関節症状を有する患者の評価

執筆者:Alexandra Villa-Forte, MD, MPH, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2020年 2月
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筋骨格系疾患の中には,主として関節を侵し,関節炎を引き起こすものがある。その他にも,主として骨を侵すもの(例,骨折骨パジェット病腫瘍),筋肉または他の関節外軟部組織を侵すもの(例,リウマチ性多発筋痛症筋炎),関節周囲軟部組織を侵すもの(例,滑液包炎腱炎捻挫)がある。関節炎には,感染症,自己免疫疾患結晶誘発性炎症,ならびに軽度な炎症性の軟骨および骨疾患(例,変形性関節症)など,非常に多くの原因がある。関節炎は,単一の関節(単関節炎)または複数の関節(多関節炎)を対称性または非対称性に侵し,脊椎を侵す場合もある。

病歴

医師は関節症状だけでなく,全身症状と関節外症状にも注意を向けるべきである。発熱,悪寒,倦怠感,体重減少,レイノー現象,粘膜皮膚症状(例,発疹,眼の充血または痛み,光線過敏症),消化管症状,心肺症状など,多くの症状が種々の関節疾患や結合組織疾患と関連している可能性がある。

痛みは関節疾患の最もよくみられる症状である(単関節および単関節周囲の痛みおよび複数の関節の痛みを参照)。病歴の聴取では,痛みの性質,部位,重症度,痛みが増悪または軽減する要因,および期間(初発または再発)に目を向けるべきである。医師は,痛みが増すのは関節を動かし始めるときかまたは長時間使用した後か,また痛みが起床時にあるのか日中に出現するのかを確認する必要がある。通常,表層の構造で生じる痛みは,より深部の構造で生じる痛みに比べ限局的である。遠位の小関節で生じる痛みは,近位の大関節で生じる痛みよりも限局的である傾向が強い。関節痛は,関節外の構造や他の関節からの関連痛である場合がある。関節炎ではうずく痛みが生じることが多い一方,神経障害では刺すような深部の痛みや表在性の灼熱痛が生じることが多い。

こわばりは関節を動かしにくい状態をいうが,患者にとっては,筋力低下,疲労,または一定の運動制限を指すこともある。医師は,関節を動かせないことと,痛みのせいで関節を動かそうとしないことを区別する必要がある。こわばりの特徴は,以下に記すように,原因を示唆することがある:

  • 一定時間の安静の後に関節を動かそうとする際に関節の動きに伴って起こる不快感は,リウマチ性疾患で生じる。

  • こわばりは,関節の炎症の重症度が増すにつれてより重度になり長引く。

  • Theater sign(数時間座った後にゆっくり歩かざるを得なくなる,膝関節または股関節の短時間のこわばり)は変形性関節症で一般的にみられる。

  • 1時間以上続く末梢関節の朝のこわばりは,関節リウマチ乾癬性関節炎,またはウイルス性の慢性関節炎など,関節に起きた炎症の重要な初期症状である場合がある。

  • 腰部では,1時間を超えて続き,体動で軽減する朝のこわばりは,脊椎炎を反映していることがある。

疲労は,休みたいという欲求であり消耗を反映している。それは,筋力低下,動けないこと,および動きに伴う痛みのために動きたがらないこととは異なる。疲労は,全身性炎症性疾患や他の疾患の活動性を反映していることがある。疲労と眠気の鑑別を試みるべきである。

不安定性(関節の座屈[buckling])は,関節内部の障害や靱帯など関節を安定させる関節周囲組織の脆弱性を示唆し,それらは診察時に負荷試験によって評価する。座屈は膝関節で最もよく起こる。

表&コラム

身体診察

障害のある関節を個々に視診および触診し,可動域を測定すべきである。多関節性疾患では,特定の非関節性の徴候(例,発熱,消耗,発疹)は,全身性疾患を反映している可能性がある。

