憩室とは,管腔臓器から突出した,粘膜に裏打ちされた袋状の構造である(憩室性疾患の定義 憩室性疾患の定義 憩室とは,管腔臓器から突出した袋状の粘膜構造である。 消化管の真性憩室は消化管壁の全層を備えている。 食道憩室および メッケル憩室は真性憩室である。 仮性憩室または偽憩室は,粘膜および粘膜下層が腸壁の筋層を越えて突出したものである。 大腸憩室は仮性憩室である。 英語では,単一の憩室はdiverticulum,複数の憩室はdiverticu... さらに読む も参照)。
憩室が胃に生じるのはまれであるが,十二指腸には一般集団の最大25%でみられる。十二指腸憩室の大半は単発性であり,ファーター乳頭(膨大部周囲)に隣接またはこれを含む十二指腸下行脚に生じる。小腸のそれ以外の部分(空腸および回腸)では,空腸憩室が最大5%の患者にみられ(大半が空腸に生じる),腸管運動障害のある患者でより多くみられる。 メッケル憩室 メッケル憩室 メッケル憩室は,真性憩室であり,消化管の先天異常として最も頻度が高く,一般集団の約2%にみられる。卵黄腸管の閉鎖が不完全であることにより生じる異常であり,回腸の腸間膜対側に生じた先天性の袋状構造で構成される。通常は回盲弁から100cm以内にあり,しばしば異所性の胃組織,膵組織,またはその両方を有する。症状がみられることはまれであるが,出血,腸閉塞,炎症( 憩室炎)などがみられる。診断は困難であり,しばしば核医学検査とバリウム検査を,とき... さらに読む は回腸中部から遠位部に生じる。
胃および小腸にできる憩室の大半は無症候性であり,偶然に発見される。憩室の合併症としては, 出血 消化管出血の概要 消化管出血は,口腔から肛門までのいずれの部位でも発生する可能性があり,顕性の場合と不顕性の場合がある。臨床像は出血部位および出血速度によって異なる。( 静脈瘤および 消化管の血管性病変も参照のこと。) 吐血は,鮮紅色の血液を吐出する症状であり,上部消化管出血を示唆し,その出血源は通常,... さらに読む や 穿孔 消化管の急性穿孔 消化管の穿孔はいずれの部位にも生じる可能性があり,胃や腸管の内容物が腹腔内に放出される。原因は様々である。症状は重度の疼痛を伴って突然出現し,その直後にショックの徴候が出現する。診断は通常,画像検査で腹腔内に遊離ガスが認められることで下される。治療は輸液蘇生(fluid resuscitation),抗菌薬,および手術による。死亡率は高く,基礎疾患および患者の全体的な健康状態によって異なる。... さらに読む のほか,細菌異常増殖に起因する 吸収不良 吸収不良の概要 吸収不良とは,食物中の物質が十分に同化されない状態であり,消化,吸収,または輸送の障害に起因する。 吸収不良は,多量栄養素(例,タンパク質,炭水化物,脂肪),微量栄養素(例,ビタミン,ミネラル),またはその両方に影響を及ぼすことがあり,結果として便中への過剰排泄,栄養欠乏,および消化管症状が起こる。吸収不良は,ほぼ全ての栄養素の吸収障害を... さらに読む を伴う下痢などがある。無症候性の憩室には治療は必要ない。憩室が症状の原因ではない可能性もあるため,漠然とした消化管症状(例, 消化不良 消化不良 消化不良(dyspepsia)は,上腹部に疼痛または不快感を覚える症状であり,しばしば反復性である。消化障害,ガスの充満,早期満腹感,食後の膨満感,さしこみ痛,灼熱痛などとして報告される場合もある。 消化不良には一般的な原因( Professional.see table 消化不良(dyspepsia)の主な原因)がいくつかある。 多くの患者では,検査で何らかの所見(例,十二指腸炎,蠕動障害,... さらに読む )がみられる患者に手術を推奨する際には注意すべきである。
