亜急性および慢性髄膜炎

執筆者:John E. Greenlee, MD, University of Utah Health
レビュー/改訂 2020年 12月
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亜急性髄膜炎は数日から数週間かけて発生する。慢性髄膜炎は4週間以上持続する。可能性がある原因としては,真菌,結核菌(Mycobacterium tuberculosis),リケッチア,スピロヘータ,Toxoplasma gondii,HIV,エンテロウイルス,自己免疫性リウマチ疾患(例,全身性エリテマトーデス[SLE],関節リウマチ[RA])や悪性腫瘍といった疾患などがある。症状と徴候は,その他の髄膜炎の場合と同様であるがより進行が遅い。脳神経麻痺および(血管炎による)脳梗塞が起こる可能性がある。診断には,大量の髄液の分析(典型的には腰椎穿刺により繰り返し採取し,可能であればときに次世代シークエンシング技術を用いる)に加え,ときに生検または脳室もしくは脳槽穿刺を要する。治療は原因に対して行う。

髄膜炎の概要も参照のこと。)

慢性髄膜炎は10年以上持続することもある。まれに,慢性髄膜炎は良性の経過が長く続き,その後自然寛解することがある。

亜急性および慢性髄膜炎は,多岐にわたる病原体や疾患によって発生する。

表&コラム

結核性髄膜炎

結核菌(M. tuberculosis)は宿主細胞内で増殖する好気性細菌であるため,この細菌の制御は主にT細胞性免疫に依存する。この細菌は,初期感染時または再活性化時に中枢神経系に感染することがある。先進国では,髄膜炎は通常感染症の再活性化に起因する。腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬(例,インフリキシマブ,アダリムマブ,ゴリムマブ,セルトリズマブ,エタネルセプト)などの免疫抑制薬による治療を受けている患者では,再活性化が起きることがある。

髄膜炎症状は通常数日から数週間かけて発生するが,これよりはるかに急速なこともあれば緩徐なこともある。

特徴的には,結核菌(M. tuberculosis)は脳底部髄膜炎を引き起こし,それにより3つの合併症が生じる:

  • ルシュカ孔およびマジャンディ孔またはシルビウス水道の閉塞による水頭症

  • 血管炎,ときにこれが原因で動脈または静脈閉塞および脳卒中が生じる

  • 脳神経の障害,特に第2,第7,および第8脳神経

結核性髄膜炎
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この結核性髄膜炎患者のMRI画像では,脳底部(脳底部髄膜[矢印])および脳幹周囲に炎症性滲出液の強信号域が認められる。
Image courtesy of John E.Greenlee, MD.

結核性髄膜炎の診断は困難なことがある。全身性結核の所見がない場合がある。造影CTまたはMRIで脳底部の髄膜の炎症がみられれば,診断が示唆される。

特徴的な髄液所見としては以下のものがある:

  • リンパ球優位の混合型の細胞増多

  • 糖低値

  • タンパク質上昇

ときに,極めて低い糖値が最初の髄液異常となる。

以下の理由から,病原体の検出はしばしば困難である:

  • 髄液の抗酸菌染色は,たとえ蛍光抗体法を用いても,感度が20%未満である。

  • 髄液抗酸菌培養の感度は約70%に過ぎず,最大6週間要する。

  • 髄液PCR検査の感度は50~70%である。

世界保健機関(World Health Organization:WHO)は結核性髄膜炎の診断について,Xpert MTB/RIFと呼ばれる自動化された迅速な核酸増幅検査を推奨している。この検査により,髄液検体から結核菌(M. tuberculosis)DNAを検出し,リファンピシンへの抵抗性を判定できる。アネルギーに対する対照を用いた皮膚テストかQuantiFERON®-TB Gold検査を行うことで,過去の結核菌(M. tuberculosis)曝露を確認することができるが,陰性となる場合もあり,特に高齢患者や免疫抑制患者ではその可能性が高くなる。胸部X線では,40~50%の症例で過去または進行中の感染の所見が認められ,胸部CTでは最大3分の2の症例で陽性となる。

結核性髄膜炎は急速かつ破壊的経過を有し,診断検査が限られているため,臨床的疑いに応じて治療すべきである。WHOが現在推奨している抗結核薬による治療法は,イソニアジド,リファンピシン,ピラジナミド,およびエタンブトールを2カ月投与した後,イソニアジドおよびリファンピシンを6~7カ月投与するというものである。患者に昏迷,昏睡,または神経脱落症状があれば,コルチコステロイド(プレドニゾンまたはデキサメタゾン)を追加することがある。

