常染色体優性多発性嚢胞腎 (ADPKD)

執筆者:Enrica Fung, MD, MPH, Loma Linda University School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 12月
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多発性嚢胞腎(PKD)は腎嚢胞を形成する遺伝性疾患で,両腎の段階的な腫大をもたらし,ときには腎不全に進行する。ほぼ全種類が家族性の遺伝子変異に起因する。症状と徴候は,側腹部痛,腹痛,血尿,高血圧などである。診断はCTまたは超音波検査による。治療は,腎不全に至る前は対症療法,腎不全発生後は透析または移植である。

嚢胞性腎疾患の概要も参照のこと。)

病因

多発性嚢胞腎(PKD)の遺伝形式は以下の通りである:

  • 常染色体優性

  • 常染色体劣性

  • 孤発性(まれ)

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の発生率は1000分の1であり,腎代替療法を必要とする末期腎臓病(ESRD)患者の約5%を占める。成人前の臨床的な発症はまれであるが,浸透度はほぼ完全であり,80歳以上では全患者が何らかの徴候を示す。

一方,常染色体劣性多発性嚢胞腎はまれであり,発生頻度は10,000分の1である。しばしば小児期に腎不全を来す。

ADPKD症例の86~96%において,原因はタンパク質ポリシスチン1をコードする16番染色体のPKD1遺伝子の突然変異であり,その他の症例の大半はポリシスチン2をコードする4番染色体のPKD2遺伝子の突然変異に起因する。少数の家族性症例は,いずれの遺伝子座にも無関係である。

病態生理

ポリシスチン1は尿細管上皮細胞の接着と分化を調整する可能性があり,ポリシスチン2はイオンチャネルとして機能する場合があるため,突然変異により水分の分泌が嚢胞をもたらす。尿細管細胞は腎繊毛により尿流速度を感知することができ,これらのタンパク質の突然変異は,腎繊毛の機能を変化させる可能性がある。主要な仮説は,尿細管細胞の増殖と分化は尿流速度に関連しており,そのため繊毛の機能不全が嚢胞化をもたらす可能性があるとするものである。

疾患の早期には,尿細管が拡張し,徐々に糸球体性濾液で満たされる。最終的に,尿細管は機能しているネフロンから分離し,濾液ではなく分泌液によって満たされ,嚢胞を形成する。嚢胞内への出血が発生することがあり,血尿がもたらされる。患者は急性腎盂腎炎,嚢胞感染,尿路結石(患者の20%)のリスクも高い。最終的には不明の機序により血管硬化および間質線維化が発生し,典型的に侵される尿細管は全体の10%未満であるが,約35~45%の患者では60歳までに腎不全が発生する。

腎以外の臨床像がよくみられる:

  • 肝嚢胞はほとんどの患者で認められるが,典型的には肝機能に影響を及ぼさない。

  • また,膵臓および腸管の嚢胞,大腸憩室,鼠径部および腹壁ヘルニアの発生率も高い。

  • 患者の25~30%で心臓弁膜症(最もよくみられるのは僧帽弁逸脱および大動脈弁逆流)が心臓超音波検査で検出される可能性があり,他の弁膜症はコラーゲン異常に起因すると考えられる。

  • 大動脈弁逆流は,動脈壁の変化(大動脈瘤を含む)による大動脈基部の拡張に起因する。

  • 冠動脈瘤が発生する。

  • 脳動脈瘤が若年成人の約4%,高齢患者の10%以下で認められる。動脈瘤は,65~75%の患者で通常50歳までに破裂し,危険因子としては,動脈瘤または動脈瘤破裂の家族歴,大きな動脈瘤,コントロール不良の高血圧などがある。

症状と徴候

常染色体優性多発性嚢胞腎は,早期においては通常無症候性である;患者の半数は症状を示さないまま推移し,腎機能不全も腎不全も一度も発症せず,診断されることもない。症状を呈する患者の大半は,20代末までに症状が出現する。

症状は嚢胞性腫大に起因する軽度の側腹部痛,腹痛,腰痛,感染症状などである。急性痛が発生する場合,通常嚢胞への出血または結石の通過が原因である。急性腎盂腎炎では発熱がよくみられ,嚢胞が後腹膜腔へと破綻することで数週間にわたって持続する発熱がもたらされる可能性がある。肝嚢胞が腫大または感染した場合,右上腹部痛が生じることがある。

弁膜症が症状を引き起こすことはまれであるが,ときに心不全を引き起こして弁置換術が必要となることもある。

未破裂の脳動脈瘤による症状と徴候は,何も認められないこともあれば,頭痛,悪心,嘔吐,および脳神経の障害を呈することもあり,これらの症状がある場合は即時の介入が必要である。

