核医学検査

執筆者:Thomas Cascino, MD, MSc, Michigan Medicine, University of Michigan;
Michael J. Shea, MD, Michigan Medicine at the University of Michigan
レビュー/改訂 2019年 8月
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核医学検査では,放射性物質を注射した後に特殊な検出器(ガンマカメラ)を使用して画像を撮影する。この検査は以下の評価を目的として施行される:

核医学検査での被曝量はCTと同程度である。しかしながら,放射性物質が患者の体内に短期間保持されるため,この種の検査を受けてから数日間は,精巧な放射線警報機(例,空港内にあるもの)を作動させてしまうことがある。

単一光子放出型コンピュータ断層撮影(SPECT)

米国では,2次元画像を作成する平面法はほとんど用いられず,回転式の撮影装置と断層像再構成法を用いて3次元画像を作成するSPECTの方がより一般的である。マルチヘッド型のSPECT装置では,10分以内に撮影が完了する場合が多い。負荷画像と遅延画像の目視による比較を定量表示によって補足することができる。SPECTでは,以下の異常を同定することができる:

  • 下壁および後壁の異常

  • 小さな梗塞巣

  • 梗塞の原因血管

梗塞心筋と生存心筋の重量を定量化できるため,予後判定に有用である。

心筋血流イメージング

心筋血流イメージング(myocardial perfusion imaging)では,静脈内投与した放射性核種が概ね灌流量に比例して心組織に取り込まれるため,集積値の低下はその領域の相対的または絶対的虚血を反映する。

上層の軟部組織により心筋の放射能が減衰することで,偽陽性になることがある。女性では乳房組織による減衰が特に多くみられる。横隔膜および腹腔内容物による減衰のため,下壁に偽欠損を認めることがあり,男女ともにみられるが,男性の方が多い。放射能の減衰はタリウム201(201Tl)よりもテクネチウム99m(99mTc)で起こりやすい。

適応

心筋血流イメージングは,負荷試験との併用により以下の目的で施行される:

  • 原因不明の胸痛を訴える患者の評価

  • 血管造影で認められた冠動脈狭窄の機能的意義の判定

  • 血管造影で認められた側副血管の機能的意義の判定

  • 血行再建(例,冠動脈バイパス術[CABG],経皮的冠動脈インターベンション,血栓溶解療法)の成功判定

  • 心筋梗塞の予後推定

心筋血流イメージングは急性心筋梗塞による灌流異常の範囲,過去の梗塞による瘢痕化の範囲,梗塞巣周囲の生存領域,その他の可逆的な虚血領域を描出することが可能なため,急性心筋梗塞の予後判定に役立つ可能性がある。

プロトコルおよび造影剤

造影剤に応じて異なるプロトコルが用いられるが,造影剤としては以下のものがある:

  • タリウム201(201Tl)

  • テクネチウム99m(99mTc)マーカー(セスタミビ,テトロホスミン,テボロキシム)

  • ヨウ素123(123I)標識脂肪酸

  • 123Iメタヨードベンジルグアニジン(MIBG)

カリウムの類似物質として作用するタリウム201(201Tl)は,負荷試験で最初に使用されたトレーサーである。ピーク負荷時に静注してからSPECTによる撮影を行い,その4時間後に最初の用量の半分を安静時に注射してから再度SPECTにより撮影する。このプロトコルの目標は,介入が妥当となりうる可逆的な血流欠損を評価することである。負荷試験の実施後には,正常な冠動脈と狭窄より遠位の冠動脈との間に生じた灌流の不均衡が,狭窄動脈の灌流領域における201Tl集積値の相対的な低下として顕在化する。201Tlを用いた負荷試験の冠動脈疾患に対する感度は,撮影を運動負荷薬物負荷のいずれの後に行っても同程度である。

201Tlは撮影上の特性がガンマカメラに対して理想的ではないことから,テクネチウム99m(99mTc)標識の心筋血流マーカーがいくつか開発されてきた。マーカーとしては,セスタミビ(よく使用される),テトロホスミン,テボロキシムなどがある(テクネチウム99m[99mTc]心筋血流製剤の表を参照)。プロトコルには,負荷-安静の2日法,安静-負荷の1日法,負荷-安静の1日法などがある。2つの放射性核種(201Tlおよび99mTc)を使用するプロトコルもあるが,このアプローチは費用が高くなる。これらのマーカーの一方を使用した場合,どちらも感度は約90%,特異度は約71%である。

2日法のプロトコルでは,最初の負荷試験で灌流異常の所見を認めない場合,安静時の撮影を省略することができる。より高線量(> 30mCi)の99mTcを使用すれば,初回循環法(心室造影と併用)による心筋血流イメージングを施行することができる。

その他の放射性核種としては,心筋虚血部にコールドスポットを作るヨウ素123(123I)標識脂肪酸,活動性炎症部位(例,急性炎症性心筋症)に蓄積するクエン酸ガリウム67(67Ga),交感神経系ニューロンに取り込まれて蓄積する神経伝達物質の類似化合物で,心不全,糖尿病,褐色細胞腫,一部の不整脈,不整脈源性右室異形成症を評価する研究で使用される123Iメタヨードベンジルグアニジンなどがある。

