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肝疾患における全身性の異常

執筆者:

Danielle Tholey

, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University

レビュー/改訂 2021年 1月
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肝疾患はしばしば全身性の症状や異常を引き起こす。

循環異常

進行した肝不全では,低血圧によって腎機能障害が生じることがある。進行した肝不全または 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む で生じる血流亢進(心拍出量および心拍数の増加)と低血圧の発生機序については,あまり解明されていないが,部分的には広範囲に及ぶ末梢血管拡張(splanchnic vasodilation)の代償機構である。肝硬変に寄与しうる因子としては,交感神経緊張の変化,一酸化窒素やその他の内因性血管拡張物質の産生,液性因子(例,グルカゴン)の活性促進などがある。

内分泌異常

肝硬変の患者では,耐糖能障害,高インスリン血症,インスリン抵抗性,および高グルカゴン血症がしばしば認められるが,インスリン値の上昇は分泌量の増加よりも肝臓での分解量の減少を反映したもので,高グルカゴン血症はその逆である。甲状腺機能検査での異常は,甲状腺の異常というより,むしろ肝臓での甲状腺ホルモンの処理の変化と血漿中の結合タンパク質の変化によるものと考えられる。

性的な影響がよくみられる。慢性肝疾患では月経および妊孕性が障害されるのが一般的である。肝硬変の男性患者(特にアルコール依存症患者)では,しばしば 性腺機能低下症 男性性腺機能低下症 性腺機能低下症は,関連する症候,精子産生の欠乏,またはそれらの両方を伴うテストステロンの欠乏と定義される。精巣の疾患に起因する場合(原発性性腺機能低下症)と,視床下部-下垂体系の疾患に起因する場合(続発性性腺機能低下症)がある。どちらも先天性の場合と,加齢,疾患,薬剤,その他の因子による後天性の場合がある。さらに,いくつかの先天的な酵素欠損症により標的器官で種々の程度のアンドロゲン抵抗性が惹起される。診断はホルモン濃度により確定される。... さらに読む (精巣萎縮,勃起障害,精子形成能低下を含む)と女性化(女性化乳房 女性化乳房 この写真には,男性患者の肥大した乳房組織が写っている。 女性化乳房とは,男性において乳腺組織が肥大する病態である。女性化乳房は,乳房の脂肪が増加するものの乳腺組織の肥大はみられない偽性女性化乳房と鑑別する必要がある。 乳児期および思春期にみられる男性乳房の腫大は正常である(生理的女性化乳房)。通常,腫大は一過性かつ両側性で,平滑でかつ硬く,乳輪下に対称性に分布する;乳房に圧痛を伴うこともある。思春期に発生する生理的女性化乳房は,通常は約... さらに読む 女性化乳房 ,女性体型)の両方がみられる。生化学的機序は十分には解明されていない。視床下部-下垂体系のゴナドトロピン分泌の予備能がしばしば低下している。循環血中のテストステロン濃度が低く,その原因は主に合成の減少であるが,末梢でのエストロゲンへの変換の増加も一因となっている。エストラジオール以外のエストロゲン濃度は通常上昇するが,エストロゲンと女性化との関係は複雑である。これらの変化は,他の病因による肝硬変より アルコール性肝疾患 アルコール性肝疾患 欧米諸国の大半ではアルコール摂取量が高くなっている。精神疾患の診断・統計マニュアル DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)によると,米国では任意の12カ月という期間で8... さらに読む アルコール性肝疾患 に多くみられることから,原因としては肝疾患よりアルコールが示唆される。実際,アルコール自体に精巣毒性があることを示唆するエビデンスがある。

血液学的異常

白血球減少 白血球減少症の概要 白血球減少症は,循環血中の白血球数が4000/μL(4 × 109/L)未満に減少することである。通常は循環血中の好中球数の減少を特徴とするが,リンパ球,単球,好酸球,または好塩基球の数の減少も一因となる場合がある。その結果,一般に免疫機能が低下することがある。... さらに読む 血小板減少 血小板疾患の概要 血小板は,凝固系で機能する細胞片である。トロンボポエチンは,その細胞質から血小板を産生・分離する巨核球を産生するよう骨髄を刺激することによって,循環血小板の数をコントロールすることに役立っている。トロンボポエチンは,肝臓において一定のペースで産生され,その循環血中濃度は,循環血小板が除去される程度のほか,おそらく骨髄の巨核球によって規定さ... さらに読む 血小板疾患の概要 は,進行した門脈圧亢進症において 脾腫 脾腫 脾腫とは,脾臓が異常に腫大した状態である。 ( 脾臓の概要も参照のこと。) 脾腫はほぼ常に,他の疾患による二次的なものである。脾腫の原因は無数にあるため,可能な分類法も多くある( 脾腫の一般的な原因の表を参照)。温帯気候で最も一般的な原因は,以下のものである: 骨髄増殖性腫瘍 リンパ増殖性疾患 さらに読む に伴ってしばしばみられる。

凝固異常もよくみられ,複雑である。肝細胞機能障害やビタミンKの吸収が不十分な場合,肝臓における凝固因子の合成が障害される。プロトロンビン時間(PT)の異常(肝細胞機能障害の重症度に依存する)は,フィトナジオン(ビタミンK1)5~10mgを1日1回,2~3日間静脈内投与することで改善することがある。血小板減少,播種性血管内凝固症候群,フィブリノーゲンの異常も多くの患者で凝固障害に寄与する。

腎臓および電解質の異常

腎臓および電解質の異常がよくみられ,特に腹水のある患者で多い。

低カリウム血症 低カリウム血症 低カリウム血症とは,体内の総カリウム貯蔵量の不足またはカリウムの細胞内への異常な移動によって血清カリウム濃度が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満となった状態である。最も頻度の高い原因は腎臓または消化管からの過剰喪失である。臨床的特徴としては筋力低下や多尿などがあり,重度の低カリウム血症では心臓の興奮性亢進が生じることがある。診断は血清学的検査による。治療はカリウム投与および原因の管理である。... さらに読む の原因としては,循環血中でアルドステロンが増加することによるカリウムの過剰な尿中排泄,カリウムと交換されるアンモニウムイオンの腎臓での貯留,続発性の尿細管性アシドーシス,利尿薬の使用などがある。管理としては,塩化カリウムを経口で補給するとともに,カリウム喪失性利尿薬の投与を控える。

低ナトリウム血症 低ナトリウム血症 低ナトリウム血症とは,血清ナトリウム濃度が136mEq/L(136mmol/L)未満に低下することであり,溶質に対する水分の過剰が原因である。一般的な原因としては,利尿薬の使用,下痢,心不全,肝疾患,腎疾患,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)などがある。特に急性低ナトリウム血症では,臨床症状は主として神経学的なものであり(浸透圧によって水分が脳細胞内に移動し,浮腫を引き起こすことが原因),頭痛,錯乱,および昏迷などがみられる;... さらに読む は,たとえ腎臓でナトリウムが十分に保持される状態でもよくみられ(腹水:病態生理 病態生理 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり( 特発性細菌性腹膜炎),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。... さらに読む を参照),通常は進行した肝細胞疾患で発生,是正は困難となる。全身性のナトリウム喪失より,相対的な水分過剰の方が原因となりやすく,またカリウムの枯渇も寄与することがある。水分制限とカリウムの補給が有用となりうるが,重症例や難治例では,自由水クリアランスを増加させる利尿薬を使用することができる。生理食塩水の静注は,著明な低ナトリウム血症により痙攣発作を生じた場合または全身性のナトリウム喪失が疑われる場合でのみ適応となり,体液貯留を伴う 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む 患者においては,腹水貯留を悪化させ,血清ナトリウム値の上昇も一過性に過ぎないため,控えるべきである。

進行した肝不全は酸塩基平衡の変化をもたらし,通常は 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシスは重炭酸イオン(HCO3)の一次性の増加で,二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の上昇を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは高値またはほぼ正常範囲内である。一般的な原因としては,遷延性の嘔吐,循環血液量減少,利尿薬の使用,低カリウム血症などがある。アルカローシスが持続するためには,腎臓からのHCO3の排泄障害が存在しなければならない。重症例の症状および徴候には,頭痛,嗜... さらに読む を引き起こす。肝臓での合成が障害されるため,血中尿素窒素(BUN)値はしばしば低値となるが, 消化管出血 消化管出血の概要 消化管出血は,口腔から肛門までのいずれの部位でも発生する可能性があり,顕性の場合と不顕性の場合がある。臨床像は出血部位および出血速度によって異なる。( 静脈瘤および 消化管の血管性病変も参照のこと。) 吐血は,鮮紅色の血液を吐出する症状であり,上部消化管出血を示唆し,その出血源は通常,... さらに読む では,腎障害よりむしろ腸管内の負荷が増大するため,BUN値は上昇する。消化管出血によりBUN値が上昇した場合は,クレアチニン値が正常であることで腎機能が正常であると確認できる傾向がある。

肝疾患における腎不全は以下を反映している場合がある:

  • 腎臓と肝臓の両方に直接影響を及ぼすまれな疾患(例,四塩化炭素中毒)

  • 腎血流の低下を伴う循環不全(急性尿細管壊死を伴うこともある)

  • しばしば肝腎症候群と呼ばれる機能的腎不全

肝腎症候群

この症候群は以下の要素で構成される:

  • 腎臓の構造的損傷を伴わない進行性の乏尿および高窒素血症

肝腎症候群は通常, 腹水 腹水 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり( 特発性細菌性腹膜炎),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。... さらに読む を伴うアルコール性肝炎または進行肝硬変の患者に起こる。発生機序は,内臓の動脈循環に生じた極度の血管拡張から,中心動脈の血管内容量の減少とそれに続く腎血管の収縮が生じることによると考えられている。それに引き続き,神経性または液性の機序により腎皮質血流の減少が起こり,結果として糸球体濾過量が低下する。通常は尿中ナトリウム濃度が低く,沈渣所見が良性であれば, 急性尿細管壊死 急性尿細管壊死(ATN) 急性尿細管壊死(ATN)は,急性尿細管細胞損傷および機能障害を特徴とする 腎障害である。一般的な原因は,腎血流低下を引き起こす低血圧または敗血症と腎毒性薬剤である。病態は,腎不全が発生しない限り無症候性である。低血圧,重症敗血症,または薬物曝露後に高窒素血症が出現した場合に本疾患を疑い,臨床検査値と体液量増加に対する反応によって腎前性の高窒素血症と鑑別する。治療は支持療法による。... さらに読む 急性尿細管壊死(ATN) と鑑別できるが,腎前性高窒素血症との鑑別はより難しく,判断が難しい症例では水分負荷に対する反応性を評価するべきである。

肝腎症候群が一旦成立してしまうと,腎不全は通常急速に進行し,致死的となるが(1型肝腎症候群),その他の例ではさほど重症ではなく,より軽度で安定した腎機能不全となる(2型)。

血管収縮薬(典型的にはミドドリン,オクトレオチド,テルリプレシン)と血漿増量薬(一般的にはアルブミン)の併用療法が効果的となりうる。難治例ではノルアドレナリンの持続静注で使用することができ,尿量および平均動脈圧に応じて用量を調節する。

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