行動に関する緊急性

執筆者:Michael B. First, MD, Columbia University
レビュー/改訂 2020年 2月
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気分,思考,もしくは行動に重度の変化がみられる患者,または生命を脅かす可能性がある重度の薬物有害作用が生じている患者には,緊急の評価および治療が必要である。身体科の外来および入院患者では,精神科医以外の医師が最初に診療する場合が多いが,そのような症例も可能な限り精神科医が評価を行うべきである。

患者の気分,思考,または行動が非常に異常または支離滅裂な場合は,その評価では,まず患者について以下の点を判断する必要がある:

  • 患者自身にとって脅威となっているか

  • 他者にとって脅威となっているか

自身への脅威としては,自己管理能力の欠如(セルフネグレクトにつながる)または自殺行動などが考えられる。精神病性障害,認知症,または物質使用障害の患者では,食物,衣服,および自然災害に対する適切な保護を得る能力が障害されることから,そのような患者ではセルフネグレクトが特に懸念される。

他者に脅威をもたらす患者としては,明らかな暴力性を示す患者(すなわち,スタッフへの暴行が顕著で,物を投げたり,壊したりする),好戦的かつ敵対的にみえる患者(すなわち,潜在的に暴力的である),ならびに診察する医師およびスタッフには脅威となるようにはみえないが,他者(例,配偶者,隣人,有名人)に危害を加える意図を表明する患者などが挙げられる。扶養家族を安全かつ十分に世話することができない介護者を同定することも重要である。

原因

攻撃的で暴力的な患者は精神病である場合が多く,物質使用障害統合失調症短期精神病性障害妄想性障害,急性躁病などの診断を受けている。その他の原因としては,急性せん妄を引き起こす身体疾患(最初の精神医学的評価でカバーすべき領域を参照),慢性の器質的脳疾患(例,認知症),アルコールまたはその他の物質による中毒,特にメタンフェタミン,コカイン,ときにフェンシクリジン(PCP),クラブドラッグ(例,MDMA[3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン])による中毒などがある。

暴力または攻撃性の前歴は,将来のエピソードに関する強力な予測因子である。

一般原則

典型的には,評価(特に考えられる身体疾患に関する評価)と同時に行動面の緊急事態の管理を進める(精神症状がみられる患者の医学的評価を参照);すでに精神障害の診断を受けている患者やアルコールの臭いがする患者であっても,異常行動の原因を精神障害や中毒と決めてかかるのは誤りである。患者が明確な病歴を伝えることができない,あるいは伝えたがらないことも多いため,関連のある他の情報源(例,家族,友人,ケースワーカー,医療記録)を直ちに特定して,情報を求める必要がある。

パール&ピットフォール

  • すでに精神障害の診断を受けている患者またはアルコールの臭いがする患者であっても,異常行動の原因を精神障害や中毒と決めてかかるべきでない。

医師は患者の暴力が治療チームや他の患者に向けられる可能性を認識していなければならない。

明らかな暴力性を示す患者は,まず以下の手段によって拘束しなければならない:

  • 物理的手段

  • 薬剤(化学的拘束)

  • 両方

そのような介入は,患者および他者に対する危害を防止し,問題行動の原因の評価(例,バイタルサインの測定や血液検査の実施)を可能にするために行う。患者を拘束した場合には,綿密なモニタリング(ときに訓練を受けた看護師による常時の観察を含む)が必要である。医学的に安定している患者は,安全な隔離室に移してもよい。臨床医は非自発的治療に関する法的問題攻撃的かつ暴力的な患者における身体的拘束の使用に関する規制上の問題も参照)を認識しておく必要があるが,そのような問題のために救命の可能性がある介入を遅らせてはならない。

潜在的に暴力的な患者には,問題の状況を除去する対策が必要である。激越および攻撃性の緩和に役立つ可能性がある対策としては,以下のものがある:

