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症状

執筆者: Norton J. Greenberger, MD, Clinical Professor of Medicine;Senior Physician, Harvard Medical School;Brigham and Women's Hospital

下痢、便秘、消化管からの出血、逆流、嚥下(えんげ)困難などの症状は通常、消化器疾患を示唆します。腹痛、鼓腸、食欲不振、吐き気などのより一般的な症状は、消化器疾患のこともあれば、ほかの疾患によって起こることもあります。

消化不良という言葉は、人によって違う意味で使われるあいまいな言葉です。消化障害、吐き気、嘔吐、逆流、のどにしこりがある感覚(球感覚)などのさまざまな症状を含んでいます。

腸の働きは、人によって大きく異なるばかりでなく、同じ人でもそのときどきで異なります。ほとんどの人では、朝に腸の動きが活発になるのが最も容易にわかります。朝食後30~60分ほどで動きが最も強くなる傾向にあります。腸の機能は食事の内容、ストレス、薬、病気、さらには社会的、文化的習慣によっても影響を受けます。ほとんどの欧米社会では、正常な排便回数は1週間に2~3回から1日に2~3回までの範囲です。排便の回数、便の硬さや量に変化がある場合や、血液、粘液、膿、過剰な脂肪分が便に混じっている場合は、障害があることを意味します。

腹痛

腹痛はよく起こりますが、軽度の場合が多いです。しかし、重度の腹痛が急に起きた場合は、ほぼ必ず重大な問題があることを意味します。その腹痛が手術の必要な病気の唯一の徴候である場合があり、緊急入院が必要なこともあります。乳幼児や高齢者、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者、免疫系を抑制する作用がある薬を使用中の患者では、腹痛が特に懸念されます。高齢者の腹痛は若年成人よりも現れにくいことがあり、病状が深刻な場合でも腹痛がゆっくりと発症することがあります。腹痛は小児(新生児や乳児を含む)でも起こりますが、乳幼児は腹痛の原因をうまく伝えられません。

原因

腹痛の原因には、感染症、炎症、潰瘍の形成、臓器の穿孔や破裂、消化管の閉塞や協調異常による異常な筋収縮、臓器への血流の遮断などがあります。

すぐに生命が危険になり、迅速な診断と手術を必要とする病気の例としては、腹部大動脈瘤の破裂、胃や腸の穿孔、腸への血流の遮断(腸間膜虚血)、子宮外妊娠による破裂( 子宮外妊娠を参照)があります。これらに次いで急を要する深刻な病気には、腸閉塞、虫垂炎、膵臓の急性炎症(膵炎)などがあります。腹膜炎は腹腔の内側を覆う膜(腹膜)の炎症が引き起こす腹痛で、腹部臓器の炎症や感染症を引き起こすさまざまな病気(虫垂炎、憩室炎など)や、腸の内容物が腹部内に漏れ出す病気(穿孔性潰瘍など)によって起こります。

時には腹部以外の病気も腹痛を起こすことがあります。たとえば、心臓発作、肺炎、精巣のねじれ(精巣捻転)などがこれに該当します。腹痛を引き起こす他の問題としては、糖尿病性ケトアシドーシス、ポルフィリン症、鎌状赤血球症、何らかの咬傷や毒物(クロゴケグモによる咬み傷、重金属やメタノールによる中毒、一部のサソリによる刺し傷など)があります。

新生児、乳児、幼児の腹痛

原因

説明

備考

胎便性腹膜炎

腸に穿孔が起こり、胎便(出生前に腸内でつくられる濃い緑色の便)が腹腔内に漏れ出すことで起こる、腹腔とその内側を覆う膜(腹膜)の炎症(感染症が起こることもあり)

乳児がまだ胎内にいる間や出生直後に発生

幽門狭窄

胃の出口側(十二指腸)の閉塞

授乳後に激しい(噴き出すような)嘔吐が発生

通常は生後4カ月までに始まる

食道ウェブ

食道の上から3分の1の内表面(粘膜)に薄い膜を形成

固形物の飲みこみが困難

腸捻転

腸管のねじれ

腸閉塞を引き起こし、腸への血流を遮断

嘔吐、下痢、腹部膨満、発作的な長時間の号泣(仙痛)がよく発生

肛門の閉鎖(鎖肛)

肛門開口部の狭窄や閉鎖

通常は出生時の診察で発見され、緊急手術を要することが多い

腸重積症

腸の一部が別の部分に圧縮され折り重ね(入れ子)が発生

腸の閉塞と血流遮断、突然の腹痛、嘔吐、血便、発熱を起こす

6カ月から2歳までの乳幼児で発生するのが典型的

腸閉塞

腸の内容物の通過を完全に停止させる、または著しく減少させる閉塞

新生児や乳幼児の先天異常、胎便、軸捻により引き起こされることが多い

症状は閉塞の種類により異なるが、けいれん性の腹痛、腹部膨満、食欲低下、嘔吐、重度の便秘、下痢、発熱などが含まれる

評価

腹痛の性質や位置は、原因の特定に役立つことがあります。腹痛が波状的に現れたり消えたりする場合は臓器の閉塞が疑われますが、これらは胆石、腎結石、腸閉塞によって起こることがあります。消化性潰瘍による腹痛は、焼けるような痛みが特徴です。憩室炎に伴う腹痛は下腹部左側に限定されることが多く、腹膜炎による腹痛はしばしば腹部全体の痛みとして感じられます。膵炎ではベッドで寝返りを打つと痛みが悪化して、座って前かがみになると幾分和らぎます。

医師は、患者の症状や診察結果から示唆される複数の原因の中から一つを選択するために、検査を行わなければならないことがよくあります。腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査は、腹痛の原因の特定に役立つことが多いですが、すべての原因が特定可能なわけではありません。血液や尿の検査もよく行われます。婦人科の病気が疑われる場合は、超音波検査が役立ちます。

治療

特定の腹痛の原因は治療します。最近まで医師は、重い腹痛がみられる患者に診断がつく前に鎮痛薬を投与するのは、重要な症状を鎮痛薬が隠すことがあるため、賢明でないと考えていました。しかし、現在では検査法が進歩してきたため、鎮痛薬を投与することが多くなってきました。

腹痛の位置と原因

消化管からの出血

口から肛門まで、消化管のいずれの部分でも、出血が起こることがあります。嘔吐物に血液が混じっていることもあります(吐血)。出血が活発に続いている場合、吐血は鮮紅色をしています。しかし、出血が治まってきたか止まった場合は、吐いた血液がコーヒーかすのようにみえます。これは血液が胃酸で一部消化されたためです。

直腸を通過した血液は、黒いタール状の便(黒色便)、鮮紅色の便(血便)、あるいは1日当たりの出血量が小さじ数杯未満であれば正常な便に見えます。黒色便は、出血部位が食道、胃、小腸である場合に多くみられます。色が黒っぽいのは、出血した血液が数時間、胃酸や消化酵素、大腸に生息している正常な細菌にさらされたためです。血便は、大腸から出血した場合に多くみられますが、上部消化管でかなり急速に出血が起きたときにもみられます。

