心血管疾患は症状や身体所見から示唆されることがある。確定診断のためには,通常,心臓についての 非侵襲的および侵襲的検査 心血管系に関する検査および手技の概要 多くの非侵襲的および侵襲的検査によって,心臓の構造および機能を描出することが可能である( 心臓の解剖および機能を評価するための検査の表を参照)。さらに,一部の侵襲的診断検査では,検査中に治療を行うことも可能である(例, 心臓カテーテル検査での 経皮的冠動脈インターベンション, 心臓電気生理検査での... さらに読む が選択され施行される。
病歴
徹底的な病歴聴取が基本であり,これを検査で代用することはできない。他の器官系に生じているように見える症状(例,呼吸困難,消化不良)の多くは,しばしば心疾患によって引き起こされるので,病歴聴取の際には徹底的な系統的症状把握(systems review)を行う必要がある。多くの心疾患(例, 冠動脈疾患 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患では,冠動脈の血流が障害され,そのほとんどがアテロームに起因する。臨床像としては,無症候性心筋虚血, 狭心症, 急性冠症候群( 不安定狭心症, 心筋梗塞), 心臓突然死などがある。診断は症状,心電図検査,負荷試験,ときに冠動脈造影による。予防法は可逆的な危険因子(例,高コレステロール血症,高血圧,運動不足,肥満,糖尿病,喫煙)の... さらに読む ,全身性 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む , 大動脈二尖弁 大動脈二尖弁 大動脈二尖弁は,弁尖が2つしかない(正常では3つある)状態である。 大動脈二尖弁は,最も頻度の高い先天性の心血管異常である。出生児の0.5~2%にみられる( 1)。 大動脈二尖弁の患者は, 感染性心内膜炎, 大動脈弁逆流症,および/または 大動脈弁狭窄症を発症しやすい。大動脈二尖弁は,大動脈基部または上行大動脈の拡張や... さらに読む , 肥大型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症は,拡張機能障害を伴うが後負荷の増大(例,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,全身性高血圧などによるもの)を伴わない著明な心室肥大を特徴とする先天性または後天性の疾患である。症状としては,呼吸困難,胸痛,失神などがあり,突然死を来すこともある。閉塞性肥大型心筋症では,典型的には収縮期雑音が聴取され,バルサルバ手技により増強する。診断は心... さらに読む , 僧帽弁逸脱症 僧帽弁逸脱症(MVP) 僧帽弁逸脱症(MVP)は,僧帽弁尖が収縮期に左房側へ落ち込むようになる状態である。最も一般的な原因は特発性の粘液腫様変性である。MVPは通常良性であるが,合併症として僧帽弁逆流症,心内膜炎,腱索断裂などがある。通常,MVPは有意な逆流がみられない場合は無症候性であるが,一部の患者では胸痛,呼吸困難,めまい,動悸の発生が報告されている。徴候... さらに読む )には遺伝的基盤があるため,家族歴を聴取する。
重篤な心症状としては, 胸痛 胸痛 胸痛は非常に一般的な愁訴である。多くの患者は,胸痛が生命を脅かす可能性がある疾患の警告であることをよく意識しており,ごく軽微な症状でも医療機関を受診する。一方で,重篤な疾患のある多くの患者を含めて,この警告を過小評価したり無視したりする患者もいる。疼痛の知覚(特徴と重症度の両方)は個人間あるいは男女間で大きく異なる。胸痛の訴えがどのような... さらに読む または胸部不快感, 呼吸困難 呼吸困難 呼吸困難とは,不快または苦しさを感じる呼吸である。患者による呼吸困難の感じ方および訴え方は原因によって異なる。 呼吸困難は比較的頻度の高い症状であるが,呼吸に伴う不快感の病態生理はほとんど解明されていない。他の種類の有害な刺激に対する受容器とは異なり,呼吸困難に特化した受容器は存在しない(ただし,MRIを用いた研究では,呼吸困難の知覚を仲... さらに読む , 筋力低下 筋力低下 筋力低下はプライマリケア医の受診理由として最も頻度が高いものの1つである。筋力低下または脱力とは,筋力が低下した状態のことであるが,多くの患者は,たとえ筋力が正常であっても,全身的な疲労感や機能制限(例,疼痛や関節運動制限によるもの)を感じた際にもこの用語を使用することがある。... さらに読む , 疲労 疲労 疲労は,複合症状の一部としてみられることがほとんどであるが,それが唯一のまたは主な症状の場合でも,疲労は最も一般的な症状の1つである。 疲労とは,エネルギー不足による活動の開始および維持が困難な状態であり,休みたいという欲求を伴う。疲労は,運動,長期のストレス,および睡眠不足の後では正常である。... さらに読む , 動悸 動悸 動悸とは,患者自身が心臓の活動を知覚することである。動悸はしばしば,ドキドキする,鼓動が激しい,脈が飛ぶ感じなどと表現される。動悸はよくみられる症状であり,不快に感じて警戒する患者もいる。動悸は心疾患がなくとも発生する一方,生命を脅かす心疾患に起因することもある。診断および治療の鍵は,心電図でリズムを「捉え」,動悸の発生中に注意深く観察す... さらに読む ,ふらつき,卒倒感, 失神 失神 失神とは,突然生じる短時間の意識喪失のうち,姿勢緊張の喪失を伴い,自然に回復するものである。患者は動かず,ぐったりとし,通常は四肢が冷たく,脈は弱く,呼吸は浅くなる。ときに,痙攣発作に似た不随意性の筋痙攣が短時間生じることもある。 失神前状態では,ふらつきと卒倒感が生じるが,意識喪失は伴わない。失神と原因が同じであることから,通常は失神に... さらに読む , 浮腫 浮腫 浮腫とは,間質液の増加により軟部組織の腫脹が生じた状態である。液体の主成分は水であるが,感染やリンパ管閉塞がある場合には,タンパク質および細胞を多く含む液体が蓄積する可能性がある。 浮腫は全身性の場合と局所性の場合(例,四肢のいずれかまたはその一部に限局する)がある。ときに浮腫は突然発症し,患者は四肢が極めて突然に腫れたと訴える。一方,浮... さらに読む などがある。これらは複数の心疾患で共通してみられる症状であり,また心疾患以外でもよくみられる。
身体診察
一般的な 心血管系の診察 心血管系の診察 心疾患が末梢および全身に及ぼす影響と心臓に影響を及ぼしうる心臓以外の疾患の所見を検出するため,全ての器官系をくまなく診察することが不可欠である。診察には以下を含める: バイタルサインの測定 脈拍の触診および聴診 静脈の視診 胸部の視診および触診 さらに読む と 心臓の聴診 心臓の聴診 心臓の聴診には,優れた聴力と音の高さおよびタイミングの微妙な相違を識別する能力が必要とされる。聴覚障害がある医療従事者は電子聴診器を使用できる。高音は膜型の聴診器で最もよく聴取できる。低音はベル型で最もよく聴取できる。ベル型を使用するときは,ごく小さな力で当てるべきである。当てる力が強すぎると,下にある皮膚が膜として作用することで,非常に... さらに読む については,他のトピックの中で考察されている。心臓画像検査の利用が増え続けているが,いつでも行えて,費用をかけずに必要なだけ繰り返せるベッドサイドでの診察が有用であることに変わりはない。