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短腸症候群

執筆者:

Atenodoro R. Ruiz, Jr.

, MD, The Medical City, Pasig City, Philippines

レビュー/改訂 2021年 2月
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短腸症候群は,小腸の広範切除(通常,小腸の全長の3分の2以上)に起因する吸収不良である。生じる症状は残存小腸の長さおよび機能に依存するが,下痢は重度となることがあり,栄養欠乏がよくみられる。治療は,食事を少量ずつ摂ることと止瀉薬のほか,ときに完全静脈栄養または小腸移植による。

広範切除の理由として頻度が高いものは, クローン病 クローン病 クローン病は,全層性炎症性腸疾患を引き起こす慢性疾患であり,通常は遠位回腸と結腸を侵すが,消化管のいかなる部位にも発生しうる。症状としては下痢や腹痛などがある。膿瘍,内瘻孔,外瘻孔,および腸閉塞が発生することがある。腸管外合併症が発生することがあり,特に関節炎がよくみられる。診断は大腸内視鏡検査および画像検査による。治療はメサラジン,コルチコステロイド,免疫調節薬,サイトカイン阻害薬,および抗菌薬のほか,しばしば手術による。... さらに読む クローン病 腸間膜梗塞 急性腸間膜虚血症 急性腸間膜虚血症は,塞栓症,血栓症,または循環血流量減少により腸管血流が途絶した状態である。これによりメディエーターの放出から炎症が惹起され,最終的には梗塞がもたらされる。腹痛は身体所見と釣り合いが取れていない。早期診断は困難であるが,血管造影および試験開腹が最も感度が高く,他の画像検査法はしばしば疾患が進行して初めて陽性化する。治療は,塞栓除去術,壊死に陥っていない腸管の血行再建術,または切除により,ときに血管拡張療法が成功する。死亡... さらに読む 急性腸間膜虚血症 ,放射線腸炎,悪性腫瘍, 腸捻転 腸閉塞 腸閉塞は,腸の閉塞を引き起こす病態によって,腸内容の腸管内通過の有意な機械的障害または完全停止が引き起こされた状態である。症状としては痙攣痛,嘔吐,重度で持続性の便秘,放屁の消失などがある。診断は臨床的に行い,腹部X線検査により確定する。治療は,輸液蘇生および経鼻胃管吸引により行い,完全閉塞のほとんどの症例で手術を施行する。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 機械的閉塞は,小腸閉塞(十二指腸を含む)と大腸閉塞に分類される。閉塞は,部分または... さらに読む 腸閉塞 ,および 先天異常 消化器系の先天異常の概要 大半の先天性消化管異常は,何らかの腸閉塞を引き起こし,出生時または生後1~2日までに哺乳困難,腹部膨隆,および嘔吐で発症することが多い。 回転異常など転帰が非常に良好な先天性消化管奇形もある一方,死亡率が10~30%と比較的高い先天性 横隔膜ヘルニアなど,転帰が不良な消化管奇形もある。... さらに読む である。

空腸は大部分の栄養素の主な消化吸収部位であるため,空腸切除によって吸収面積が減少し栄養吸収が有意に低下する。これに反応して,回腸は絨毛の長さを伸ばし,吸収機能を亢進させることで適応し,その結果,栄養吸収が徐々に改善する。

回腸はビタミンB12および胆汁酸の吸収部位である。回腸切除が100cmを超える場合,重度の下痢および胆汁酸吸収不良が生じる。注意すべき点として,残存空腸に代償性の適応が生じることはない(空腸切除後に回腸に代償性の適応が生じるのとは異なる)。その結果,脂肪,脂溶性ビタミン,およびビタミンB12の吸収不良が起こる。さらに,吸収されない胆汁酸が結腸に進入することで分泌性下痢が引き起こされる。結腸の温存により,水分および電解質喪失は有意に減少する可能性がある。回腸末端および回盲弁の切除は, 小腸内細菌異常増殖症 小腸内細菌異常増殖症(SIBO) 小腸内細菌異常増殖症は,腸の器質的変化,消化管運動の変化,または胃酸分泌の不足によって起こる可能性がある。この病態は,ビタミン欠乏症,脂肪吸収不良,および低栄養につながることがある。診断は呼気試験または腸吸引液の定量培養による。治療は経口抗菌薬による。 小腸内細菌異常増殖症(SIBO)は 吸収不良を引き起こす疾患である。 正常な状態においては,上部小腸内の細菌は105/mL未満で,主にグラム陽性好気性菌である。細菌... さらに読む (SIBO)の素因となる可能性がある。

短腸症候群の治療

  • 完全静脈栄養(TPN)

  • 残存空腸が100cmを超える場合は,最終的には経口栄養

  • 止瀉薬,コレスチラミン,プロトンポンプ阻害薬,ビタミンサプリメント

手術直後には,下痢は典型的には重度で,有意な電解質喪失を伴う。患者は典型的にTPN,ならびに水分および電解質(カルシウムおよびマグネシウムなど)の集中モニタリングを必要とする。術後に患者の状態が安定し,排便量が2L/日未満となった時点で,ナトリウムおよびブドウ糖の経口等浸透圧溶液(世界保健機関[World Health Organization:WHO]の経口補水液の処方と同様― Professional.see page 経口補液 経口補液 経口補液療法は,静注療法に比べて効果的で安全,便利,かつ安価である。経口補液療法は米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)およびWHOにより推奨されており,軽度から中等度の脱水のある経口摂取が可能な小児では,頻回の嘔吐または基礎疾患(例,急性腹症, 腸閉塞)によって不可能でなければ,経口補液療法を用いるべきである。 ( 小児における脱水も参照のこと。)... さらに読む )を徐々に開始する。

広範切除(残存空腸100cm未満)の患者および水分および電解質の過剰喪失を呈する患者は,生涯にわたりTPNを必要とする。

残存空腸が100cmを超える患者は,経口により十分な栄養を摂取できる。炭水化物が著しい浸透圧負荷をかけるのとは異なり,食物中の脂肪およびタンパク質は通常,良好に耐容される。食事を少量ずつ摂ることで浸透圧負荷が軽減する。理想的には,カロリーの40%を脂肪から摂取すべきである。

食後に下痢をする患者は,食事の1時間前に止瀉薬(例,ロペラミド)を服用すべきである。コレスチラミン2~4gを毎食時に服用することで,回腸切除に起因する胆汁酸吸収不良に関連した下痢が軽減する。ビタミンB12の欠乏がみられる患者には,月1回の筋注で投与すべきである。大半の患者にはビタミン,カルシウム,およびマグネシウムサプリメントを服用させるべきである。

胃酸過剰分泌が起こる可能性があり,それにより膵酵素が失活する可能性があるため,大半の患者にプロトンポンプ阻害薬が投与される。

長期TPNの対象ではない患者と適応が認められない患者には,小腸移植が推奨される。

静脈栄養が必要な成人患者には,テデュグルチド(グルカゴン様ペプチド2[GLP-2]アナログ)が有益となりうる。推奨用量は0.05mg/kg,皮下,1日1回である。

短腸症候群の要点

  • 小腸の広範切除または喪失は,顕著な下痢および吸収不良の原因となる可能性がある。

  • 残存空腸が100cm未満の患者は,生涯にわたり完全静脈栄養を必要とし,残存空腸が100cm以上ある患者は,脂肪とタンパク質が多く炭水化物の少ない食事を少量ずつ摂ることで生存が可能である。

  • 止瀉薬,コレスチラミン,プロトンポンプ阻害薬,およびビタミンサプリメントが必要である。

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