薬物により引き起こされる肝障害

執筆者:Danielle Tholey, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2019年 10月
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多くの薬物(例,スタチン系薬剤)により,無症状の肝酵素値(アラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT],アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[AST],アルカリホスファターゼ)の上昇がよく引き起こされる。一方,臨床的に重大な肝障害(例,黄疸,腹痛,そう痒),すなわちタンパク質合成が障害される肝機能障害(例,プロトロンビン時間[PT]延長,低アルブミン血症)はまれである。

薬剤性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)という用語は,臨床的に重大な肝障害を指して用いられる場合と,全ての肝障害(無症状のものも含む)を総称して用いられる場合がある。DILIには,薬剤だけでなく,薬用ハーブ,植物,栄養補助食品などによる障害もある(1,2)

参考文献

  1. Chalasani N, Bonkovsky HL, Fontana R, et al: Features and outcomes of 899 patients with drug-induced liver injury: The DILIN prospective study.Gastroenterology 148(7):1340-1352, 2015. doi: 10.1053/j.gastro.2015.03.006. 

  2. Navarro VJ, Barnhart H, Bonkovsky HL, et al: Liver injury from herbals and dietary supplements in the U.S. Drug-Induced Liver Injury Network. Hepatology 60(4):1399-1408, 2014. doi: 10.1002/hep.27317.

薬剤性肝障害の病態生理

薬剤性肝障害(DILI)の病態生理は,薬物(またはその他の肝毒性物質)に応じて異なり,その多くは完全には解明されていない。薬剤性肝障害の機序の1つに薬物の細胞タンパク質に対する共有結合があり,その結果として免疫性の障害,細胞代謝経路の阻害,細胞の輸送ポンプの遮断,アポトーシスの誘導,ミトコンドリア機能の阻害などに至る。

一般に,以下の因子はDILIのリスクを増大させると考えられている:

  • 年齢18歳以上

  • 肥満

  • 妊娠

  • 薬剤使用と同時の飲酒

  • 遺伝子多型(認識が高まりつつある)

肝障害のパターン

DILIは,予測可能な場合(通常は曝露後すぐに障害が現れ,用量依存性がある場合)と,予測不能な場合(一定の潜伏期間を経てから障害が発生し,かつ用量依存性がない場合)がある。予測可能なDILI(一般的にはアセトアミノフェン中毒)は,米国における急性黄疸および急性肝不全の一般的な原因となっている。予測不能なDILIが重度の肝疾患の原因となることはまれである。症状のないDILIは過小報告されている可能性がある。

表&コラム

生化学的には,一般に以下に示す3種類の肝障害に注目する(肝毒性を引き起こす可能性がある薬物の表を参照):

  • 肝細胞障害型:肝細胞障害型肝毒性は,一般に倦怠感と右上腹部痛として発現し,アミノトランスフェラーゼ値(アラニンアミノトランスフェラーゼ値[ALT],アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値[AST],または両方)の著明な上昇を伴い,重症例では高ビリルビン血症を続発することがある。この場合の高ビリルビン血症は,肝細胞性黄疸として知られており,Hy's lawによると,死亡率は50%にも及ぶ。肝細胞性肝障害に黄疸,肝合成障害,および脳症が併発した場合,自然回復の可能性は低くなるため,肝移植を考慮すべきである。この種類の肝障害は,アセトアミノフェンやイソニアジドなどの薬物によって発生しうる。

  • 胆汁うっ滞型:胆汁うっ滞型肝毒性は,血清アルカリホスファターゼ値の著明な上昇を伴うそう痒および黄疸を特徴とする。通常,この種類の肝障害は肝細胞障害性の重度の症候群より軽度であるが,回復に時間を要する場合がある。この種類の肝障害を引き起こすことが知られている物質には,アモキシシリン/クラブラン酸,クロルプロマジンなどがある。まれに,胆汁うっ滞型肝毒性から慢性肝疾患や胆管消失症候群(肝内胆管の進行性崩壊)に至ることがある。