紅斑,腫脹,変形,および皮膚の擦過傷または穿刺傷とともに,関節の安静肢位に注意する。障害のある関節を障害のない反対側の関節または検者の関節と比較する。

関節を愛護的に触診し,圧痛,熱感,および腫脹の有無とその部位に注意する。圧痛が関節裂隙に沿っているか,または腱付着部もしくは滑液包部にあるかの判定が特に重要である。正常の陥凹または間隙を満たす柔らかい腫瘤,膨隆,または組織(関節液貯留または滑膜増殖を示す)がないか注意する。腫脹した関節を触診すると,ときに関節液貯留,滑膜肥厚,および関節包または骨の膨隆を鑑別できることがある。小関節(例,肩鎖関節,脛腓関節,橈尺関節,胸鎖関節)が,当初は隣接する大関節から生じると考えられた痛みの原因であることがある。骨の膨隆(しばしば骨棘に起因する)に注意する。

自動関節可動域(患者が関節を動かすことのできる最大域)を最初に評価する;制限があれば,機械的異常ばかりではなく,筋力低下,痛み,またはこわばりを反映していることがある。次に他動関節可動域(検者が関節を動かすことができる最大域)を評価する;他動的な可動域制限は,一般的に筋力低下または痛みよりむしろ機械的異常(例,瘢痕,腫脹,変形)を反映している。炎症を起こしている関節(例,感染症または痛風のため)を自動的および他動的に動かすと,非常に痛むことがある。

その関節の運動もしくは触診で痛みを再現できない場合は,関連痛の可能性が示唆される。

関節障害のパターンに注意すべきである。多関節の対称性の障害は全身性疾患(例,関節リウマチ)で一般的である一方,単関節(1つの関節が侵される場合)または非対称性の少関節(4カ所以下の関節が侵される場合)の障害は変形性関節症乾癬性関節炎でより一般的である。末梢の小関節は通常関節リウマチで侵されることが多く,より大きな関節および脊椎は脊椎関節症で侵されることが多い。しかし,完全な障害パターンは疾患早期には明白でないことがある。

Crepitus(捻髪音),すなわち損傷した関節構造の運動によって生じる触知可能または聴取可能なきしむような音に注意する。Crepitusは表面が粗くなった関節軟骨または腱により生じる可能性があるが,crepitusが生じる動作を特定すべきであり,その動作から関係している構造が示唆される場合がある。

それぞれの関節で特異的な特徴を探るべきである。身体診察および関節穿刺の手技の詳細は,以下に示す関節別に考察されている:

検査

臨床検査および画像検査では,しばしば病歴および身体診察よりも得られる情報が少ない。一部の患者では必要な検査もあるが,詳細な検査は必要ではないことが多い。検査としては以下のものがある:

血液検査

血液検査は,病歴および診察所見に基づいて選択すべきである。一部の検査は,特異的ではないが,以下に挙げるように,特定の全身性リウマチ性疾患の可能性を裏付ける上で役立つことがある:

白血球数,赤血球沈降速度(赤沈),C反応性タンパク(CRP)などの検査は,関節炎が感染症またはその他の全身性疾患による炎症性のものであるかどうかの確認に役立つことがあるが,これらの検査は特異度,感度ともにあまり高くはない。例えば,赤沈の亢進またはC反応性タンパク(CRP)値の上昇は関節の炎症を示唆するか,あるいは関節以外で炎症を引き起こす多くの病態(例,感染症,がん)に起因している場合がある。また,そのようなマーカーは全ての炎症性疾患で上昇するとは限らない可能性もある。

画像検査

画像検査は不要であることが多い。特に単純X線は主に骨の異常を明らかにするが,ほとんどの関節疾患は骨を主に侵すものではない。しかし画像検査は,比較的限局性で説明のつかない持続性または重度の関節異常および特に脊椎異常の初期評価に役立つことがある;画像検査により原発性もしくは転移性の腫瘍,骨髄炎,骨梗塞,(石灰性腱炎でみられるような)関節周辺の石灰化,または身体診察で見落とされることがある深部構造のその他の変化が明らかになることがある。慢性の関節リウマチ痛風,または変形性関節症が疑われる場合,びらん,嚢胞,および骨棘を伴う関節腔の狭小化がみられることがある。ピロリン酸カルシウム関節炎(偽痛風)では,関節内の軟骨にピロリン酸カルシウムの沈着がみられることがある。

