(肛門直腸疾患の評価 肛門直腸疾患の評価 肛門管は肛門縁から肛門直腸移行部(櫛状線,粘膜皮膚接合部,歯状線)までを指し,肛門直腸移行部には8~12の肛門陰窩と5~8の乳頭がある。肛門管は,肛門周囲の皮膚の延長である肛門上皮に裏打ちされている。肛門管および隣接した皮膚は体性感覚神経に支配され,痛覚刺激に対して感受性が高い。肛門管からの静脈還流は大静脈系を経由するが,肛門直腸移行部は... さらに読む も参照のこと。)
乳児では,それ以外は正常な状態で,直腸粘膜のみの一過性かつ軽度の脱出がしばしばみられる。成人では粘膜の脱出が持続し,進行性に悪化する場合もある。
完全直腸脱(procidentia)は,直腸壁の全層が完全に脱出した状態である。完全直腸脱の主因は不明である。ほとんどの患者は60歳以上の女性である。
直腸脱および完全直腸脱の症状と徴候
直腸脱および完全直腸脱の最も著明な症状は突出である。症状は怒責時,歩行中,または立位時にのみ起こる場合がある。下血が起きることがあり,失禁は頻繁に認められる。嵌頓または有意な脱出が起こらない限り,疼痛はまれである。
直腸脱および完全直腸脱の診断
臨床的評価
S状結腸鏡検査,大腸内視鏡検査,または下部消化管造影
脱出の全体的な程度を確認するために,患者が立位または蹲踞姿勢時および怒責時に検査すべきである。直腸脱は,全周性の粘膜ヒダの存在によって 痔核 痔核 痔核は,肛門管において直腸静脈叢の血管が拡張したものである。症状としては刺激感や出血などがある。血栓性痔核は通常,疼痛を伴う。診断は視診または肛門鏡検査による。治療は対症療法,またはゴム輪結紮術,硬化剤注入療法,赤外線光凝固術,あるいはときに手術による。 ( 肛門直腸疾患の評価も参照のこと。) 肛門直腸領域の静脈内の圧力上昇により痔核が生じる。この圧は,妊娠,重い物を頻繁に持ち上げること,または排便時のいきみの繰返し(例,便秘による)が... さらに読む と鑑別できる。肛門括約筋の緊張は通常低下している。他の疾患を検索するために,S状結腸鏡検査,大腸内視鏡検査,または下部消化管造影を行う必要がある。原発性神経疾患(例,脊髄腫瘍)を考慮すべきである。
直腸脱および完全直腸脱の治療
いきみの原因を除去する
乳児や小児では,ときに殿部をひもで固定する
成人では,通常は手術
乳児および小児では,保存的治療が最善である。いきみの原因を除去すべきである。排便時以外に殿部をテープでしっかりと固定することによって,通常,直腸脱の自然消退が促進される。
成人の単純な粘膜脱では,余分の粘膜を切除してもよい。
完全直腸脱に対して,開腹に耐えられる患者では,直腸を動かして仙骨に固定する直腸固定術が必要になることがある。開腹に耐えられない患者では,会陰手術(例,Delorme法またはAltemeier法)を考慮してもよい。(American Society of Colon and Rectal Surgeonの直腸脱の治療に関する臨床ガイドラインも参照のこと。)
直腸脱および完全直腸脱についてのより詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Society of Colon and Rectal Surgeons: Clinical practice guidelines for the treatment of rectal prolapse