多量の出血が急激に起こると脈拍が速まり、血圧が低下し、尿量が減少します。手足は汗ばんで冷たくなることもあります。重度の出血によって脳の血流量が減少すると、錯乱、見当識の喪失(時間、場所、人物などがわからなくなること)、眠気、極度の血圧低下(ショック状態)を起こします。失血が緩慢で慢性的な場合は、貧血の症状や徴候(脱力感、疲れやすい、蒼白、胸痛、めまいなど)を起こすことがあります。

原因

出血はさまざまな原因で起こります。たとえば、消化性潰瘍、腸の動脈と静脈の接続異常(動静脈奇形)、食道の静脈の異常な拡張(食道静脈瘤)、アスピリンや他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などの特定の薬の服用による刺激、炎症性腸疾患、結腸壁の小さな風船状の袋(憩室症)、癌などです。

消化管出血の一般的な原因

上部消化管

十二指腸潰瘍

食道、胃、十二指腸のびらん

食道静脈瘤

胃潰瘍

下部消化管

異常血管

裂肛

結腸癌

結腸ポリープ

憩室症

炎症性腸疾患

内痔核

放射線照射や血流不足による大腸の炎症

慢性肝疾患または遺伝性血液凝固障害を有する患者や、特定の薬を服用中の患者では、何らかの原因による出血が起こりやすく、重症化する可能性もあります。出血を引き起こす薬としては、抗凝固薬(ヘパリン、ワルファリンなど)や、血小板機能に影響を与える薬(アスピリンや他の一部のNSAID、クロピドグレルなど)があります。

評価

医師は、出血がどこで起きているのか、速度はどのくらいか、原因は何かについて的確に探り出そうとします。患者の症状や身体診察(腫瘤がないか指で探り便の血液を調べる直腸指診など)により出血の原因と位置が分かることがあり、どの検査が必要かが分かることもあります。

患者が血液や暗褐色の物体(部分的に消化された血液を示す)を嘔吐した場合は、鼻から胃の内部に細い中空のプラスチック製チューブ(経鼻胃管— 診断に必要な検査 : 消化管への挿管を参照)を挿入し、胃の内容物を吸引します。胃の内容物が血液を含んでいる場合は出血が活発であることを示し、暗褐色の物体の場合は出血が緩慢であるか止まったことを示します。患者がつい最近出血を起こした場合でも、血液の徴候が認められないこともあります。患者に嘔吐はみられないが、直腸からの大量の出血がみられた(ただし存在が明らかな痔核からの出血ではない)場合は、上部消化管からの出血の可能性があるため、やはり経鼻胃管を挿入することがあります。経鼻胃管は通常、出血が止まったことが明らかになるまで挿入したままにします。

経鼻胃管で活発な出血の徴候が判明した場合や、上部消化管由来の出血であることが患者の症状から強く示唆される場合は、上部消化管内視鏡検査を行います。上部消化管内視鏡検査では、内視鏡と呼ばれる柔軟性のあるチューブを用いて食道、胃、十二指腸(小腸の最初の部分)を視覚的に検査します( 診断に必要な検査 : 内視鏡検査を参照)。内視鏡で出血部位を見つけたり、治療したりすることもできます。同様に、下部消化管由来の出血であることが患者の症状から示唆される場合、または上部消化管内視鏡検査で出血部位が示されない場合には、大腸内視鏡検査を行います( 診断に必要な検査 : 内視鏡検査を参照)。

内視鏡検査(上部消化管と下部消化管の双方)を行っても、出血の原因が判明しないことがまれにあります。このような患者で出血が重度の場合は、血管造影検査を行ったり、放射性マーカーで標識した赤血球を注入したりすることがあります。放射性マーカーを特別なカメラでスキャンすることにより、出血のおおよその位置が判明することがあります。出血が緩慢な場合は、患者に液体バリウムを飲ませた後、X線検査を行うこともあります( 診断に必要な検査 : X線検査を参照)。別の選択肢に、カプセル内視鏡検査があります( 診断に必要な検査 : カプセル内視鏡検査を参照)。カプセル内視鏡検査は特に小腸で有用ですが、結腸や胃の場合は、臓器が大きすぎて内壁の良好な画像が得られないためあまり役に立ちません。

医師は血液検査の情報も入手します。患者の血球数の算定は、血液がどの程度失われたかを知るのに役立ちます。血小板数の減少は出血の危険因子です。その他の血液検査にはプロトロンビン時間(PT)、部分トロンボプラスチン時間(PPT)、肝機能検査があり、これらは血液凝固の問題を検出するのに役立ちます。

治療

患者が重度の失血を突然起こした場合は、容態を安定させるため静脈内輸液が必要だったり、緊急輸血が必要となることもあります。血液凝固に異常がみられる患者には、血小板や新鮮凍結血漿の輸血、ビタミンKの注入が必要な場合があります。

消化管出血は大半が自然に止まります。出血が止まらない場合は、しばしば内視鏡検査中に電気焼灼器やレーザーを用いたり、ある種の薬を注入して出血を止めることができます。出血しているポリープは、ワイヤスネアやその他の器具で切除します。これらの方法で出血が止まらない場合は、手術が必要となります。

胸痛と背部痛

胸の中央部や背中の上部の痛みは、食道の病気または心臓や大動脈の病気に起因することがあります。いずれも症状は似ています。胃酸が食道内に湧き上がって起こる胃食道逆流症(GERD)は、胸骨の下に灼熱感や圧迫感を起こすことがあり、これらは心臓病による痛みと似ています。食道のけいれんやその他の食道の筋肉障害は重度の絞扼(こうやく)感を起こすことがあり、やはり心臓病による痛みと似ています。

食道の病気をより強く示唆する症状があります。胸やけは胸まで(時には首やのどまで)湧き上がるGERDによって起こる焼けつくような痛みで、通常は食後や横になった時に起こります。胸やけは米国で最も多い消化器症状の一つです。飲みこみ時だけに起こる不快感も食道の病気を示唆します。労作時に決まって起こる胸部の不快感が少し休むと消える場合は、心臓の問題が示唆されます。しかし、これらの症状は重複することがよくあるため、また心臓病は特に危険なため、食道の病気の検査を行う前に、医師はしばしば胸部X線や心電図(ECG)の検査を行い、心臓負荷試験を行うこともあります。