胃憩室
胃憩室は,内視鏡検査や画像検査(例,上部消化管造影,造影CT)の際に偶発所見として発見されるのが典型的である。主な発生部位は,胃の近位部の大弯沿いである。憩室の大きさは直径1~3cmである。胃憩室は,胃粘膜が筋層を越えて突出することで形成されるが,胃壁の全層を越えるわけではない(おそらく胃の筋層が厚いため)ことから,筋層内憩室(intramural diverticulum)や部分憩室(partial diverticulum)と呼ばれる。
胃憩室は通常は無症候性であるが,漠然とした膨満感と消化不良を訴える患者もいる。出血,穿孔,がんなどの合併症はまれである。
無症候性の憩室には特異的な治療は不要であり,管理方針は症状の重症度に依存する。いくつかの研究では,プロトンポンプ阻害薬を数週間使用することで消化不良が緩和できると報告されている。しかしながら,別のデータから,症状がプロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬に反応しない場合もあることが示されている。
十二指腸憩室
十二指腸憩室には以下の種類がある:
管腔外型(十二指腸壁の外側に突出するもの)
管腔内型(十二指腸の内腔側に突出するもの)
管腔外型十二指腸憩室は,一般的な病態であり, 内視鏡的逆行性胆道膵管造影 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP) 胆道疾患の正確な診断には画像検査が不可欠であり,巣状の肝病変(例,膿瘍,腫瘍)の検出にも重要である。肝細胞障害によるびまん性疾患(例, 肝炎, 肝硬変)の検出および診断には限界がある。 従来からの超音波検査は,経腹的に施行され,一定時間の絶食を必要とし,構造的な情報は得られるものの,機能的な情報は得られない。一方で胆道系(特に胆嚢)を画像化する検査としては,最も安価で安全かつ最も高感度の方法である。超音波検査は,以下の目的で最善の検査法... さらに読む を受けた50歳以上の患者の約25%にみられ,それらの患者の4分の3では乳頭周囲部に病変が存在する。乳頭部から2~3cm以内に生じた憩室は,傍乳頭憩室と呼ばれる。患者は無症状であるか,非特異的な腹部症状を訴える。
管腔外型憩室の合併症としては, 出血 消化管出血の概要 消化管出血は,口腔から肛門までのいずれの部位でも発生する可能性があり,顕性の場合と不顕性の場合がある。臨床像は出血部位および出血速度によって異なる。( 静脈瘤および 消化管の血管性病変も参照のこと。) 吐血は,鮮紅色の血液を吐出する症状であり,上部消化管出血を示唆し,その出血源は通常,... さらに読む , 憩室炎 大腸憩室炎 憩室炎は,憩室に炎症が起きた状態であり,感染を伴うこともあれば伴わないこともあり,腸壁の蜂窩織炎, 腹膜炎, 穿孔,瘻孔,または 膿瘍を引き起こす可能性がある。主な症状は腹痛である。診断はCTによる。治療は腸管安静のほか,ときに抗菌薬,ときに手術による。 大腸憩室は,結腸の粘膜および粘膜下層が結腸の筋層を越えて突出した袋状の構造であり,腸管の全ての層を備えていないことから,偽性憩室とみなされる(... さらに読む , 穿孔 消化管の急性穿孔 消化管の穿孔はいずれの部位にも生じる可能性があり,胃や腸管の内容物が腹腔内に放出される。原因は様々である。症状は重度の疼痛を伴って突然出現し,その直後にショックの徴候が出現する。診断は通常,画像検査で腹腔内に遊離ガスが認められることで下される。治療は輸液蘇生(fluid resuscitation),抗菌薬,および手術による。