特発性頭蓋内圧亢進症

(良性頭蓋内圧亢進症;頭蓋内静脈圧亢進;偽脳腫瘍)

執筆者:Stephen D. Silberstein, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2020年 4月
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特発性頭蓋内圧亢進症は腫瘤性病変も水頭症も伴わない頭蓋内圧亢進であり,おそらく静脈還流の閉塞による;髄液の性状は正常である。

頭痛患者へのアプローチも参照のこと。)

特発性頭蓋内圧亢進症は,典型的には妊娠可能年齢の女性にみられる。発生率は正常体重の女性で1/100,000であるが,肥満女性では20/100,000である。頭蓋内圧の亢進(>250mmH2O)がみられ,その原因は不明であるが,おそらくは脳静脈流出路の閉塞(静脈洞が正常より小さいことが原因である可能性がある)が関与していると考えられる。

小児では,コルチコステロイドを中止した後に,または成長ホルモンを使用した後に,ときにこの疾患が発生することがある。特発性頭蓋内圧亢進症は,テトラサイクリンまたは大量のビタミンAを摂取した後にも発生することがある。

症状と徴候

ほぼ全ての患者に毎日,またはほぼ毎日,頭部全体に及ぶ強度の変動する頭痛が起こり,ときに悪心を伴う。一過性の視野のぼやけ,複視(第6脳神経障害による),および拍動性の頭蓋内を起源とする耳鳴も併発することがある。視力障害が周辺から始まるが,経過の後期まで患者が気づかない場合がある。最も重篤な転帰は永続的な視力障害である。一旦視力が低下すると,頭蓋内圧が元に戻っても,視力は回復しないのが通常である。

両側性の乳頭浮腫がよくみられるが,少数の患者では片側性の場合や乳頭浮腫がみられない場合もある。一部の無症状の患者で,ルーチン検眼鏡検査で乳頭浮腫が発見されることがある。神経学的診察では第6脳神経の麻痺が検出されることがあるが,それ以外に目立った所見はない。

パール&ピットフォール

  • 臨床所見から特発性頭蓋内圧亢進症が示唆されれば,たとえ患者に視覚症状がなくとも,視野および眼底の検査を行う。

診断

  • 磁気共鳴静脈造影を伴うMRI

  • 腰椎穿刺

臨床所見から特発性頭蓋内圧亢進症が示唆されれば,たとえ患者に視覚症状がなくとも,視野および眼底の検査を行うべきである。

特発性頭蓋内圧亢進症の診断は臨床的に疑い,脳画像検査(磁気共鳴静脈造影を伴うMRIが望ましい)の所見が正常で(横静脈洞の狭窄所見を除く),かつ禁忌がなければ腰椎穿刺を施行して初圧上昇を認め,髄液の性状が正常であれば,診断確定となる。

まれに,特定の薬剤や疾患が特発性頭蓋内圧亢進症に類似した症候を引き起こす場合もあるため,その可能性を除外すべきである(乳頭浮腫を伴い,特発性頭蓋内圧亢進症に類似する病態の表を参照)。

表&コラム

治療

  • アセタゾラミド

  • 減量

  • 片頭痛に対する薬剤,特にトピラマート

  • ときに手術

特発性頭蓋内圧亢進症は,ときに無治療で軽快することがある。

特発性頭蓋内圧亢進症の治療では,以下を目標とする:

  • 減圧

  • 視力の温存

  • 症状の緩和

炭酸脱水酵素阻害薬であるアセタゾラミド(250mg,経口,1日4回)を使用する。

肥満患者では,減量が頭蓋内圧の低下に役立つ可能性があるため,減量が推奨される。

腰椎穿刺の反復については議論があるが,ときに施行され,特に最終的な治療の開始を待つ間に視力が脅かされている場合に行われる。(根治的治療としては,視神経鞘開窓術,シャント作成,または静脈内ステント留置術などがある)。

可能性のある原因(疾患または薬剤)は可能であれば是正するか除去すべきである。

片頭痛に用いられる薬剤(特にトピラマート,これも炭酸脱水酵素を阻害する)が頭痛を緩和しうる。必要に応じて非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を使用できる。

治療に対する反応をモニタリングするために,頻回の眼科検査(定量的な視野検査など)が必要である;視力検査は,切迫する視力障害を予想するには感度が不十分である。

治療を行っても視力が悪化する場合は,以下のいずれかが適応となりうる:

  • 視神経鞘開窓術

  • シャント術(腰椎腹腔または脳室腹腔シャント)

  • 静脈内ステント留置術

他の方法で減量できない肥満患者で肥満外科手術により継続的な減量が達成できれば,本症の治癒が得られる可能性がある。

要点

  • 視覚症状の有無にかかわらず頭部全体に及ぶ頭痛を日常的に感じている患者,特に過体重の女性では,特発性頭蓋内圧亢進症を考慮する;視野および眼底を検査する。

  • 脳画像検査(できれば磁気共鳴静脈造影を伴うMRI),および禁忌がなければ腰椎穿刺の結果に基づいて診断する。

  • 減量を勧め,必要であればアセタゾラミドで治療する。

  • 治療に対する反応をモニタリングするため,頻回に眼科的評価(定量的な視野検査を含む)を行う。

  • 治療にも関わらず視力が低下する場合は,視神経鞘開窓術,シャント作成,または静脈内ステント留置術を考慮する。

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