  • 患者を落ち着いた静かな環境(例,利用できる場合は隔離室)に移す

  • 自身または他者に危害を加えるために使用される可能性がある物体を排除する

  • 患者およびその訴えに対して共感的な配慮を示す

  • 自信に満ちていながらも支持的な態度で対応する

  • 激越または攻撃性の原因を解決するためにできることを尋ねる

直接話をする(怒ったり狼狽したりしているように見える患者を見守り,誰かを傷つけるつもりがあるかどうかを尋ねる)ことによって,患者の感情を認識でき,さらに情報を引き出せることもある;これにより患者が実際に行動に移す可能性が高まることはない。

逆効果となる対策としては以下のものがある:

  • 患者の恐怖や訴えの妥当性に疑いをかける

  • 脅迫する(例,警察を呼ぶ,収容する)

  • 見下した態度で話す

  • 患者を欺こうとする(例,食べ物の中に薬剤を隠す,拘束することはないと患者に約束する)

スタッフおよび公衆の安全

攻撃的で敵意をもった患者の面接を行う場合は,スタッフの安全を考慮しなければならない。大半の病院では,問題行動がみられる患者には所持品検査(手作業,金属探知機,またはその両方)を実施して武器を持っていないか確認する方針が採られている。可能であれば,患者の評価は監視カメラ,金属探知機,スタッフから見える面接室など,安全対策が講じられた場所で行うべきである。

敵意はあるがまだ暴力的ではない患者は,典型的には無差別にスタッフを攻撃することはなく,むしろ,怒っているスタッフまたは自身にとって脅威に思われるスタッフを攻撃する。部屋のドアは開けたままにしておくべきである。スタッフが患者と同じ高さに座ることで,患者に脅威にみられることを避けられる可能性がある。また,スタッフが患者の敵意に対し同じように大声で怒りに満ちた発言で反応しない,または論争しないことで,患者を怒らせることを避けられる可能性がある。それでも患者がますます興奮し,今にも暴力を振るいそうにみえる場合は,スタッフは迷わずにその部屋を退出して,抑止力となるのに十分な追加のスタッフを呼ぶべきであり,これによりときに患者の行動を阻止できる。典型的には,少なくとも4,5人が同席すべきである(数人は若年男性が望ましい)。しかしながら,確実に使用する場合を除いて,拘束具を部屋の中に持ち込むべきではなく,拘束具を見ることで患者がさらに興奮することがある。

言語的な脅しは真剣に受けとめる必要がある。大半の州では,患者が特定の人物に危害を加える意思を表明した場合,評価を行う医師は,危害を加えられる可能性がある相手に注意を促し,所定の法執行機関に通知する義務がある。具体的な要件は州によって異なる。典型的な例として,小児,高齢者,および配偶者への虐待が疑われる場合には,州の規制によって報告も義務づけられている。

身体的拘束

身体的拘束の適用については議論があり,他の方法が失敗して,かつ患者が自身または他者に対して危害を加える重大な危険を示し続ける場合にのみ,考慮すべきである。薬剤の投与,詳細な評価,またはその両方を行うだけの十分な時間患者を引き留めておくために,拘束が必要なことがある。拘束は患者の同意なく適用されるため,特定の法的および倫理的問題について考慮すべきである(攻撃的かつ暴力的な患者における身体的拘束の使用に関する規制上の問題を参照)。

攻撃的かつ暴力的な患者における身体的拘束の使用に関する規制上の問題

身体的拘束の使用は,暴力につながる可能性のある攻撃的な行動を他の方法では十分コントロールできなかった場合に最終手段として検討するべきものである。こうした状況で拘束が必要な場合,その適用が適切に指示され,かつ患者の医療記録に記録される限り,米国の全ての州で合法とみなされる。拘束にはすぐに取り外すことができるという利点があるのに対し,薬剤を使用すると,症状を十分に変化させること,または症状の変化により評価が遅れることがある。

Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations Standards on Restraint and Seclusionが精神医学的な状況における拘束の適用に関するガイドラインを提供している。そのガイドラインでは,拘束は,独立して医療行為を行う権限をもった有資格の医療従事者(licensed independent practitioner [LIP])の指示の下で実施する必要があると明記されている。LIPは拘束後1時間以内に患者の状態を評価しなければならない。成人に対する拘束の継続を指示できるのは一度に4時間までである。患者の評価は,LIPまたは正看護師が4時間の拘束時間内に,かつ次の拘束継続を指示する前に行わなければならない。開始後8時間の時点において,拘束継続の指示を出す前に,LIP自らが患者の評価を行わなければならない。9~17歳の小児は2時間毎に,9歳未満の小児は1時間毎に評価しなければならない。

