(胃酸分泌の概要 胃酸分泌の概要 胃酸は胃の近位3分の2(胃体部)に存在する壁細胞から分泌される。胃酸は,pHをペプシンおよび胃リパーゼにとって至適な値にすること,ならびに膵の重炭酸塩分泌を刺激することによって消化を補助する。胃酸分泌は食物によって引き起こされ,食物について考えることや食物の匂い,味が,胃の遠位3分の1(前庭部)に存在するガストリン分泌G細胞に対する迷走神... さらに読む および 胃炎の概要 胃炎の概要 胃炎とは胃粘膜の炎症で,感染(Helicobacter pylori),薬物(非ステロイド系抗炎症薬[NSAID],アルコール),ストレス,自己免疫疾患(萎縮性胃炎)など,いくつかの病態によって引き起こされる。多くの症例は無症状であるが,ときに 消化不良や 消化管出血が起こる。診断は内視鏡検査による。治療は原因に対して行うが,しばしば胃酸分泌抑制薬とHelicobacter... さらに読む も参照のこと。)
びらん性胃炎の一般的な原因としては以下のものがある:
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)
アルコール
ストレス
比較的まれな原因としては以下のものがある:
放射線
ウイルス感染症(例,サイトメガロウイルス)
血管損傷
直接的外傷(例,経鼻胃管)
表在性びらんおよび点状粘膜病変が生じる。これらは最初の傷害から早くも12時間後には発生する可能性がある。重症例または未治療例では,深いびらん,潰瘍,ときに穿孔が生じることがある。病変は典型的には胃体部に生じるが,前庭部も侵されることがある。
びらん性胃炎の一種である急性ストレス性胃炎は,重症(critically ill)患者の約5%で発生する。発生率は,ICU滞在期間および患者が経腸栄養を受けていない期間とともに上昇する。発生機序には,消化管粘膜の血流低下によってもたらされる粘膜防御の機能障害が関与している可能性が高い。頭部損傷または熱傷患者では胃酸分泌亢進も認められることがある。
びらん性胃炎の症状と徴候
軽度のびらん性胃炎患者はしばしば無症状であるが,一部の患者は消化不良,悪心,嘔吐を訴える。吐血,黒色便,または経鼻胃管吸引物中の血液が最初の徴候となる場合が多く,通常は誘因となった事象から2~5日以内にみられる。出血は通常,軽度から中等度であるが,深い潰瘍がある場合,特に急性ストレス性胃炎では,大出血が起こることがある。
びらん性胃炎の診断
急性および慢性びらん性胃炎の診断は内視鏡検査による。
びらん性胃炎の治療
出血に対して:内視鏡的止血術
胃酸分泌抑制として:プロトンポンプ阻害薬またはH2受容体拮抗薬
重度の胃炎では,出血の管理を必要に応じて輸液および輸血によって行う。内視鏡的止血術を試みるべきであり,万一の場合は外科手術(胃全摘術)に切り替える。胃には多くの側副血管が血液を供給しているため,血管造影によって重度の胃出血が止まる可能性は低い。胃酸分泌抑制薬がまだ投与されていない場合は投与を開始すべきである。
軽度の胃炎には,さらなる損傷を抑制し,治癒を促進することを目的とした,原因物質の除去と胃液酸度を低下させる薬剤( Professional.see page 胃酸過多に対する薬物治療 胃酸過多に対する薬物治療 酸度を低下させるための薬剤が, 消化性潰瘍, 胃食道逆流症(GERD),および様々な形態の 胃炎に使用される。一部の薬剤は, Helicobacter pylori感染症の治療レジメンで使用される。薬剤としては以下のものがある: プロトンポンプ阻害薬 H2受容体拮抗薬 制酸薬 プロスタグランジン類 さらに読む )の使用のみで十分な場合がある。
びらん性胃炎の予防
胃酸分泌抑制薬を用いた予防により,急性ストレス性胃炎の発生率を低下させることができる。しかしながら,予防が有益となる対象は主に一部の高リスクのICU患者であり,具体的には重度熱傷,中枢神経系外傷,凝固障害,敗血症,ショック,多発外傷,48時間を超える機械的人工換気,肝不全,腎不全,または多臓器不全がある患者や,消化性潰瘍または消化管出血の既往がある患者などである。
予防は,H2受容体拮抗薬の静注,プロトンポンプ阻害薬の投与,または制酸薬の経口投与による4.0を超える胃内pHの上昇で構成される。pHの反復測定および用量調節は必要ない。出血の発生率は早期経腸栄養によっても低下しうる。
単に非ステロイド系抗炎症薬を服用している患者には,潰瘍の既往がない限り,胃酸分泌抑制は推奨されない。