複数の関節の痛み

執筆者:Alexandra Villa-Forte, MD, MPH, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2021年 2月
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関節は単に痛む(関節痛)だけの場合と,炎症(関節炎)も起こしている場合がある。関節の炎症は通常,熱感,腫脹(関節内の液,すなわち液貯留による),およびまれに紅斑を伴う。痛みは,関節使用時のみ,または安静時にも起こることがある。患者が関節痛であると説明するものが,ときに関節外に発生源(例,関節周囲の構造または骨)がある場合がある。

多関節痛(多発性関節痛)は複数の関節を侵す(単関節の痛みについては,本マニュアルの別の箇所で考察されている)。多関節障害は,異なる時期に異なる関節を侵すことがある。複数の関節が侵されている場合,様々な疾患,特に関節炎の鑑別に以下の区分が有用となりうる:

  • 少関節型(oligoarticular):4つ以下の関節を侵す

  • 多関節型:5つ以上の関節を侵す

複数の関節の痛みの病態生理

関節の痛みの発生源は関節内部にある。関節周囲の痛みの発生源は関節周囲の構造にある(例,腱,靱帯,滑液包,筋肉)。

関節内の発生源により引き起こされる多関節痛は以下のものから生じることがある:

滑膜および関節包が,関節内の痛みの主要な発生源である。滑膜は炎症により侵される主な部位である(滑膜炎)。炎症を伴わず複数の関節を侵す痛みは,良性の過剰運動症候群の場合と同様,過度の外傷に伴う関節弛緩性の増大に起因する可能性がある。

多関節炎は末梢関節,体軸関節(例,仙腸,椎間,椎間板椎骨,肋椎の関節),またはその両方を侵すことがある。

複数の関節の痛みの病因

末梢の少関節型関節炎および多関節の関節炎は,単関節の関節炎に比べて,全身性感染症(例,ウイルス性)または全身性炎症性疾患(例,関節リウマチ)と関連している頻度がより高い。特異的な原因を通常特定できるが(5つ以上の関節における痛みの主な原因および4つ以下の関節における痛みの主な原因の各表を参照),ときに関節炎は一過性で診断が明確に確定する前に解消することがある。体軸関節の病変は,血清反応陰性脊椎関節症(脊椎関節炎とも呼ばれる)を示唆するが,関節リウマチ(腰椎ではなく頸椎を侵す)でも起こりうる。

急性の多関節の関節炎は以下に起因することが最も多い:

成人における慢性の多関節の関節炎は以下に起因することが最も多い:

成人における非炎症性の多関節痛は以下に起因することが最も多い:

成人における慢性の多発性関節痛は関節リウマチおよび変形性関節症により起こることが最も多い。

小児における慢性の多関節の関節痛は以下によることが最も多い:

表&コラム
表&コラム

複数の関節の痛みの評価

評価では,関節,関節周囲の構造,またはその両方が症状の原因であるかどうか,および炎症の有無を判定すべきである。関節外の症状および所見(特異的な全身性炎症性疾患を示唆することがある)を調べて評価すべきであり,特に関節の炎症がある場合に行うべきである。

病歴

現病歴の聴取では,関節痛,関連する関節症状,および全身症状の特徴を同定すべきである。重要な関節症状の特徴には,発症の急性度(例,突然,徐々に),時間的パターン(例,日内変動,持続的vs間欠的),持続期間(例,急性vs慢性),ならびに増悪因子および緩和因子(例,安静,活動)などがある。無防備な性的接触(播種性淋菌感染症による細菌性の感染性関節炎のリスクを示唆する)およびダニによる刺咬またはライム病流行地域における居住またはそのような場所への旅行について,患者に具体的に尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)は,特異的な疾患を示唆することがある関節外症状を同定するために徹底的に行うべきである(5つ以上の関節における痛みの主な原因4つ以下の関節における痛みの主な原因,および多関節の関節痛における示唆的な所見の各表を参照)。

既往歴および家族歴の聴取では,関節症状を起こしうる既知の全身性炎症性疾患およびその他の症状を同定すべきである(5つ以上の関節における痛みの主な原因および4つ以下の関節における痛みの主な原因の各表を参照)。一部の全身性炎症性疾患は,特異的な遺伝的プロファイルをもつ家族に多くみられる。

身体診察

身体診察は適度に完全であるべきであり,筋骨格系だけでなく全ての主要な器官系(例,皮膚および爪,眼,性器,粘膜表面,心臓,肺,腹部,鼻,頸部,リンパ節,および神経系)を評価する。バイタルサインを評価して,発熱がないか確認する。

