(肝炎の原因 肝炎の原因 肝炎とは,びまん性または斑状の壊死を特徴とする肝臓の炎症である。 肝炎には急性の場合と慢性(通常は6カ月以上続く場合と定義される)の場合がある。 急性ウイルス性肝炎は,ほとんどの症例で自然に消失するが, 慢性肝炎に進行する場合もある。 肝炎の一般的な原因としては以下のものがある:... さらに読む および 新生児B型肝炎ウイルス感染症 新生児B型肝炎ウイルス(HBV)感染症 新生児B型肝炎ウイルス感染症は通常,分娩時の感染によって発生する。通常は無症状であるが,小児期後期または成人期には慢性の不顕性疾患を引き起こすことがある。症候性感染では,黄疸,嗜眠,発育不良,腹部膨隆,および粘土色の便がみられる。診断は血清学的検査による。まれに重症の場合,急性肝不全を起こして,肝移植が必要となることがある。それほど重症でない場合は対症的に治療する。能動および受動免疫が垂直感染の予防に役立つ。... さらに読む も参照のこと。)
急性ウイルス性肝炎は,様々な原因で発生する全世界に分布する一般的な疾患であり,病型ごとに臨床的,生化学的,形態学的特徴を共有する。急性ウイルス性肝炎という用語は,いずれかの肝炎ウイルスによる肝臓の感染症を指す場合が多い。それ以外のウイルス(例, エプスタイン-バーウイルス 伝染性単核球症 伝染性単核球症は,エプスタイン-バーウイルス(EBV,ヒトヘルペスウイルス4型)により引き起こされ,疲労,発熱,咽頭炎,およびリンパ節腫脹を特徴とする。疲労は数週間から数カ月間続くことがある。気道閉塞,脾破裂,および神経症候群などの重症合併症がときに起こる。診断は臨床的に,またはEBVの血清学的検査により行う。治療は支持療法による。 EBVは5歳未満の50%の小児が感染するヘルペスウイルスである。成人は90%以上がEBVに対して血清反応... さらに読む , 黄熱ウイルス 黄熱 黄熱は,南米の熱帯地域およびサハラ以南アフリカの風土病で, 蚊を媒介とするフラビウイルス感染症である。症状としては,突然発症する発熱,相対的徐脈,および頭痛のほか,重症例では黄疸,出血,多臓器不全などがみられる。診断はウイルス培養,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査,および血清学的検査による。治療は支持療法による。予防にはワクチン接種および蚊の駆除を行う。 都市型黄熱では,約2週間前にウイルス血症のヒトを吸血して感染したネッ... さらに読む , サイトメガロウイルス サイトメガロウイルス(CMV)感染症 サイトメガロウイルス(CMV,ヒトヘルペスウイルス5型)は,重症度に大きな幅のある感染症を引き起こす。伝染性単核球症に類似するが重度の咽頭炎を欠いた症候群がよくみられる。HIV感染患者,臓器移植レシピエント,およびその他の易感染性患者において,網膜炎など重度の局所疾患が生じうる。新生児および易感染性患者では,重度の全身性疾患が発生することがある。臨床検査による診断は重症例において役に立ち,培養,血清学的検査,生検,抗原または核酸の検出な... さらに読む )も急性ウイルス性肝炎を引き起こす可能性があるが,あまり一般的ではない。
急性ウイルス性肝炎の病因
おそらくは,まだ同定されていない他のウイルスも急性ウイルス性肝炎を引き起こすと考えられる。
急性ウイルス性肝炎の症状と徴候
急性肝炎の臨床像にはウイルスに特異的なものもあるが(個々の肝炎ウイルスに関する考察を参照),一般に急性感染は,以下に示す予測可能な段階を経て発生する傾向がある:
前駆期(黄疸前期):非特異的な症状がみられ,具体的には著明な食欲不振,倦怠感,悪心および嘔吐などがあり,タバコをまずく感じるようになり(喫煙者),しばしば発熱や右上腹部痛もみられる。蕁麻疹と関節痛がときにみられ,特にHBV感染症で多い。
黄疸期:3~10日後に尿が暗色になり,続いて 黄疸 黄疸 黄疸とは,高ビリルビン血症によって皮膚および粘膜が黄色化した状態である。ビリルビン値が約2~3mg/dL(34~51μmol/L)になると,肉眼的に黄疸が明らかとなる。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) ビリルビンの大半は,ヘモグロビンが非抱合型ビリルビン(と他の物質)に分解される際に生成される。非抱合型ビリルビンは,血中でアルブミンと結合して肝臓に輸送され,肝細胞に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受け... さらに読む が起こる。全身症状はしばしば消退し,黄疸が悪化するにもかかわらず,患者は気分がよくなる。肝臓は通常,腫大して圧痛がみられるが,辺縁は軟らかく滑らかなままである。15~20%の患者で軽度の脾腫が生じる。黄疸は通常1~2週間以内に最も顕著となる。