病院認定の基準では,訓練を受けた看護師が拘束状態にある患者を継続的に観察することが要求されている。拘束を適用した直後には,傷害の徴候についてモニタリングする必要があり,さらに血行,関節可動域,栄養および水分補給,バイタルサイン,衛生,ならびに排泄についてもモニタリングする。身体的および精神的苦痛がないこと,および拘束を中止できる状態かどうかについても評価する。これらの評価は15分毎に行うべきである。

隔離および拘束の同時適用は,特殊な状況で継続的な監視下でのみ行うべきである。

拘束は以下を目的として使用される:

  • 患者または他者に対する明白かつ切迫した危害を防止する

  • 治療に対する同意が得られている場合に,薬物治療の継続が著しく困難になること(例,チューブまたは静脈ラインの引き抜きによる)を防止する

  • 周囲の物理的環境,スタッフ,または他の患者に対する危害を防止する

  • 非自発的治療を必要とする患者がその場を離れることを防止する(鍵のかかる部屋が使用できない場合)

拘束は以下の目的で適用してはならない:

  • 懲罰

  • スタッフの都合(例,徘徊を防止するため)

自殺の可能性が明らかにある患者では,拘束具を自殺の道具として使用する可能性があるため,注意が必要である。

手順

拘束は,十分な訓練を受けたスタッフのみが,正しい方法で,患者の権利と安全を守って適用すべきである。

まず,十分なスタッフを部屋に集めて,拘束を行わなければならないことを患者に伝える。格闘を避けるため,患者に協力するよう促す。しかしながら,拘束が必要であると医師が判断したのであれば,交渉の余地はなく,患者に対して本人の同意の有無にかかわらず拘束を適用するということを告げる。実際には,自らの行動に外的な制限がかけられることを理解して感謝する患者もいる。

拘束適用の準備にあたっては,患者の四肢の各々に1人ずつ,さらに患者の頭部にもう1人を割り当てる。次に,個々のスタッフが割り当てられた四肢を同時に把持し,患者をベッド上で仰臥位にする;大柄で暴力的な患者でも,身体的に健康なスタッフであれば一般的に1人で1つの四肢を抑え込むことができる(全肢を同時に把持した場合)。しかし,拘束を行うには,さらにスタッフが必要となる。まれに,極めて闘争的で立っている患者では,まず2枚のマットレスでサンドイッチ状に挟み込まなければならないことがある。

拘束具は革製のものが望ましい。それぞれの足関節および手関節に1つの拘束具を適用し,それらをベッドの横板ではなく,ベッドフレームに取り付ける。拘束具は胸部,頸部,頭部の周囲には装着しないようにし,さるぐつわの使用(例,唾吐きや罵倒を防ぐため)は禁じられている。拘束状態でもなお闘争的な患者(例,ストレッチャーを倒す,噛みつく,または唾を吐く)には,化学的拘束が必要になることもある。

合併症

警察により病院に連行されてくる激越した,または暴力的な患者は,ほぼ常に拘束されている(例,手錠)。ときに,若く身体的に健康な患者が,病院到着前または到着後間もなく,警察により拘束された状態で死亡したことがある。原因は不明のことが多いが,おそらくは過度の労作とその後の代謝障害および高体温,薬物使用,胃内容の呼吸器系への誤嚥,長時間拘束状態に置かれた患者における塞栓症,ならびにときに重篤な身体的基礎疾患などのいくつかの組合せが関与している。患者がhobble position(背中の後ろで手関節と足関節を一緒に縛る)で拘束された場合,死亡する可能性がより高くなる;この種の拘束は窒息を引き起こすことがあり,避けるべきである。このような合併症があるため,警察による拘留状態で受診した暴力的な患者は迅速かつ徹底的に評価すべきであり,単なる社会行動上の問題として片づけるべきではない。