頭部の診察では,眼の炎症の徴候(例,ぶどう膜炎,結膜炎)および鼻腔または口腔の病変に注意すべきである。皮膚を視診して,発疹および病変(例,斑状出血,皮膚潰瘍,乾癬局面,紫斑,頬部皮疹)がないか確認すべきである。また,リンパ節腫脹および脾腫がないかも評価する。

心肺の診察では,胸膜炎,心膜炎,または弁異常(例,雑音,心膜摩擦音,心音減弱,胸水と一致する両側肺底部の濁音)を示唆する徴候に注意すべきである。

性器診察では,あらゆる分泌物,潰瘍,または性感染症と一致するその他の所見に注意すべきである。

筋骨格系の診察では,関節組織の圧痛を関節周囲の圧痛またはその他の結合組織もしくは筋肉の圧痛から区別することから始めるべきである。関節の診察では,変形,紅斑,腫脹,または液貯留の視診から始め,その後,触診して関節液貯留,熱感,および圧痛点を確認する。他動および自動可動域を評価すべきである。関節の屈曲および/または進展でcrepitusを感じることがある。対側の健常な関節との比較が,より微妙な変化の検出に役立つことが多い。診察では,侵された関節の分布が対称的か非対称的かに注意すべきである。痛みのある関節はまた,屈曲および伸展なしに圧迫することもある。

関節周囲の構造も診察して,腱,滑液包,または靱帯の病変(滑液包の位置にある孤立した柔らかい腫脹[滑液包炎],または腱付着部の圧痛点[腱炎]など)がないか確認すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 関節の熱感,腫脹,および紅斑

  • 関節外症状(例,発熱,振戦,発疹,悪寒,局面,粘膜潰瘍,結膜炎,ぶどう膜炎,雑音,紫斑,体重減少)

所見の解釈

最初に行う重要なことは,主に慎重な身体診察に基づき,痛みが関節,他の近接する構造(例,骨,腱,滑液包,筋肉),その両方(例,痛風の際),またはその他の構造のいずれから生じているかを判定することである。関節の片側のみ,または関節裂隙から離れた部位にある圧痛または腫脹は,関節外(例,腱または滑液包)の原因を示唆し,限局する関節裂隙の圧痛または比較的びまん性の関節病変は,関節内の原因を示唆する。屈曲および進展をさせずに関節を圧迫すると,腱炎または滑液包炎では特に痛みを生じることはないが,関節炎ではかなり強い痛みが生じる。関節の自動運動で悪化するが他動運動では悪化しない痛みは,腱炎または滑液包炎(関節外)を示していることがある;関節内の炎症は一般的に,関節の自動運動および他動運動の範囲を大きく制限する。

他に,関節に炎症が起こっているかどうかの判断が重要である。安静時および活動開始時の痛みは関節の炎症を示唆し,動かすと悪化し安静にすると軽快する痛みは機械的障害または非炎症性疾患(例,変形性関節症)を示唆する。熱感および紅斑の増大も炎症を示唆するが,これらの所見は感度が低いことが多いため,これらの所見がみられない場合でも炎症は除外されない。

長引く朝のこわばり,しばらくじっと動かないでいた後のこわばり(ゲル化現象),非外傷性の関節の腫脹,および発熱または意図しない体重減少の臨床所見は,関節を侵す全身性炎症性疾患を示唆する。びまん性で,漠然と表現され,炎症の徴候がなく筋筋膜の構造に影響を与える痛みは,線維筋痛症を示唆する。

罹患関節のパターンは診断の確定に役立つ。罹患関節の対称性も手がかりになりうる。関節リウマチでは病変が対称性である傾向があるが,非対称性の病変では,乾癬性関節炎痛風,および反応性関節炎または腸炎性関節炎がより示唆される。

指関節の診察で,関節リウマチと変形性関節症の鑑別に有用であるか(関節リウマチと変形性関節症における手の特徴の相違の表を参照)または他の疾患を示唆する他の手がかり(多関節の関節痛における示唆的な所見の表を参照)が得られることがある。

末梢関節炎がある場合の脊椎の痛みは血清反応陰性脊椎関節症強直性脊椎炎反応性関節炎乾癬性関節炎,または腸炎性関節炎)を示唆するが,関節リウマチ(通常は頸椎の痛みを伴う)でも起こりうる。新たに発症した少関節炎に脊椎の痛みが加わると,同じ疾患の家族歴がある場合は,特に血清反応陰性脊椎関節症の可能性が高い。眼の充血および痛みならびに腰痛は強直性脊椎炎を示唆する。少関節炎を新たに発症した患者の尋常性乾癬の既往は乾癬性関節炎を強く示唆する。

表&コラム
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検査

次の検査が特に重要である:

  • 関節穿刺

  • 通常は赤血球沈降速度(赤沈)およびC反応性タンパク(CRP)

