食道異物

執筆者:Zubair Malik, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2020年 1月
意見 同じトピックページ はこちら

食物や嚥下された様々な物体が食道内で嵌頓することがある。食道内の異物は嚥下困難の原因となり,ときに穿孔を引き起こすこともある。診断は臨床的に行うが,画像診断や内視鏡検査が必要になることもある。自然に通過する異物もあるが,内視鏡により異物を通過させるか摘出する処置がしばしば必要になる。

消化管異物の概要も参照のこと。)

食道は異物の嵌頓が最も多く生じる部位である。食道異物の最も一般的な原因は食物のつかえである。特に,大きく滑らかな食物塊(例,ステーキ,ホットドッグ)は,十分に咀嚼しないまま意図せず嚥下されることが多い。食肉を十分に咀嚼しないと,内部の骨(特に魚の骨)を嚥下することがある。

乳幼児は中咽頭の協調が完全に成熟しておらず,しばしば意図せず小さな丸い食物(例,ブドウ,ピーナッツ,飴)を嚥下し,それが嵌頓することがある。さらに,乳幼児は様々な食べられない物(例,コイン,電池)を意図せず,または好奇心から飲み込むことが多く,その一部は食道内で嵌頓することがある。食道に嵌頓したボタン型電池は,食道熱傷,穿孔,気管食道瘻を引き起こす可能性があるため,特に注意が必要である。

食道内の異物は通常,生理的または病的な狭小化が起きた部位で嵌頓する。管腔の狭小化は,括約筋(下部食道括約筋,上部食道括約筋),外部の血管構造(例,大動脈弓,異所性鎖骨下動脈),ウェブ食道輪,狭窄,良性腫瘍悪性腫瘍アカラシアびまん性食道痙攣,過去の手術,好酸球性食道炎などによって引き起こされることがある。

合併症

食道異物の主な合併症は以下のものである:

閉塞は,部分閉塞(例,患者が液体や少なくとも口腔内分泌物を嚥下できる状態)の場合もあれば,完全閉塞の場合もある。部分閉塞では,食道壁に鋭利な異物が嵌頓している場合は穿孔に至る可能性があるが,そうでなければ緊急性は低い。完全閉塞では,耐えがたい症状がみられ,たとえ滑らかな異物でも密に詰まると,圧迫壊死を引き起こす可能性があり,食道内に約24時間以上とどまり続ければ,穿孔を引き起こすリスクもある。

合併症は嵌頓した異物の性質によっても異なる。嵌頓したボタン電池は,小さいながらも急速に融解壊死と穿孔を引き起こす可能性があるため,特に注意を要する。

食道異物の症状と徴候

主症状は急性の嚥下困難である。食道で完全閉塞を起こした患者は,唾液分泌が過剰になり,口腔内分泌物を嚥下できない。その他の症状としては,胸骨後方の膨満感,逆流,嚥下痛,唾液への血液の混入,空嘔吐,窒息などがある。不安と不快感から生じる過換気が呼吸窮迫の様相を呈することも多いが,実際の呼吸困難や強い吸気性または呼気性喘鳴の聴診所見を認めた場合は,異物が食道内ではなく,気道内にあることが示唆される。

ときに,食道を浅く傷つけるのみで,嵌頓しない場合もある。そのような場合には,たとえ異物が存在しなくても,患者が異物感を訴えることがある。

食道異物の診断

  • 臨床的評価

  • ときに画像検査

  • しばしば内視鏡での評価

多くの患者は明確な摂取歴を報告するが,完全閉塞を示唆する有意な症状がみられる患者には,直ちに内視鏡検査を行うべきである。嚥下が正常で,最小限の症状しかみられない患者では,異物が嵌頓していない可能性もあり,症状が消失するまで経過観察としてもよい。それ以外の患者には,画像検査が必要になることがある。

幼児や異常な精神状態にある成人,高齢者や精神障害の患者など,一部の患者では摂取歴を十分に報告できない場合がある。そのような患者は,窒息,拒食,嘔吐,流涎,喘鳴,唾液への血液の混入,呼吸窮迫などで受診する場合もある。このような患者では画像検査も必要になることがある。