回復期:この2~4週間の期間で黄疸は消失する。
通常,食欲は発症から1週間後には元に戻る。急性ウイルス性肝炎は通常,発症から4~8週間後に自然に消失する。
無黄疸性肝炎(anicteric hepatitis)は,HCV感染症の患者やHAV感染症の小児では黄疸を伴う肝炎よりも多くみられる。典型的には軽微なインフルエンザ様疾患として発症する。
再発性の肝炎は少数の患者にみられ,回復期の症状再発が特徴である。
黄疸期には胆汁うっ滞の症状が生じることがあるが(胆汁うっ滞性肝炎と呼ばれる),通常は消失する。それらが持続すると,全身的に炎症が治まっているにもかかわらず,黄疸の長期化,アルカリホスファターゼ値の上昇,およびそう痒が引き起こされる。
急性ウイルス性肝炎の診断
肝機能検査(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[AST]値とアラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT]値がアルカリホスファターゼ値と不釣り合いに上昇し,通常は高ビリルビン血症を伴う)
ウイルスの血清学的検査
プロトロンビン時間/国際標準化比(PT/INR)の測定
急性肝炎の初期診断
急性肝炎は,第一に,同様の症状を引き起こす他の疾患と鑑別する必要がある。前駆期には,肝炎が様々な非特異的ウイルス性疾患と類似するため,診断は困難である。危険因子から肝炎が疑われる黄疸のない患者には,まずアミノトランスフェラーゼ,ビリルビン,およびアルカリホスファターゼを含めた肝機能検査を行う。急性肝炎は,黄疸期に明らかになることが多いため, 黄疸 黄疸 黄疸とは,高ビリルビン血症によって皮膚および粘膜が黄色化した状態である。ビリルビン値が約2~3mg/dL(34~51μmol/L)になると,肉眼的に黄疸が明らかとなる。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) ビリルビンの大半は,ヘモグロビンが非抱合型ビリルビン(と他の物質)に分解される際に生成される。非抱合型ビリルビンは,血中でアルブミンと結合して肝臓に輸送され,肝細胞に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受け... さらに読む を引き起こす他の疾患と鑑別する必要がある(急性ウイルス性肝炎に対する診断アプローチの簡略図 急性ウイルス性肝炎に対する診断アプローチの簡略図 の図を参照)。
急性肝炎は通常,黄疸を引き起こす他の原因と以下の所見により鑑別できる:
ASTおよびALTの著明な上昇:典型的には400IU/L[6.68µkat/L]以上
典型的にはALTがASTより高くなるが,絶対値と臨床的な重症度との相関は弱い。測定値は前駆期の早い段階で上昇し,黄疸が最も強くなる前に最高値を示し,回復期にはゆっくりと低下していく。通常は尿中ビリルビンが黄疸に先行する。急性肝炎における高ビリルビン血症の重症度は様々で,分画に臨床的な価値はない。アルカリホスファターゼ値は,通常は中等度に上昇するのみであり,著明な上昇は肝外胆汁うっ滞を示唆し,速やかに画像検査(例,超音波検査)を施行するべきである。
通常,肝生検は診断が不確かな場合を除いて必要ない。
臨床検査結果から急性肝炎が示唆される場合,特にALTおよびASTが1000IU/L(16.7µkat/L)を超える場合には,肝機能を評価するためにPT/INRを測定する。
門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症は,肝疾患患者に発生することがある精神神経症状の症候群である。ほとんどの場合,門脈大循環シャントが形成された患者において,腸管内タンパク質の増加または急性の代謝ストレス(例,消化管出血,感染,電解質異常)の結果として発生する。主に精神神経症状がみられる(例,錯乱,羽ばたき振戦,昏睡)。診断は臨床所見に基づく。治療法は通常,原因となっている急性の病態の是正,ラクツロースの経口投与,ならびにリファキシミンなど非吸収性抗菌薬の... さらに読む ,出血性素因,またはINR延長の発生は 急性肝不全 急性肝不全 急性肝不全は,薬物および肝炎ウイルスによって引き起こされる場合が最も多い。主な臨床像は,黄疸,凝固障害,および脳症である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法が中心であるが,ときに肝移植および/または特異的な治療(例,アセトアミノフェン中毒に対するN-アセチルシステイン)も行う。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) 肝不全には,いくつかの分類法があるが,普遍的に受け入れられているものはない(... さらに読む を示唆し, 劇症肝炎 劇症肝炎 劇症肝炎は,肝実質の急速(通常は数日ないし数週間以内)かつ広範な壊死と肝臓の縮小(急性黄色肝萎縮症)を特徴とするまれな症候群であり,通常は特定の肝炎ウイルスへの感染,アルコール性肝炎,または薬剤性肝障害(DILI)の後にみられる。 ( 肝疾患を有する患者の評価と 急性ウイルス性肝炎の概要も参照のこと。) B型肝炎ウイルスはときに劇症肝炎の原因とされるが,B型劇症肝炎症例の最大50%では,D型肝炎ウイルスの同時感染がみられる。A型肝炎ウイ... さらに読む の可能性がある。
急性肝炎が疑われる場合は,続いて原因の同定に注力する。薬剤性または中毒性肝炎では曝露歴が唯一の手がかりとなりうる。病歴聴取により,ウイルス性肝炎の危険因子も明らかにすべきである。
前駆期にみられる咽頭痛とびまん性のリンパ節腫脹は,ウイルス性肝炎よりも,むしろ伝染性単核球症を示唆する。
急性ウイルス性肝炎に対する診断アプローチの簡略図
*A型肝炎(A型肝炎の血清学的検査 A型肝炎の血清学的検査 の表を参照),B型肝炎(B型肝炎の血清学的検査 B型肝炎の血清学的検査* の表を参照),およびC型肝炎(C型肝炎の血清学的検査 C型肝炎の血清学的検査 の表を参照)について追加の臨床検査を行う。 ALT = アラニンアミノトランスフェラーゼ;HCV抗体 = C型肝炎ウイルスに対する抗体;AST = アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;HBs抗原 = B型肝炎表面抗原;IgM-HAV抗体 = A型肝炎ウイルスに対するIgM抗体。 |
血清学的検査
急性ウイルス性肝炎を示唆する所見がみられた患者では,次の検査によってA型,B型,およびC型肝炎ウイルスのスクリーニングを行う:
HAVに対するIgM抗体(IgM-HAV抗体)
B型肝炎表面抗原(HBs抗原)
B型肝炎ウイルスコアに対するIgM抗体(IgM-HBc抗体)
C型肝炎ウイルスに対する抗体(HCV抗体)
HCV-RNA(C型肝炎ウイルスRNA)PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)
いずれかが陽性の場合は,急性感染を過去の感染または慢性感染と鑑別するために,さらなる血清学的検査が必要になることがある(A型肝炎の血清学的検査 A型肝炎の血清学的検査 , B型肝炎の血清学的検査 B型肝炎の血清学的検査* ,および C型肝炎の血清学的検査 C型肝炎の血清学的検査 の各表を参照)。
血清学的検査でHBV感染症が重症であることが確認された場合は,HDV抗体を測定する。
患者が最近流行地域に旅行していた場合や免疫抑制の状態にある場合は,検査が可能なら,HEVに対するIgM抗体(IgM-HEV抗体)を測定すべきである。
生検
生検は通常必要ないが,施行した場合には,ウイルスの種類にかかわらず,以下に示す類似した病理組織学的所見を認めるのが通常である:
斑状の細胞脱落
好酸性肝細胞壊死
炎症性単核細胞浸潤
再生の組織学的所見
細網線維構造の温存
HBV感染は,ときにすりガラス様肝細胞(HBs抗原で充満された細胞質による)の存在に基づき,ウイルス要素に対する特殊免疫染色を用いて診断できる。しかしながら,これらの所見は急性HBV感染ではまれであり,慢性HBV感染でより多くみられる。
肝生検は急性肝炎の予後予測に参考となるが,そのためだけに生検を施行することはまれである。小葉全体にわたる広範な壊死(架橋壊死)が起こらない限り,完全な組織学的回復が得られる。架橋壊死が起きた患者も大半が完全に回復する。しかしながら, 慢性肝炎 慢性肝炎の概要 慢性肝炎は肝炎が6カ月以上続く場合をいう。一般的な原因としては,B型およびC型肝炎ウイルス,非アルコール性脂肪肝炎(NASH),アルコール性肝疾患,自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎)などがある。多くの患者では急性肝炎の病歴がなく,最初の徴候は無症候性のアミノトランスフェラーゼ高値である。受診時から肝硬変やその合併症(例,門脈圧亢進症)がみられる場合もある。確定診断とグレードおよび病期の判定のために,ときに生検が必要となる。治療は合併症と... さらに読む に進行する症例もある。
