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中毒の基礎知識

執筆者: Gerald F. O’Malley, DO, Associate Professor of Emergency Medicine, Thomas Jefferson University and Hospital ; Rika O’Malley, MD, Attending Physician, Department of Emergency Medicine, Einstein Medical Center

中毒とは、有毒物質を飲みこんだり、吸いこんだり、皮膚や眼、または口や鼻などの粘膜に接触したときに生じる有害作用です。

  • 中毒を起こす可能性のある物質としては、処方薬や市販薬、違法薬物、ガス、化学物質、ビタミン類、食品などがあります。

  • ダメージを与えない毒物もありますが、重度の損傷を引き起こし、死をもたらす毒物もあります。

  • 診断は、症状、本人と目撃者から得た情報、ときには血液検査や尿検査に基づいて行います。

  • 薬は必ず、子供が開けることのできない元の容器のまま、子供の手の届かない場所に保管します。

  • 治療では、支持療法と毒物のさらなる吸収の防止を行い、ときには毒物の排出を促進します。

家庭内で発生する、非致死的な事故のうち最も多いものは中毒です。米国では年間200万人を超える人が何らかの中毒を起こしています。薬(処方薬、市販薬、違法薬物)が、重症の中毒や中毒関連死を最も起こしやすい原因物質です。その他の主な中毒の原因は、ガス、家庭用品、農業用品、植物、工業用化学物質、ビタミン類、食品(特に特定のキノコ類—化学物質による食中毒 : 毒キノコ中毒と魚類— 化学物質による食中毒を参照)です。しかし、どんな物質でも大量に摂取すれば中毒になる可能性があります。

幼児は特に家庭内で中毒事故を起こしやすく、また高齢者は薬の飲み間違えから中毒事故をよく起こします。入院患者(薬の取り違え)、工業労働者(有毒な化学物質にさらされることが原因)も中毒事故を起こしやすい人です。自殺や殺人で故意に中毒を起こすこともあります。成人の自殺未遂者の多くは、複数の薬を飲んだ上にアルコールを飲んで自殺を試みています。

中毒による損傷は、毒物の種類、摂取量、年齢、摂取した人の健康状態によって変わります。毒物の中には、作用が弱く、長期間さらされていたり、大量に繰り返し摂取した場合にのみ問題が現れるものもあります。逆に皮膚に一滴落ちただけで重度の損傷を起こす、強い作用のある毒物もあります。

毒物の中には数秒後に症状が現れるものもあれば、数時間から数日後にならないと症状が現れないものもあります。毒物によっては、肝臓や腎臓のような重要な臓器の機能に損傷が及ぶまでほとんど症状がみられず、これらの臓器が永久的な障害を受けるまで症状が現れないこともあります。

応急処置

中毒患者を助ける際に最も優先すべきことは、救助者自身が中毒を起こさないことです。有毒ガスにさらされた人はすみやかにその場所から離れ、できれば新鮮な空気のある屋外に出て、救助はプロに任せます。救助中に有毒ガスや化学物質にさらされないためには、特別の訓練と予防措置が必要です。

化学物質がこぼれたときは、靴下や靴も含めて汚染された衣類をすみやかに脱ぎ、アクセサリーも外します。皮膚をせっけんと水で徹底的に洗います。眼に入った場合は水または生理食塩水で徹底的に洗浄します。救助にあたる人は自分自身が汚染されないように注意しなければなりません。

容態が悪そうな場合は、救急車を呼びます(訳注:日本では119番、米国では911番)。必要な場合は、近くにいる人が心肺蘇生(CPR)を行うべきです( 応急処置を参照)。さほど具合が悪くなさそうな場合には、地域の中毒情報センター(訳注:日本では大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999。米国では800-222-1222)に連絡して助言を求めます。詳しい情報は、米国中毒情報センター協会のウェブサイト(www.aapcc.org、訳注:(公財)日本中毒情報センターのウェブサイトはhttp://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf)に記載されています。毒物の種類や摂取量がわかっており、中毒センターに勧められた場合は、自宅で治療を開始できます。

毒物の容器や摂取した可能性のあるすべての薬(市販薬を含めて)を保管しておき、医師か救急隊員にわたすようにします。中毒情報センターは、病院に到着する前に活性炭( 治療を参照)を飲ませるよう指示することや、特に病院が遠い場合には、まれにトコン(吐根)シロップを与えて、嘔吐を誘発するよう指示することもあります。しかしながら、特別な指示のない場合は、家庭で、または最初に対応する者(救急隊員など)は活性炭やトコンシロップを与えてはいけません。トコンシロップには予測できない作用があり、しばしば嘔吐が長引くうえ、胃から十分な量の毒物が排出されないことがあります。

診断

毒物の特定が、治療の役に立ちます。容器のラベルや、本人、家族、同僚からの情報は、医師や中毒センターが毒物が何かを突き止めるために最も役に立ちます。臨床検査で毒物が特定されることはほとんどなく、多くの薬や毒物は、病院で容易に特定または測定できません。ときには尿検査や血液検査が特定に役立つこともあります。また、血液検査により中毒の重症度を明らかにできる場合もありますが、できるのはごく少数の毒物だけです。

