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HIV関連認知症

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Department of Neurology, University of Mississippi Medical Center

レビュー/改訂 2021年 3月
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HIV関連認知症は,脳のHIV感染による,慢性の認知機能低下である。

  • 認知症は主に記憶に影響を及ぼし,典型的には脳の解剖学的変化によって生じ,発症がより緩徐で,一般に不可逆的である。

  • せん妄は主に注意力に影響を及ぼし,典型的には急性疾患または薬物中毒(ときに生命を脅かす)によって引き起こされ,可逆的であることが多い。

その他の特異的な特徴も,これら2つの病態の鑑別に有用である(せん妄と認知症の相違点 せん妄と認知症の相違点* せん妄と認知症の相違点* の表を参照)。

純粋なHIV関連認知症は,HIVウイルスによるニューロン損傷によって引き起こされる。しかしながら,HIV感染患者では,他の疾患から認知症が起こることもあり,その中のいくつかは治療可能である。そういった疾患の例としては, 進行性多巣性白質脳症 進行性多巣性白質脳症 (PML) 進行性多巣性白質脳症(PML)は,JCウイルスの再活性化によって引き起こされる。この疾患は通常,細胞性免疫に障害がある患者に発生し,特にHIV感染症の患者でよくみられる。PMLは亜急性かつ進行性の中枢神経系の脱髄と多巣性の神経脱落症状を引き起こし,通常は9カ月以内に死に至る。診断はMRIに加えて,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査を用いた髄液の分析による。AIDS患者であれば,HAART(highly... さらに読む 進行性多巣性白質脳症 (PML) の原因となるJCウイルスによる二次感染症などの感染症,および 中枢神経系リンパ腫 原発性脳リンパ腫 原発性脳リンパ腫は,原発性中枢神経系リンパ腫の一種であり,神経組織に由来し,通常はB細胞腫瘍である。診断には神経画像検査が必要であり,ときに髄液検査(エプスタイン-バーウイルスのウイルス価を含む)または脳生検も必要となる。治療法としては,コルチコステロイド,化学療法,放射線療法などがある。 原発性脳リンパ腫の発生率は,特に易感染性患者と高齢者において増加している。リンパ腫は,しばしば脳室に隣接した多中心性腫瘤として,びまん性に脳に浸潤す... さらに読む などがある。その他の日和見感染症(例, クリプトコッカス髄膜炎 クリプトコッカス髄膜炎 亜急性髄膜炎は数日から数週間かけて発生する。慢性髄膜炎は4週間以上持続する。可能性がある原因としては,真菌,結核菌(Mycobacterium tuberculosis),リケッチア,スピロヘータ,Toxoplasma gondii,HIV,エンテロウイルス,自己免疫性リウマチ疾患(例,全身性エリテマトーデス[SLE],関節リウマチ[RA])や悪性腫瘍といった疾患などがある。症状と徴候は,その他の髄膜炎の場合... さらに読む クリプトコッカス髄膜炎 その他の真菌性髄膜炎 その他の真菌性髄膜炎 亜急性髄膜炎は数日から数週間かけて発生する。慢性髄膜炎は4週間以上持続する。可能性がある原因としては,真菌,結核菌(Mycobacterium tuberculosis),リケッチア,スピロヘータ,Toxoplasma gondii,HIV,エンテロウイルス,自己免疫性リウマチ疾患(例,全身性エリテマトーデス[SLE],関節リウマチ[RA])や悪性腫瘍といった疾患などがある。症状と徴候は,その他の髄膜炎の場合... さらに読む その他の真菌性髄膜炎 ,一部の細菌感染症, 結核性髄膜炎 結核性髄膜炎 亜急性髄膜炎は数日から数週間かけて発生する。慢性髄膜炎は4週間以上持続する。可能性がある原因としては,真菌,結核菌(Mycobacterium tuberculosis),リケッチア,スピロヘータ,Toxoplasma gondii,HIV,エンテロウイルス,自己免疫性リウマチ疾患(例,全身性エリテマトーデス[SLE],関節リウマチ[RA])や悪性腫瘍といった疾患などがある。症状と徴候は,その他の髄膜炎の場合... さらに読む 結核性髄膜炎 ,ウイルス感染症, トキソプラズマ症 トキソプラズマ症 トキソプラズマ症は,Toxoplasma gondiiによる感染症である。症状はないこともあれば,良性リンパ節腫脹(単核球症様疾患)から,易感染者における生命を脅かす中枢神経系疾患やその他の臓器の障害まで,様々である。AIDS患者およびCD4陽性細胞数が少ない患者では,脳炎が発生する可能性がある。先天性感染症では網脈絡膜炎,痙攣発作,および知的障害が起こる。診断は血清学的検査,病理組織学的検査,またはポリメラーゼ連鎖反応(... さらに読む トキソプラズマ症 )が原因となることもある。

純粋なHIV関連認知症では,感染したマクロファージや小膠細胞が深部灰白質(すなわち,基底核,視床)および白質に浸潤することで,皮質下に病理学的変化が生じる。

後期HIV感染症における認知症の有病率は7~27%であるが,30~40%がこれよりも軽度の病型を有する。発生率はCD4陽性細胞数に反比例する。

HIV関連認知症の症状と徴候

  • 思考および表出の鈍化

  • 集中困難

  • 無関心

病識は保たれており,抑うつ症状は少ない。運動は緩慢となり,運動失調および脱力が顕著となりうる。

異常な神経学的徴候としては以下のものがある:

