アカラシア

(噴門痙攣,食道無蠕動,巨大食道症)

執筆者:Kristle Lee Lynch, MD, Perelman School of Medicine at The University of Pennsylvania
レビュー/改訂 2020年 9月
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アカラシアは,食道の蠕動障害と嚥下時の下部食道括約筋の弛緩不全を特徴とする神経原性食道運動障害である。症状は緩徐に進行する嚥下困難(通常は液体と固形物の両方)と未消化の食物の逆流である。評価としては,典型的には内圧検査,食道造影,内視鏡検査などを行う。治療法としては,拡張術,ボツリヌス毒素注射,外科的筋層切開術,経口内視鏡的筋層切開術などがある。

食道疾患および嚥下障害の概要も参照のこと。)

アカラシアは,食道の筋層間神経叢の神経節細胞消失が原因であり,それによって食道筋の除神経がもたらされると考えられている。除神経の病因は不明であるが,ウイルス性および自己免疫性の原因が疑われ,また,特定の腫瘍は直接的な閉塞または腫瘍随伴症の過程としてアカラシアを引き起こすことがある。シャーガス病は,自律神経節を破壊する疾患であり,アカラシアを引き起こすことがある。

下部食道括約筋(LES)の圧上昇により,食道の続発的な拡張を伴う閉塞が起こる。未消化の飲食物の食道内停滞がよくみられる。

アカラシアの症状と徴候

アカラシアは全ての年齢で起こるが,通常は20~60歳の間に発生する。発症は潜行性で,数カ月または数年をかけて徐々に進行する。主症状は固形物と液体両方の嚥下困難である。未消化の食物の夜間逆流は,約33%の患者で起こり,咳嗽および誤嚥を引き起こすことがある。胸痛はそれほど一般的ではないが,嚥下時または自発的に起こることがある。軽度から中等度の体重減少が起こるが,体重減少が著明な場合,特に嚥下困難の症状が急速に進行した高齢患者では,食道胃接合部の腫瘍に続発するアカラシアを考慮すべきである。

アカラシアの診断

  • 食道内圧検査

  • ときに食道造影

  • ときに上部消化管内視鏡検査

(American College of Gastroenterologyのアカラシアの診断および治療に関する診療ガイドライン も参照のこと。)

食道内圧検査はアカラシアの望ましい診断検査法である。この検査では,積算弛緩圧(integrated relaxation pressure)の中央値が15mmHg以上のLES弛緩不全と100% failed peristalsis(完全な蠕動の消失)が認められる。

食道造影は検査プロセスの最初の段階でしばしば施行される相補的な検査法であり,嚥下時の進行する蠕動収縮の消失を認めることがある。典型的には食道は拡張し,しばしば巨大化するが,LESの部分ではくちばし状に狭小化する。

食道鏡検査がしばしば施行される。所見としては,上部食道の拡張や粘膜における慢性のうっ滞性変化などがあるが,閉塞性病変は認められない。食道鏡が胃に侵入する際に古典的な「ポップ(急にぬける感触)」が感じられることが多い。

アカラシアは消化性狭窄と鑑別する必要があり(特に全身性強皮症患者),これらの患者では食道内圧検査で無蠕動も認められることがある。全身性強皮症は通常,レイノー現象の既往およびLES圧の低下に起因する胃食道逆流症(GERD)の症状を伴う。

アカラシアに似た症状(pseudoachalasia)が食道胃接合部のがんに起因している場合もあり,食道胃接合部癌は胸部および腹部CTか,超音波内視鏡検査と生検により診断が可能である。

アカラシアの予後

食道の拡張および蛇行は予後不良の指標である。誤嚥は後期の合併症である。夜間の逆流および咳嗽は誤嚥を示唆する。誤嚥に続発する肺合併症は管理が困難である。現在では,アカラシア患者で食道癌の発生率が上昇しているとは考えられていない。

