腹部大動脈分枝の閉塞は次のように分類される:
急性:塞栓症,アテローム血栓症,または解離に起因する
慢性: 動脈硬化 アテローム性動脈硬化 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む , 線維筋性異形成 線維筋性異形成 線維筋性異形成には,動脈硬化でも炎症性でもない一群の異質な動脈変化が含まれ,いくらかの血管狭窄,閉塞,または動脈瘤を引き起こす。 線維筋性異形成は通常,40~60歳の女性に発生する。原因は不明である。しかしながら,遺伝的要素があると考えられ,喫煙が危険因子である可能性がある。線維筋性異形成は,特定の結合組織疾患(例, エーラス-ダンロス症候群IV型,嚢胞性中膜壊死, 遺伝性腎炎,... さらに読む ,または腫瘤病変による外側からの圧迫に起因する
頻度の高い閉塞部位として次のものが挙げられる:
上腸間膜動脈
腹腔動脈
腎動脈
大動脈分岐部
腹腔動脈の慢性閉塞は,理由は不明であるが女性でより多くみられる。
腹部大動脈分枝の閉塞の症状と徴候
臨床像(例,疼痛,臓器不全,壊死)は虚血または梗塞によるものであり,閉塞した動脈と急性度によって異なる。
急性腸間膜動脈閉塞症 急性腸間膜虚血症 急性腸間膜虚血症は,塞栓症,血栓症,または循環血流量減少により腸管血流が途絶した状態である。これによりメディエーターの放出から炎症が惹起され,最終的には梗塞がもたらされる。腹痛は身体所見と釣り合いが取れていない。早期診断は困難であるが,血管造影および試験開腹が最も感度が高く,他の画像検査法はしばしば疾患が進行して初めて陽性化する。治療は,塞栓除去術,壊死に陥っていない腸管の血行再建術,または切除により,ときに血管拡張療法が成功する。死亡... さらに読む では,腸管の虚血および梗塞を引き起こして,軽微な身体所見に釣り合わないのが典型的な重度のびまん性腹痛を惹起する。腹腔動脈の急性閉塞は,肝臓または脾臓の梗塞を引き起こしうる。
慢性腸間膜血行不全では,上腸間膜動脈と腹腔動脈の両方がかなり狭小化ないし閉塞しない限り症状がみられることはまれで,これは主要な内臓動脈本幹の間に側副血行路が発達していることに起因する。慢性腸間膜血行不全の症状は典型的には食後にみられ(abdominal angina),これは消化に腸間膜血流の増加が必要であることに起因する;疼痛は食後約30分から1時間で始まり,持続性かつ重度で,通常は臍周辺部に生じ,ニトログリセリンの舌下投与により軽減されることがある。患者が食事を恐れるようになり,体重減少(しばしば極度)がよくみられる。まれに,吸収不良を来して体重減少の一因となる。腹部血管雑音,悪心,嘔吐,下痢,便秘,暗色便を呈することがある。
急性 腎動脈塞栓症 急性腎動脈閉塞 腎動脈狭窄は,片側または両側腎動脈の本幹または分枝を通る血流が低下する状態である。腎動脈閉塞は,片側または両側腎動脈の本幹または分枝を通る血流が完全な遮断である。狭窄および閉塞の原因は通常,血栓塞栓症,動脈硬化,線維筋性異形成である。急性閉塞の症状は,間断なくうずく側腹部痛,腹痛,発熱,悪心,嘔吐および血尿などである。急性腎障害が発生する場合がある。慢性,進行性の狭窄は,難治性高血圧をもたらし,慢性腎臓病に至る場合がある。診断は画像検査... さらに読む では,側腹部痛が突然生じ,続いて血尿がみられる。慢性閉塞は無症状のこともあれば,新たな高血圧やコントロール困難な 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む と腎機能不全または腎不全のその他の続発症をもたらすこともある。