  • 血清学的検査

  • 慢性関節炎ではX線および/または超音波検査

新たな液貯留がある患者の大半で,感染症の除外および結晶の同定のために関節穿刺が必須である(関節穿刺を参照)。関節穿刺はまた,炎症性の病変と非炎症性の病変との鑑別にも役立つ。滑液の検査には,白血球数および白血球分画,グラム染色および培養,ならびに偏光を用いての結晶の顕微鏡検査などがある。滑液中に結晶を認めれば結晶誘発性関節炎が確定するが,感染の合併は除外されない。非炎症性の滑液(例,白血球数1000/μL[1 × 109/L]未満)は,変形性関節症または外傷をより強く示唆する。出血性の液は関節血腫と一致する。感染性関節炎および結晶誘発性関節炎では,滑液の白血球数が非常に多い(例,50,000/μL[50 × 109/L]超)ことがある。多関節炎を起こす全身性炎症性疾患では,滑液の白血球数が約1000~50,000/μL(1~50 × 109/L)であることが最も多い。

病歴および診察に基づいて特定の診断が確定できない場合,追加検査が必要になる場合がある。赤沈およびC反応性タンパク(CRP)の検査は関節炎が炎症性かどうかの判定に役立つことがある。赤沈亢進およびC反応性タンパク(CRP)値の上昇は炎症を示唆するが非特異的である(特に高齢者において)。数値が炎症性の急性増悪(flare-up)の間は高く,急性増悪と急性増悪の間が正常であれば,所見はより特異的である。

全身性炎症性疾患の診断が臨床的に疑われた場合,抗核抗体,二本鎖DNA,リウマトイド因子,抗環状シトルリン化ペプチド抗体,および抗好中球細胞質抗体(ANCA)に関して行う支持的な血清学的検査が,診断を下す際に補助となることがある。特異的な検査の指示は,全身性エリテマトーデス,ANCA関連血管炎,または関節リウマチなどの具体的な診断を支持するためにのみ行うべきである。

関節炎が慢性の場合,典型的には関節損傷の徴候を検索するためにX線および/または超音波検査を行う。関節超音波検査にはX線と比較して多くの利点があり,具体的には関節周囲の滑液の良好な同定,診察中のスキャンによる腱や他の関節周囲構造の描出,関節穿刺や関節注射のためのガイドなどがある。

特異的な疾患を特定するためにその他の検査が必要となることがある(5つ以上の関節における痛みの主な原因および4つ以下の関節における痛みの主な原因の各表を参照)。

複数の関節の痛みの治療

関節痛がある患者では,可能であれば常に基礎疾患を治療する。全身性炎症性疾患は,診断によって確定する免疫抑制または抗菌薬のいずれかが必要なことがある。関節の炎症は通常,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)で対症的に治療する。炎症を伴わない痛みは,通常アセトアミノフェンでより安全に治療する。副子または三角巾による関節固定は,ときに痛みを軽減することがある。炎症性関節疾患では,温熱療法や寒冷療法により鎮痛が得られることがある。慢性の多関節炎は活動低下および二次的な筋萎縮を引き起こすことがあるため,運動の継続を奨励すべきである。

老年医学的重要事項

変形性関節症は高齢者において圧倒的に最も多い関節炎の原因である。関節リウマチ(RA)は最も一般的には30歳から40歳の間に発症するが,最大で3分の1の患者は60歳以降に発症する。がんは腫瘍随伴性の多関節炎を引き起こすことがあるため,新たに発症したRAが疑われる高齢者ではがんを考慮すべきであり,特に,発症が急性の場合,下肢が優位に侵される場合,または骨の圧痛がある場合には考慮すべきである。骨盤帯および肩甲帯にこわばりおよび痛みがある50歳以上の患者では,たとえ末梢関節(手が最も多い)に関節炎がある場合でも,リウマチ性多発筋痛症も考慮すべきである。高齢女性の痛風は,手の遠位指節間(DIP)関節に好発する。

複数の関節の痛みの要点

  • 多関節の関節痛の鑑別診断は,どの関節および何箇所の関節が侵されているか,炎症があるか,関節の分布は対称性か,ならびに関節外の症状または徴候があるかを考慮することによって,狭めることができる。

  • 慢性の多関節炎は小児の若年性特発性関節炎により引き起こされることが最も多く,慢性の多発性関節痛は成人の変形性関節症および関節リウマチにより引き起こされることが最も多い。

  • 急性の多関節の関節炎はほとんどの場合感染,痛風,または全身性炎症性疾患の再燃による。

  • 新たな液貯留がある症例の大半では,感染症の除外,結晶誘発性の関節症の診断,および炎症性病変と非炎症性病変との鑑別のために,関節穿刺が必須である。

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