スピロヘータによる髄膜炎

ライム病は,米国ではBorrelia burgdorferi によって,欧州ではB. afzeliiおよびB. gariniiによって引き起こされる慢性スピロヘータ感染症である。ライム病はマダニ(Ixodes属)よって伝播され,米国では通常シカダニによる。米国では,12州で全症例の95%を占めている。大西洋沿岸中部および北東部沿岸の州,ウィスコンシン州,カリフォルニア州,オレゴン州,ワシントン州などがある。ライム病に接触した小児の最大8%および成人の一部が髄膜炎を発症する。髄膜炎は急性の場合と慢性の場合があり,通常は急性ウイルス性髄膜炎よりも緩徐に開始する。

診断の手がかりとしては以下のものがある:

  • 森林地帯で過ごした時間および流行地域(欧州を含む)への旅行

  • 遊走性紅斑またはその他のライム病症状の既往

  • 片側性または両側性顔面麻痺(ライム病では一般的であるがほとんどのウイルス性髄膜炎ではまれ)

  • 乳頭浮腫(ライム病の小児ではよく報告されるが,ウイルス性髄膜炎ではまれ)

典型的な髄液所見としては以下のものがある:

  • リンパ球増多

  • 中等度のタンパク質上昇

  • 糖正常

ライム病の診断は,酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による血清学的検査に基づき,その後ウェスタンブロット法により確定する。一部の検査室では,偽陽性率の高さが許容範囲を超えることがある。

ライム病における髄膜炎の治療はセフォタキシムまたはセフトリアキソンを14日間投与することによる。セフォタキシムの用量は以下の通りである:

  • 小児:150~200mg/kg/日,静注,3~4回に分けて投与(例,50mg,1日3回~1日4回)

  • 成人:2g,静注,8時間毎

セフトリアキソンの用量は以下の通りである:

  • 小児:50~75mg/kg/日,静注(最大2g),1日1回

  • 成人:2g,静注,1日1回

重症例では,アナプラズマ症またはバベシア症を合併する可能性があることを覚えておくべきである。

梅毒性髄膜炎

梅毒性髄膜炎はより頻度が低く,通常は髄膜血管型神経梅毒の特徴である。髄膜炎は急性のこともあれば慢性のこともある。合併症として,脳動脈炎(虚血または梗塞を伴う血栓症を生じうる),網膜炎,脳神経の障害(特に第7脳神経),脊髄炎などを伴うことがある。

髄液所見としては以下のものがある:

  • 細胞増多(通常はリンパ球)

  • タンパク質上昇

  • 糖低値

これらの異常は,AIDS患者でより顕著にみられることがある。

梅毒性髄膜炎の診断は,血清および髄液血清学的検査に基づき,その後はトレポネーマ蛍光抗体吸収試験(FTA-ABS)により確定する。MRアンギオグラフィーおよび脳血管造影により,脳実質性疾患および動脈炎を正確に区別できる可能性がある。

梅毒性髄膜炎の患者に対する治療では,水溶性ペニシリン12~24百万単位/日を4時間毎に分割して(例,4時間毎に2~4百万単位)静注し,10~14日間継続する。

クリプトコッカス髄膜炎

クリプトコッカス髄膜炎は,西半球で最も一般的な慢性髄膜炎の原因であり,AIDS患者で最もよくみられる日和見感染症である。米国におけるクリプトコッカス髄膜炎の一般的な原因菌は以下のものである:

  • Cryptococcus neoformans var. neoformans(血清型D株)

  • C. neoformans var. grubii(血清型A株)

C. neoformans var. grubiiはクリプトコッカス髄膜炎症例の90%を占める。C. neoformansは土壌,樹木,およびハトを始めとする鳥類の糞中に存在する。C. neoformansによる髄膜炎は通常,易感染性患者に発生するが,ときに明らかな基礎疾患のない患者にも発生することがある。

別種のクリプトコッカスであるC. gattiiによる髄膜炎は,太平洋地域およびワシントン州で発生しており,免疫状態が正常な人々も発症する。

クリプトコッカスは水頭症および脳神経障害を伴う脳底部髄膜炎を引き起こし,血管炎の頻度は比較的低い。髄膜炎症状は通常潜行性に始まり,ときに再発および寛解の期間が長く続く。クリプトコッカス髄膜炎は,数カ月ないし数年かけて発生し持続することがある。

典型的な髄液所見としては以下のものがある:

  • リンパ球増多

  • タンパク質上昇

  • 糖低値

しかしながら,進行したAIDSまたは別の重度の易感染状態にある患者では,反応性の細胞増加が最小限であるか全くみられないことがある。

クリプトコッカス髄膜炎の診断は,クリプトコッカス抗原検査および真菌培養の結果に基づくが,これらの検査での診断率は80~90%である。感度50%の墨汁染色が用いられることもある。ときに,診断が極めて困難となり,一定の期間をかけて複数回にわたり採取した大量(20~30mL)の髄液での検査が必要になることがある。その度にクリプトコッカス抗原の検査と真菌培養を行うべきである。

C. neoformans髄膜炎を有する非AIDS患者は,5-フルオロシトシンとアムホテリシンBの相乗効果を利用する従来の併用療法で治療されている。AIDS患者のクリプトコッカス髄膜炎は,アムホテリシンB + フルシトシン(忍容性があれば)に続いてフルコナゾールを投与することによって治療する。

メチルプレドニゾロンの硬膜外注射後に発生する真菌性髄膜炎

ときに,脊髄硬膜外へのメチルプレドニゾロンの注射を受けた患者において真菌性髄膜炎のアウトブレイクが発生する。いずれの場合も,薬剤が調剤薬局で調製されており,その調製の過程で無菌操作に対する重大な違反があった。

米国での最初のアウトブレイク(2002年)では,5例の髄膜炎症例が発生した。直近のアウトブレイク(2012年後半および2013年)では,髄膜炎,脳卒中,脊髄炎,またはその他の真菌感染症関連合併症の症例が合わせて753例発生し,61例が死亡した。アウトブレイクはスリランカ(7例)およびミネソタ(1例)でも発生している。2002年は大半の症例がExophiala dermatitidisによるもので,2012年および2013年は大半の症例がExserohilum rostratumによるものであったが,少数の症例ではAspergillusまたはCladosporium属が原因であった。

この髄膜炎はしばしば脳底部の感染を伴い,潜行性に発生する傾向にある;血管が侵され,血管炎および脳卒中を来すことがある。頭痛が最も頻度の高い主症状であり,認知能力の変化,悪心または嘔吐,発熱がそれに続く。症状は硬膜外注射から最大6カ月遅れて現れることがある。約3分の1の患者では髄膜刺激徴候がみられない。

典型的な髄液所見としては以下のものがある:

  • 好中球増多

  • タンパク質上昇

  • しばしば糖低値

Exserohilum髄膜炎に対して最も感度の高い検査はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査であり,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)を介して利用可能である;少数の例では,培養に基づいて診断できることがある。

髄液中のガラクトマンナンの測定値が上昇していればアスペルギルス(Aspergillus)髄膜炎が疑われ,診断は培養に基づく。

Exophiala属またはExserohilum属真菌による髄膜炎はまれであり,根治的治療法は不明である。しかしながら,初期にはボリコナゾール6mg/kg/日の静注が推奨される。薬剤の用量は血中薬物濃度に基づいて調整すべきである。治療開始後最初の2~3週間は,肝酵素およびナトリウムを定期的に測定すべきである。

予後は予断を許さず,適切な治療を行ったからといって生存が保証されるわけではない。

その他の真菌性髄膜炎

Coccidioides属,Histoplasma属,Blastomyces属,Sporothrix属,またはCandida属真菌によって引き起こされる慢性髄膜炎は,C. neoformansによるものと類似する。Coccidioides属真菌は,米国南西部(主にユタ州南部,ニューメキシコ,アリゾナ,およびカリフォルニア州)に限定されている。Histoplasma属およびBlastomyces属真菌は,主に米国中部および東部に分布している。そのため,亜急性髄膜炎症状を伴う患者がこの地域に在住または旅行していれば,原因として特定の真菌を疑うべきである。

典型的な髄液所見としては以下のものがある:

  • リンパ球増多

  • タンパク質上昇

  • 糖低値

Candida属真菌は多形核白血球の増加をもたらすこともある。

コクシジオイデス髄膜炎は治療抵抗性となる傾向があり,フルコナゾールによる治療が生涯必要になる場合もある。ボリコナゾールおよびアムホテリシンBも用いられたことがある。その他の真菌性髄膜炎の治療は,通常アムホテリシンBによる。

慢性特発性髄膜炎

ときに,通常はリンパ球性の慢性髄膜炎が数カ月から数年にわたり持続するが,病原体が同定されないことがある;これにより死に至ることはない。一部の患者では,最終的に髄膜炎は自然寛解する。一般に,抗真菌薬またはコルチコステロイドの経験的投与は役に立たない。