治療は通常原因が判明した場合のみに行われますが、非常に典型的なGERDの症状がみられる患者には、胃酸の逆流を抑える薬を試験的に投与することがあります。

便秘

便秘とは排便が不快な状態になったり、回数が減ったりする状態です。

便秘には急性も慢性もあります。急性便秘は突然起こり、はっきりと現れます。慢性便秘は徐々に始まり、数カ月から数年にわたって持続します。

便秘になるとしばしば、または常に排便するのが困難になるほど便が硬くなります。直腸が完全に空になったと感じないことがあります。排便の回数も減ります。毎日排便しないと、便秘になったと思う人がいます。しかし、毎日排便するのがだれにとっても正常というわけではなく、以前の排便パターンと明らかな変化がない限り、排便回数の少ない状態が問題になるとは限りません。便の色や硬さについても同じことが言えます。明らかな変化がなければ、おそらく便秘ではありません。便秘は多くの症状(腹部不快感、吐き気、疲労感、食欲不振など――このうち吐き気と食欲不振は便秘によって起こり得ます)の原因とされていますが、実際にはその他の病気(過敏性腸症候群やうつ病など)による症状です。毎日排便があればこれらの症状がすべて緩和されると期待すべきではありません。

合併症

排便時に力むと、肛門周囲の静脈にかかる圧力が上昇するため痔になることがあります。また、一時的ですが血圧も非常に高くなります。

便秘は憩室の病気を引き起こす主な危険因子の一つです。小さく硬くなった便を移動させるのに必要な圧力が高まり、大腸壁を損傷します。この大腸壁の損傷が風船のような袋または突出(憩室)を形成し、それが詰まって炎症を起こすことがあります。

便秘がちな人でときどきみられる宿便とは、便が大腸の最後の部分(直腸)で硬くなり、他の便の通過を妨げる状態です。この状態は高齢者、妊婦、結腸の活動性低下(結腸無力症)の患者で特によく起こります。宿便がたまるとけいれんや直腸の痛みが起こり、排便しようとして力んでも効果がありません。水様性粘液や水様性便が閉塞部の周囲から漏れ出て、誤って下痢の印象を与えることがあります。宿便がたまると便秘がさらに悪化します。

定期的な排便にこだわり過ぎると、下剤、坐薬、浣腸の乱用につながります。過剰な治療は、実際には腸の正常な収縮を阻害し、便秘を悪化させることがあります。

原因

便秘は、他の病気や薬の影響で便が大腸を通過するのが遅くなって起こることがあります。時には脱水や食物繊維の摂取量が少ない場合にも起こります。体の痛みや、うつ病などの精神疾患も便秘の一因となります。しかし、原因が不明なことも少なくありません。

便の通過の遅れ

便秘は、便が大腸を通過するのが遅くなると起こる傾向があります。正常な状態では便が大腸を通過するときに水分が吸収されます。大腸で便の通過が遅くなると、水分の吸収が高まり、便が硬く乾燥した状態になり、便秘の特徴である通過しにくい便になります。

便の通過を遅くする薬としては、水酸化アルミニウム(市販の制酸薬に広く含有)、次サリチル酸ビスマス、鉄塩、抗コリン作用薬(多くの抗ヒスタミン薬や一部の抗うつ薬など)、一部の降圧薬、オピオイド、多くの鎮静薬などがあります。体を動かすことによって腸の動きも活発になるので、運動不足は便の通過を遅くして便秘を起こしがちです。このため、病気で寝たきりの人はしばしば便秘になります。

便の通過を遅くする病気や異常には、甲状腺機能低下症、高カルシウム血症、パーキンソン病などがあります。糖尿病患者では、しばしば消化器系の一部の運動が遅くなります。大腸の血液供給不足、神経や脊髄(せきずい)の損傷も便の通過を遅くし便秘を起こします。

便の通過が極端に遅くなると、結腸無力症と呼ばれる状態になり、通常なら排便を起こす刺激に大腸が反応しなくなります。これらの刺激には、食べること、食べもので胃が満たされること、大腸が満たされること、直腸に便があることなどがあります。大腸の収縮が減少したり、直腸が便の存在を感じにくくなったりすると、重症の慢性便秘になります。結腸無力症は高齢者、衰弱した人、寝たきりの人によく起こりますが、ときには健康な若い女性にも起こることがあります(健康な若い男性にはほとんど起こりません)。また、腸の運動が習慣的に遅くなっている人や、下剤や浣腸を長期間にわたって使用している人にも結腸無力症が起こります。

脱水と繊維質の少ない食事

脱水になると、体は便からより多くの水分を吸収して血液中に水分を蓄えようとするため、便秘になります。食品の消化されにくい部分である繊維質の摂取が不足している場合にも、便秘が起こります。繊維質は便中に水分を蓄えるのに役立ち、便量を増加させて通過を容易にします。

閉塞

時には大腸の閉塞によって便秘が起こることがあります。閉塞は癌によって起こることがあり、特に大腸の最後の部分にできる癌は便の通過を妨害します。以前に腹部の手術を受けた人も閉塞(通常は小腸)を起こすことがありますが、これは腸に線維組織ができて癒着し、便の通過を妨害するためです。

排便障害

排便障害とは、骨盤と肛門の筋肉がコントロールできなくなるために排便が難しくなることです。便通が正常であるためには、(膀胱、子宮、直腸を支える)骨盤底の筋肉と肛門の閉鎖を保つ輪状の筋肉(肛門括約筋)が弛緩することが必要です。そうでなければ、排便しようとしても効果がなく、強く力んでも排便しません。排便障害がある人は排便の必要を感じますが、排便できません。便が硬くなくても排便できません。

排便障害を起こす状態としては、骨盤底の協調運動障害(筋肉の協調が混乱する)、アニスムス(排便中の肛門括約筋の弛緩不全)、直腸瘤(腟へ突出する直腸のヘルニア)、腸瘤(小腸と腹膜の一部が子宮と直腸の間または膀胱と直腸の間に突出)、直腸潰瘍、直腸脱(直腸粘膜が肛門の外に脱出)などがあります。

加齢

便秘は高齢者で特によく起こります。加齢に伴う大腸の変化( 大腸と直腸を参照)に加え、薬の使用の増加、繊維質の少ない食事、運動量の減少によって、便が大腸を通過するのが遅くなります。病気になると特に便の通過が遅くなります。直腸は年齢とともに拡張し、たまる便の量が増えて便が硬くなり宿便化します。

痛みと心理的要因

慢性の痛みや心理状態、特にうつ病は、急性および慢性の便秘の原因となります。セロトニンなどの一部の脳内物質の濃度変化は、腸管に影響を与えることがあります。

便秘の原因

原因

例または解説

急性便秘

急性腸閉塞

輪になった腸管のねじれ(腸捻転)、ヘルニア、癒着、宿便

イレウス(腸壁の収縮運動が一時的に停止)

腹腔内膜の炎症(腹膜炎)、頭部や脊髄の外傷、ベッドでの安静

抗コリン作用のある薬(抗ヒスタミン薬、一部の抗うつ薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、抗けいれん薬)、金属イオン(鉄、アルミニウム、カルシウム、バリウム、ビスマス)、オピオイド、全身麻酔

慢性便秘

結腸癌

腫瘍が大きくなるにつれて便秘が徐々に悪化することが多い

代謝障害

糖尿病、甲状腺機能低下症、血中カルシウム濃度の上昇(高カルシウム血症)、尿毒症(血中毒物の増加)、ポルフィリン症(酵素の欠乏によって起こる一連の病気)