死亡率は高く,基礎疾患および患者の全体的な健康状態によって異なる。... さらに読む などがある。複数の憩室が存在する場合には, 細菌異常増殖 小腸内細菌異常増殖症(SIBO) 小腸内細菌異常増殖症は,腸の器質的変化,消化管運動の変化,または胃酸分泌の不足によって起こる可能性がある。この病態は,ビタミン欠乏症,脂肪吸収不良,および低栄養につながることがある。診断は呼気試験または腸吸引液の定量培養による。治療は経口抗菌薬による。 小腸内細菌異常増殖症(SIBO)は 吸収不良を引き起こす疾患である。 正常な状態においては,上部小腸内の細菌は105/mL未満で,主にグラム陽性好気性菌である。細菌... さらに読む に起因する下痢および吸収不良が発生する可能性がある。十二指腸閉塞は極めてまれである。傍乳頭憩室は,胆管炎,繰り返す膵炎,総胆管結石症(胆嚢摘出後にもみられる),Oddi括約筋の機能障害などの合併症を引き起こす可能性がある。
管腔内型十二指腸憩室は,全体が管腔内に生じる憩室であり,windsock diverticulaとも呼ばれる。これらはまれであり,内腔に隔膜ないしウェブができる発生異常によって生じる。時間の経過とともに,ウェブとそれが内腔に付着している腸壁が蠕動によって牽引される可能性がある。すると陥入した腸壁が管腔内に嚢を形成し,憩室となる。管腔内型憩室は,典型的には十二指腸下行脚に生じ,大半がファーター乳頭付近に発生する。十二指腸壁の全周を含む場合と一部のみを含む場合があり,はるかに遠位の十二指腸上行脚にまで突出することもある。憩室には,しばしば偏心性に第2の開口部が存在する。通常は無症状であるが,一部の患者では不完全な十二指腸閉塞,穿孔,または出血が生じる。
これらの憩室は上部消化管造影検査で診断可能であるが,経口造影剤を用いるCTおよび上部消化管内視鏡検査も用いることができる。上部消化管内視鏡検査では,憩室が誤って十二指腸内腔や大きなポリープと解釈されることがある。治療選択肢としては,閉塞または出血が生じた場合の外科的切除などがある。憩室を開放して食物が蓄積しないようにする内視鏡的治療が成功した症例報告が数例ある。
空腸および回腸憩室
これらの小腸憩室は,一般集団の最大5%に発生し,空腸(80%),回腸(15%),またはその両方(5%)に発生する可能性がある。通常は複数存在し,大きさは直径わずか数ミリのものから長さ10cmのものまで幅がある。小腸憩室は真の筋壁を欠いており,通常は腸間膜側に位置する。これらの憩室は,腸管運動障害によって引き起こされる可能性がある。
多くの患者は無症状であるか,反復性腹痛,早期満腹感,腹部膨満,大きな腹鳴,間欠性の下痢などの非特異的症状を訴える。合併症としては出血,憩室炎,穿孔などがある。一部の患者では細菌異常増殖とそれに続く吸収不良または小腸捻転(閉塞を引き起こす可能性がある)が生じることがある。
小腸憩室の診断は通常,小腸内視鏡検査(順行性または逆行性),下部消化管造影,CT小腸造影,MRI小腸造影,またはカプセル内視鏡検査による。
無症状の患者には通常,保存的管理が推奨される。腸内細菌異常増殖症候群に対しては,抗菌薬を処方できる。穿孔または憩室炎を有する患者には,手術が必要になる場合がある。慢性偽性腸閉塞症を有する患者では通常,手術を回避する。
要点
憩室は,胃に生じるのはまれであるが,十二指腸と小腸ではよくみられる。
大半の憩室は無症候性で,偶然発見される。
合併症としては,出血,穿孔,細菌異常増殖に起因する吸収不良などがある。
無症候性の憩室には治療は必要ない。
憩室に加えて漠然とした消化管症状(例,消化不良)がある患者への手術の推奨については,慎重に判断すること。