心臓カテーテル法

執筆者:Thomas Cascino, MD, MSc, Michigan Medicine, University of Michigan;
Michael J. Shea, MD, Michigan Medicine at the University of Michigan
レビュー/改訂 2019年 8月
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心臓カテーテル法とは,末梢の動脈または静脈から心腔,肺動脈,冠動脈,および冠静脈までカテーテルを挿入する手技である。

心臓カテーテル法は,以下のものを含む様々な検査に用いることができる:

  • 血管造影

  • 血管内超音波検査(IVUS)

  • 心拍出量(CO)の測定

  • 短絡の検出および定量化

  • 心内膜心筋生検

  • 心筋代謝率の測定

これらの検査は,冠動脈の解剖,心臓の解剖,心機能,および肺動脈血行動態を明らかにすることで,診断の確定や治療法の選択に役立つ。

心臓カテーテル法はまた,いくつかの治療的介入の基盤にもなっている(経皮的冠動脈インターベンションを参照)。

心臓カテーテル法の手技

心臓カテーテル検査を受ける患者には,施行前の4~6時間にわたり絶食させる必要がある。ほとんどの患者では,併せて治療介入を行う場合を除き,宿泊を伴う入院は必要ない。

左心カテーテル法

左心カテーテル法は,以下を評価する目的で最もよく用いられる:

  • 冠動脈の解剖と冠動脈疾患の有無

左心カテーテル法は以下の評価にも用いられる:

  • 大動脈血圧

  • 体血管抵抗

  • 大動脈弁機能

  • 僧帽弁機能

  • 左室圧および左室機能

この手技は大腿動脈,鎖骨下動脈,橈骨動脈,および/または上腕動脈の穿刺により行われ,カテーテルを冠動脈口まで挿入するか,大動脈弁を通して左室内に挿入する。

ときに,右心カテーテル法の施行中に経中隔穿刺によって左房および左室にカテーテルを挿入することがある。

右心カテーテル法

右心カテーテル法は,以下を評価する目的で最もよく用いられる:

PAOPは左房圧および左室拡張末期圧とほぼ同じである。重篤患者では,PAOPは血管内容量の評価に有用で,心拍出量を同時に測定することで,治療法の選択に役立つ可能性がある。

右心カテーテル法は,心充満圧,肺血管抵抗,三尖弁または肺動脈弁の機能,心内短絡,および右室圧の評価にも有用である。

右心圧の測定は,非侵襲的検査では診断に至らない場合の心筋症収縮性心膜炎,および心タンポナーデの診断に役立つことがあり,心臓移植または機械的循環補助(例,補助人工心臓の使用)の評価では重要な要素である。

この手技は,大腿静脈,鎖骨下静脈,内頸静脈,肘部静脈の穿刺により行われる。カテーテルは右房に入れ,三尖弁を通して右室内まで進め,肺動脈弁を越えて肺動脈に挿入する。

冠静脈洞の選択的カテーテル法も可能である。

各心腔の内圧曲線,心音,頸静脈波,および心電図で示した心周期の図

心周期の時相には,心房収縮期(a),等容性収縮期(b),最大駆出期(c),減速駆出期(d),拡張早期(e),等容性弛緩期(f),急速流入期(g),心拍静止期または緩徐流入期(h)がある。説明のため,各弁の開閉の間隔を改変しており,Z点は延長してある。

AO = 大動脈弁の開放;AC = 大動脈弁の閉鎖;LV = 左室;LA =左房;RV =右室;RA = 右房;MO = 僧帽弁の開放。

心臓カテーテル法と同時に施行できる具体的な検査

血管造影

特定の状況では,冠動脈,肺動脈,大動脈,および心腔に放射線造影剤を注入することが有用となる。デジタルサブトラクション血管造影は,動脈の静止画撮影と心腔シネアンギオグラフィーに用いられる。

左心カテーテル法による冠動脈造影は,冠動脈の動脈硬化性または先天性疾患が疑われる患者や,弁膜症に対して弁置換術を受ける前の患者,原因不明の心不全がある患者など,様々な臨床状況で冠動脈解剖を評価するために用いられている。

右心カテーテル法による肺血管造影は,肺塞栓症の診断に用いることができる。血管内の陰影欠損と動脈の途絶は診断に有用な所見である。放射線造影剤は通常,片側または両側の肺動脈とその関連区域に選択的に注入する。しかしながら,肺塞栓症の診断を目的とする右心カテーテル検査は,大部分でCT肺血管造影(CTPA)に取って代わられている。