中枢神経系障害

パーキンソン病、多発性硬化症、脳卒中、脊髄の外傷や病気

末梢神経系障害

ヒルシュスプルング病、神経線維腫症、自律神経ニューロパチー

全身性疾患

全身性硬化症、アミロイドーシス、皮膚炎に加え筋炎や筋変性を併発(皮膚筋炎)、筋力低下と筋強直(筋強直性ジストロフィー)

機能性疾患

結腸の活動性低下(結腸無力症)、過敏性腸症候群

食事

線維質が少ない食事、下剤の長期乱用

評価

今まで便秘でなかった人が便秘を起こした場合、医師は最初に容易に説明がつく原因、たとえば食事の変化、運動量の減少、便秘を引き起こす薬の服用などがあるかについて調べます。次に血液検査を行い、どちらも便秘を起こすことがある甲状腺機能低下症と高カルシウム血症(血中カルシウム濃度の上昇)の有無を調べます。原因として癌が疑われる場合は、大腸内視鏡検査を行います。

予防

運動、繊維質の多い食事、十分な水分摂取という組合せが、便秘の最善の予防法や治療法であり、ときには下剤も使用します。便秘を起こす可能性がある薬が処方された場合は、下剤を使用し、繊維質と水分の摂取を増やすことが便秘予防に効果的です。

繊維質の摂取源として野菜、果物、ふすまが優れています。小さじ2~3杯の精製されていない小麦ふすまを、繊維質の多いシリアルや果物にふりかけて1日2~3回食べるのが手軽な方法です。十分な水分とともに繊維質を摂取するとうまく機能します。

治療

便秘を引き起こす基礎疾患がある場合には、それを治療する必要があります。

排便困難は下剤では簡単に治りません。骨盤底の協調運動障害がある患者には、リラクセーションやバイオフィードバックが効果的です。腸瘤と大きな直腸瘤の治療には手術が必要な場合があります。

宿便は食事の変更や下剤の服用では治せません。硬くなった便は通常、医師や看護師が手袋をはめた指で取り除かなければなりません。硬い便を取り除いた後、浣腸を行うことがよくあります。

過度の治療、特に刺激性下剤、刺激性坐薬、浣腸の長期使用は、下痢、脱水、腹部けいれんを起こし、下剤に依存する原因にもなります。

下剤

多くの人が便秘を解消するために下剤を使用します。下剤の中には長期使用しても安全なものもありますが、それ以外はときどきしか使うべきでありません。便秘の予防に適した下剤もありますが、それ以外は治療用です。

ふすまやオオバコ種子(多くの野菜の繊維質も使えます)などの膨張性薬剤は、便の量を増加させます。便量が増えると腸の自然収縮が促され、便が軟らかくなり腸内を通過しやすくなります。膨張性薬剤はゆっくりと穏やかに作用し、定期的な便通を促進するための下剤として最も安全に使用できます。一般に最初は少量を服用します。その後、規則的に便通があるまで用量を増やします。膨張性薬剤を服用する人は十分な水分を摂取すべきです。膨張性薬剤は腸内ガスを増加させる(鼓腸)問題を起こすことがあります。

ドキュセートなどの便軟化剤は、便が蓄える水分の量を増加させます。実際には、これらの便軟化剤は便の表面張力を低下させる界面活性剤であり、便中に水分を浸透させて軟らかくします。加えて便軟化剤は便の量も幾分増加させるため、大腸の自然収縮を刺激し、この点でも排便を容易にします。しかし、軟化した便の状態を不快に感じる人もいます。便軟化剤は、痔のある人や最近手術を受けた人など、排便時の力みを避けなければならない人に最適です。

浸透圧性下剤は、大腸内に大量の水分を引きこむことで、便を軟らかくします。過剰な水分は大腸壁を拡張させ、収縮を刺激します。この下剤の成分はほとんど吸収されない塩類や糖類です。腎臓病や心不全のある人では水分貯留を引き起こすことがあり、特に大量または頻回に投与した場合に起こります。マグネシウムやリン酸を含む浸透圧性下剤は、一部が血液中に吸収されるため、腎不全患者には有害となる場合があります。リン酸を含む経口下剤は、まれですが腎不全を起こした例があります。浸透圧性下剤は通常服用後3時間以内に効果が現れます。これらの薬は、消化管のX線撮影や大腸内視鏡検査を行う前に腸を空にするためにも用いられます。

刺激性下剤はセンナやカスカラなどの刺激性成分を含んでいます。これらの成分は大腸壁を刺激して収縮を起こし、便の通過を促します。口から服用すると刺激性下剤は、通常服用後6~8時間で半固形状の排便を起こしますが、腹部けいれんを起こすこともよくあります。刺激性下剤を坐薬として用いると、通常15~60分で効果が現れます。刺激性下剤の長期使用は、大腸粘膜への色素沈着による異常な変化をもたらします(結腸メラノーシスと呼ばれる)。また、刺激性下剤の使用が常習的となり、大腸がその働きを刺激性下剤に依存するようになる腸弛緩症候群が起こることもあります。したがって、刺激性下剤による便秘の治療は短期間にとどめておくべきです。オピオイドなどのほぼ確実に便秘を起こす薬を使用している人には、刺激性下剤は便秘の予防薬として効果があります。診断のための検査の前にも、しばしば大腸を空にするために刺激性下剤が使われます。新たに開発された刺激性下剤のルビプロストンは、大腸の腸液分泌を促進し、便の通過を容易にします。他の刺激性下剤と異なり、ルビプロストンは長期使用しても安全です。

便秘の予防薬と治療薬

主な副作用

備考

膨張性薬剤

ふすま

ポリカルボフィル

メチルセルロース

オオバコ種子

鼓腸、腹部膨満

膨張性薬剤は一般に慢性便秘の予防とコントロールに使用します。

便軟化剤

ドキュセート

吐き気(特にシロップ/液剤の場合)

便軟化剤は便秘の治療に使用することがありますが、便秘予防の補助に使用することが多いです。

浸透圧性下剤

ラクツロース

マグネシウム塩(水酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウム)

ポリエチレングリコール

リン酸ナトリウム

ソルビトール

腹部けいれん、鼓腸(ラクツロース、ソルビトール)

浸透圧性下剤は便秘の予防よりも治療に適しています。

刺激性下剤

ビサコジル

カスカラ

ヒマシ油

ルビプロストン

センナ

腹痛(腹部けいれん)、長期使用すると大腸を損傷するおそれ有り

刺激性下剤は腸閉塞の可能性がある場合は使用しません。

ルビプロストンは慢性便秘に使用することがあります。

浣腸

浣腸は、直腸と大腸下部から便を機械的に流し出します。プラスチックチューブ入りの少量の浣腸が薬局で手に入ります。また、再使用可能なゴムボール状の器具で注入することもできます。しかし、少量の浣腸では不十分なことが多く、特に高齢者では年齢とともに直腸の容積が増加し、直腸が拡張しやすくなっているため不足します。大量の浣腸は浣腸バッグで注入します。