徴候は非特異的で,血尿および高血圧(それぞれ約40~50%の患者で),ならびに20%の患者でネフローゼに達しない範囲のタンパク尿(成人で3.5g/24時間未満)などがある。貧血はその他の種類の慢性腎臓病と比較して少なく,おそらくエリスロポエチン産生が保存されているためである。疾患が進行すると,腎臓が著しく腫大して触知できる場合があり,上腹部および側腹部の膨満をもたらす。

診断

  • 超音波検査

  • ときにCTもしくはMRIまたは遺伝子検査

以下がみられる患者では多発性嚢胞腎を疑う:

  • 陽性の家族歴

  • 典型的な症状または徴候

  • 画像検査で偶然検出された嚢胞

診断検査を行う前に,特に患者が症状を呈していない場合は,患者にカウンセリングを受けさせるべきである。例えば,無症状の若年患者については,この年齢では疾患を是正する効果的な治療法が存在せず,診断を下せば患者の気分や生命保険に好ましい条件で加入できる可能性に悪影響が生じる可能性があることから,多くの専門家が検査を行わないことを推奨している。

診断は通常は画像検査により,両腎の全体にわたり強い嚢胞性変化がみられ,さらに典型的には腎腫大がみられ,機能的な組織を置換した嚢胞により虫食い状の様相を呈する。これらの変化は年齢とともに発生し,若年の患者では頻度が低いか,あっても明らかでない。

通常は最初に超音波検査を施行する。超音波検査の結果が確定的ではない場合は,CTまたはMRIを施行するが,これらはともに感度がより高い(特に造影剤を用いて施行した場合)。MRIは嚢胞および腎臓の体積を測定するのに特に有用である。

尿検査,腎機能検査,および血算を施行するが,これらの結果は特異的ではない。

尿検査では,軽度のタンパク尿および顕微鏡的または肉眼的血尿を検出できる。肉眼的血尿は,結石の排出または破裂した嚢胞からの出血に起因する可能性がある。膿尿は細菌感染症がない場合にも一般的であるため,感染の診断は尿検査と合わせて培養の結果および臨床所見(例,排尿困難,発熱,側腹部痛)に基づくべきである。初期においては,血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニンは正常またはやや高値であるが,緩徐に上昇し,特に高血圧の存在下では上昇する。まれに,血算で赤血球増多が検出される。

脳動脈瘤の症状を呈する患者は,高分解能CTまたはMRアンギオグラフィーが必要である。しかしながら,ほとんどの専門家は症状のない患者の脳動脈瘤のルーチンなスクリーニングを推奨していない。合理的なアプローチは,常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)患者のうち出血性脳卒中または脳動脈瘤の家族歴を有する患者に対するスクリーニングである。

多発性嚢胞腎(PKD)の突然変異に関する遺伝子検査は,現在では以下の場合に限り施行されている:

  • PKDが疑われ,既知の家族歴を有していない患者

  • 画像検査の結果が確定的でない患者

  • 若年患者(例,30歳未満,これらの患者では画像検査はしばしば確定的ではない)で,診断を下さなければならない場合(例,腎ドナーの候補)

ADPKD患者の第1度近親者には,遺伝カウンセリングが推奨される。

予後

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)患者の50~75%では,75歳までに腎代替療法透析または移植)が必要になる。平均すると,40歳以降は糸球体濾過量(GFR)が毎年約5mL/minずつ低下していく。腎不全へのより急速な進行の予測因子は以下のものである:

  • 診断時年齢が低い

  • 男性である

  • 鎌状赤血球形質がみられる

  • PKD1の遺伝子型

  • 腎臓が大きいか急速に増大する

  • 肉眼的血尿を認める

  • 高血圧がみられる

  • 黒人である

  • タンパク尿が増強している

嚢胞および腎体積の測定値は,慢性腎臓病および末期腎臓病に進行するリスクを,しばしばルーチンの臨床検査の結果が変化する前に予測する。例えば,嚢胞および腎臓の大きさは,年齢,タンパク尿の程度,血清BUN値またはクレアチニン値よりも,8年間の慢性腎臓病のリスクをより正確に予測する。腎臓の大きさは,進行の最も重要な予測因子である(特に,腎体積が合計1500mLを超えている場合)(1)

リン調節ホルモンである線維芽細胞増殖因子(FGF)23の上昇と,腎臓の増大および推算糸球体濾過量(eGFR)の年間減少率とに関連が認められたが,興味深いことに疾患進行のリスク予測に影響はみられなかった(2)

ADPKDは腎癌のリスクを上昇させないが,ADPKD患者に腎癌が発生した場合は両側性である可能性が高くなる。まれに腎癌から死に至る。死因は通常,心疾患(ときに弁膜症),播種性感染,または脳動脈瘤破裂である。

予後に関する参考文献

  1. Grantham JJ, Torres VE, Chapman AB, et al: Volume progression in polycystic kidney disease.N Engl J Med 18;354(20):2122-2130, 2006.