中毒の種類によっては、腹部X線検査により飲み込んだ物質の存在とその位置がわかる場合があります。X線画像に映る毒物には、鉄、鉛、ヒ素などの金属や、密輸者(いわゆる運び屋)が飲み込んだコカインなどの違法薬物の包みなどがあります。

予防

米国では、子供が開けられない安全キャップ付き容器が普及したことで、5歳未満の子供の中毒死が大幅に減少しました。中毒事故を防ぐために、薬は必ず元の容器に入れたまま保管します。殺虫剤や洗浄剤などの有毒物質は、短期間であっても飲み物のびんやカップに入れてはいけません。その他の予防策としては、家庭用品に内容がすぐにわかるラベルを貼ること、薬や有毒物質を子供の手の届かない戸棚に鍵をかけて保管すること、一酸化炭素検出器を使用することなどがあります。期限切れの薬は、ネコ用砂などの興味を引かない物質と混ぜ、子供が開けられないゴミ箱に入れて廃棄します。どのような薬でも家庭用品でも、使用する前には説明書をすべて読むべきです。

市販の鎮痛薬の容器当たりの量を制限することで、特にアセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンによる中毒の重症化を減らすことができます。製薬会社が錠剤やカプセルに印刷している識別記号は、一般の人や薬剤師、医療従事者による混同や間違いを防ぐのに役立ちます。

知っていますか?

  • 米国では、1-800-222-1222で地域の中毒情報センターにつながります(訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999)

治療

中毒を起こすと、入院が必要になる場合があります。迅速に治療を行えば、ほとんどの人は完治します。

すべての中毒治療の基本は共通しています。

  • 呼吸と血圧をサポートします

  • 毒物がさらに吸収されるのを防ぎます

  • 毒物の排出を促します

  • 適切な解毒薬(毒物の排出を促す物質や、毒物の作用を不活化または打ち消す物質)があれば投与します

  • 再び毒物にさらされないようにします

病院での治療の通常の目標は、体内の毒物を排出または不活性化させ、生命を維持することです。最終的には、毒物の多くは肝臓で不活性化され、尿中に排出されます。多くの深刻な中毒では特異的な解毒薬はありません。

胃内容物の除去(胃洗浄)はかつてはよく行われていましたが、毒物をわずかしか除去できず、重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、現在では通常は行われません。胃内容物を除去しても、治療成績が改善することはほとんどありません。ただし、非常に危険な毒物の場合や、特に容態が悪い場合には、胃内容物の除去が行われることがあります。手順は、まず口または鼻から胃にチューブを挿入します。チューブを通じて胃に水を注入した後、胃の中の水を排出します(胃洗浄)。この過程を何度か繰り返し行います。患者が毒物により眠気を催している場合、通常は最初にプラスチック製の呼吸用チューブを口から気管に挿入します(気管内挿管)。気管内挿管により、胃の洗浄液が肺に入るのを防ぎます。トコンシロップは、効果が安定していないため、病院での胃内容物の除去には使用されません。

病院の救急外来では、毒物を飲みこんだ患者に活性炭を投与することがよくあります。活性炭は消化管内にある毒物を吸着して、血液中に吸収されるのを防ぎます。通常は口から活性炭を投与しますが、鼻から胃に挿入したチューブを通じて投与することもあります。体内の毒物を取り除くため、4~6時間おきに活性炭を投与する場合もあります。しかし、すべての毒物が活性炭に吸着して不活化するわけではありません。たとえば、活性炭はアルコール、鉄、家庭用の化学物質の多くを吸着しません。

活性炭や解毒薬の投与にもかかわらず中毒による生命の危険がある場合は、より複雑な治療が必要になります。最も多く行われているのは、血液を直接ろ過して毒物を取り除く血液透析(人工透析器を使用して毒物をろ過する— 血液透析を参照)や血液灌流(血液を活性炭に通して毒物を除去する)です。どちらの方法も細い管(カテーテル)を血管内に挿入し、動脈から血液を取り出し、静脈に戻します。血液を特殊なフィルターに通過させて、毒物を取り除いてから体内に戻します。ときには炭酸水素ナトリウム(重曹)溶液を静脈に投与して尿をアルカリ性(塩基性:酸性の反対)にする場合もあります。こうすると、特定の薬(アスピリンやバルビツール酸など)は尿中への排出量が増加します。

中毒の治療では、毒物が排出されるか不活性化するまで、支持療法という心臓、血圧、呼吸を安定させるための追加治療が必要になることがよくあります。たとえば強い眠気を催している患者や昏睡状態の患者には、気管に呼吸用のチューブを挿入します。チューブを人工呼吸器に接続して、機械によって呼吸を保ちます。チューブによって肺へ吐瀉物(としゃぶつ)が入ることを防ぎ、十分な呼吸が確保できます。けいれん発作、発熱、嘔吐をコントロールする治療も必要になります。

腎臓の機能が停止した場合は、血液透析が必要です。肝臓が広範囲に損傷した場合は、肝不全の治療が必要です。肝臓や腎臓が重度の損傷を受けて回復が見込めない場合は、臓器移植が必要になります。

薬物による自殺を図った人には、精神科での評価と適切な治療が必要です。

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