浣腸として最もふさわしいのは真水です。水を室温よりやや高めにし、熱くしたり冷たくするべきではありません。150~300ミリリットルの温水を静かに直腸に注入します。(注意加圧し過ぎると危険です。) 温水は便を洗い流して、ともに排泄されます。

パック入りの浣腸製剤は少量の塩類、しばしばリン酸塩を含んでいます。家庭で浣腸を準備する場合でも適量の塩類を加えることができます。しかし、効果は真水とほとんど変わりません。

せっけん水を少量加えると(せっけん水浣腸)、せっけんの刺激効果が加わります。真水の浣腸で効果がないときには、せっけん水の浣腸が有用ですが、腹部けいれんを起こすことがあります。

ミネラルオイル(鉱油)などの物質も真水の浣腸に添加されることがあります。しかし、利点はほとんどありません。

結腸浣腸と呼ばれる非常に大量の浣腸は、医療行為としてはめったに用いられません。便秘が重症で頑固な場合に結腸浣腸が用いられます。代替医療を行っている一部の医師は、大腸洗浄が有益だと考え、結腸浣腸を行います。お茶やコーヒーなども結腸浣腸に加えられますが、それが健康に良いという根拠はなく、危険な場合もあります。

下痢

下痢とは便量が増加し、便が水様性になり、頻回に排便することです。

排便回数が多いだけでは、下痢を決定づける特徴とはいえません。正常な状態で1日に3~5回排便する人もいます。野菜に含まれる繊維質をたくさん食べる人は、1日に約500グラム以上の便を排泄することがありますが、この場合の便は形を保っており、水様性ではありません。便から十分な水分が除去されず、便がゆるくなり形が崩れると下痢が起こります。下痢になると腸内ガス、腹部けいれん、便意の切迫を伴うことが多く、下痢が感染性微生物や毒物によって引き起こされた場合は吐き気や嘔吐を伴います。

下痢になると脱水が起こり、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩化物、重炭酸塩などの電解質が血液中から失われます。大量の体液と電解質が失われると脱力感を覚えるとともに、血圧が低下して失神、心臓のリズムの乱れ(不整脈)やその他の重大な障害を引き起こします。幼い小児や高齢者、衰弱している人、下痢が重症の人で特にリスクが高くなります。下痢は、発展途上国では乳幼児の主な死亡原因であり、米国でも多くの患者が入院しています。

原因

正常な便の60~90%は水が占めています。下痢は主に水の割合が90%を超えた時に起こります。便が消化管を速く通過しすぎたり、便中のある物質が大腸による水分の吸収を妨げたり、大腸が水分を分泌したりすると、便に過剰な水分が含まれます。下痢の原因には、薬や化学物質、ウイルスや細菌や寄生虫による感染症(胃腸炎— 胃腸炎を参照)、一部の食品、ストレス、腫瘍、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患や吸収不全症候群などの慢性疾患といったさまざまなものがあります。

便の急速な通過は下痢の最も一般的な原因です。便が正常な硬さとなるには、ある程度の時間、便が大腸にとどまっている必要があります。便が大腸を速く通過しすぎると水様性便となります。多くの病気や治療により、便が大腸にとどまる時間が短縮されます。これには、甲状腺機能亢進症、ゾリンジャー・エリソン症候群(腫瘍により胃酸を過剰に分泌する病気)、胃や小腸や大腸の部分切除、腸のバイパス手術、マグネシウムを含む制酸薬、下剤、プロスタグランジン、セロトニン、カフェインなどの薬の使用が含まれます。多くの食べもの、特に酸性の食品により通過速度が速まります。特定の食品に耐性がなく、それらを食べた後で常に下痢を起こす人がいます。ストレスや不安も下痢の原因となります。

浸透圧性下痢は、結腸壁で吸収されない物質が腸内に残存するために起こる下痢です。この吸収されない物質が、便中に過剰の水分を残留させるので下痢が起こります。一部の食べもの(果物や豆類など)の他に、ダイエット食品やキャンデー、チューインガムなどで砂糖の代わりに使われているヘキシトール、ソルビトール、マンニトールが浸透圧性下痢を引き起こします。ラクターゼ(乳糖分解酵素)の欠損症でも浸透圧性下痢が起こります。ラクターゼは通常小腸でみられる酵素で、乳糖(ラクトース)をブドウ糖とガラクトースに分解して血液中に吸収できるようにします。ラクターゼ欠損症の人がミルクを飲んだり乳製品を食べたりすると、乳糖が消化されません。乳糖が腸に蓄積すると、浸透圧性下痢(乳糖不耐症と呼ばれる状態)が起こります。浸透圧性下痢の重症度は、浸透圧性物質を摂取した量に依存します。浸透圧性下痢を引き起こす物質を食べたり飲んだりするのをやめると、下痢はすぐに治まります。消化管内の血液も浸透圧性物質のように作用して、黒いタールのような便(メレナ)を起こします。正常な腸内細菌の過剰繁殖や腸内には通常みられない細菌の繁殖も、浸透圧性下痢の原因となります。抗生物質の服用も、腸内の正常な細菌叢を破壊して浸透圧性下痢の原因となります。

分泌性下痢は、小腸と大腸が塩類(特に塩化ナトリウム)と水分を便中に分泌するときに起こります。コレラ菌や一部のウイルスに感染したときに産生される毒素などによって、これらの分泌が起こります。ある種の細菌(カンピロバクターなど)による感染症や、寄生虫(クリプトスポリジウムなど)による感染症も分泌を促進します。分泌性下痢では大量の排泄が起こることがあり、コレラでは1時間に約1リットル以上の便を排泄します。塩類や水分の分泌を起こす他の物質には、ヒマシ油などの下剤、胆汁酸(小腸の部分切除術の後に蓄積しやすい)などがあります。カルチノイド(類癌腫)、ガストリノーマ、ビポーマなどのまれな腫瘍でも分泌性下痢が起こり、一部のポリープも同様です。

炎症性下痢は、大腸粘膜が炎症を起こし、潰瘍を形成したり充血したりして、タンパク質、血液、粘液、その他の体液を分泌し、便の量と水分量を増加させます。このタイプの下痢は、潰瘍性大腸炎、クローン病(限局性腸炎)、結核、リンパ腫や腺癌などの癌といった、さまざまな病気が原因で起こります。直腸粘膜に炎症が及ぶと便意の切迫を感じることが多くなり、炎症を起こした直腸粘膜が便による拡張に敏感になるため排便が頻回となります。

下痢を起こす主な食品と薬

食品・薬

下痢を起こす成分

リンゴジュース、洋梨ジュース、無糖ガム、ミント

ヘキシトール、ソルビトール、マンニトール

リンゴジュース、洋梨ジュース、ブドウ、はちみつ、ナツメ、ナッツ類、イチジク、ソフトドリンク(特にフルーツ味)

