胃酸分泌の概要

執筆者:Nimish Vakil, MD, University of Wisconsin School of Medicine and Public Health
レビュー/改訂 2020年 1月
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    胃酸は胃の近位3分の2(胃体部)に存在する壁細胞から分泌される。胃酸は,pHをペプシンおよび胃リパーゼにとって至適な値にすること,ならびに膵の重炭酸塩分泌を刺激することによって消化を補助する。胃酸分泌は食物によって引き起こされ,食物について考えることや食物の匂い,味が,胃の遠位3分の1(前庭部)に存在するガストリン分泌G細胞に対する迷走神経刺激に影響を及ぼす。タンパク質が胃に到達することでガストリン分泌がさらに刺激される。循環血液中のガストリンは,胃体部に存在する腸クロム親和性細胞様細胞からのヒスタミン放出を誘発する。ヒスタミンはH2受容体を介して壁細胞を刺激する。壁細胞は酸を分泌し,結果として起こるpH低下によって前庭部D細胞からソマトスタチンが分泌され,これによりガストリン放出が阻害される(ネガティブフィードバック制御)。

    胃酸分泌は出生時にみられ,2歳までに成人レベル(体重ベース)に達する。慢性胃炎を起こした高齢患者では胃酸分泌量の減少が認められるが,それ以外の場合には胃酸分泌量は生涯を通して維持される。

    正常な状態では,消化管粘膜は異なるいくつかの機序によって保護されている:

    • 粘膜から分泌される粘液およびHCO3によって,胃内腔(低pH)から粘膜(中性)にかけてpH勾配が形成される。粘液は胃酸およびペプシンの拡散に対する障壁として機能する。

    • 上皮細胞が膜輸送系を介して過剰な水素イオン(H+)を除去するほか,細胞間で密着結合(タイトジャンクション)を形成し,それによりH+の逆拡散を防いでいる。

    • 粘膜血流により,上皮層を越えて拡散した過剰な酸が除去される。

    いくつかの成長因子(例,上皮成長因子,インスリン様成長因子I)とプロスタグランジン類に,粘膜の修復および完全性維持との関連が報告されている。

    こうした粘膜防御機構を妨げる因子(特に非ステロイド系抗炎症薬[NSAID]とHelicobacter pylori感染症)は,胃炎および消化性潰瘍の要因となる。

    NSAIDは,粘膜炎症および潰瘍形成(ときに消化管出血を伴う)を局所的および全身的の両面で促進する。NSAIDは,酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害を介したプロスタグランジン産生阻害によって,胃血流量の減少,粘液およびHCO3分泌の低下,細胞修復および複製の低下を引き起こす。また,NSAIDは弱酸であり,胃液pHではイオン化しないため,粘液バリアを越えて胃上皮細胞に自由に拡散し,そこでH+イオンが遊離される結果,細胞傷害がもたらされる。胃のプロスタグランジン産生にはCOX-1アイソフォームが関与しているため,COX-2を選択的に阻害するNSAIDは他のNSAIDよりも胃の有害作用が少ない。

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