  • 不全対麻痺

  • 下肢の痙性

  • 運動失調

  • 伸展性足底反応

ときに躁病または精神病症状がみられる。

HIV関連認知症の診断

  • 臨床的評価

  • CD4陽性細胞数およびHIVウイルス量

  • 悪化が急性である場合は,迅速な評価(MRIおよび通常は腰椎穿刺を含む)

以下に当てはまる患者ではHIV関連認知症を疑うべきである:

  • 認知症の症状がある

  • HIVに感染している,またはHIV感染症を示唆する症状もしくは危険因子がある

  • 認知症状または行動(神経心理学的)症状が仕事や日常的な活動を行う能力を妨げている。

  • それらの症状が以前の機能レベルからの低下を反映している。

  • それらの症状をせん妄または主な精神障害によって説明することができない。

患者に認知症の症状があり,HIV感染症の危険因子があるが,HIVに感染しているかどうかわからない場合は,HIVの検査を行う。

HIV感染症の患者またはHIV関連認知症の疑いがある患者では,CD4陽性細胞数とHIVウイルス量を測定する。HIV感染症の疑いがある,またはその診断が確定している患者に認知症がみられる場合,これらの値から,HIV関連認知症(および中枢神経系リンパ腫やHIVに関連するその他の中枢神経系感染症)が認知症に寄与している確率を予測できる。HIVに感染しているが認知症のない患者では,これらの値を用いてHIV関連認知症が発生する確率を予測できる。

認知症とHIV感染症がある場合でも,他の病態が認知症症状の原因となったり悪化に寄与したりすることがある。そのため,認知機能の低下(特に突然の重度の低下)は,HIVによるものであれ他の感染症によるものであれ,直ちに原因を同定しなければならない。

HIV関連認知症の後期の所見としては,造影されないびまん性の白質高信号域,大脳萎縮,脳室拡大などがありうる。

HIV関連認知症の予後

未治療の認知症を有するHIV感染患者は,認知症のないHIV感染患者よりも予後不良である(期待余命は6カ月)。

HIV関連認知症の治療

  • 抗レトロウイルス療法

HIV関連認知症の主な治療は 抗レトロウイルス療法 治療 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む 治療 であり,これによりCD4陽性細胞数が増加し,認知機能が改善される。 免疫再構築症候群 免疫再構築症候群(IRIS) 無治療の患者ではCD4陽性細胞数が高くても合併症が発生する可能性があるため,また,毒性の低い薬剤が開発されたことから,現在では抗レトロウイルス療法(ART)による治療はほぼ全ての患者に推奨されている。ARTのベネフィットは,詳細に検討された全ての患者群と状況においてリスクを上回っている。 ARTでは以下を目標とする: 血漿HIV RNAレベルを検出限界未満の水準(20~50コピー/mL未満)まで減少させること... さらに読む 免疫再構築症候群(IRIS) (IRIS)は,抗レトロウイルス療法を開始したときに,神経学的状態および精神状態の逆説的な悪化を引き起こすことがある;この問題は予測して治療すべきである。

支持療法 治療 認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。診断は臨床的に行い,治療可能な原因の同定には通常,臨床検査および画像検査を利用する。治療は支持療法による。コリンエステラーゼ阻害薬はときに認知機能を一時的に改善する。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。) 認知症はいかなる年齢にも起こりうるが,主として高齢者を侵す。介護施設入居者の半数以上にみられる。... さらに読む は他の認知症の場合と同様である。例えば,居住環境は明るく,にぎやかで,親しみ慣れたものとし,見当識を強化できるような配慮を施す(例,大きな時計やカレンダーを部屋に置く)べきである。患者の安全を確保する対策(例,徘徊する患者に対して遠隔モニタリングシステムを使用する)を講じるべきである。

必要に応じて症状を治療する。

終末期の問題

認知症患者は洞察力と判断力が低下しているため,金銭管理を行う家族,後見人,または弁護士の決定が必要になる場合がある。認知症の早期,患者が判断能力を喪失する前に,介護についての患者の希望を明確にしておき,金銭上および法律上の取り決め(例,永続的委任状, 医療判断代理委任状 医療判断代理委任状(durable power of attorney for health care) 事前指示書は,ある人が能力を喪失した場合に,医療に関する決断に対しその人のコントロールを及ばせる法律文書である。能力の喪失が起きる以前に希望を表明するため,それらは事前指示書と呼ばれる。このような文書では通常,終末期ケアに関する決定が含まれている。このような終末期の決定について患者と共感的かつ効果的にコミュニケーションを取るには特別な技術が必要であるため,訓練が望ましい。 2つの主要な形式の事前指示書がある:... さらに読む )を行うべきである。これらの文書に患者が署名する際は,患者の 能力 能力(資格)および無能力 歴史的には「無能力(incapacity)」は主に臨床的所見とみなされ,「無資格(incompetency)」は法的所見とみなされた。その違いは,少なくとも用語としては,もはや厳密に認識されてはいない;これらの用語はしばしば互換的に使用されているが,現在ほとんどの州法では「無資格」よりむしろ「無能力」を使用している。現在では,医療に関する... さらに読む を評価し,評価結果を記録すべきである。人工栄養および急性疾患の治療についての決断は,必要性が生じる前に決断しておくのが最善である。

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