果糖

砂糖

ショ糖

ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト、フローズンヨーグルト、ソフトチーズ、チョコレート

乳糖

マグネシウムを含有する制酸薬

マグネシウム

コーヒー、お茶、コーラ、一部の市販頭痛薬

カフェイン

無脂肪ポテトチップス、無脂肪アイスクリーム

オレストラ

評価

下痢の評価は、下痢が急性(突発性で短期的)であるか、慢性(持続的)であるかによって変わります。

急性の下痢が72時間以上続く場合(または血液が混じっている場合や、脱力、発熱、発疹、重度の腹痛がみられる場合それよりも早く)、医師の診察を受けるべきです。医師の診察で患者に脱水や深刻な病状が認められず、下痢が重症ではなく1週間も続かなかったのであれば、検査は通常必要ありません。そうでない場合は、電解質異常に関する血液検査や、血液、白血球、感染性微生物(たとえばカンピロバクターエルシニアなどの細菌、アメーバや、ランブル鞭毛虫クリプトスポリジウムなどの寄生虫)の有無に関する便検査が必要となることがあります。感染性微生物は、顕微鏡検査で見つかるものもあれば、培養(検査室で微生物を増殖)や特別な酵素検査(赤痢菌ランブル鞭毛虫など)が必要なものもあります。患者が最近抗生物質を使用した場合は、クロストリジウム・ディフィシル毒素に関する便検査を行うことがあります。大腸内視鏡検査は通常必要ありません。

慢性下痢の場合も同様の検査を行います。また、脂肪便検査(吸収不良を示唆)や、直腸と結腸の粘膜を検査するS状結腸鏡検査や大腸内視鏡検査を行うことがあります。直腸粘膜の生検(組織サンプルを採取して顕微鏡で検査)を実施することもあります。ときには24時間単位の便量を測定します。患者が隠れて下剤を使用している場合(不正使用)も、便サンプルの検査で確認できます。

治療

下痢は症状であり、その治療は原因によって異なります。ほとんどの患者の下痢の治療では、自然治癒するまで下痢を抑制するため原因の除去のみを行います。ウイルス感染による下痢は、通常24~48時間で回復します。脱水がみられる患者には、水分、糖分、塩分のバランスをとった液体を補給する必要があります。患者が過度に嘔吐しない程度に、この液体を口から補給します( 脱水症の治療を参照)。病状が深刻な患者や顕著な電解質異常がみられる患者には、静脈からの輸液が必要で、入院することもあります。

下痢を治療する薬には、各種の処方薬や市販薬が使えます。市販薬にはカオリン・ペクチンなどの吸着薬が含まれていて、化学物質、毒素、感染性微生物を吸着します。一部の吸着薬は便を硬くするのにも役立ちます。ビスマスは多くの下痢に有用です。ビスマスには便が黒くなる副作用がありますが、正常です。ロペラミド、コデイン、ジフェノキシレート(diphenoxylate)などの薬も使われます。

下痢の治療に用いられる処方薬には、オピオイドと腸の筋肉を弛緩させる薬があります。慢性の便秘の治療に用いられるオオバコ種子やメチルセルロースなどの膨張性薬剤は、ときに慢性の下痢を緩和するのにも役立ちます。

下痢の治療薬

主な副作用

備考

吸着薬

次サリチル酸ビスマス

カオリン

ペクチン

副作用は少ない

吸着薬は腸の筋弛緩薬ほど強力ではありません。

腸の筋弛緩薬

コデイン

ジフェノキシレート(diphenoxylate)

ロペラミド*

パレゴリック(アヘンチンキ)

大腸閉塞

下痢の原因として感染症が疑われる場合は、これらの薬を慎重に使用します。

* 一部のロペラミド製剤は店頭で購入できます。

嚥下困難

嚥下困難とは、食べものが食道(のどと胃をつなぐ管)をうまく通過しない感じがしたり、食べものが下りていく途中でつかえた感じがしたりすることです。

原因

嚥下困難は物理的な閉塞、または食道の神経や筋肉の問題(食道運動異常)によって起こります。時には嚥下困難が想像上の場合もあります(心因性嚥下障害)。

物理的閉塞は、食道癌、食道の内側を横切る組織の輪やウェブ、慢性的な胃酸の逆流や腐食性溶液の摂取による食道の瘢痕化によって起こります。甲状腺肥大、胸部大動脈瘤、肺癌などの胸部の腫瘍によって食道が圧迫されることもあります。

食道運動異常には、アカラシア(食道のリズミカルな収縮が著しく減少し、下部食道の筋肉が正常に弛緩しなくなる)や食道けいれんなどがあります。全身性硬化症により食道運動異常が起こることもあります。

評価と治療

液体も固形物も同程度に飲みこみにくい場合は食道運動異常が示唆されます。最初に固形物、その後に液体の嚥下困難が徐々に強まる場合は、腫瘍などの物理的閉塞の悪化が示唆されます。通常は患者がマシュマロや錠剤をバリウム液(X線で写し出される)とともに飲みこんでいる間にX線検査を行います。または、柔軟性のあるチューブを用いて食道や胃を観察します(上部消化管内視鏡検査)。

これらの検査で特定された原因を治療します。症状を緩和するため、通常は患者に対し食べものの一口量を少なくしてよく噛み砕くよう助言します。

消化不良

消化不良とは、上腹部の中央に痛みや不快感を感じることです。

その感覚は、消化障害、ガスがたまった感じ、膨満感、差しこむようなまたは焼けつくような痛みと表現されることがあります。その他の症状として、食欲不振、吐き気、便秘、下痢、鼓腸、げっぷ、大きな腸音(腹鳴)などもみられます。食事をすると症状が悪化することもあれば、楽になることもあります。

原因

消化不良は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌などさまざまな原因で起こります。胃の炎症(胃炎)も消化不良の原因になります。ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃や十二指腸(小腸の最初の部分)に炎症や潰瘍を生じさせて、消化不良の一因となることがあります。胆嚢から胆汁を送り出す管に胆石ができた場合も、消化不良を起こすことがあります。また、アスピリンやその他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などの薬が症状を起こすこともあります。しかし、何の異常も見つからない人も多く(このような状態は機能性ディスペプシアと呼ばれます)、こうした症状は、胃の感受性が高まったり、収縮が強まったり(けいれん)することと関連があります。

不安が原因で消化不良が起きたり悪化したりすることがあります。不安により不快感の感受性が高まり、軽度の不快感も非常に苦痛に感じられるためと考えられます。不安によって、胃の異常な感受性や収縮が悪化したり、あるいは、ため息をつく、せわしなく息をする、空気を飲みこむ(空気嚥下症)などの症状が現れたりします。