急性ウイルス性肝炎の治療
支持療法
急性ウイルス性肝炎を軽減する治療法はない。アルコールは肝傷害を悪化させることから,飲酒は控えるべきである。一般的に指示される床上安静を含めた食事や活動の制限には,科学的根拠がない。
胆汁うっ滞性肝炎では,コレスチラミンを8g,経口,1日1回または1日2回で投与することで,そう痒を軽減することができる。
ウイルス性肝炎は,地域または州の保健局に報告すべきである。
急性ウイルス性肝炎の予防
治療の効果が限られているため,ウイルス性肝炎の予防は非常に重要である。
一般的な対策
個人の衛生状態を良好にすることで,HAVやHEVなどで起こりうる伝播,特に糞口感染を防ぐことができる。
HBVおよびHCVの急性感染症患者の血液やその他の体液(例,唾液,精液),およびHAV感染患者の便は感染性があると考える。バリアによる感染防御が推奨されるが,患者の隔離はHAVの伝播予防にほとんど効果がなく,HBVまたはHCVの感染に対して完全に無効である。
輸血後感染は,不要な輸血を避けることや,全てのドナーについてB型およびC型肝炎のスクリーニングを行うことによって,最小限に抑えることができる。スクリーニングの実施により,輸血後B型およびC型肝炎の発生率は低下しており,現在の米国では極めてまれとなっている。
免疫学的予防
免疫学的な予防法としては,ワクチン接種による能動免疫と受動免疫が可能である。
米国では, A型肝炎 A型肝炎(HepA)ワクチン 2つのA型肝炎ワクチンは,どちらも A型肝炎に対する長期の防御効果をもたらす。 詳細については,Hepatitis A Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine RecommendationsおよびCenters for Disease Control and Prevention (CDC): Hepatitis... さらに読む および B型肝炎 B型肝炎(HepB)ワクチン B型肝炎ワクチンは,所定回数の接種を完了した場合,感染予防または B型肝炎の発症予防において80~100%の効果を示す。 詳細については,Hepatitis B Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine RecommendationsおよびCenters for Disease Control and Prevention... さらに読む に対するワクチンが入手可能である。
米国では,全ての小児と高リスクの成人を対象とするA型およびB型肝炎の定期予防接種が推奨されている(Adult Immunization Scheduleを参照)。
E型肝炎に対するワクチンは,米国では使用できないが,中国では使用可能である。
標準的な免疫グロブリン製剤を使用することでHAV感染症を予防または軽減することができ,患者の免疫を獲得していない家族および濃厚接触者に使用すべきである。B型肝炎免疫グロブリン(HBIG)は,おそらく感染を予防することはできないが,臨床的な発症を予防または軽減することができる。
HCVまたはHDVの免疫学的予防に使用できる製品は存在しない。しかしながら,HBV感染を予防すれば,HDV感染を予防できる。HCVでは,ゲノムが変化しやすい性質がワクチン開発の妨げになっている。
急性ウイルス性肝炎の要点
感染経路は,A型肝炎では糞口感染,B型およびC型肝炎では消化管以外すなわち血液を介した感染である。
B型およびC型肝炎では,A型肝炎とは異なり,慢性肝炎および肝癌の発生リスクが高くなる。
急性ウイルス性肝炎の患者は,黄疸を伴わなかったり,さらには全く症状がみられない場合もある。
臨床所見が急性ウイルス性肝炎と一致し,AST値とALT値がアルカリホスファターゼ値と不釣り合いに高い場合は,ウイルス血清学的検査(IgM-HAV抗体,HBs抗原,HCV抗体)を施行する。
支持療法を行う。
米国では,全ての小児と高リスクの成人を対象とするA型およびB型肝炎の定期予防接種が推奨されている。