大動脈分岐部または末梢分枝の急性閉塞は,突然出現する下肢の安静時痛,蒼白,麻痺,末梢部の脈拍消失,および冷感を引き起こすことがある(急性末梢動脈閉塞症 急性末梢動脈閉塞症 末梢動脈の急性閉塞は,血栓,塞栓,大動脈解離,または急性コンパートメント症候群によって発生することがある。 急性末梢動脈閉塞症は以下により引き起こされる: アテローム性プラークの破綻および血栓症 心臓,胸部大動脈,または腹部大動脈からの塞栓 大動脈解離 さらに読む を参照)。慢性閉塞は,下肢および殿部の間欠性跛行ならびに勃起障害の原因となることがある(Leriche症候群)。大腿動脈の拍動が消失する。下肢切断の危険が生じることもある。
腹部大動脈分枝の閉塞の診断
画像検査
診断は主に病歴と身体所見に基づき,duplex法による超音波検査,CT血管造影,MRアンギオグラフィー,または従来の血管造影により確定される。
腹部大動脈分枝の閉塞の治療
急性閉塞には塞栓除去術または経皮的血管形成術
重度の慢性閉塞には外科手術または血管形成術
急性閉塞は外科的緊急事態であり,塞栓除去術,経皮的血管形成術(PTA)単独,またはPTAとステント留置術の併用が必要である。塞栓除去術またはPTAが不成功に終わった場合は,開腹下でのバイパス移植術および腸管切除術が必要になることもある。
慢性閉塞には,症状がみられる場合,外科手術または血管形成術が必要となることがある。危険因子の是正と抗血小板薬が有用となりうる。
急性腸間膜動脈閉塞症(例,上腸間膜動脈)は,合併症発生率と死亡率がかなり高く,迅速な血行再建術を必要とする。腸管の血行再建が4~6時間以内に行われない場合,予後は不良である。
上腸間膜動脈および腹腔動脈の慢性閉塞では,食習慣の改善により症状が一時的に軽減することがある。症状が重度の場合は,閉塞部より末梢の内臓動脈に大動脈からの外科的なバイパス手術を施行することで,通常は血行再建が得られる。グラフトの長期開存率は90%を超える。適切に選択された患者(特に手術適応ではない可能性のある高齢患者)では,PTA単独またはPTA + ステント留置術による血行再建が有効となる可能性がある。症状が速やかに消失し,体重が回復する可能性がある。
急性腎動脈閉塞には塞栓除去術が必要であり,ときにPTAの施行が可能である。慢性閉塞の初期治療としては 降圧薬 高血圧に対する薬剤 いくつかのクラスの薬剤が高血圧の初期治療およびその後の管理に効果的である: アドレナリン修飾薬 アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬 アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB) β遮断薬 さらに読む を投与する。血圧が十分にコントロールされていない場合,または腎機能が悪化している場合は,PTAとステント留置,またはPTAが不可能な場合は開腹下の外科的バイパス術もしくは動脈内膜摘除術により血流の改善が可能である。
大動脈分岐部の閉塞には緊急の塞栓除去術が必要であり,通常は経大腿動脈的に施行する。大動脈分岐部の慢性閉塞から跛行が生じている場合は,大動脈-腸骨動脈または大動脈-大腿動脈グラフトを用いて閉塞を外科的にバイパスすることができる。選択された患者ではPTAが代替法となる。
腹部大動脈分枝の閉塞の要点
腹部大動脈分枝の閉塞は,急性と慢性いずれの場合もある。
症状は閉塞の急性度と閉塞した動脈によって異なる。
腹部大動脈分枝閉塞の診断は,病歴および身体診察に基づいて行い,画像検査で確定する。
急性閉塞は,塞栓除去術,経皮的血管形成術,外科的バイパス術を要する外科的緊急事態として治療する。慢性閉塞は,薬剤と生活習慣の改善,さらに重症例では外科手術または血管形成術により治療する。