評価と治療

消化不良のより深刻な原因を示唆する症状としては、長期にわたる食欲不振、吐き気や嘔吐、体重減少、貧血、血便、嚥下困難や嚥下痛などがあります。これらの症状がみられる45歳を超える患者に対しは通常、柔軟性のあるチューブを用いて食道や胃を観察します(上部消化管内視鏡検査)。45歳以下で消化不良以外の症状がみられない患者には、制酸薬による一連の治療をよく行います。この治療がうまくいかない場合は通常、内視鏡検査を行います。

便失禁

便失禁とは排便のコントロールを失うことです。

原因

便失禁は、下痢の発作時に一時的に起こる場合や、直腸に硬い便が滞留(宿便)して起こる場合があります。肛門や脊髄の損傷、直腸脱(直腸粘膜が肛門の外に脱出)、認知症、糖尿病による神経の損傷、肛門腫瘍、出産時の骨盤内損傷などがある人は、持続的な便失禁を起こすことがあります。

評価

医師は構造上の異常や神経学的異常がないか検査します。この際、肛門と直腸、肛門周囲の感覚範囲を検査し、通常はS状結腸鏡検査を行います。肛門括約筋の超音波検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、骨盤の内側の神経や筋肉の機能の検査が必要となることもあります。

治療

便失禁を修正する最初のステップは、規則的な排便パターンを確立して、便の硬さを適切にすることです。少量の繊維質を加えるといった食事の変更もしばしば役立ちます。食事の変化で改善がみられない場合は、ロペラミドなどの便の通過を遅くする薬でうまくいく場合があります。

肛門括約筋の収縮と弛緩を繰り返す訓練を行うと、括約筋の緊張度と筋力が高まります。バイオフィードバックと呼ばれる技法を用いると、肛門括約筋が再訓練され、便の存在に対する直腸の感受性が高まります。前向きに取り組む患者の約70%で、バイオフィードバックが有益です。

便失禁が続く場合は手術が役立つこともあります。たとえば、肛門の外傷や肛門の構造的欠損が原因の場合です。最後の手段として、結腸瘻造設術(大腸と腹壁をつないで開口部をつくる手術— 結腸瘻造設術について理解するを参照)を行うことがあります。肛門は外科的に封鎖され、便は腹壁の開口部に取り付けた着脱可能なプラスチック袋内に入ります。

ガスが関係する症状

正常状態でもガスは消化器系内に存在し、これらは口から排出されたり(げっぷ)、肛門から排出されたり(放屁)します。

ガスが関係する主な症状には、過剰なげっぷ、腹部膨満感、過剰な放屁(俗に言うおならです)の3つがあります。

げっぷは食事直後やストレスのあるときによく起こります。げっぷをする直前に胸や胃が張っているように感じ、ガスが出た後でこれらが和らぐ人もいます。

正常な人では1日に10回以上肛門からガスが出ますが、それよりも多く出る人もいます。ガスは異臭がすることもしないこともあります。ガスを出そうとしたときに便も一緒に出てしまい、便失禁して驚くことがあります。

原因

増加したガスは胃に集まるか、またはさらに消化管の奥へと進みます。

げっぷ は飲みこんだ空気や、炭酸飲料から生じたガスに由来します。少量の空気を飲みこむのは正常ですが、食事中や喫煙中、またはその他の際に大量の空気を無意識に飲みこんでしまう人がおり(空気嚥下症)、特に不安を感じているときに起こります。胃食道逆流により起こることがある過剰な唾液分泌、義歯の不適合、ガムの咀嚼(そしゃく)は、空気の飲みこみ量を増加させます。飲みこんだ空気の大部分は後でげっぷとして排出され、ごく少量の空気が胃からその先の消化管に入ります。腸内に入った空気の大半は腸壁から吸収されて血流に入り、ごく少量の空気が肛門から排出されます。

放屁は主に水素、メタン、二酸化炭素のガスから成りますが、これらは腸内の食品を細菌が分解して産生されたもので、豆類やキャベツなどの食品を食べた後は特にガスが生じやすくなります。タンパク質や果物を大量に食べると、だれでもある程度の鼓腸が起こります。また、特定の糖を分解する酵素が欠乏している人(ラクターゼ欠損症の人など)では、その糖を含む食べものを食べたときに大量のガスを産生する傾向があります。熱帯スプルーや膵臓の機能不全などのその他の吸収不良症候群の患者でも、大量のガスが生じることがあります。

腹部膨満感は、胃が空になりにくい病気(胃不全麻痺)や過敏性腸症候群などの消化器疾患の患者でよくみられます。ときには心臓病の唯一の症状が腹部膨満感という場合もあります。しかし、炭酸飲料を飲んだ人や空気を過剰に飲みこんだ人を除くと、腹部膨満感を訴えた人の大半で消化器系内に過剰なガスが存在するとは考えられません。過敏性腸症候群患者などの一部の人では、正常な量のガスに対する感受性が過剰に高まります。

評価と治療

げっぷについて通常は検査を行いません。放屁については、症状が吸収不全症候群を示唆する場合は検査が必要となることがあります。

膨満とげっぷを緩和することは困難です。主な問題がげっぷであれば、空気を飲みこむ量を減らすことが有用ですが、通常は空気を飲みこんでいることに気がつかないので、困難です。チューインガムを避けることや、リラックスした雰囲気でゆっくり食事をすることも効果があります。炭酸飲料を避けることも一部の人では役立ちます。

放屁が過度に出る人は、消化しにくい食品を含まない食事に変える必要があります。どの食品が問題であるかを見極めるには、1つの食品または食品グループを一度除外してみる必要があります。消化しにくい炭水化物を含む食品(豆類やキャベツなど)を除外することから始めて、ミルクと乳製品、新鮮な果物、ある種の野菜とその他の食品の順番で除外していきます。

いくつかの制酸薬に含まれているシメチコンは単品でも入手可能で、多少は軽減します。他の種類の制酸薬(重曹を含有するものを含む)、メトクロプラミド、ベタネコールなどの薬も有用なことがあります。ペパーミントオイルなどのアロマオイルが役立つ人もいて、特に鼓腸による腹部けいれんがある人に有用です。繊維質を多く食べると効果がある人もいますが、症状が悪化する人もいます。さまざまな市販薬に含まれているクロロフィルや、活性炭の錠剤は、鼓腸には効果がありませんが、嫌なにおいを軽減するのに役立ちます。

球感覚

球感覚(以前は「ヒステリー球」と呼ばれていた)は、あたかものどにしこりがあるように感じることです。

球感覚によって生じる感じは、悲嘆、不安、怒り、誇り、幸福感などで感極まったときの息苦しい感じに似ています。しかし、食べものがのどでつかえることはなく、液体も容易に飲みこむことができます。実際にものを食べたり飲んだりすることで症状が和らぐこともあります。

球感覚は、食道の筋肉活動や感受性の異常によって起こると考えられます。また、胃酸と酵素が胃から食道に逆流する(胃食道逆流)ときにも起こることがあります。球感覚は不安や別の強い感情によって、あるいは呼吸が速まることによって、嚥下の回数が増えたり、のどが乾燥して起こることもあります。