表&コラム

心筋梗塞イメージング

心筋梗塞イメージング(infarct avid imaging)では,99mTcピロリン酸および抗ミオシン抗体(インジウム111[111ln]で標識された心筋ミオシンに対する抗体)など,心筋傷害領域に蓄積する放射性標識マーカーを使用する。画像は通常,急性心筋梗塞の発症後12~24時間から陽性となり,約1週間にわたり陽性で維持され,心筋梗塞後に心筋壊死が残る場合や心室瘤が形成された場合は,陽性が持続することがある。現在では,心筋梗塞に対する他の診断検査(例,バイオマーカー)の方がより容易に利用でき,費用も安価となっていること,また,この検査法では梗塞巣の大きさ以外に予後予測に有用な情報が得られないことから,この検査法はほとんど用いられていない。

放射性核種心室造影

放射性核種心室造影(radionuclide ventriculography)は,心室機能の評価に用いられる。冠動脈疾患,心臓弁膜症,先天性心疾患において安静時および運動時の駆出率を測定する上で有用である。心毒性のあるがん化学療法(例,アントラサイクリン系薬剤)を受けている患者の心室機能の経時的評価に,この検査法を用いる医師もいる。ただし,放射性核種心室造影はすでに,より安価で,放射線被曝がなく,理論的に同程度の精度で駆出率を測定できる心エコー検査に大部分が取って代わられている。

99mTc標識赤血球を静注する。左室および右室機能は以下の方法で評価できる:

  • 初回循環法(beat-to-beatの評価法)

  • 数分間かけて撮影する心電図同期心プールイメージング(マルチゲート法[MUGAスキャン])

どちらの検査も安静時または運動後に施行できる。初回循環法(first-transit study)は,迅速で比較的容易な方法であるが,マルチゲート法の方が良好な画像が得られ,より広く用いられている。

初回循環法では,マーカーが血液と混ざり中心循環系を通過する過程で8~10回の心周期を画像化する。初回循環法は右室機能および心内短絡の評価に理想的である。

マルチゲート法では,画像を心電図のR波に同期させる。各心周期の一連の時相で短時間の画像を5~10分にわたって連続的に撮影する。コンピュータ解析によって心周期の各時相における平均的な血液プールの構成データを作成し,それらを合成して,心拍動に近似させた連続的なループ動画を生成する。

マルチゲート法では,局所壁運動,駆出率(EF);拡張末期容積に対する一回拍出量の比,駆出速度,充満速度,左室容積,相対的な容量負荷の指標(例,左室:右室一回拍出量比)など,心室機能に関する数多くの指標を定量できる。駆出率が最もよく用いられる。

マルチゲート法による安静時検査にはリスクがほとんどない。様々な疾患(例,心臓弁膜症)での右室および左室機能の連続的評価,心毒性を引き起こしうる薬剤(例,ドキソルビシン)を服用する患者のモニタリング,ならびにCADまたは心筋梗塞患者に対する血管形成術,CABG,血栓溶解療法,その他の手技の効果判定に用いられる。正常な心周期がほとんどみられない場合があるため,不整脈は相対的禁忌である。

左室造影

マルチゲート法は左室瘤の検出に有用であり,典型的な前壁または前壁心尖部の真性心室瘤に対する検出感度および特異度は90%を上回る。従来の心電図同期心プールイメージングは,前壁および側壁の心室瘤ほど良好には左室下後壁の心室瘤を描出できないため,追加の撮像が必要となる。心電図同期SPECTは,単一平面の心電図同期画像(5~10分)に比べて時間がかかるが(マルチヘッド型の検出器で約20~25分),心室内の全ての部分が描出される。

右室造影

マルチゲート法は,肺疾患患者または右室梗塞を合併している可能性のある左室下壁梗塞の患者において右室機能を評価する際に用いられる。正常であれば,右室駆出率(ほとんどの方法で40~55%)は左室駆出率より低くなる。多くの肺高血圧患者と右室梗塞または右室を侵す心筋症がある患者では,右室駆出率は正常範囲を下回る。特発性心筋症は通常,両心室の機能低下を特徴とするが,典型的な冠動脈疾患では通常,右室より左室で強い機能障害が生じる。

心臓弁の評価

マルチゲート法を安静-負荷プロトコルと併用することで,左室容量負荷につながる弁膜症を評価することができる。大動脈弁逆流症では,安静時の駆出率の低下と運動時に駆出率が増加しないことが心機能悪化の徴候であり,弁修復の必要性を示唆している可能性がある。マルチゲート法は弁逆流における逆流率の算出にも用いられる。正常では,2つの心室の一回拍出量は等しい。しかし,左心系に弁逆流がある患者では,左室一回拍出量が逆流率に比例して右室一回拍出量を上回る。したがって,右室が正常の場合は,左室:右室一回拍出量比から左室の逆流率を算出することができる。

短絡の評価

マルチゲート法と市販のコンピュータプログラムを用いれば,一回拍出量比を算出するか,マーカーの初回循環中における肺全体の放射能に対する異常な早期肺再循環の放射能の比を求めることで,先天性の短絡の大きさを定量化することができる。

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