筋骨格の画像検査では,単純X線を最初に行うことが多いが,しばしばMRI,CT,または超音波検査よりも感度が低く,特に早期の疾患ではその場合が多い。MRIは,単純X線では見えない骨折に対する最も正確な検査であり,特に股関節および骨盤の骨折,ならびに膝関節の軟部組織および関節内部の障害に対して有効である。CTは,MRIが禁忌または利用できない場合に有用である。超音波検査,関節造影,および骨シンチグラフィーは,特定の条件下で有用であることがあり,また骨,関節滑膜,またはその他の組織の生検についても同様である。

関節穿刺

関節穿刺は,関節を針で穿刺して関節液を吸引する方法である。液貯留がある場合に,関節穿刺を正しく行えば,通常は関節液を吸引できる。関節液の検査は感染を除外し,結晶誘発性関節炎を診断し,またそれら以外の場合は関節液貯留の原因を確認する最も正確な方法である。この手技は,急性または説明のつかない単関節の液貯留がある全ての患者,および説明のつかない多関節の液貯留がある患者に適応となる。

関節穿刺は厳密な無菌操作で行う。感染またはその他の発疹のある部位から針を関節に挿入するのは禁忌である。穿刺を行う前に検体採取の準備を済ませておくべきである。リドカインおよび/またはジフルオロエタンのスプレーによる局所麻酔を用いることが多い。神経,動脈,および静脈(通常は関節の屈側面にある)を避けるために,多くの関節ではその伸側面に穿刺する。ほとんどの大関節に20Gの針が使える。上肢および下肢の少関節には,22Gまたは23Gの針でおそらく容易に挿入できる。できるだけ多くの体液を採取すべきである。特異的な解剖学的ランドマークを活用する(肩関節の関節穿刺肘関節の関節穿刺,および膝関節の関節穿刺の図を参照)。超音波ガイドは関節穿刺が成功する可能性を高めることが示されている。

関節液の検査

ベッドサイドで,色や透明度など,関節液の肉眼的な特徴を評価する。

肉眼的な特徴によって,多くの貯留液を暫定的に,非炎症性,炎症性,または感染性に分類できる(関節液の分類の表を参照)。貯留液は出血性のこともある。各種の貯留液は特定の関節疾患を示唆する(関節液の分類に基づく鑑別診断の表を参照)。いわゆる非炎症性貯留液は,しばしば軽度の炎症を伴っているが,変形性関節症などの疾患を示唆していることが多く,その場合の炎症は重度でない。

表&コラム

関節液について一般的に行われる臨床検査には,細胞数測定,白血球分画,グラム染色および培養(感染症が懸念される場合),ならびに細胞および結晶を調べるための湿潤標本を用いた鏡検(wet drop examination)などがある。しかし,正確な検査は,どの診断を疑うかによって異なることが多い。

表&コラム

結晶検出のために行う,滑液の湿潤標本(wet drop preparation)の偏光を用いた顕微鏡検査(関節液が1滴だけ必要)は,痛風ピロリン酸カルシウム関節炎,およびその他の結晶誘発性関節症の確定診断に不可欠である。光源の上に偏光器を置き,標本と検者の眼の間に偏光器をもう1つ置くと,輝いた白い複屈折性の結晶が見えるようになる。補償された偏光は,市販の顕微鏡に付属する鋭敏色板を挿入することにより得られる。

最も一般的にみられる結晶は痛風の診断根拠(尿酸一ナトリウム,負の複屈折性を示す針状結晶)およびピロリン酸カルシウム関節炎の診断根拠(ピロリン酸カルシウム,正の複屈折性を示すまたは複屈折性を示さない,菱形または桿状の結晶)となるものである。結晶が湿潤標本(wet drop)で非定型に見える場合は,それほど一般的ではない結晶(コレステロール,液状脂質の結晶,シュウ酸塩,クリオグロブリン)またはアーチファクト(例,沈着したコルチコステロイド結晶)を考慮すべきである。

関節液に関する他の所見で,ときに特異的な診断が下されるか,または示唆されるものには以下がある:

  • 特異的な微生物(グラム染色または抗酸菌染色により同定可能)

  • 骨髄片または脂肪小滴(骨折による)

  • 反応性関節炎で最もよくみられるReiter細胞(ライト染色した塗抹標本で貪食された多形核白血球を有する単球)

  • アミロイドの断片(コンゴレッド染色により同定可能)

  • 鎌状赤血球(鎌状赤血球の異常ヘモグロビン症[sickle cell hemoglobinopathy]により生じる)

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