間でさえも極めて多様である。大半の患者は小児期に発症する。短時間の日光曝露が,皮膚の露出部に重度の疼痛,灼熱感,紅斑,および浮腫を引き起こす場合がある。通常,乳幼児は短時間の日光曝露であってもその後何時間も泣き続ける。EPPおよびXLPPでは,皮膚の腫脹および紅斑が軽微であるかまたはみられない場合があるため,他のポルフィリン症に比べて長い間診断されないことがある。

骨髄性プロトポルフィリン症の皮膚症状

長時間の日光曝露後に口唇周囲や手背に痂皮が形成される場合がある。しかし, 晩発性皮膚ポルフィリン症 晩発性皮膚ポルフィリン症 晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT)は比較的頻度の高い肝性ポルフィリン症であり,主に皮膚が侵される。肝疾患も一般的である。PCTは,ヘム生合成経路の酵素である肝臓のウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素の活性の後天性または遺伝性の低下に起因する( ヘム生合成経路の基質および酵素の表を参照)。ポルフィリンが蓄積するのは,特に,肝細胞に酸化ストレスの亢進が存在する場合であり,この亢進は通常,肝臓の鉄増加に起因するが,アルコール,喫煙,エストロゲン,... さらに読む 晩発性皮膚ポルフィリン症 遺伝性コプロポルフィリン症 異型ポルフィリン症および遺伝性コプロポルフィリン症の皮膚症状 急性ポルフィリン症は,ヘム生合成経路の特定の酵素の欠損に起因する疾患であり,結果としてヘム前駆体が蓄積し,腹痛および神経症状の間欠的発作が引き起こされる。発作は特定の薬剤やその他の因子によって誘発される。診断は,発作時に尿中に認められるポルフィリン前駆体のδ-アミノレブリン酸およびポルフォビリノーゲンが高値であることに基づく。発作の治療にはブドウ糖を用いるか,またはより重度の場合はヘムの静注を行う。鎮痛を含む対症療法を必要に応じて行う。... さらに読む ,および先天性骨髄性ポルフィリン症(比較的まれなポルフィリン症 比較的まれなポルフィリン症 比較的まれなポルフィリン症 の表を参照)で典型的にみられる水疱形成および瘢痕化は生じない。

皮膚の保護を慢性的に怠った場合は,特に手指関節部の皮膚が粗く肥厚して硬くなる(苔癬化)。口囲に線状のしわが形成されることがある(鯉口)。XLPP患者は,EPP患者より重度の光線過敏症および肝疾患を有する傾向がある。

小児は理由を説明できずに外出を拒むため,骨髄性プロトポルフィリン症やX連鎖優性プロトポルフィリン症が認識されない場合は精神社会問題を引き起こしうる。疼痛の恐怖または疼痛が起こる予感は極めて辛いため,小児は神経質になるか,緊張がみられる,もしくは攻撃的になる場合があり,外界との分離感や自殺念慮をもつ場合さえある。

診断

  • 赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン測定

  • FECHまたはALAS 2の遺伝子変異に関する遺伝子検査

疼痛を伴う皮膚光線過敏症を有し水疱形成や瘢痕化を認めない小児および成人では骨髄性プロトポルフィリン症およびX連鎖優性プロトポルフィリン症を疑うべきである。小児に胆石がみられる場合は,EPPおよびXLPPの検査を実施すべきである。家族歴は通常は認めない。

赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン値の上昇が認められれば診断が確定する。また赤血球プロトポルフィリンの分画を行い,遊離プロトポルフィリンおよび亜鉛プロトポルフィリンの比率を判定すべきである。EPPでは,赤血球遊離プロトポルフィリンの比率はほぼ常に85%を超える。15%超の亜鉛プロトポルフィリンの存在はXLPPを示唆する。

血漿中コプロポルフィリン値および尿中ポルフィリン値を測定した場合,それらは正常である。便中プロトポルフィリンは増加する場合があるが,コプロポルフィリンは正常である。

赤血球中プロトポルフィリンの増加が認められ,また発端者で変異が同定されている場合には遺伝子検査を行うことにより,近親者の潜在的キャリアを同定できる。

治療

  • 防護用の衣服の着用と不透明なサンスクリーン剤(opaque sunscreen)による日光曝露の回避

  • 光毒性によるイベントの予防および症状の緩和に対し,アファメラノチド(afamelanotide)

  • 皮膚灼熱感に対する,冷罨法,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),ならびにコルチコステロイドの局所投与および/または経口投与による対症療法

  • ときに,予防のためのβ-カロテンの経口投与

  • 肝胆道系合併症の管理

骨髄性プロトポルフィリン症の治療とX連鎖優性プロトポルフィリン症の治療は同様である。骨髄性プロトポルフィリン症またはX連鎖優性プロトポルフィリン症の患者には日光曝露を避けさせるべきである;防護用の衣服,帽子および二酸化チタンまたは酸化亜鉛を含有するサンスクリーン剤を使用すべきである。

抗酸化物質であるβ-カロテンの経口投与により,光線過敏性が減少する。しかしながら,β-カロテンは症状のコントロールにそれほど効果的でないほか,皮膚にオレンジ色の素沈着を引き起こすため,患者のアドヒアランスが不良となることが多く,しばしば試されるものの,通常は長く続かない。β-カロテンの用量は患者の年齢によって決まる(骨髄性プロトポルフィリン症に対するβ-カロテンの用量 骨髄性プロトポルフィリン症およびX連鎖優性プロトポルフィリン症に対するβ-カロテンの用量 骨髄性プロトポルフィリン症およびX連鎖優性プロトポルフィリン症に対するβ-カロテンの用量 の表を参照)。