  2. Chonchol M, Gitomer B, Isakova T, et al: Fibroblast growth factor 23 and kidney disease progression in autosomal dominant polycystic kidney disease.Clin J Am Soc Nephrol 12(9):1461-1469, 2017.doi: 10.2215/CJN.12821216.

治療

  • 合併症(例,高血圧,感染,腎不全)の管理

  • 支持療法

厳格な高血圧のコントロールが必須である。典型的にはACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬が使用される。これらの薬剤は,血圧コントロールに加えて,腎瘢痕および腎機能低下に寄与する成長因子であるアンジオテンシンおよびアルドステロンの遮断にも有用である。尿路感染症(UTI)は迅速に治療すべきである。嚢胞の経皮的吸引は,出血または圧迫に起因する重度の疼痛の軽減に役立つ場合があるが,長期の転帰には影響を及ぼさない。腎摘出は,巨大な腎腫大または再発性UTIによる重度の症状(例,疼痛,血尿)を緩和するための選択肢である。

慢性腎不全となった患者には,血液透析腹膜透析,または腎移植が必要となる。ADPKDが移植片で再発することはない。常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)患者では,透析を行うことで,その他の腎不全患者集団と比べて高いヘモグロビン(Hb)値が維持される。

支持療法の1つとして,摂取した水分を安全に排泄できる患者では,水分(特に水)の摂取量を増やすことでバソプレシンの放出をたとえ一部だけでも抑制するという方法がある。

mTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬は,腎体積の増大を遅らせる可能性はあるが,腎機能の低下を遅らせることはないため,この種の薬剤をルーチンに使用するのは一般的でない。

バソプレシン受容体2拮抗薬のトルバプタンは,ADPKD患者で有益となりうる薬剤であるが,その使用はまだ推奨されていない(1, 2)。トルバプタンは腎体積の増大と腎機能の低下を遅らせるとみられているが,自由水利尿を介した有害作用(例,口渇,多飲,多尿)が生じる可能性があり,アドヒアランスの維持を困難にする恐れがある。トルバプタンは重度の肝不全を引き起こすと報告されており,故に有意な肝障害または肝損傷を有する患者では禁忌である。トルバプタンは,腎疾患の急速な進行のリスクが高い患者に特に有益となりうる。トルバプタンは有害作用を引き起こす可能性があるため,投与開始前に専門家へのコンサルテーションが推奨される。トルバプタンは小児では研究されておらず,18歳未満の患者には推奨されない。

ADPKDの小児では,プラバスタチンの早期使用で構造的腎疾患の進行を遅らせることができる可能性がある(3)

治療に関する参考文献

  1. Torres VE, Chapman AB, Devuyst O: Tolvaptan in patients with autosomal dominant polycystic kidney disease.N Engl J Med 367(25):2407-2418, 2012.doi: 10.1056/NEJMoa1205511.

  2. Torres VE,  Chapman AB, Devuyst O: Tolvaptan in later-stage autosomal dominant polycystic kidney disease.N Engl J Med 16;377(20):1930-1942, 2017.doi: 10.1056/NEJMoa1710030.

  3. Cadnapaphornchai MA, George DM, McFann K, et al: Effect of pravastatin on total kidney volume, left ventricular mass index, and microalbuminuria in pediatric autosomal dominant polycystic kidney disease.Clin J Am Soc Nephrol 9(5):889-896, 2014.

要点

  • 常染色体優性多発性嚢胞腎は1000人に約1人の頻度で発生する。

  • 約半数の患者では症状がみられないが,それ以外の患者では背部痛,腹痛,血尿,高血圧などの症状が通常は30歳未満で緩徐に始まり,35~45%の患者は60歳までに腎不全に陥る。

  • 腎以外の臨床像はよくみられ,具体的には脳動脈瘤,冠動脈瘤,心臓弁膜症,肝臓,膵臓,および腸管の嚢胞などがある。

  • PKDの診断は画像検査および臨床所見に基づき,遺伝子検査は,家族歴がない患者,画像検査の結果が確定的でない患者,若年で診断が管理に影響を及ぼす患者にのみ行う。

  • 無症状の患者におけるADPKDのスクリーニングや無症状のADPKD患者における脳動脈瘤のスクリーニングは,ルーチンには実施しない。

  • ADPKD患者の第1度近親者に遺伝カウンセリングを手配する。

  • 高血圧の管理と腎瘢痕または腎機能障害の予防を目的としてACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬を投与するとともに,他の合併症が発生した場合はその治療を行い,トルバプタンの使用を考慮する。

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