慢性髄膜炎のその他の原因

まれに,その他の感染性病原体や一部の非感染性疾患(慢性髄膜炎の非感染性の原因の表を参照)が慢性髄膜炎の原因となる。非感染性の原因としては以下のものがある:

HIV感染症患者における慢性髄膜炎

HIV感染患者では髄膜炎がよくみられる。HIVは感染経過の初期に中枢神経系を侵し,髄液の異常所見のほとんどがHIVに起因する。髄膜炎および髄膜炎症状の発症は,しばしば抗体陽転の時期と一致する。その後,髄膜炎は寛解することもあれば,安定した経過または変動的な経過をたどることもある。

しかしながら,HIV感染症患者では,その他の多くの病原体が慢性髄膜炎を引き起こしうる。そのような病原体には,C. neoformans(最も頻度が高い),結核菌(M. tuberculosis),梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum),B. burgdorferiToxoplasma gondiiCoccidioides immitis,その他の真菌などがある。中枢神経系リンパ腫は,これらの患者において髄膜炎に類似した症状を引き起こしうる。

原因にかかわらず,実質病変が発生することがある。

亜急性および慢性髄膜炎の診断

  • 髄液検査

亜急性または慢性髄膜炎患者の臨床所見は,しばしば非特異的である。しかしながら,全身性の感染症または疾患を注意深く探ることで,髄膜炎の原因が示唆されることがある。また,ときに危険因子(例,易感染状態,HIV感染症またはその危険因子,最近の流行地域での滞在)および特定の神経脱落症状(例,特定の脳神経障害)が特定の原因を示唆することがあり,例としてはHIV感染症患者におけるC. neoformans髄膜炎や,米国南西部居住者におけるC. immitis感染症などがある。

典型的な髄液所見としてはリンパ球増多などがある。慢性髄膜炎の原因となる感染症の多くで,髄液に含まれる病原体はわずかであるため,原因同定が困難である。そのため,髄液所見に基づく亜急性または慢性髄膜炎の診断は,複数かつ大量の検体の経時的分析を要する場合があり,特に培養が重要である。

一般的な髄液検査としては以下のものがある:

  • 好気性および嫌気性細菌培養

  • 抗酸菌および真菌培養

  • クリプトコッカス抗原検査

  • 抗原または血清学的検査

  • 特殊染色(例,抗酸菌染色,墨汁染色)

  • 細胞診

可能であれば,次世代シークエンシング(メタゲノム解析)を用いて広範囲に及ぶ核酸塩基配列を迅速に決定することで,他の方法では検出できない病原体を髄液中に同定することができる。

結核性髄膜炎が疑われる場合は,Xpert MTB/RIFと呼ばれる自動化された検査を利用することができ,WHOは結核性髄膜の診断にこれを推奨している。この検査により,髄液検体中の結核菌(Mycobacterium tuberculosis)DNAを検出できる。アネルギーに対する対照を用いた皮膚テストかQuantiFERON®-TB Gold検査を行うことで,過去の結核菌(M. tuberculosis)曝露を確認することができるが,陰性となる場合もあり,特に高齢患者や免疫抑制患者ではその可能性が高くなる。胸部X線では,40~50%の症例で過去または進行中の感染の所見が認められ,胸部CTでは最大3分の2の症例で陽性となる。

髄液所見で診断がつかず,合併症があるまたは髄膜炎が進行している場合は,より侵襲的な検査(例,脳槽または脳室穿刺,生検)が適応となる。ときに,腰椎穿刺による髄液で陰性でも,脳室または脳槽から採取した髄液から病原体が検出されることがある。

生検を行う局所炎症部位を同定するために,MRIまたはCTを施行してもよい;盲目的髄膜生検の診断率は非常に低い。

亜急性および慢性髄膜炎の治療

  • 原因の治療

亜急性または慢性髄膜炎患者の治療は原因に向けて行う(抗酸菌性,スピロヘータ性,および真菌性髄膜炎については上記参照;その他の原因については本マニュアルの別の箇所を参照)。

亜急性および慢性髄膜炎の要点

  • 可能性の高い原因の同定に役立てるため,危険因子(例,流行地域で過ごした期間,HIV感染症またはその危険因子,易感染状態,自己免疫性リウマチ疾患)を考慮する。

  • 全身性の感染症または疾患を注意深く探ることで,診断が示唆されることがある。

  • 髄液に含まれる病原体は少ない可能性があるため,髄液検査には多くの検体を要することがある;診断のため,ときに脳槽または脳室穿刺および/もしくは生検を要する。

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