  • 混合型:これらの臨床症候群では,アミノトランスフェラーゼ値とアルカリホスファターゼ値のどちらにも明らかな優位性が認められない。症状も混在することがある。この種類の肝障害はフェニトインなどの薬物によって発生しうる。

薬剤性肝障害の診断

  • 臨床検査値異常の特徴的パターンの同定

  • 他の原因の除外

臨床像は多岐にわたり,無症状の場合から,非特異的症状(例,倦怠感,悪心,食欲不振)のみの場合,さらには黄疸,肝合成障害,脳症を生じる場合もある。薬剤性肝障害(DILI)の早期発見により予後は改善される。

考えられる肝毒性物質とその物質に特徴的な肝臓検査異常値のパターン(その物質のサイン)を同定することで,診断が容易になる。

確定診断を可能にする検査法はないため,肝疾患の他の原因,特にウイルス性,胆汁性,アルコール性,自己免疫性,代謝性を除外しなければならない。薬物の再投与は,診断の根拠を高められる可能性はあるが,避けるべきである。DILIが疑われる症例は,MedWatch(Food and Drug Administration[FDA:米国食品医薬品局]の薬物有害反応モニタリングプログラム)に報告すべきである。(1)

パール&ピットフォール

  • 肝障害の原因と疑われる薬剤を再投与しないこと。

診断に関する参考文献

  1. European Association for the Study of the Liver: EASL clinical practice guidelines: Drug-induced liver injury.J Hepatol 70(6):1222-1261, 2019.doi: 10.1016/j.jhep.2019.02.014.

薬剤性肝障害の治療

  • 早期の投薬中止

管理としては被疑薬の中止が重要であり,早期に中止できれば,通常は回復に向かう。重症例,特に肝細胞性黄疸や肝機能障害がみられる患者では,肝移植が必要になる可能性もあるため,専門医へのコンサルテーションが必要である。薬剤性肝障害(DILI)に対する解毒剤が使用できるのは,ごく限られた肝毒性物質のみであるが,そのような解毒剤としては,アセトアミノフェン中毒に対するN-アセチルシステイン,タマゴテングタケの毒性に対するシリマリンまたはペニシリンなどがある。

薬剤性肝障害の予防

薬剤性肝障害(DILI)を回避するための努力は薬剤の開発段階から始められるが,小規模な前臨床試験で安全と思われても,広く使用されるようになった後の最終的な安全性が保証されるわけではない。今日では,FDAにより市販後調査がますます強く義務づけられるようになっているが,この調査により肝毒性を起こす可能性のある薬剤に注意を向けることが可能になる。

米国National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK)は,処方薬,OTC医薬品,および代替医療(ハーブ製品や栄養補助食品など)が原因で発生した肝障害の重症例について情報収集と解析を行うために,LiverToxデータベースを構築した。これは,薬剤やサプリメントに関連した既知の肝毒性に関して容易にアクセス可能で正確な情報を提供する,検索可能なデータベースである。

肝酵素値のルーチンのモニタリング結果によると,肝毒性の発生率低下は示されていない。ファーマコゲノミクスを応用することで,個々の患者に合わせた薬剤使用が可能となり,感受性の高い患者に生じうる毒性を回避できる可能性がある。

薬剤性肝障害の要点

  • 薬剤による異常としては,臨床的に明らかな肝傷害や肝機能不全よりも,症状を伴わない肝機能検査値の異常の方がはるかに多くみられる。

  • 薬剤性肝障害(DILI)の危険因子としては,年齢18歳以上,肥満,妊娠,現在の飲酒,特定の遺伝子多型などがある。

  • DILIは,予測可能で用量依存性がある場合と,予測不能で用量依存性のない場合がある。

  • DILIには,肝細胞障害型,胆汁うっ滞型(通常は肝細胞障害型より重篤でない),および混合型がある。

  • 診断を確定するためには,肝疾患の他の原因,特にウイルス性,胆汁性,アルコール性,自己免疫性,代謝性の原因を除外する。

  • 肝障害の原因と疑われる薬剤を患者に再投与しないこと。

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