左心カテーテル法による大動脈造影は,大動脈弁逆流大動脈縮窄動脈管開存,および大動脈解離の評価に用いられる。

心室造影は,弁下部,弁,弁上部を含めて,心室壁運動と心室流出路を視覚化するために用いられる。また,僧帽弁逆流の重症度を推定し,その病態生理を特定する目的でも用いられる。1平面または2平面の心室造影画像から左室心筋重量と左室容積を測定すれば,収縮末期および拡張末期容積と駆出率を算出することが可能になる。

冠血流量の測定

冠動脈造影では狭窄の存在とその程度を知ることができるが,病変の機能的重要性(すなわち,狭窄部を通過する血流量),または個々の病変が症状を引き起こす可能性が高いかどうかは判断できない。

圧力センサーまたはドプラ血流センサーを備えた極細ガイドワイヤーが使用できる。それらのセンサーで収集したデータから冠動脈血流量を推定することが可能であり,冠血流予備量比(fractional flow reserve:FFR)として表される。FFRとは,正常な最大血流量に対する狭窄部での最大血流量の比であり,FFR 0.75~0.8未満は異常とみなされる。

これらの血流量の推定値は介入の必要性や長期予後と良好に相関し,FFRが0.8を上回る病変のある患者にはステント留置は有益とならないようである。これらの血流量の測定値は,中等度の病変(40~70%狭窄)または複数の病変(臨床的に最も有意な病変を同定するため)がある場合に最も有用となる。

血管内超音波検査(IVUS)

冠動脈カテーテルの先端に取り付けられた小型の超音波プローブにより,冠血管の内腔と血管壁を描出し,血流を画像化することができる。血管内超音波検査は,冠動脈造影と同時に用いられることがますます増えてきている。

光干渉断層撮影(OCT)

光干渉断層撮影は,後方散乱光の振幅を測定することにより冠動脈プラークの温度を特定する,冠動脈内超音波画像と同様の原理に基づく光学的な検査法であり,病変が将来破裂する(そして急性冠症候群に至る)リスクが高いかどうかを判断するのに役立つ可能性がある。

短絡の検査

心臓および大血管内部の一連のレベルで血中の酸素含有量を測定することが,中枢部における短絡の有無,方向,容量の判定に役立つ可能性がある。各部分間での酸素含有量の差の正常上限値は以下の通りである:

  • 肺動脈と右室:0.5mL/dL

  • 右室と右房:0.9mL/dL

  • 右房と上大静脈:1.9mL/dL

ある心腔での血液中の酸素含有量がより中枢側にある心腔での酸素含有量を上回り,その差がこれらの値を超えている場合には,そのレベルで左右短絡が生じている可能性が高い。左房,左室,または動脈血の酸素飽和度が低く(92%以下),純酸素(吸気酸素濃度100%)を投与しても改善しない場合は,右左短絡が強く疑われる。左心または動脈血の飽和度低下に加えて,循環系の右側の短絡部位以降で採取した血液検体で酸素含有量の増加を認める場合は,両方向性短絡が示唆される。

心拍出量および血流量の測定

心拍出量は,1分間に心臓から拍出される血液の量である(安静時の正常範囲:4~8L/min)。COの算出に用いられる手法(心拍出量の計算式の表を参照)としては以下のものがある:

  • Fick法

  • 指示薬希釈法

  • 熱希釈法

表&コラム

Fick法では,心拍出量は酸素消費量を動静脈酸素較差で割った値に比例する。

指示薬希釈法は,指示薬を循環系に注入したとき,指示薬の出現と消失が心拍出量に比例するという仮定に基づいている。

通常,心拍出量は体表面積(BSA)との関係で心係数(CI)としてL/min/m2で表される(すなわち,心係数 = 心拍出量/体表面積―心係数および関連測定項目の正常値の表を参照)。体表面積はDu Boisの身長(ht)体重(wt)式で次のように計算される:

equation

表&コラム
医学計算ツール(学習用)
医学計算ツール(学習用)
医学計算ツール(学習用)

心内膜心筋生検

心内膜心筋生検は,移植後の拒絶反応や感染または浸潤性疾患に起因する心筋疾患を評価するのに役立つ。生検用カテーテル(生検鉗子)は,どちらの心室にも通すことができるが,通常は右室である。中隔部の心内膜から心筋組織を3~5検体採取する。心内膜心筋生検の主な合併症である心穿孔は0.3~0.5%の患者で発生し,心膜血腫を引き起こして心タンポナーデに至ることがある。三尖弁および支持腱索の損傷も生じ,三尖弁逆流症に至る可能性がある。

心臓カテーテル法の禁忌

心臓カテーテル法の相対的禁忌としては以下のものがある:

相対的禁忌については,処置の緊急性(例,急性心筋梗塞 vs 待機症例)と禁忌となる疾患の重症度を比較する。抗凝固薬または抗血小板薬の周術期管理は,処置の種類(動脈路 vs 静脈路),処置の緊急性,薬剤の適応,および患者の出血リスクに基づいて個別化する。これらの薬剤の周術期管理については,カテーテル検査室毎に指針が設けられている場合が多い。

心臓カテーテル法の合併症

心臓カテーテル法施行後の合併症発生率は,患者因子,技術的因子,および術者の経験に応じて0.8~8%である。合併症のリスクを高める患者因子としては以下のものがある:

合併症の大半は軽微であり,容易に治療できる。重篤な合併症(例,心停止アナフィラキシー反応ショック痙攣,腎毒性)はまれである。死亡率は0.1~0.2%である。心筋梗塞(0.1%)および脳卒中(0.1%)は重大な障害につながりうる。80歳超の患者では脳卒中の発生率が上昇する。

一般に,合併症の発生には以下の要因が関与する:

  • 造影剤

  • カテーテルの影響

  • アクセス部位

造影剤の合併症

放射線造影剤を注射すると,多くの患者で一過性の熱感が全身に生じる。頻脈,全身血圧の軽微な低下,心拍出量の増加,悪心,嘔吐,咳嗽がみられることがある。まれに,大量の放射線造影剤が注射された際に徐脈がみられるが,患者に咳をさせることで,しばしば正常なリズムに戻る。

より重篤な反応としては以下のものがある(放射線造影剤および造影剤反応も参照):

  • アレルギー型の造影剤反応

  • 造影剤腎症

アレルギー反応としては,蕁麻疹や結膜炎などがみられるが,通常はジフェンヒドラミン50mgの静注で反応が得られる。気管支攣縮,喉頭浮腫,および呼吸困難を呈するアナフィラキシーは,まれな反応であるが,生じた場合はサルブタモールの吸入またはアドレナリン(1:1000)0.3~0.4mLの皮下投与で治療する。アナフィラキシーショックはアドレナリンとその他の補助的方法で治療する。造影剤に対するアレルギー反応の既往がある患者には,プレドニゾン(50mg,経口,造影剤投与の13,7,1時間前)およびジフェンヒドラミン(50mg,経口または筋注,造影剤投与の1時間前)を前投与すべきである。直ちに画像検査が必要な場合は,ジフェンヒドラミン50mgを造影剤投与の1時間前に経口または筋注で,ヒドロコルチゾン200mgを画像検査が完了するまで4時間毎に静注で投与してもよい。

造影剤腎症は,静注造影剤投与後48~72時間以内に生じた腎機能障害(血清クレアチニン値のベースラインから25%の上昇または絶対値で0.5mg/dL[44μmol/L]の上昇)と定義される。リスクのある患者には,低浸透圧または等浸透圧造影剤をできる限り低用量で使用し,短期間で造影検査を繰り返すことを避け,血管造影の4~6時間前および6~12時間後に計10~15mL/kgの生理食塩水を輸液することで,リスクがかなり低下する。腎機能障害のリスクのある患者では,造影剤投与の48時間後に血清クレアチニン値を評価する。

カテーテル関連の合併症

カテーテルの先端が心室の心内膜に接触すると,心室性不整脈がよくみられるが,心室細動はまれである。心室細動が発生した場合は,電気的除細動を直ちに施行する。

カテーテルによりアテローム性プラークが破綻することで,アテローム塞栓が拡散する可能性がある。大動脈からの塞栓で脳卒中腎症が生じることがある。近位の冠動脈に由来する塞栓が遠位冠動脈に詰まることで心筋梗塞が生じることもある。

冠動脈解離の可能性もある。

アクセス部位の合併症

アクセス部位の合併症としては以下のものがある:

  • 出血

  • 血腫

  • 仮性動脈瘤

  • 動静脈瘻

  • 四肢虚血

アクセス部位から出血が起きる可能性があるが,通常は圧迫のみで止血できる。軽度の皮下出血や小さな血腫が生じる頻度が高いものの,それらに対する検査や治療は必要とならない。

大きな腫瘤や増大する腫瘤がみられる場合は,仮性動脈瘤由来の血腫を鑑別するために超音波検査で調べるべきである。アクセス部位の血管雑音(痛みを伴う場合もある)は動静脈瘻を示唆し,その場合は超音波検査で診断可能である。通常,血腫は時間とともに消失し,特異的な治療は必要ない。仮性動脈瘤と動静脈瘻は通常,圧迫で消失するが,消失しない場合は外科的修復が必要になることがある。

橈骨動脈アプローチは,大腿動脈アプローチと比較して,一般に患者は快適で,血腫,仮性動脈瘤,動静脈瘻が形成されるリスクがはるかに低い。

心臓カテーテル法についてのより詳細な情報

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