非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

執筆者:Danielle Tholey, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2021年 1月
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脂肪肝とは,肝細胞内に脂質が過度に蓄積した状態である。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)には単純な脂肪浸潤(脂肪肝と呼ばれる良性の病態)が含まれるのに対し,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は脂肪沈着があって脂肪毒性および肝細胞の炎症性傷害が生じている場合と定義される。組織学的にNASHをアルコール性肝炎と鑑別するのは困難である。したがって,NASHと診断するには,背景因子としての飲酒を除外する必要がある。単純性脂肪肝をNASHと鑑別することは肝生検なしでは困難な場合があり,肝酵素値の上昇はNASHを同定する上で感度の高い予測因子ではない。メタボリックシンドローム(肥満,脂質異常症,高血圧,耐糖能障害)がある患者では,単純性脂肪肝ではなくNASHである可能性が高くなる。発生機序はほとんど解明されていないが,インスリン抵抗性(例,肥満またはメタボリックシンドロームの場合と同様)が関連しているようである。大半の患者は無症状である。非侵襲的な診断検査で通常は十分であるが,ゴールドスタンダードは依然として肝生検である。治療には原因および危険因子の除去が含まれるほか,新たな治療法が次々と登場してきているが,いずれもまだ臨床試験段階である。

(American Association for the Study of Liver Diseases[AASLD]のNAFLDの診断および管理に関する2018年版診療ガイダンスも参照のこと。)

NAFLDには,単純な脂肪浸潤(脂肪肝と呼ばれる良性の病態)と,比較的まれではあるがより重要な病型である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が含まれる。NASH(ときに脂肪壊死とも呼ばれる)は,40~60歳の女性で最もよく診断されるが,あらゆる年齢層で起こりうる。発症した患者の多くには,肥満,2型糖尿病(または耐糖能障害),脂質異常症,メタボリックシンドロームなどがみられる。

NAFLDの病態生理

脂肪肝は様々な原因で発生し,多様な生化学的機序が関与し,異なるタイプの肝傷害を引き起こす。病態生理には,脂肪の蓄積(脂肪変性),炎症,様々な程度の線維化が関与する。脂肪変性は肝蔵にトリグリセリドが蓄積することで発生する。脂肪変性の機序として,超低比重リポタンパク質(VLDL)の合成低下と肝でのトリグリセリド合成の促進(おそらく脂肪酸酸化の減少または肝へ運ばれる遊離脂肪酸の増加による)の可能性が考えられている。炎症は脂質過酸化反応による細胞膜損傷の結果と考えられる。これらの変化が肝星細胞を刺激し,線維化を引き起こす可能性がある。NASHがさらに進行すると,肝硬変門脈圧亢進症を引き起こしうる。

NAFLDの症状と徴候

大半の患者は無症状である。しかしながら,一部の患者では疲労,倦怠感,右上腹部の不快感を生じることがある。約75%の患者で肝腫大が生じる。進行した肝線維化が存在する場合には,脾腫を生じることもあり,通常これは門脈圧亢進症の発生を示唆する最初の所見である。NASHによる肝硬変の患者では,無症状のこともあり,さらに慢性肝疾患で通常みられる徴候を欠くこともある。

NAFLDの診断

  • 病歴(危険因子があり,過度の飲酒がない)

  • B型およびC型肝炎を除外するための血清学的検査

  • 脂肪肝の超音波所見または脂肪分画の評価を伴うMRエラストグラフィー

  • 肝生検

メタボリックシンドローム(肥満,2型糖尿病,高血圧,または脂質異常症)の患者と肝疾患を示唆する原因不明の臨床検査値異常がある患者では,NASHを疑うべきである。単純性脂肪肝をNASHと鑑別することは困難な場合があり,肝酵素値の上昇はNASHを同定する上で感度の高い予測因子ではない。フェリチンの高値に加えてメタボリックシンドロームが存在する場合も,単純性脂肪肝ではなくNASHである可能性が高まる。さらに,FIB4スコアやNAFLD fibrosis score calculator,検査室でのNASH FibroSure®などの臨床スコアリングシステムにより,線維化のリスクが高い患者を同定でき,ひいてはNASHである可能性が高く,肝硬変に進行するリスクが高い患者を同定することができる。肝酵素が増加している場合,最もよくみられる臨床検査値異常はアミノトランスフェラーゼ値の上昇である。アルコール性肝疾患とは異なり,NASHではアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)/アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)比が通常1未満となる。アルカリホスファターゼとγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)はときに高値となる。高ビリルビン血症,プロトロンビン時間(PT)の延長,低アルブミン血症はまれである。

診断には,過度の飲酒がない(例,1日20g未満)ことの確固たる証拠(友人や近親者の証言など)が必要であり,さらに血清学的検査でB型およびC型肝炎を除外する必要がある(すなわち,B型肝炎表面抗原とC型肝炎ウイルス抗体がともに陰性)。肝生検では,アルコール性肝炎に類似した損傷がみられ,通常は大きな脂肪滴(大滴性脂肪沈着)と細胞周囲の線維化ないし"chicken wire" fibrosisを認める。生検の適応としては,糖尿病,肥満,または脂質異常症を有する患者において,原因不明の門脈圧亢進症の徴候(例,脾腫,血球減少)と原因不明のアミノトランスフェラーゼ値上昇が6カ月以上持続する場合などが挙げられる。