一部の異物は単純X線撮影で検出可能である(2方向の撮影が望ましい)。X線撮影は,金属製の異物やステーキの骨の検出のほか,穿孔の徴候(例,縦隔内または腹膜内遊離ガス)の検出にも最適である。しかしながら,魚の骨や一部の鶏の骨,木片,プラスチック,ガラス,薄い金属製の異物などは,単純X線では同定が難しい可能性がある。異物摂取の存在や意図的または危険な異物摂取(例,違法薬物の包み)が少しでも疑われる場合は,異物の確認や位置を特定するために,ときに内視鏡検査の前にCTなどの画像検査を施行すべきである。異物摂取の疑いがあり,画像検査は陰性でありながら症状が持続している場合は,典型的には内視鏡での評価が必要となる。

経口造影剤を用いる画像検査は,誤嚥や穿孔のある患者では造影剤が漏出するリスクがあるため,一般的には行わない。また,残留する造影剤の存在によって,続く内視鏡的摘出術がより困難になる。

食道異物の治療

  • ときに経過観察および/またはグルカゴン静注

  • しばしば内視鏡的摘出術

一部の異物は自然に胃まで通過し,典型的には消化管を完全に通り抜けて排出される。高度の閉塞症状がなく,鋭利な異物やボタン電池の摂取もない患者では,典型的には最大24時間は安全に異物の通過まで経過観察が可能で,通過は症状の緩和によって判断できる。グルカゴン1mgの静脈内投与は,比較的安全で許容可能な選択肢であり,ときに下部食道を弛緩させて食物塊の自然な通過を可能にする。発泡剤,食肉軟化剤,ブジー拡張術など,他の方法は推奨されない。

24時間以内に通過しない異物(1)は摘出すべきであり,対応が遅れると,穿孔などの合併症のリスクが高まり,摘出が成功する可能性も低下する。

第1選択の治療法は,その塊を内視鏡により胃まで前進させるか摘出する処置である。内視鏡で通過させる処置では,まず食物塊の周囲に内視鏡を通すことを試み,食物塊より遠位側の食道を診察(例,管腔の狭小化や閉塞病変がないか調べる)してから,食物塊の中央に穏やかに圧をかけることにより,内視鏡的に前進させる。穿孔のリスクを最小限に抑えるため,この処置は経験豊富な内視鏡医のみが行うべきである。摘出する場合は,誤嚥予防と気道確保のため,可能であれば食道内にオーバーチューブを留置するか経口気管挿管を行った上で,鉗子,先端が複数に分かれた把持鉗子,ネット,バスケット,またはスネアを使用するのが最善の方法である(2)。

先の尖った異物,ボタン電池,および有意な症状を引き起こしている閉塞に対しては,緊急で内視鏡検査を行う必要がある。

食道に食物を詰まらせた患者に対しては,器質的および機能的な異常を評価するフォローアップが推奨される。

治療に関する参考文献

  1. 1.ASGE Standards of Practice Committee, Ikenberry SO, Jue TL, Anderson MA, et al: Management of ingested foreign bodies and food impactions.Gastrointest Endosc 73:1085–1091, 2011.doi: 10.1016/j.gie.2010.11.010.

  2. 2.Fung BM, Sweetser S, Wong Kee Song LM, Tabibian JH: Foreign object ingestion and esophageal food impaction: An update and review on endoscopic management.World J Gastrointest Endosc 11(3):174–192, 2019.doi: 10.4253/wjge.v11.i3.174.

食道異物の要点

  • 食道は摂取された異物の嵌頓が最も多くみられる部位である。

  • 主症状は急性の嚥下困難であり,食道で完全閉塞を起こした患者は,唾液分泌が過剰になり,口腔内分泌物を嚥下できない。

  • 完全閉塞は圧迫壊死を引き起こす可能性があり,異物を約24時間以上放置すると,穿孔のリスクが高くなる。

  • 先の尖った異物,ボタン電池,および有意な症状を引き起こしている閉塞に対しては,緊急で内視鏡検査を行う必要がある。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS