陰嚢痛は,新生児から高齢男性に至るまで,あらゆる年齢の男性で発生する可能性がある。
陰嚢痛の病因
陰嚢痛の評価
精巣捻転を放置すると,精巣の喪失につながる可能性があるため,迅速な評価,診断,および治療が必要である。
病歴
現病歴の聴取では,疼痛の部位(片側性または両側性),発症(急性または亜急性),および持続期間を明らかにすべきである。重要な随伴症状として,発熱,排尿困難,陰茎分泌物,陰嚢腫瘤の存在などがある。外傷,いきみ,重い物の挙上,性的接触などの先行事象について患者に尋ねるべきである。
システムレビュー(review of systems)では,原因疾患の症状がないか検討すべきであり,具体的には紫斑性発疹,腹痛,および関節痛(IgA血管炎[ヘノッホ-シェーンライン紫斑病]);間欠性の陰嚢腫瘤,鼠径部腫脹,またはその両方(鼠径ヘルニア);発熱および耳下腺腫脹(ムンプス精巣炎);側腹部痛または血尿(腎結石)などが挙げられる。
既往歴の聴取では,関連痛を引き起こす可能性のある既知の疾患(ヘルニア,腹部大動脈瘤,腎結石など)と重篤な疾患の危険因子(糖尿病,末梢血管疾患[フルニエ壊疽]など)を同定すべきである。
身体診察
身体診察はバイタルサインの評価と疼痛の重症度評価から始める。診察では腹部,鼠径部,および性器に焦点を置く。
腹部を診察して,圧痛および腫瘤(膀胱拡張を含む)がないか確認する。側腹部を打診して,肋骨脊柱角に圧痛がないか確認する。
鼠径部および性器の診察は,立位で行うべきである。鼠径部を視診および触診して,リンパ節腫脹,腫脹,または紅斑がないか確認する。陰茎の診察では,潰瘍,尿道分泌物,ならびにピアスおよび刺青(細菌感染症の発生源)に注意すべきである。陰嚢の診察では,非対称性,腫脹,発赤,変色,および精巣の向きと位置(水平か垂直か,高位か低位か)に注意すべきである。両側で精巣挙筋反射を検査すべきである。精巣,精巣上体,および精索を触診して,腫脹および圧痛がないか確認すべきである。腫脹を認めた場合は,嚢胞性か充実性かを判定する上での参考にするため,透光性の有無を確認すべきである。
警戒すべき事項(Red Flag)
以下の所見は特に注意が必要である:
疼痛の突然の発症,極めて強い圧痛,高位に転位して水平方向を向いた精巣(精巣捻転)
重度の疼痛,嘔吐,および便秘を伴う鼠径部または陰嚢の非還納性腫瘤(嵌頓ヘルニア)
陰嚢または会陰部の発赤,壊死性または水疱性皮膚病変,および重症感(toxic appearance)(フルニエ壊疽)
疼痛,低血圧,脈拍微弱,蒼白,めまい,および錯乱の突然の発生(腹部大動脈瘤破裂)
所見の解釈
直ちに治療が必要な原因をそれ以外と鑑別することに焦点を置く。臨床所見から重要な手がかりが得られる(陰嚢痛の主な原因の表を参照)。
大動脈破裂とフルニエ壊疽は主に50歳以上の患者で発生する一方,その他の直ちに治療が必要な病態は年齢を問わずに発生する。しかしながら,精巣捻転は新生児と思春期後の男児で最もよくみられ,精巣垂捻転は思春期前の男児(7~14歳)で,精巣上体炎は青年および成人で最もよくみられる。
重度の疼痛の突然の発生は,精巣捻転または腎結石を示唆する。精巣上体炎,嵌頓ヘルニア,または虫垂炎に起因する疼痛は,より緩徐に発症する。精巣垂捻転の患者では,中等度の疼痛が数日かけて発生し,疼痛の部位は上極に限局する。両側性の疼痛は感染(例,精巣炎[特に発熱およびウイルス感染症状を伴う場合])もしくは関連痛を引き起こす病態を示唆する。陰嚢に放散する側腹部痛は腎結石または(55歳以上の男性では)腹部大動脈瘤を示唆する。
陰嚢および会陰部の診察所見が正常な場合は,関連痛が示唆される。その場合は陰嚢以外の疾患,特に虫垂炎,腎結石,および(55歳以上の男性では)腹部大動脈瘤に注意を向ける必要がある。
陰嚢および会陰部の診察での異常所見から,しばしば原因が示唆される。ときに,精巣上体炎の早期には,圧痛および硬結が精巣上体に限局することがあり,また捻転の早期には,精巣が明らかに高位にあって水平方向を向いており,かつ精巣上体には特に圧痛を認めないことがある。一方で,精巣および精巣上体の両方に腫脹と圧痛がみられる場合も多く,また陰嚢浮腫が生じることで,触診では捻転と精巣上体炎を鑑別できなくなることもある。しかしながら,精巣挙筋反射は捻転では認められず,また性感染症(STD)の所見(例,膿性尿道分泌物)も同様であり,これらの所見が両方認められる場合は精巣上体炎である可能性が高い。
ときに,ヘルニアに起因する陰嚢腫瘤を鼠径管で触知できる場合があるが,それ以外の症例では,ヘルニアと精巣腫脹の鑑別が困難になることがある。
精巣および精巣上体に圧痛がなく,かつ陰嚢に疼痛および発赤がある場合は,感染症(すなわち蜂窩織炎または早期のフルニエ壊疽のいずれか)を疑うべきである。
血管炎性の発疹,腹痛,および関節痛を認める場合は,IgA血管炎や結節性多発動脈炎などの全身性血管炎症候群の臨床像と一致する。
検査
通常は検査を行う。
尿検査および培養(全ての患者)
STD検査(尿検査陽性,分泌物,排尿困難のいずれかを認める全ての患者)
捻転を除外するためのカラードプラ超音波検査(他に明確な原因がない場合)
所見から示唆される原因に応じて,その他の検査(陰嚢痛の主な原因の表を参照)
尿検査および培養は常に必要である。尿路感染症(UTI)の所見(例,膿尿,細菌尿)は精巣上体炎を示唆する。UTIを示唆する所見を認める患者と尿道分泌物または排尿困難がある患者には,STDの検査とUTIを引き起こす他の細菌に対する検査を行うべきである。
精巣捻転では迅速な診断が極めて重要である。所見から捻転が強く示唆される場合は,検査よりも優先して直ちに外科的探索を行う。所見が明確ではなく,他に明確な急性陰嚢痛の原因が認められない場合は,カラードプラ超音波検査を施行する。ドプラ超音波検査を施行できない場合は,核医学検査を用いてもよいが,感度および特異度はともに低くなる。
陰嚢痛の治療
老年医学的重要事項
陰嚢痛の要点
急性陰嚢痛を呈する患者(特に小児および青年)では,常に精巣捻転を考慮する;迅速かつ正確な診断が不可欠である。
その他に頻度の高い陰嚢痛の原因は,精巣垂捻転および精巣上体炎である。
診断が不確かな場合には,通常はカラードプラ超音波検査を施行する。
陰嚢および会陰部の診察所見が正常な場合は,関連痛が示唆される。