肝画像検査(超音波やCTのほか,特にMRI)で脂肪肝を同定できる場合もある。Transient elastography(超音波と周波数の低い弾性波の両方を用いる検査法),超音波エラストグラフィー,MRエラストグラフィーなどの非侵襲的な線維化の測定法により,脂肪変性の重症度を評価するとともに線維化を推定することが可能であり,これにより多くの症例で肝生検が不要になる(1, 2)。Transient elastographyと超音波エラストグラフィーは,患者の体型により制限を受けるが(あまりに体型が大きい/太っていると超音波が十分に透過できない),MRエラストグラフィーにはそうした制限がない。しかしながら,これらの検査ではNASHに典型的な炎症を同定できないため,NASHを他の原因による脂肪肝と鑑別することはできない。

診断に関する参考文献

  1. 1.Cassinotto C, Boursier J, de Ledinghen V, et al: Liver stiffness in nonalcoholic fatty liver disease: A comparison of supersonic shear imaging, FibroScan, and ARFI with liver biopsy.Hepatology 63(6):1817-1827, 2016.doi: 10.1002/hep.28394. 

  2. 2.Lee MS, Bae JM, Joo SK, et al: Prospective comparison among transient elastography, supersonic shear imaging and ARFI for predicting fibrosis in nonalcoholic fatty liver disease.PLoS One 12(11)e:0188321, 2017.doi: 10.1371/journal.pone.0188321.eCollection 2017.Erratum in: PLoS One 3(6):e0200055, 2018.doi: 10.1371/journal.pone.0200055.eCollection 2018.

NAFLDの予後

予後は線維化の程度に左右され,線維化は肝臓関連死および肝移植の必要性と相関する唯一の指標である(1)。予後の予測は困難であるが,NAFLD患者で組織学的にNASHと診断され,線維化の所見を認める場合は,肝硬変に進行する可能性が高くなる(2)。NAFLD患者の10%が20年の経過で肝硬変に進行すると推定されている(3)。一部の薬剤(例,細胞傷害性薬剤)と代謝性疾患だけなく,アルコールも非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の加速と関連する。そのため,線維化への進行が加速するリスクを考慮すると,少量の飲酒でも回避すべきである。合併症(例,静脈瘤出血)が発生しない限り,予後は良好であることが多い。

予後に関する参考文献

  1. 1.Angulo P, Kleiner DE, Dam-Larsen S, et al: Liver fibrosis, but no other histologic features, is associated with long-term outcomes of patients with nonalcoholic fatty liver disease.Gastroenterology 149(2):389-398, 2015.e10.doi: 10.1053/j.gastro.2015.04.043.

  2. 2.American Association for the Study of Liver Diseases: 2018 Practice Guidelines

  3. 3.Nasr P, Ignatova S, Kechagias E, et al: Natural history of nonalcoholic fatty liver disease: A prospective follow-up study with serial biopsies.Hepatol Commun 2(2);199-210, 2017.doi: 10.1002/hep4.1134.eCollection 2018 Feb.

NAFLDの治療

  • 原因の除去と危険因子の管理

広く認められている唯一の治療目標は,潜在的な原因と危険因子を排除することである。具体的な目標としては,薬物や毒性物質の使用中止,体重の減量,脂質異常症に対する治療高血糖に対する治療などが挙げられる。予備的なエビデンスから,チアゾリジン系薬剤とビタミンEがNASHにおける生化学的および組織学的異常の是正に役立つ可能性があるが,線維化は改善しないことが示唆されている。さらに,ビタミンEは糖尿病患者には禁忌であり,そのため有用性が限られている。その他の多くの治療法(例,ウルソデオキシコール酸,メトロニダゾール,メトホルミン,ベタイン,グルカゴン,グルタミン輸液)の確実な効果は証明されていない。

現在,ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-α(PPAR-α),グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)モジュレーター,FXR(farnesoid X receptor)リガンドなど,いくつかの分子経路を標的とするNASHの治療法が数多く登場してきている。それらの新しい治療法は,NASHの解消と既存の線維化の回復の両方に関して有望な結果を残している。いくつかの第III相臨床試験でさらなる研究が進められている。

NAFLDの要点

  • NAFLDには,脂肪肝と呼ばれる良性の病態と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が含まれる。

  • NASHは,アルコール性肝炎に類似した組織学的肝傷害を引き起こすが,アルコール乱用のない患者で発生し,しばしば肥満,2型糖尿病,または脂質異常症の併発がみられる。

  • 通常は無症状であるが,一部の患者では右上腹部の不快感,疲労,倦怠感がみられる。

  • 最終的には門脈圧亢進症および肝硬変の徴候がみられるようになり,これらが最初の症状となることもある。

  • アルコール依存症(確証のある病歴で)とB型およびC型肝炎(血清学的検査で)を除外し,肝生検を施行する。

  • 可能であれば,原因を排除し,危険因子を管理する。

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