急性ポルフィリン症を誘発する薬物(Drug Database for Acute PorphyriaまたはAmerican Porphyria Foundation drug databaseを参照)を避ける必要はない。

急性の皮膚症状は,冷水浴または濡れタオル,鎮痛薬,ならびにコルチコステロイドの局所投与および/または経口投与により軽減できる。症状の回復には最長で1週間かかる可能性がある。こうした方法が無効であれば(例,光線過敏症の亢進,ポルフィリン値の上昇,黄疸の進行が患者に認められる),ヘマチン投与および/または赤血球の過多輸血(すなわち,ヘモグロビン値が正常範囲を上回るようにする)によってプロトポルフィリンの過剰産生を低減しうる。胆汁酸の投与が胆汁へのプロトポルフィリン排泄を促進する場合がある。プロトポルフィリンの腸肝循環を阻害し,便中への排泄を増加させるために,コレスチラミンまたは炭の経口投与が行われている。

非代償性の末期肝疾患がある患者では, 肝移植 肝移植 肝移植は,実質臓器の移植の中で2番目に多い。( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植の適応としては以下のものがある: 肝硬変(米国では移植全体の70%;そのうち60~70%がC型肝炎によるもの) 劇症型の肝壊死(fulminant hepatic necrosis)(約8%) 肝細胞癌(約7%) さらに読む が必要である。 急性間欠性ポルフィリン症 治療 急性ポルフィリン症は,ヘム生合成経路の特定の酵素の欠損に起因する疾患であり,結果としてヘム前駆体が蓄積し,腹痛および神経症状の間欠的発作が引き起こされる。発作は特定の薬剤やその他の因子によって誘発される。診断は,発作時に尿中に認められるポルフィリン前駆体のδ-アミノレブリン酸およびポルフォビリノーゲンが高値であることに基づく。発作の治療にはブドウ糖を用いるか,またはより重度の場合はヘムの静注を行う。鎮痛を含む対症療法を必要に応じて行う。... さらに読む と同様,EPP患者はModel for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアにおける標準化されたexception point(例外点)の候補ではない。しかしながら,肝移植では基礎にある代謝障害は是正されないため,移植肝にはEPPの肝障害がしばしば発生する。

造血幹細胞移植 造血幹細胞移植 造血幹細胞(HSC)移植は,造血器悪性腫瘍( 白血病, リンパ腫, 骨髄腫)および他の血液疾患(例,原発性免疫不全症, 再生不良性貧血, 骨髄異形成)で治癒をもたらす可能性がある手技で,急速に発展しつつある。造血幹細胞移植は,ときに化学療法に反応する固形腫瘍(例,一部の胚細胞腫瘍)に用いられることもある。( 移植の概要も参照のこと。) 造血幹細胞移植は,以下の機序によって寛解に導く:... さらに読む はEPPに対する根治的治療であるが,通常はリスクが便益を上回るため,ルーチンには施行されない。肝移植後に造血幹細胞移植を行うことでEPPを根治し,移植肝の損傷を予防できるが,この治療の最適なタイミングは確立されていない。光毒性による内臓への重篤な損傷を回避するため,肝移植または他の長時間手術の最中は,手術用照明から患者を保護すべきである。光源は,約380~420nmの波長を遮断する市販のフィルターで覆うべきである。内視鏡検査,腹腔鏡検査,および短時間(1.5時間未満)の腹部手術は通常,光毒性による損傷を引き起こさない。

パール&ピットフォール

  • 手術室の照明は,骨髄性プロトポルフィリン症患者の内臓に光毒性による損傷を引き起こす可能性がある。

情報および話合いの場を提供し,健診とともに遺伝カウンセリングの機会も与える医師患者間の定期的な協議が重要である。肝機能検査ならびに赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン濃度を年1回確認すべきである。肝機能検査で異常が認められた患者は,肝臓専門医が評価すべきである;線維化の程度を判定するために肝生検が必要になる場合がある。慢性肝疾患が判明している患者は,6カ月毎に超音波検査による肝細胞癌のスクリーニングを行うべきである。

ビタミンDの欠乏がよくみられるため,ビタミンD濃度を確認すべきである(患者は日光曝露を避ける傾向がある);低値であればサプリメントを投与する。

治療に関する参考文献

要点

  • 骨髄性プロトポルフィリン症(EPP)は,皮膚が短時間でも日光に曝露すると重度の疼痛,灼熱感,紅斑,および浮腫を引き起こす;これらの症状は,他のポルフィリン症の誘因となる薬剤では誘発されない。

  • 患者の約10%に肝硬変が発生し,ときに肝不全に進行する。

  • 赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン濃度を測定する。

  • 日光曝露の回避およびときに薬剤(例,β-カロテン,アファメラノチド[afamelanotide])の使用により症状を予防する。

  • ヘマチン投与および/または赤血球の過多輸血により,プロトポルフィリンの過剰産生を抑制しうる。

  • X連鎖優性プロトポルフィリン症(XLPP)の臨床像はEPPに似ているが,EPPに比べて光過敏性と肝疾患が重度である。

  • XLPPの診断に有用な手掛かりは,赤血球亜鉛プロトポルフィリンの比率上昇である。

  • XLPPの管理はEPPの管理と同様である。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

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