静脈瘤

執筆者:Parswa Ansari, MD, Hofstra Northwell-Lenox Hill Hospital, New York
レビュー/改訂 2019年 10月
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静脈瘤は,門脈圧亢進症に起因する下部食道または近位胃の静脈拡張で,門脈圧亢進症の原因は典型的には肝硬変である。大出血することがあるが,他には何も症状を引き起こさない。診断は上部消化管内視鏡検査による。治療は主に内視鏡的結紮術およびオクトレオチド静脈内投与による。ときに経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術を行う必要がある。

消化管出血の概要も参照のこと。)

門脈圧亢進症は,いくつかの病態によってもたらされるが,主な原因は肝硬変である。門脈圧がかなりの期間にわたり下大静脈圧よりも高ければ,静脈側副血行路が発達する。最も危険な側副血行路は下部食道および胃底部に発達し,うっ血した蛇行性の粘膜下血管をもたらし,静脈瘤として知られる。これらの静脈瘤はある程度門脈圧亢進症を減圧するが,破裂する可能性があり,消化管の大出血を引き起こす。静脈瘤破裂の誘因は不明であるが,門脈圧/全身血圧較差が12mmHgを超えない限り,出血が起こることはほとんどない。肝疾患による凝固障害は出血を促進しうる。

パール&ピットフォール

  • 静脈瘤患者に対する経鼻胃管挿入が出血を誘発することは証明されていない。

静脈瘤の症状と徴候

典型的には無痛性の上部消化管出血で突然発症し,しばしば大出血となる。ショックの徴候がみられることもある。出血は通常,下部食道で,それより頻度は低いが胃底部でも発生する。胃静脈瘤による出血も急性のことがあるが,亜急性または慢性の方が多い。

肝機能障害患者では,消化管内への出血が門脈大循環性脳症を誘発することがある。

静脈瘤の診断

  • 内視鏡検査

  • 凝固障害の評価

(American Society for Gastrointestinal Endoscopyによる静脈瘤出血の管理における内視鏡検査の役割に関するガイドラインも参照のこと。)

食道静脈瘤および胃静脈瘤はいずれも内視鏡検査が診断に最適であり,この検査で出血のリスクが高い静脈瘤(例,赤い斑点がある)も同定されることがある。また内視鏡検査は,静脈瘤の存在が既知の患者でも,急性出血の他の原因(例,消化性潰瘍)を除外するために極めて重要であり,静脈瘤の存在が既知で上部消化管出血を呈する患者のおそらく3分の1では,出血源は静脈瘤以外である。

静脈瘤は典型的には重大な肝疾患と関連しているため,凝固障害の可能性の評価が重要である。臨床検査としては,血小板数を含む血算,プロトロンビン時間(PT),部分トロンボプラスチン時間(PTT),肝機能検査などがある。出血患者では,6単位の濃厚赤血球について血液型検査および交差適合試験を施行すべきである。

静脈瘤の予後

約40%の患者で,静脈瘤出血は自然に止まる。死亡は過去には50%を上回っていたが,現在の管理によっても6週間死亡率は20%以上である。死亡率を左右するのは出血そのものではなく主に関連する肝疾患の重症度である。重症肝細胞障害(例,進行した肝硬変)患者では,出血はしばしば致死的であるが,肝予備能が良好な患者は通常回復する。

生存患者は静脈瘤出血再発のリスクが高く,典型的には1~2年以内の再発率は50~75%である。継続的な内視鏡的治療または薬物療法により,このリスクは有意に低下するが,長期死亡率に対する全体的効果はほんのわずかであるように思われ,これはおそらく基礎にある肝疾患が原因である。

静脈瘤の治療

  • 気道管理および輸液蘇生,さらに必要なら輸血

  • 内視鏡的結紮術(第2選択として硬化療法)