アカラシアの治療

  • LESのバルーン拡張術

  • LESの外科的筋層切開術

  • 経口内視鏡的筋層切開術

  • ときにボツリヌス毒素注射

蠕動を回復させる治療法はなく,アカラシアの治療ではLES圧の低下が目的となる。

LESのバルーン拡張術と外科的または経口内視鏡的筋層切開術は,同程度の効果があるとみられている。アカラシア患者を対象とした2016年のランダム化比較試験では,5年間の追跡により,バルーン拡張術に腹腔鏡下食道胃接合部筋層切開術(Heller myotomy)と同等の効力が示された(1)。それらのデータをアカラシアの亜型に応じて検討した事後解析では,II型アカラシア(嚥下により食道全体の圧が上昇する)ではバルーン拡張術の方が,III型アカラシア(spastic achalasia;嚥下により内腔が閉塞する収縮がしばしば生じる)では腹腔鏡下食道胃接合部筋層切開術の方が成績が良好であることが明らかになった。I型アカラシア(古典的アカラシア;嚥下により食道内圧が変化しない)の患者では,どちらの処置も成績は同程度であった(1, 2)。これらの術式で最も懸念すべき合併症は,食道穿孔である。穿孔発生率は医療機関毎に異なるが,バルーン拡張術で0~14%,腹腔鏡下食道胃接合部筋層切開術で0~4.6%である(3)。その他の最近の研究では,経口内視鏡的筋層切開術は短期および長期成績が良好であることが示されている(4)。しかしながら,術後の胃食道逆流症の発生率は,腹腔鏡下食道胃接合部筋層切開術を受ける患者よりも経口内視鏡的筋層切開術を受ける患者の方が高い。したがって,理想的な治療選択肢はアカラシアの亜型,手術リスク,および考えられる有害作用に基づく。

これらの治療選択肢の適応がない患者には,下部食道のコリン作動性神経に対してA型ボツリヌス毒素のLES内直接内視鏡注射による化学的除神経を試みてもよい。70~80%の患者で臨床的改善が認められ,その効果は6カ月から1年以上持続する。

硝酸薬やカルシウム拮抗薬などの薬剤が過去に使用されていたが,有効性は示されていない。

治療に関する参考文献

  1. 1.Moonen A, Annese V, Belmans A, et al: Long-term results of the European achalasia trial: A multicentre randomised controlled trial comparing pneumatic dilation versus laparoscopic Heller myotomy.Gut 65(5):732–739, 2016. doi: 10.1136/gutjnl-2015-310602

  2. 2.Pandolfino JE, Kwiatek MA, Nealis T, et al: Achalasia: A new clinically relevant classification by high-resolution manometry.Gastroenterology 135(5):1526–1533, 2008. doi: 10.1053/j.gastro.2008.07.022

  3. 3.Lynch KL, Pandolfino JE, Howden CW, et al: Major complications of pneumatic dilation and Heller myotomy for achalasia: Single-center experience and systematic review of the literature.Am J Gastroenterol 107(12):1817–1825, 2012.doi: 10.1038/ajg.2012.332

  4. 4.Rentein DV, Fuchs K-H, Fockens P, et al: Peroral endoscopic myotomy for the treatment of achalasia: An international prospective multicenter study.Gastroenterology 145(2):272–273, 2013.doi: 10.1053/j.gastro.2013.04.057

アカラシアの要点

  • 食道の筋層間神経叢の神経節細胞がウイルスまたは自己免疫誘発性に消失し,これにより食道蠕動が低下するとともに下部食道括約筋(LES)の弛緩が障害される。

  • 固形物と液体の両方の嚥下困難が徐々に出現し,約3分の1の患者で,夜間に未消化食物の逆流が起こる。

  • 食道内圧検査がアカラシアに対する望ましい検査法であり,完全な蠕動の消失とともに積算弛緩圧(integrated relaxation pressure)の上昇が認められる。

  • 食道造影では,嚥下時の進行する蠕動収縮の消失と,LESでのくちばし状の狭小化を伴う著明な食道拡張を認める。

  • 蠕動を回復させる治療法はなく,治療はLES圧(したがって閉塞)の低下を目的とする。

  • 治療は典型的にはバルーン拡張術またはLESの筋層切開術であり,これらの治療の適応がない患者にはA型ボツリヌス毒素注射を選択してもよい。

アカラシアについてのより詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American College of Gastroenterology: Practice guidelines on the diagnosis and management of achalasia

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