患者が正常にものを飲みこむことができ、痛み、体重減少、血便などの症状がみられない限り、医師は通常検査を行いません。

食欲不振

食欲不振になると空腹感がなくなるため、ものを食べたいという欲求がなくなります。対照的に、神経性無食欲症や神経性大食症( 摂食障害の定義を参照)などの摂食障害がある患者は、空腹感があるにもかかわらず、体重増加を気にし過ぎて食事を制限したり食後に嘔吐したりします。

短期間の食欲不振は、ほぼすべての急性疾患に伴って起こります。一方、長期間(慢性)の食欲不振は通常、癌、AIDS、慢性肺疾患、重度の心不全、腎不全、肝不全などの深刻な病気の患者のみで起こります。脳の中の食欲を調節している部分に障害が起きて食欲不振になることもあります。死期が近づいた人で食欲不振がよくみられます。ジゴキシン、フルオキセチン(fluoxetine)、キニジン、ヒドララジンなどの薬は食欲不振を引き起こします。

食欲不振は基礎疾患が判明している患者で最も多く起こります。原因不明の慢性的な食欲不振は、何らかの良くない問題があることを医師に伝えるシグナルとなります。患者の症状を十分に評価して徹底した診察を行うことにより、原因が示唆され、必要な検査に関する医師の判断に役立つことがよくあります。

根本的な原因は可能な限り治療します。患者の食欲増進に役立つ措置としては、好物の提供や柔軟な食事スケジュールのほか、患者が望む場合は食事の30分前にアルコール飲料を少量与えることなどがあります。状況に応じて医師は、シプロヘプタジン、低用量のコルチコステロイド薬、メゲストロール(megestrol)、ドロナビノールなどの薬を使って食欲の刺激を補助します。

吐き気と嘔吐

吐き気とは不快感のことで、めまい、漠然とした腹部の不快感、食事をする気になれない、嘔吐を必要とする感覚などが含まれます。嘔吐とは、胃の強い収縮によって、胃の内容物が食道に押し上げられて口から出ることです。嘔吐すると胃の内容物が空になるので、少なくとも一時的には吐き気が治まります。嘔吐は吐出とは異なります。吐出とは、腹部の強い収縮や吐き気がない状態で、胃の内容物を吐き戻すことです。

嘔吐物の性状は通常、最後に食べた食品を反映しています。嘔吐物に食べもののかたまりが混じっていることもあります。血液を嘔吐すると、嘔吐物は鮮紅色を示します(吐血)。胆汁が混じっている嘔吐物は緑色をしています。

通常の嘔吐でも、苦しみます。嘔吐する人は通常、体を折り曲げて大きな音をたてます。激しい嘔吐では、嘔吐物を1メートル以上飛ばすこともあります(噴出性嘔吐)。嘔吐は食道内の圧力を著しく上昇させるので、激しい場合には食道粘膜が断裂したり破裂したりすることがあります。意識が朦朧とした人は、嘔吐物を肺に吸いこんでしまうことがあります。嘔吐物は酸性のため、肺をひどく刺激します。頻繁な嘔吐は脱水や電解質異常を引き起こすことがあり、新生児や乳児は特にこれらを起こしやすくなります。

原因

脳の嘔吐中枢が活発になると吐き気や嘔吐が起こります。これらの症状は消化管の何らかの機能障害によって起こることが多いのですが、特に多いのは胃腸炎や腸閉塞です。腸に閉塞があると、飲食物が閉塞部分から胃に戻るため、嘔吐が起こります。感染症(髄膜炎、脳炎など)、脳腫瘍、片頭痛などの脳障害でも嘔吐中枢が活性化されることがあります。

内耳の平衡器官(前庭器)は嘔吐中枢とつながっています。この接続があるため、一部の人は船、車、飛行機の揺れや、内耳の障害(内耳炎、頭位性めまいなど)によって吐き気を催します。また、妊娠中にも、特に妊娠初期の早朝に吐き気や嘔吐が起こることがあります。モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬や、癌の化学療法薬など、吐き気を引き起こす薬もたくさんあります。

心理的な原因でも吐き気や嘔吐が起こります(機能性嘔吐あるいは心因性嘔吐として知られる)。心理的な原因による嘔吐には意図的なものもあります。たとえば、過食症の人はやせるために意図的に嘔吐します。意図的でない場合は、登校拒否でみられる嘔吐のように、心理的苦悩に対処するための条件反射として起こります。

評価

嘔吐の発症(下痢を伴う場合と伴わない場合があります)が数回のみで、他に症状がみられない健康な成人や年長児については、診察を行う必要はありません。年少児や高齢者、嘔吐が1日以上続く患者、他の症状(特に腹痛、頭痛、脱力、錯乱)を伴う患者については、医師が診察を行います。患者の症状や診察で脱水や重大な基礎疾患の徴候が認められない場合は、さらに検査を行う必要はありません。妊娠可能年齢の女性には妊娠検査を行うことがあります。これら以外の患者には、血液検査を行って脱水の徴候や電解質濃度を調べます。腸閉塞が疑われる場合はX線検査を行います。

治療

特定の状態は治療します。患者に重大な基礎疾患や脱水がない場合は、最後の嘔吐の約1時間後に清澄液を少量与えます。清澄液を与えても嘔吐が起こらない場合は、量を徐々に増やします。清澄液の量の増加に耐えられる場合は、通常の食事を再開します。患者に脱水がみられるものの、液体を飲んでも嘔吐が起こらない場合は、医師は経口補液を飲むことを勧めます。脱水や電解質異常が著しい患者や、液体を飲むことに耐えられない患者は、静脈からの輸液が必要となります。

成人や青年の場合は、メトクロプラミドやプロクロルペラジンなどの制吐薬を使用します。化学療法による嘔吐がみられる患者には通常、オンダンセトロンやグラニセトロンなどの強力な薬を投与します。

逆流

逆流とは、吐き気がなく、腹部の筋肉も強く収縮させていないのに、食道や胃から食べものを吐き戻すことをいいます。

通常は、胃と食道の間にある輪状の筋肉(括約筋)が逆流を防いでいます。逆流が起こると酸っぱい味や苦い味がしますが、それは胃から酸が湧き上がってくるためです。食道に狭窄や閉塞がある場合は、粘液や未消化の食べものを含んだ、味のしない液体が逆流してくることがあります。閉塞は、胃酸による食道の損傷、腐食性物質の摂取、食道癌、食道と食道括約筋(食道から胃への開口部にある)との協調を妨害する神経制御の異常などによって起こります。

特に身体的な原因がないのに逆流が起こることもあります。このような逆流を反芻(はんすう)と呼んでいます。反芻では通常、食後15~30分で少量の食べものが胃から逆流してきます。逆流物はしばしば口まで到達し、再び咀嚼され嚥下されることがあります。反芻は痛みや嚥下困難を伴うことなく起こります。反芻は乳児に多くみられます。成人では、情緒障害のある人、特にストレスにさらされている人に多くみられます。

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