  • オクトレオチドの静注

  • 場合によっては経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術

循環血液量減少性および出血性ショックの管理としては,気道管理および輸液蘇生(fluid resuscitation)(必要であれば輸血を含む)を行う。凝固検査で異常所見(例,国際標準化比[INR]の有意な上昇)がみられる患者は,新鮮凍結血漿1~2単位で治療可能であるが,循環血液量減少のない患者に対する大量輸液は,静脈瘤からの出血を促進する場合があるため,慎重に行うべきである。既知の肝硬変患者で消化管出血を伴っている場合,細菌感染のリスクがあるため,ノルフロキサシンまたはセフトリアキソンによる抗菌薬の予防投与を行うべきである。

静脈瘤は内視鏡検査時に必ず診断されるため,最初の治療は内視鏡的治療である。静脈瘤の内視鏡的治療としては,硬化剤注入療法よりも内視鏡的結紮術の方が望ましい。同時に,オクトレオチド(ソマトスタチンも使用されることがあるが,オクトレオチドはソマトスタチンの合成アナログである)を静脈内投与すべきである。オクトレオチドは,内臓の血管拡張ホルモン(例,グルカゴン,血管作動性腸管ペプチド)の分泌を抑制することによって,内臓の血管抵抗を増加させる。常用量は,50µgの急速静注後に50µg/時での持続静注である。オクトレオチドは有害作用が少ないため,かつて使用されていたバソプレシンやテルリプレシンなどの薬剤よりも,オクトレオチドの方が望ましい。

これらの治療にもかかわらず,出血が持続または再発する場合には,門脈系から大静脈へ血流をシャントさせる緊急手術で門脈圧を低下させ,出血を減少させることができる。経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)が第1選択の緊急介入である。TIPSは侵襲的放射線手技で,ガイドワイヤーを大静脈から肝実質を経由して門脈循環に進める。得られた通路をバルーンカテーテルで拡張し,金属ステントを挿入し,門脈と肝静脈循環の間にバイパスを形成する。ステントの口径は非常に重要である。ステントが大きすぎると,肝臓から門脈血流が過剰に分流されることで,門脈大循環性脳症が生じる。ステントが小さすぎると,閉塞の可能性が高くなる。遠位脾腎静脈吻合術などの門脈下大静脈吻合術は,同様の機序で機能するが,より侵襲的であり直接的な死亡率もより高い。

出血静脈瘤に対するSB(Sengstaken-Blakemore)チューブまたはその改良品を用いた機械的圧迫は,かなりの頻度で合併症が発生するため,最初の管理法として選択してはならない。一方で,このような管を用いたタンポナーデによって,TIPSまたは外科手術による減圧まで生存を維持できる可能性もある。この管は,胃用と食道用の2つのバルーンが付いた軟性の経鼻胃管である。挿入後,胃バルーンを一定量の空気で膨らませ,バルーンが食道胃接合部にぴったり合うまでチューブを牽引する。出血のコントロールには,このバルーンで十分である場合も多いが,そうでない場合は,食道バルーンを25mmHgで膨らませる。この手技は患者にとって極めて不快で,食道穿孔および誤嚥を引き起こすことがあるため,気管挿管および静脈内鎮静法がしばしば推奨される。

肝移植も門脈圧を減圧しうるが,これはすでに移植リストに載っている患者に対してのみ現実的な選択肢である。

門脈圧亢進症に対する長期の内科的治療(β遮断薬および硝酸薬を使用する)については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。門脈大循環性脳症の治療が必要になることがある。

脾静脈血栓症(ときに膵炎の続発症)による胃静脈瘤出血を治療するために脾臓摘出を行う。

静脈瘤の要点

  • 静脈瘤は,肝硬変患者における消化管出血の主な原因であるが,唯一の原因ではない。

  • 出血エピソードによる死亡率の主な決定因子は,基礎にある肝疾患の重症度である。

  • 診断および治療を目的として内視鏡検査を施行し,結紮術または硬化療法が可能である。

  • 静脈瘤出血の1~2年以内での再発率は50~75%である。

静脈瘤についてのより詳細な情報

  1. The American Society for Gastrointestinal Endoscopy's guidelines on the role of endoscopy in the management of variceal hemorrhage

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