化学的拘束

薬物療法を用いる場合は,具体的な症状のコントロールを目標にすべきである。

薬剤

通常,以下の薬剤を使用することで,患者を速やかに落ち着かせたり,不安を解除したりすることができる。

  • ベンゾジアゼピン系薬剤

  • 抗精神病薬(典型的には従来型抗精神病薬であるが,第2世代抗精神病薬も使用される)

これらの薬剤は用量を調節しやすく,静脈内投与した場合,より迅速かつ確実に作用を示すが(激越した患者または暴力的な患者に対する薬物療法の表を参照),暴れる患者で静脈ラインが確保できない場合には,筋肉内投与が必要になることがある。両クラスの薬剤とも,激越して暴力的な患者に効果的な鎮静薬である。ベンゾジアゼピン系薬剤は,おそらく中枢刺激薬の過剰摂取ならびにアルコールおよびベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症候群に対して適しており,抗精神病薬は既知の精神障害の明らかな増悪に対して適している。ときに両薬剤を併用することで,さらに効果的となる;1剤の高用量の使用で望む効果が十分に得られない場合は,最初の薬剤を増量するのではなく,別のクラスの薬剤を使用することで,有害作用を制限する場合がある。

表&コラム

ベンゾジアゼピン系薬剤の有害作用

ベンゾジアゼピン系薬剤の注射剤は,特に極度に暴力的な患者に必要となることのある高用量で投与された場合,呼吸抑制を引き起こすことがある。挿管による気道管理および補助換気が必要になることがある。ベンゾジアゼピン拮抗薬であるフルマゼニルを使用してもよいが,鎮静効果が全く消失すると,当初の行動症状が再び現れることがあるため,注意が必要である。

ときにベンゾジアゼピン系薬剤は,行動のさらなる脱抑制につながる。

抗精神病薬の有害作用

抗精神病薬,特にドパミン受容体拮抗薬は,中毒量のみならず治療量でも,急性ジストニアおよびアカシジア(運動性不穏の不快な感覚)を含む急性錐体外路系の有害作用(抗精神病薬の急性有害作用に対する治療の表を参照)を示すことがある。これらの有害作用は用量依存性を示す場合があり,投薬を中止すると軽快する可能性がある。

いくつかの抗精神病薬(チオリダジン【訳注:本邦では製造中止】,ハロペリドール,オランザピン,リスペリドン,およびジプラシドンを含む)は,QT延長症候群を引き起こす可能性があり,究極的には致死的不整脈のリスクを増大させる。神経遮断薬による悪性症候群の可能性もある。

その他の有害作用については,抗精神病薬の有害作用を参照のこと。

表&コラム
医学計算ツール(学習用)

法的な考慮事項

気分,思考,または行動に重度の変化がみられる患者で,精神医学的介入なしでは病状が悪化する可能性が高い場合や他に適切な選択肢がない場合には,入院させるのが通常である。

同意および非自発的治療

患者が入院を拒否した場合,医師は患者の意思に反して入院させるかどうかを決定しなければならない。患者もしくは他の人の当面の安全を確保するため,または評価を完了して治療を行うために,そうすることが必要になる場合がある。

非自発的入院の基準や手続きは行政管轄区によって異なる。通常,一時的な拘束には,医師または心理士1名およびもう1名の臨床医,家族,または密接な関係者が,患者に精神障害があること,自傷他害行為の恐れがあること,そして患者が任意の治療を拒否していることを認定する必要がある。未成年者に対して薬物治療を行う場合は,医師は親または保護者から同意を得るべきである。

自身に対する危険としては,例えば以下のものが挙げられる:

大部分の行政管轄区では,医療従事者が自殺の意思を知った場合は,例えば警察または他の責任機関に通知するなどにより,自殺予防のために即座に行動することが要求されている。

他者に対する危険には,以下のものが挙げられる:

  • 殺人の意思を表明する

  • 他者を危険に曝す

  • 精神障害のために扶養家族のニーズまたは安全を確保できない

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